俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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職場体験

 職場体験当日。俺は父さんの事務所である『ノーリミットヒーロー事務所』にきていた。父さんの活動を見てヒーローの事を、そして俺の個性のことを知ろうと意気込んできたはいいものの、一つ誤算というか考えもしなかった事態に陥っている。

 

「ようこそ二人とも!『ノーリミットヒーロー事務所』へ!」

 

「俺、夜嵐イナサ、ヒーロー名は『レップウ』!よろしくお願いします!!」

 

 夜嵐と体験先が同じだということ。お前もっと上位ヒーローのとこいけたろ?

 

「なんでいんの?」

 

「久知に負けたから!」

 

 それがノーリミットのところへ来ることにどうつながるのだろうか。あれか?俺に負けたから意地になってついてきたとか?

 

「ハハハ!我が息子は強かったろう!?ただ応用力で言えば君の方が上で、更に言えば現段階でヒーローとして重宝されるのも君の方だ!しかしだからこそ足りない物も見えてくるだろう。この職場体験で何か一つでも実りのある学びをさせられたらと思っている。というわけでよろしく!!」

 

「はい!」

 

「はい」

 

 この場はヒーロー事務所なので親子という関係ではなく上司と部下だ。父さんはそういうの気にしないだろうが、タメ口はよくないだろう。周りから見たらただの無礼な学生だ。

 

「まずはパトロール!ほとんどただ歩くだけだ!」

 

「身も蓋もない」

 

 実際、パトロールしているヒーローがいるところで犯罪を犯そうとするやつなんていないからほんとにただ歩くだけなんだろうけど、そうすることによって犯罪の抑止力になっているから無駄な行為ではない。ヒーローを狙いに来るやつがいれば話は別だが。

 

 事務所を出て周りを見ながら歩いていく。

 

「パトロールは敵を見つけるだけでなく、困っている人を見つけるという目的もある。道に迷っている人でも、荷物が重そうな人でも何でもいい。ヒーローは敵を倒すだけにあらず、あらゆる人を助けるものだ」

 

「でも、いないっスね!」

 

「いない、というか……」

 

 さっきから歩いていて思ったことは、周りの人たちがみんな仲がよさそうで、それこそ道を教えたりお年寄りの荷物を持っていたりと全員が積極的に助け合っていた。

 

「道案内、荷物持ちは別にヒーローでなくともできること。その人に助けたいという気持ちがあれば実行できることだな」

 

「普通はって言ったらおかしな言い方になるけど、できないと思うんですが」

 

「自分が困った時に助けてもらった経験があれば、困っている人の気持ちもわかるし、助けてもらった時の気持ちもわかる。その気持ちを抱えていざ困った人に会った時どうするか。いい人なら助けるだろう。それが積み重なって今がある」

 

「つまりノーリミットのおかげってことっスね!」

 

「いや、元々ここの人たちがいい人ばかりだったんだ。俺が何もしていなくてもいずれこうなっていたさ」

 

 今の話を聞いてみると、ヒーロー事務所の周りの治安だとか人の行動だとかはそのヒーローの活動の特徴が出るのかな、と思う。父さんの周りでは今見たように人々がお互い助け合っているが、どこもそうというわけではないだろう。父さんの場合はどんな人でも助けるという姿勢と人柄がいいからこうなっているわけで、ただ助けるだけじゃこうはならない、と思う。

 

 うん、我が父ながら誇らしい。

 

「さて、では街中に敵が現れたと仮定しよう。まず最初に取る行動はなんだと思う?」

 

「戦う!」

 

「市民の安全確保?」

 

 夜嵐がハッとした顔で俺を見た。学校で習ったろ。

 

「戦うっていうのは安全確保の手段で、ヒーロー側が一人の場合。ヒーロー側の人数と敵側の人数によってとる行動、とれる行動は違ってくると思いますが、戦う人は絶対に必要なので夜嵐、レップウの言ってることも間違いではないと思います」

 

「いいやつ!!」

 

「ただ、戦う前に話を聞くとかもあると思いますが」

 

 俺の答えに父さんは満足気に頷いて、

 

「そうだな。相手が会話できるのであればまず話をするべきだ。力を振るわなくてもいいのなら物的被害も最小限に収まる上、誰も傷つくことがない。会話をする時は市民を守りながらになるから多少難しいが、慣れだ!」

 

 中には捕まえてから話を聞けばいいというヒーローもいるだろう。それも正しい。話している間に被害が出てしまったら元も子もない。ただ、俺は被害を抑えつつ話ができるならそれが一番だと思う。これは個性の関係もあるのだが、できるだけ戦わず解決できた方がいいに決まっている。大半の敵は大人しく聞いてくれないから結局戦うことにはなると思うが。

 

