俺はずっと好きでいる   作:酉柄レイム

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職場体験
決めろ、ヒーロー名


 体育祭から二日後。今日も今日とて声をかけられ続け、雨に降られながらやっとの思いで学校につき、クラスメイトに挨拶を交わしながら席に座る。一応爆豪にも挨拶をしておいたが、無視されたので目の前でわざとらしく肩を竦めてみせると無言で蹴られてしまった。お前そんなんだからダメなんだぞ。みんな楽しそうにお喋りしているというのに。

 

「おはよう」

 

 そんな楽しそうなお喋りも、相澤先生が来た瞬間に収まった。人の躾がうますぎる。こんなスイッチのオンオフができるのうちのクラスくらいだろ。

 

「今日のヒーロー情報学はちょっと特別だ」

 

 特別ってどういうことなのだろうか。もしかしてテスト?俺はこつこつ勉強するタイプだからそこまで困らないけど、上鳴は終わったな。ご愁傷様。

 

「『コードネーム』ヒーロー名の考案だ」

 

「……そういえばヒーロー名とかあったな」

 

「アホ」

 

 爆豪が振り向かず罵倒してきたので椅子を蹴る。振り向こうとしても相澤先生が喋っている時なので振り向けない。やはり俺は策士だ。椅子を蹴ったことで俺が相澤先生に睨まれているが、爆豪と違って手を出してこないだけマシである。

 

「というのも先日話したプロからのドラフト指名に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積んだ2、3年から。つまり今回きた指名は君らへの興味に近い」

 

「爆豪を実力で欲しがる人はいても、性格で切り捨てそう」

 

「テメェは実力も性格もクソだけどな」

 

 その言い返しにくいこと言うのやめてほしい。実力がまだまだだということは理解してるし、性格も本気でいいとは言えないからありえるんだよな。切り捨て。

 

「で、その指名の集計結果がこれだ。例年はもっとバラけるんだが……」

 

「おー、流石1位と2位。爆豪みたいなやつでも指名入んのな」

 

 やはり体育祭1位というのはすごい。指名数が2位の轟の方が多いのは爆豪の性格のせいと見て間違いない。これは絶対。爆豪が轟と同じくらいの性格なら爆豪の指名数が一番多いはずだ。

 

 まぁ他人のことはいい。俺の指名数を見てみると、数は91と3位にしては少ない。やはり爆豪との試合で出たよくわからんやつと、表彰式に出なかったのがマズかったか。ただ個人的にはゼロでもおかしくないと思っていたから嬉しい誤算ではある。……指名をくれたうちの一つは父さんだろうけど。

 

「これを踏まえ指名の有無関係なく、職場体験に行ってもらう。君らは一足先に体験してしまったが、プロの活動現場を見てより実りのある訓練をしようってことだ」

 

 なるほど。ということはヒーローのお手伝い的な立場でいいのだろうか?基本的には活動を見学して、ヒーローの指示で実際に動いてみて。資格を持っていない学生に無茶はさせられないだろうから避難誘導とかが主だろう。

 

「まぁここで決めたヒーロー名はあくまで仮のもんだが、適当につけると」

 

「痛い目みちゃうよ!」

 

 相澤先生の言葉に割り込みながら教室に入ってきたのは18禁ヒーローミッドナイト。

 

「この時の名が世に認知されてそのままプロ名になってる人が多いからね!」

 

 ……ミッドナイトも痛い目に見た人の一人なのだろうか。今でこそ本人は楽しそうだが、ヒーロー名を決めたのは俺たちと同じ歳のときなわけで、それでミッドナイト。つけた由来はどうであれ、世に認知されたイメージの結果が18禁だったのであれば痛い目を見たと言っていいだろう。元々本人がそういう趣味でつけたという線もあるが、流石にないはずだ。ないよね?

