俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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雄英体育祭(5)

「ダメっすか?」

 

「ダメだよ」

 

 リカバリーガールの保健所にあるベッドで横になりながら受けたのはドクターストップ。ごめん爆豪、無理そうだ。

 

「どうしてもダメですか?」

 

「あんた、自分で動くのも厳しいんだろう?そんな状態で試合してどうなるかなんて自分でわかるはずだよ」

 

 確かにわかっている。今の俺は上限解放できるとしても40が最大。しかも既に体がガタガタなので10分間持つかもわからない。そして個性が切れた時には動くのが厳しいどころか動けなくなることは間違いない。上限解放したとしても痛みが消えるわけでもないし、勝てる確率はほぼ0%。

 

「焦る気持ちもわかるさ。でも、今無理して体を壊しちゃ本末転倒だ」

 

「俺も試合が終わるまではそう思ってたんですけどね」

 

 ただ、あんな戦いたそうな爆豪を見てしまったらそりゃやる気出る。プロヒーローへのアピールだとかそういうのを無視してでも戦いたいと一瞬でも思ってしまった。よく考えれば一人でもプロヒーローの目にとまればそこから力を伸ばしていけばいいわけで、大勢のプロヒーローの目にとまる必要はない。いや、とまった方がいいんだろうけど、今の俺にはそれよりも優先したいことがあるわけで。

 

「それでも戦いたいんです。自分の限界はわかっています」

 

「こっちは親御さんからあんたたちを預かってる身だよ。もしものことがあったら顔向けできやしない」

 

「その点は心配いりません!」

 

 どうにかして折れてくれないかと懇願していたその時、一人の男が扉を開けて勢いよく部屋に飛び込んできた。この暑苦しさ、そしてプロヒーローが集まる雄英体育祭。そして今部屋にいる俺、そしてこの声。様々な条件から導き出されたその男の正体は、ものすごく見覚えのある人物で、というか身内だった。

 

「父さん!?」

 

「いかにも!俺は久知想の父さんである久知(ひさち)(きわむ)!そしてまたの名を根性ヒーロー『ノーリミット』!」

 

 俺の父親であり、プロヒーローでもある久知極。本当に俺の親なのかと疑うほど暑苦しい男である。

 

「リカバリーガール、親御さんである俺は許可します!こいつがまだ戦えて、戦いたいというなら戦わせてやりたい!」

 

「取り返しのつかないことになるかもしれないよ?」

 

「そうなりそうだったら俺が全力で止めましょう!ですが大丈夫!こいつは賢い子だ。自分の限界を見誤ることはない!それに」

 

 父さんは俺に向けて暑苦しくサムズアップして、

 

「もう後悔するようなことはあってほしくないんです。やりたいことはやらせ、そのやりたいことが間違っていると思えばぶつかり、譲れるところを見つける。それが俺たち親子の在り方!そうだろう想!」

 

「……おう」

 

「それに、こいつの個性は使えば使う程新たな可能性が見えてくる!それが『窮地』ならば尚の事!こいつの可能性も見るためにも、許可を出してはくれませんか!?」

 

 言って、父さんは頭を下げた。

 

 本当に父さんは暑苦しい人で、俺がヒーローになると言って、その理由も言ったとき「俺は何故あの時無理やり引き離してしまったんだァー!!」と号泣しながら俺に向かって一日中土下座しながら付きまとった後、「お前の夢を全力で応援しよう!」と暑苦しく抱擁された。だから今こうして頭を下げてくれてるんだろう。暑苦しいだけじゃない、いい父さんなんだ。

 

「……個性の制限時間。それが切れたら戦っちゃダメだよ。あと、一度でも倒れてもダメ。あんたを想ってくれてる人がいるってことを理解して戦いな」

 

「リカバリーガール!」

 

「一つ雄英に貸しだよ」

 

「「ありがとうございます!」」

 

 父さんと口を揃えてお礼を言い、頭を下げる。立場もあるだろうに許可を出してくれるなんて、一生頭が上がらなさそうだ。

 

「さ、行ってきな」

 

「はいっ!?」

 

「大丈夫かァー!!?」

 

 ベッドから下りた瞬間に激痛が走ってバランスを崩し、父さんに支えられた。そのままゲートの方まで支えてもらいながら向かう。

 

「勝て、とは言わん。後悔しないように戦ってこい!」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 そしてゲートの前で父さんから離れて、フィールドの上によたよたしながら上がっていく。

 

『準決勝第二試合!ここまで危なげなく勝ち上がってきた爆豪と、逃げ回ってからの一転攻勢で勝ち上がってきたなぜか怪しい足取りの久知!』

 