「まぁさっきから色々話しているが、これは俺の持論であってすべてのヒーローがそう思っているわけではない。君たちも自分の目指すヒーロー像をしっかり持って、ブレない行動をとってくれ。ヒーローとは常に強い信念を持つ者だ!」

 

「カッケー!俺、ノーリミット好きだ!」

 

「ありがとう!」

 

 普段家で見る父さんと違う。家ではただ暑苦しいだけの人なのに、ヒーローとしての父さんはここまで立派なのか。わかっていたつもりだったが、想像以上にちゃんとしていた。

 

「よし、もう少し見て回ったら事務所に戻るか。そこで個性について勉強しよう」

 

「個性?てっきり事務仕事かなんかをやるのかと……」

 

「実りのあるものを、と言ったろう?事務仕事は見たところで仕方ない。君たちには職場体験中に少しでも強くなってもらおう」

 

 ありがたい、が職場体験なのにいいのだろうか。……まぁ父さんは普段からトレーニングしてそうだし、職場体験と言えば職場体験と言えるか。無理やり納得しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

「戦闘とは、ただ単に強さで勝敗が決まるものではない」

 

 事務所に戻って、用意された席に座って父さんの話を聞く。何か雄英にいるときと同じようなことをしてるなぁと思いながらも、ためになることは間違いないので俺と夜嵐は真剣に聞いていた。

 

「どういう意味かわかるか?」

 

「んー、俺の場合、個性の発動条件を満たすような戦い方をしなきゃいけないから、なんとなくわかると言えばわかるような……」

 

「自分のペースで進めるってやつか!」

 

「そう!大体それで合っている!」

 

 それ、って『自分のペースで進める』のことか?確かに、俺はさっき言った通り自分のペースというか、個性を発動条件を満たさなければただの人だから自分のペースに持っていく戦い方をしなければならない。そうするには相手の力量を見極めて、どれくらい強化すれば勝てるかを考えながら、疲労と傷を調節する。めんどくさい個性だな。

 

「戦闘は自分の得意に持っていくことが重要だ。=ピースなら個性の発動条件、レップウなら間合い。自分が苦手な分野に持ち込まれたら、そこで無理に戦おうとはせず自分の得意に持ち込む。レップウは体育祭の騎馬戦の時風で壁を作っただろう?」

 

「っス!=ピースの指示で!」

 

「アレも敵退治には有効だ。ああやって囲んでしまえば市民への被害が出なくてすむ。ヒーローは市民を守って敵を殺さないように戦わなければいけないが、敵は好き勝手暴れてなんなら相手を殺してもいい。つまり、敵にとって市民が周りにいる状況というのは『得意』だと言える」

 

「その得意を風の壁でつぶせる、ってことか」

 

「なるほど!」

 

「それに、レップウは精密な操作で人を傷つけずに風で運べるらしいな。それもまた素晴らしい。レップウが=ピースに負けたのは相手の得意に持っていかれてしまったからだな」

 

 確かに。あの試合では場外があったため夜嵐がそれに専念していれば俺は負けていただろう。実際何度も風が直撃していたし、だからこそ上限解放60が使えた。夜嵐が真っ向勝負を挑んできたから勝てたようなものだ。夜嵐にとっちゃそれも得意のうちに入っていたのかもしれないが。

 

「俺、=ピースの個性あんま知らなかったんで、それも負けた理由の一つっスね!」

 

「そう。戦闘とは相手を知ることにもある!相手の個性、戦い方を理解しなければ得意への持っていき方もわからない。レップウは圧倒的力でねじ伏せられるだけの力を持っているが、相手が何をできるか、逆に何をできないかを考えることも必要だぞ」

 

「勉強になりまス!」

 

「その辺り=ピースはできているが、レップウと違って個性がまだまだ成長の余地がある。体育祭で見せた赤い光、抑えきれない反動。体育祭前にやっと瞬間解放を完成させたが、それでもまだまだだ」

 

 それは自分でもわかっている。このままじゃプロとして使い物にならない。なったとしてもプロヒーローのサポートをするサイドキックとしてだけだろう。常に戦っていけるとは思えない。

 

「というわけで、これから一週間パトロールをした後に俺と戦闘訓練で個性を慣らし、またパトロール!そしてその後に戦闘訓練!これが一日のスケジュールで、早めに体を休める!休み方もヒーローの仕事で重要なものの一つだ!体力管理をしっかりしろ!パトロールで敵と会った場合、よほどのことがなければ避難誘導を任せるが、最終日は君たちに敵の相手をしてもらう!心しておくように!」

 

「敵の相手!責任重大だ!」

 

「頼りにしてるぞ、レップウ」

 

「二人で頑張るんだ!」

 

 パトロール、訓練、パトロール、訓練。パトロールで敵に会うことも考えたらその体力配分もしないといけないな。訓練もそこそこにしなければ。

 

 俺の職場体験は思ったよりも濃いものになりそうだ。


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