 

「俺はそこらへんのセンスの査定はできんからミッドナイトさんにやってもらう。『名は体を表す』。ここでつけた名が将来自分がどうなるかというイメージを固め、そこに近づくことになる。ま、メディア露出したいなら真面目に考えとけ」

 

 今のは「俺はメディア露出したくなかったから適当につけた」という意味だろうか。相澤先生らしいと言えば相澤先生らしいが、そんな人が名は体を表すって。『イレイザーヘッド』がぴったりだったからよかったものの、変な名前だったら目も当てられなかった。俺の尊敬も一瞬でなくなったかもしれない。それはない。

 

「爆豪どんなのにすんの?」

 

「爆殺王」

 

「珍しく素直に返事してくれたと思ったらこれかよ」

 

 爆殺王て。どこに人気出る要素があるんだ?人殺し確定じゃねぇか。しかも王ってついてるからとんでもない独裁者のイメージが出てくる。センスの欠片もない。頭がよくて体育祭1位でもセンスがなければダメ人間に成り下がる。これが俺ルール。つまり俺は爆豪より上だ。

 

 さて、俺は何にするか。父さんの根性ヒーロー『ノーリミット』から貰うとすればアレは父さんの個性に関係する名前だから、俺の場合どうなるのだろう。窮地を英訳しただけではずっと窮地に立っている人みたいだからヒーローというより要救助者みたいになるから、父さんの『ノーリミット』のように窮地から脱する、的な意味合いを持たせた名前がいいか。

 

 それか、なりたいヒーロー像をそのまま名前に込める、とか。そっちの方がそれっぽくて個人的にはいい。個性に関連したヒーロー名も覚えてもらいやすくていいが、やはり名は体を表すのであればなりたいヒーロー像を名前に込めた方がいい。そうすれば嫌でも意識する。名前を呼ばれるたびにそうであろうとする。俺みたいなふらつきやすいやつにはちょうどいいだろう。

 

 だとすると、まず『Peace』を入れることは確定だ。このままだと子どもが分かりにくいから変えたくはないが仕方なく『ピース』にして、後はここに何かをつければ完成。このピースはタバコではなく、平和という意味だ。ヒーローたるもの平和を作っていかなければ。

 

 俺の目指すヒーローは『敵をも救うヒーロー』。これを言い換えると平等、になるのか?

 

「じゃ、そろそろできた人から発表してね!」

 

「うおっ、マジか」

 

 真っ白なホワイトボードとにらめっこしながら考えていると、発表の時間になった。というか発表形式なのかよ。後に知られるであろう名前とはいえ、自分が考えたヒーロー名をクラスメイトに知られるのは少し恥ずかしい。というか『ピース』に反応して相澤先生が何か言わないだろうな……?

 

「あ、爆豪マジでそれで行くの?」

 

「あ?文句あんのか」

 

 爆豪が席を立ったので思わず止めると思い切り睨まれてしまった。そんな自分のセンスに自信あるのか。『爆殺王』で持てる自信ってなんだ?人殺しの自信しかつかないと思うんだが。

 

「爆殺王!」

 

「そういうのはね……」

 

 案の定ミッドナイトに呆れられながら却下されていた。そりゃそうだ。今までのみんなのヒーロー名を聞いて無理だと思わなかったのだろうか。あの峰田でさえまともにもぎたてヒーロー『グレープジュース』なんていう名前にしてたのに。人気出そうな名前からの本人の所業への落差がひどいけど。

 

「思ったよりずっとスムーズ!残ってるのは再考の爆豪くんと、飯田くんと、久知くんと緑谷くんね!」

 

 最後は嫌だな、と思いつつ頭を捻る。いや、爆豪が再考ばかりになるだろうから最後はないか。それでも次かその次あたりには発表したいところ。

 

「あなたも名前ね」

 

 飯田が出したホワイトボードには『天哉』の文字。自分の名前がヒーロー名ってプライベートでも全然落ち着かないと思うんだけどなぁ。ほら、ヒーローにも休みって必要だと思うんだよ。そんな休みの日にまでヒーロー名で呼ばれるなんて息が詰まりそうだ。普通のヒーローもプライベートでヒーロー名で言われたりするだろうけど、だからこそ友だちとか恋人とかに呼ばれる自分の本名が何かこう、刺さるんだと思う。憧れる。