「ふらふらじゃねぇか」

 

「安心しろよ」

 

『START!!』

 

「今の全力、ぶつけっから」

 

 上限解放、40。初めから個性を使わなければ動けないほど今の俺は消耗している。そして、個性を使わない状態で逃げ回れるほど、

 

「ハッ、動けんのかよ!」

 

「安心しろっつったろ!」

 

 爆豪は甘くない。

 

『開始早々ぶつかる両者ー!お互い攻撃が直撃したー!』

 

『今のどっちも避けれたろ、アレ』

 

 爆豪は拳を、俺は爆破を顔面に受け、お互いよろける。が、すぐさま体勢を立て直して爆豪の懐に潜り込み、拳を振り上げる。しかし爆豪は爆破による空中軌道でそれを避けると、そのまま俺の背中に向けて一発。

 

「死ね!」

 

「死ぬか!」

 

 上限解放した俺は感覚も強化されている。つまり、強化された聴覚、あるいは嗅覚である程度なら見えないところからの攻撃にも対応できるということだ。爆豪の居場所は個性の特性上わかりやすい。

 

 俺は背後からの爆破を前進することで避け、収まると同時に振り向いてまた距離を詰める。制限時間が短いかもしれないのでゆっくりしている暇はない。

 

「っ!」

 

「当たる、かっ!?」

 

 その勢いのまま振った腕はまた避けられるが、腕を振ったのは殴るためではなく掴むため。今の俺の力なら掴まなくとも服の端に指を引っかけるだけでいい。

 

「ラァ!」

 

 指を裾に引っ掛け、力任せに振り飛ばす。爆破で空中移動できる爆豪ならこんなもの屁でもないだろうが、爆破を体勢の立て直しに使わせることに意味がある。少なくとも、その瞬間は攻撃に転じられないはずだ。俺に飛ばされた爆豪を追い、体勢を立て直すところを殴りつける。

 

「って、マジかっ」

 

「舐めんな!」

 

 が、爆豪は空中で体を捻りながら無差別に爆破。殴りつけようとしていた腕は弾き飛ばされ、その間に体勢を立て直される。花火だ花火。爆豪花火。つーか無防備晒す瞬間なんてないんじゃないのこいつ。天才的な反射神経とそこから対応できるセンス。持って生まれて更に努力したやつはこうなるのか。すごすぎだろ。

 

 弾き飛ばされてよろけたままでは爆破をくらいかねないので、一旦距離をとる。さっきは制限時間の関係で押せ押せでいこうと思っていたが、そんなごり押しで勝てる相手でもなさそうだ。わかってはいたが、少しはいけるかな、なんて思っていたのが甘かった。

 

「逃がすか!」

 

「あぶなっ!」

 

 笑いながら追ってきて爆破してきた爆豪のそれを間一髪で避ける。上限解放40までやっていてギリギリとは、どんな能力してんだ爆豪。だが、避けれたなら問題ない。爆破の際に伸ばされた腕を掴み、今度は地面に向かって振り下ろす。痛いだろうが、死にはしない。

 

「やらせるかよ!」

 

「ぐっ」

 

 振り下ろす前に、爆豪は掴んでいる方とは逆の手を爆破させ、それによって得た推進力で勢いをつけて俺の横腹を蹴る。蓄積されてきた痛みも合わさって腕を離しそうになるが、意地でぐっと踏ん張って爆豪を叩きつけた。

 

「ぎっ」

 

「ハッ、逃げるべきだったなぁオイ!意地張って攻撃してきやがって!」

 

 まるで悪役のようなセリフを吐きながら踏みつけるが、転がって躱されて爆破で距離をとられた。爆豪が距離をとるなんて、あのままではマズいと思わせることができたということだろうか。それなら嬉しい。

 

「チッ、喧嘩みてぇな戦い方しやがって」

 

「生憎、付き合ってくれた人が喧嘩しかできなかったからな」

 

 俺の戦い方はワルの先輩が元になっている。動物的に反応して攻撃し、防御し、投げ、避ける。二年生後半から雄英を目指し始めた俺は、個性を調節できなければ即役立たずになっていたため格闘技を学ぶ時間なんてなかった。そこをカバーしようと喧嘩慣れしていたワルの先輩に揉まれていたというわけである。だから喧嘩みたいな戦い方なのだ。

 

「ま、不良みたいな爆豪相手ならちょうどいいだろ」

 

「吠えてろ、カス」

 

 言い終わると同時にお互い走り出す。

 

 実際、型がないっていうのはあまりよくない。正しい力の使い方ができていないっていうことで、どうしても自分の力任せになってしまう。俺の場合身体能力を強化できるからなんとかカバーできているが、ふとした拍子に変な体の痛め方をしても不思議じゃない。

