俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

21 / 80
職場体験という名の強化トレーニング

「うわあああああ!!?」

 

「レップウー!!」

 

「ハハハ!まだまだだなぁ!?」

 

 目の前で父さんに叩き落された夜嵐を見て思わず叫んでしまう。

 

 ここはノーリミットヒーロー事務所にあるトレーニングルーム2。トレーニングルームは二つあり、トレーニングルーム1は基礎トレーニングのための器具やらなにやらが置いてあり、今俺たちがいるトレーニングルーム2は今やっているように戦闘訓練のために使われている。

 

 職場体験三日目、二回目の戦闘訓練。初めの方は体力の余裕もあってボコボコにされることはなかったが、三日目の戦闘訓練にして体力が追い付かず、ボコボコにされてしまっている。夜嵐を叩き落した父さんは体から赤い蒸気を吹かせながら暑苦しく笑った。

 

「レップウがどれだけ飛べようとも、俺からすれば地にいるのと同じこと!ノーリミットには文字通り限界はない!」

 

「体育祭の時の=ピースみたいだ!太刀打ちできん!」

 

「アレを反動なしで使えるんだからチートだ、チート。今のレップウの風じゃ物ともせず突き破ってくるぞ」

 

 父さんは自分の得意を押し付けるのが戦闘では重要だと言っていたが、自分の得意を純粋な力で潰してくる相手はどうしようもないんじゃないか、と思う。父さんの個性は発動条件の違いだけで、ほぼ俺と同じだ。となると当然どれくらい強化されているかも予想がつく。今の父さんはレップウの風を食らってもバランスを崩すだけでダメージを与えることはできない。空中でバランスを崩して俺が父さんの防御を上回る火力で殴ればいいのだが、あの状態の父さんなら間違いなくカウンターしてくる。というか今日の一回目の戦闘訓練で既にやられている。あの化け物にどうやって勝てって言うんだ?

 

「今日はここまでにするか!各自飯を食って早めに休むように!」

 

 言って、父さんは個性を解除してトレーニングルームから去っていった。……この後もきつくて嫌なんだよなぁ。

 

「またあの量食わなきゃダメなのか……」

 

「ウマいけど多い。メシが苦しいと思ったのは初めてだ」

 

 父さんは食事も容赦がなかった。パトロール、戦闘訓練、パトロール、戦闘訓練と繰り返している俺たちが消費するエネルギーは莫大であり、父さんはその分を補給させようと大量のメシを用意する。最低でもどんぶりご飯三杯に大量のおかずと、あの人は俺たちを殺すために指名したんじゃないかと思う程だ。

 

「アレに慣れると職場体験終わってからの食費が心配だ」

 

「深刻な問題だな。学食プラス弁当の生活か」

 

 それもそれで楽しそうっス!とはしゃいでいる夜嵐とシャワールームに行き、一日の汗を流す。この事務所ムキムキな人が多いなと思ったら、トレーニング設備に金かけてるからか。サイドキックの人も希望すればメシを食えるらしいし、もう寮みたいなものだ。俺たちがいる間はできれば食うのをやめてほしいと思っている。あれ、食べてるの見るだけで腹がいっぱいになるんだ。

 

「でも俺のことだから二日目くらいで潰れるかと思ってたが、案外持つな」

 

「個性が成長してるとか?すごいな!おめでとう、久知!」

 

「いや、まだ決まったわけじゃないって」

 

 ただ、その感覚はある。個性が変わってきている感覚。それは二日目の二回目の戦闘訓練の時、上限解放40を使った時に起きたこと。俺は、父さんと同じように赤い蒸気が体から出ていた。その時は10分経たずに個性が解除されてしまったが、あれは初めて起きた現象だ。

 

「赤と言えば、バクゴーと戦った時も出てたよな!赤いの!」

 

「確かに。ただ、昨日のはただ出てただけで何の威力もなかったが……」

 

 シャワールームから出て体を拭いて食堂に行き、用意されている飯がある席に座る。相変わらずの山盛りのご飯と大量のおかずに気圧されながら、手を合わせて「いただきます」と一緒に言って食べ始めた。

 

「あの赤いやつの正体がわかれば早いんだけどなぁ」

 

「アレじゃないか?エネルギー!」

 

「それっぽいってことはわかってるんだが……」

 

 爆豪の最大火力と相殺、いや、最大火力を少し上回っていたことから少なくとも何かしらのパワー、エネルギーであることはわかる。ただそれだけだ。多分俺の限界が近づいてきたら出てくるんだろうな、というのもわかっているが、それも憶測。もしかしたら限界じゃなくても出せるかもしれないし。

 

 夜嵐が一杯目のおかわりに向かった。早すぎる。

 

「そういや久知、反動で倒れなくなってきてないか?やっぱ成長したんスよ!」

 

「そりゃあペース配分考えてるからで、今も結構キツいんだぞ?」

 

「いーや、赤い蒸気出してからあんまり痛がってない!成長したに違いないっス!」

 

 どれだけ俺を成長させたいのだろうか、こいつは。……でも、なんとなく納得できるところはある。爆豪との試合で赤い光を出した時、動くのが困難になりはしたが思っていたより反動がこなかった。あの時は個性に対しての耐性がついてきたのかと思っていたが、夜嵐が言っているように赤いやつが関係しているかもしれない。

 

 今のところ限界近い時に出て、それが出た時は反動が少し軽減される。

 

「……もしかして、元々反動として俺の体にくるはずだったエネルギー、とか?」

 

 ということは爆豪戦で耐え切れずあれだけの赤い光が出て行ったのは、あれが反動としてきていたらとんでもないことになっていたから防衛本能で出てきた、というのが自然だろうか。この仮説がもし当たっていたとしたら、俺反動でどうなってたんだろう。死んでた?