 

「うっし」

 

「ダセェ名前できたんか?」

 

「センスまで爆破させちゃったお前に言われたくはねぇよ」

 

 王はまだしも、殺という文字をヒーロー名に入れるのは流石にぶっ飛んでいる。そんなやつよりセンスが下だとは思いたくない。

 

「いいですか?」

 

「うん、どーぞ!」

 

 一応ミッドナイトに確認を取り、ヒーロー名を発表する。

 

「フェアヒーロー『(イコール)ピース』」

 

「いいじゃない!『俺がいるということは平和ってことだ』っていう意味?」

 

「平和の象徴を自称するようでおこがましいですが、その意味もあります」

 

「『も』?」

 

「『フェア』で『(イコール)』で『ピース』ですので、誰に対しても平等に手を差し伸べられる、そんなヒーローにっていう意味で」

 

「ますますよし!名前に潰されないよう頑張りなさい!」

 

 よかった。これで再考くらってたら恥ずかしいどころの騒ぎじゃない。爆豪みたいな真剣に考えてないだろって思われるやつはいいが、俺のみたいにちゃんと考えたのにも関わらず再考ってなると恥ずかしさが段違いだ。こんな小心者がヒーローでいいのか?

 

 こうしてヒーロー情報学は俺の後に緑谷が発表した『デク』というヒーロー名を最後に終わりを告げた。爆豪は再考である。爆豪くらいならなんでダメかわかってると思うんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「爆豪どこにすんの?」

 

「ベストジーニスト」

 

 職場体験で行くところは自分で決めることができ、指名があった生徒はその中から選び、指名がなかった生徒は学校側で用意した受け入れ先から選択する。爆豪は3000以上指名があったから悩むかと思ったが、即決らしい。とりあえず上に行くってのはなるほど爆豪らしいな。

 

「お前は」

 

「うーん、悩んだけどやっぱ父さんのとこかな」

 

「久知くんのお父さんってヒーローなの!?」

 

「うおっ、いきなり興奮すんなよ緑谷」

 

「うっせぇぞデク!!」

 

「ご、ごめん……」

 

 そうやって爆豪が怒鳴って緑谷が謝ってしまうと構図的に俺もいじめてるみたいになるからやめてほしい。しょんぼりしながらも隠し切れない好奇心が宿る目を俺に向けてきているのは流石緑谷といったところか。

 

「根性ヒーロー『ノーリミット』が俺の父さん。やっぱ指名きてたから行こうと思ってな」

 

「『ノーリミット』!?自身の限界を壊す個性『限界突破』を持ってて、本気を出せばオールマイトと同程度の力が出せるけど反動があってそれほどの力を出しちゃったらしばらくは活動できなくなるんだったっけ。でも限界突破は段階にわけて自分を強化できて、確かある程度までなら反動なしでもいけたはず。参考にしようと思ってみてたヒーローでもあるから、そんなノーリミットが久知くんのお父さんだなんて感激だ!」

 

「今度サイン貰ってこようか?」

 

「いいの!?」

 

 緑谷のヒーローに対する喰いつきがすごい。確かに父さんはわかりやすく強いから人気が出るのはわかる。元々俺みたいに反動がドギツイ個性だったらしいのにそれを努力で打ち消したのはめちゃくちゃ尊敬するし、生身でも強いし。あの人個性無くても敵に勝てるんじゃないかと思ったほどだ。

 

 それに、親子だから個性も当然似ている。あの爆豪との試合で出てきた赤い光についても何か掴めるかもしれない。

 

 あとは、ヒーローは指名を二人に送れるらしいから誰かと一緒になるかもしれないっていうところが少し不安だが、爆豪が一緒じゃないことがわかったからもうほとんど心配はない。アイツといると喧嘩ばかりしそうだからな。

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