 

 だが、今は喧嘩しかできないからこれで戦うしかない。そしてこれで勝つには相手の動きの予測も必要だ。正面から走ってきている爆豪は、このまま正面から爆破してくるだろうか?確か、最初のヒーロー基礎学の戦闘訓練では……。

 

「なっ」

 

「当たり!」

 

 爆破による軌道変更、そして背後から爆破。俺のようなパワー系相手に正面からくるバカはしないはずだと思って爆破のタイミングで後ろに反転してみたら的中した。そのまま間抜け面している爆豪の服を掴んでまた叩きつける。

 

「クソがっ!」

 

「いって!」

 

『おーっと爆豪掴まれた服を爆破し、破いての脱出!少し破れた服から覗く素肌がセクシーだー!』

 

『なんの実況だ』

 

 爆豪は掴んでいた俺の手ごと自分の服を爆破して脱出し、距離をとるかと思いきや爆破で距離を詰めてきた。気づいたときには顔の前に爆豪の掌。

 

「まっず!」

 

 勢いよく上体を逸らして地面に手をつき、爆破を避ける。そのまま蹴り上げて勢いを利用しながらバク転して離脱、しようとしたが蹴り上げを避けた爆豪が逃がすまいと追ってきていた。執念深すぎる。

 

「ぶっ飛べ!」

 

「避け、」

 

 られない。そうと決まれば爆豪が右腕を伸ばすタイミングに合わせ、爆破をくらいながら左手で腕を掴んで引き寄せた。そしてそのまま顎を狙って右腕を振るう。

 

「づっ!」

 

「嘘だろっ!?」

 

 しかし俺の右腕は爆豪の超反応による左手の爆破で弾かれた。横から爆破されたので爆豪の右腕は殴れたが、顎に決まっていれば勝っていた。本当に厄介な反射神経である。というより慣れられて攻撃を予測された?

 

 殴った時に腕を離したため爆豪が弾き飛ばされる。それに追撃をしかけようとしたその時、体中に激痛が走った。まさかもう制限時間が?いや、まだなはず。制限時間がきたなら途端に俺はぶっ倒れて動けなくなるはずだ。痛むには痛むが、倒れるほどじゃない。でも、なんだ?この内から飛び出てくるような痛みは。まるで体が破裂するような痛みは。

 

「……このままじゃラチがあかねぇな」

 

 激痛に苦しむ俺を油断なく睨む爆豪。はは、油断してくれてりゃいいのに。ちょっと待ってって言っても聞かないよな?

 

「いくぞ、テメェが避けらんねぇほどの最大火力!」

 

 爆豪が両手を俺に向けて不穏なことを口走っている。最大火力て、死ぬんじゃね?俺。避けようとしても動けないし、避けられないって言ってるし。なんか弾けそうだし。絶体絶命ってやつだこれ。

 

「あ、弾ける」

 

 その言葉と爆豪が大規模な爆破を起こすと同時。

 

 俺の体から、赤い光が勢いよく放たれた。

 

『うおっ、なんだ!?』

 

 俺の視界が赤い光に染まり、そして。光が収まると糸が切れたようにその場で倒れ込んだ。

 

「……は?」

 

 爆豪はその場でボロボロになって膝をついていた。おー、俺のあのわけわからん光、ダメージあるのか。見掛け倒しじゃなくてよかった。

 

 負けたけど。

 

「久知くん、行動不能!勝者爆豪くん!」

 

『決勝は轟対爆豪に決定だー!!っつーか最後何が起きたんだ!?』

 

『……さぁな』

 

 俺自身何が起きたか知らねーもん。意識あるだけマシってことくらいしかわからん。

 

「……オイ、なんだ今の」

 

「しらね。何か出たわ」

 

「……」

 

 俺の言葉を聞くと、爆豪は背を向けて行ってしまった。助けようとは思わないの?こんな無様に倒れてるのに。

 

 かと思えば、数歩歩いたところで爆豪が立ち止まった。やっぱり助けてくれる気になったとか?まぁ爆豪も人の子だし、良心くらいはあるよな。

 

「納得してねぇぞ」

 

「?」

 

「ハナからボロボロのテメェにボロボロにされて、勝ったなんて納得してねぇ」

 

「じゃあ俺決勝いっていいの?」

 

「んな状態で戦えるか、アホ」

 

 言って、今度こそ爆豪はゲートの向こうに消えていった。なんか、最初会った頃より丸くなったなぁ。こんなこと言ったらあいつブチ切れるんだろうけど。

 

 爆豪の背中を見送った俺は、そこで意識が途切れた。


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