 

「おお、多分それだ!だから昨日個性の時間短かったのか!」

 

「恐らく。でもそれがわかったところでそのエネルギーをどう捕まえるかなんだよなぁ」

 

 おかわりをしに席を立ちつつ、エネルギーの捕まえ方を考える。瞬間開放は爆発させるイメージ、上限解放は爆発させないイメージ。となると、爆発ギリギリで抑え込めば出てきそう、か?

 

「使いこなせるようになれば反動なしで個性使えるんじゃないか?」

 

「どうだろうな。完全に反動なしとはいかないんじゃないか?インターバルもなくならないと思うし」

 

 例えば個性を使用して4分経ったときに赤いエネルギーを放てたとする。その場合残っていた6分のエネルギーを放出したことになるはずなので、4分の分は反動を受けることになるはずだ。そしてこの場合10分間個性を使ったのと同じことなので、インターバルは同じく3分。うーん、仕留めきれるかどうかがわからないし、一気に残り時間を使わなきゃいけないならここぞというときに使う技になりそうだ。

 

「なんか必殺技っぽくてカッコいいな!」

 

「必殺技か。そう考えると悪いことじゃないな」

 

 男は単純で、カッコいいものに弱い。確かに外せば3分間個性が使えなくなるとしても必殺技なのだからそれくらいの代償は当たり前。むしろ安いくらいだ。必殺技の名前は何にしよう?

 

 いや、できると決まったわけじゃないから気が早い。……でも考えるくらいはいいか。別に。

 

「俺も必殺技ほしいな!相手を切り刻む風とかどうっスか!?」

 

「グロくね?」

 

「威力は抑える!それにノーリミットにも通るんじゃないか?刃風・暴!」

 

「もう名前つけてるし……」

 

 確かに、切断系は通りそうだ。ただ、それをやってもしモロに通ってしまった場合、ヒーロー活動に支障がでないかというところが心配ではある。夜嵐は実力でいえばプロ級だし、そうなってもおかしくはない。……まぁそれを父さんが察知できないとは思えないから、通りそうだと思ったら本気出して避けるだろう。

 

 二杯目のおかわりをしに二人で席を立ち、またご飯を山盛りによそった。これで最後、これで最後。

 

「うぷっ……」

 

「耐えるっス!これが終われば後は休むだけだ!」

 

 激しい運動の後の大量のご飯はきつすぎる。雄英のトレーニングよりきつい。職場体験できた生徒にやらせることか?これ。いや、成長の実感はあるけど。職場体験終わったら一日中休もう。そうしよう。……まだ三日目か。

 

「クソ、夜嵐。こうなったら職場体験中に一発でもクリーンヒット入れるぞ」

 

「そしてお互い必殺技を完成させる!頑張ろう!」

 

「それにはまずこの飯を片付ける!」

 

「燃えてきたっス!」

 

 競っているわけでもないのに、俺と夜嵐はどんぶりにあるご飯を一気にかきこんだ。こういうのはのろのろやっていると余計に辛くなるから一気に終わらせた方がいい。

 

「ご、ちそうさま!」

 

「ごちそうさまでしたァ!」

 

 食べ終わると手を合わせてごちそうさま。食べ終わると安心してしまうが、明日の朝も夜もこの食事をしなければならない。地獄だ、地獄。父さん俺たちが負けてもすぐ立たせてまた戦うし、もう戦えなくなったら基礎トレやれって言ってくるし、なんだコレ。めちゃくちゃ努力家じゃん。

 

 食器を洗い、俺たちに用意された部屋へ向かう。二人一部屋で、洗面所に洗濯機に冷蔵庫に風呂にトイレにと、普通に生活でき、初日に部屋を見た時は「金持ってるなぁ」と思わず呟いてしまったほどだ。

 

「ッカー!この一日が終わってベッドに飛び込むこの瞬間!生きてるって感じがして好きだ!」

 

「明日からまた死にに行くけどな」

 

 部屋に戻り、歯を磨いて、ベッドに飛び込む。職場体験に来る前もやっていたはずのことがこんなにも幸せだとは思わなかった。あれだ、脳が「幸せ」と叫んでいる。クスリやってるみたいな言い方になってしまった。

 

「明日も頑張るぞ!おやすみ!」

 

「おーう、おやすみ」

 

 これが職場体験じゃないならスマホをいじったりするのだが、そんなことをすると体力が持たない。ちらっと確認する程度にして、ゆっくり目を閉じた。

 

 そういや緑谷から何かきてたけど、あれなんだったんだろう。職場体験が終わったら聞いてみるか。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。