俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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ノーリミットの必殺技

「ぐおあああああ!!?」

 

「=ピースー!!」

 

「甘いわ!砂糖1キロにたっぷりはちみつをかけて一気に流し込むよりも甘い!」

 

 死ぬだろ、それ。

 

 今日も今日とて戦闘訓練。三日目の夜に夜嵐と話して必殺技を完成させようと試行錯誤しているが、俺だけうまくいかない。夜嵐は今日パトロールに出た時敵と出くわし、敵と俺たちを閉じ込めて敵の逃げ道を塞ぐ『壁風(へきふう)(ろう)』を披露し大きく貢献。俺は今のところインファイターでしかないので、敵と戦わないのであればできるのは避難誘導のみ。こういう時夜嵐のような汎用性の高い個性が羨ましくなる。

 

 夜嵐の必殺技はそれだけではなく、回転数の多い風で相手の防御を削りきる『旋風(せんぷう)(つじ)』、三日目の夜に言っていた相手を切り刻む『刃風(じんぷう)(ぼう)』、接近戦の手段として自分の体に風を纏う『纏風(てんぷう)(そう)』、無数の風を打ち出す『乱風(らんぷう)(れん)』。様々な状況に応じた必殺技を編み出し、父さんに少しダメージを入れるほど成長した。

 

 対する俺は、赤い蒸気を意識して出すことができるようになったものの、爆豪戦のようにそれを打ち出すということはできず丸っきり俺の上位互換である父さんに殴り飛ばされるだけ。赤い蒸気が出ている状態は普段の強化状態より速くなっている気がするのでまったく意味がないというわけでもなさそうだが、それでも夜嵐と比べれば成長した気がしない。

 

「いやぁどんどん強くなっていってるな!アドバイスするならレップウは状況に応じた必殺技を編み出したのはいいが、せっかく二対一という状況なのだから味方を生かす使い方をしてみたらどうだ?例えば、=ピースが攻撃するときに相手をよろけさせて隙を作る、逆に=ピースがピンチになったときに牽制する。必殺技はただ撃つだけでも強力だが、効果的に使えばより強力になる!」

 

「はいっス!」

 

「=ピースは赤い蒸気を出しているとき普段と比べ一、二段階は速くなっている!それを活かすならここぞというときにそのモードになって緩急をつけるのがいいんじゃないか?いきなり速くなれば相手も対処が遅れる。そして緩急はそのまま武器になる!まぁこれは個性の成長が必要だからすぐにとはいかんかもしれんが、頑張れ!そもそもこの数日でそこまで持って行けたこともすごいんだ!自信を持て!」

 

「……っス」

 

 何か照れ臭い。夜嵐が隣で「やっぱすごいっスよね!」と父さんに同意を求めているのも恥ずかしい。あと父さんが人を褒めるのとアドバイスがうまいっていうのがまた信じられない。この人教師とか向いてるんじゃないだろうか。雄英が人手不足になったら雇うべきだと思う。真面目に。あの地獄の食事も効果出てきてるし。

 

「ま、明日が最終日。予定通り敵と出会えば君たちに敵の相手をしてもらう。危なくなれば当然助けるが、心配いらないだろう!俺は君たちを信じてる!」

 

「頑張りまス!」

 

「敵と会わないのが一番だけどな」

 

「そりゃそうだ!平和が一番!」

 

 ハハハ!と笑う父さんに夜嵐もハハハ!と笑う。この二人相性いいんだよな。夜嵐は大体の人間と相性よさそうというか、夜嵐側がそういうの気にせずガンガン行きそうだからそりゃよく見えるんだけど。

 

「さ、明日に備えて今日はここで終わりにしておくか!飯を食って寝るように!」

 

「……やだなぁ」

 

「頑張ろう!」

 

 明るく振舞いつつも、頬が引きつっている夜嵐の表情を見逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、職場体験最終日。

 

「よし、行くぞ!」

 

 朝飯を食べ、少し体を動かした後。俺たちはパトロールに出発した。最終日にして体が一番軽く感じるのはトレーニングの成果か、はたまた感覚が死んでしまったのか。できれば前者であることを願いたい。

 

「しかし今日で最終日か。短かったな」

 

「俺、もうどんな授業でも乗り越えられそうっス!」

 

「ほんとにな。何度死ぬと思ったことか」

 

 多すぎる飯に、吐きそうになるほどのトレーニング。間に挟まるパトロールももしものために周囲に気を配らなければならないので気が休まらず、一日の最後、寝るときだけが休息の時間。この数日ほど普通の勉強がしたいと思った日はないだろう。トレーニングアレルギーになりそうだった。

 

 大通りに出て通行人の邪魔にならないよう歩きながらパトロール。今日も平和そうな街だ。ここで暴れようとするやつなんてそうそういないだろう。数日前いたけど。

 

「っ!?」

 

 なんて、思っていたのが甘かったのだろうか。あまりにも突然だった。

 

「=ピース!?」

 

「なんだ、こいつ!」

 

 俺はいきなり現れた異形の敵に殴り飛ばされ、あっさりと跳ね飛ばされた。俺と夜嵐ならともかく、父さんも反応できないほどの速度で殴られた俺は一瞬意識が飛びかけるが、地面で体を打った痛みで意識が覚める。

 

「レップウ!予定は崩して市民の避難誘導!『壁風・牢』も頼む!俺はあの敵を……」

 

 父さんが言葉を詰まらせたのを不思議に思いながら、次の敵の攻撃を警戒して起き上がる。すると、俺の視界に映ったのは真っ白な体を持った敵と、真黒な体を持った、どちらも脳をむき出しにしている異形の敵。確かあれは脳無と呼ばれる敵で、とんでもない強さの改造人間だったはずだ。

 

 真っ白な脳無は四肢が長く、真黒な脳無は上半身が異常に大きい。見た目だけ見ると戦いたくないが、そうもいっていられないか。

 

「……=ピース、動けるか」

 

「はい」

 

「学生を預かっている身である以上本来は二体まとめて相手するべきなのだろうが、市民を狙われてはかなわん」

 

「俺たちで一体やりまっス!」

 

 父さんの言いたいことを理解した夜嵐が『壁風・牢』で俺たちと脳無を囲む。

 

「ノーリミットは黒いやつを!俺たちは白いやつを!」

 

「……すぐ終わらせて助ける!勝たなくていい!死ぬな!」

 

 そして、父さんは黒い脳無と拳をぶつけ合った。力が拮抗しているということは、あの脳無とんでもない力を持っている。もしかして俺はアレに殴られたのだろうか。そりゃこんなに痛いわけだ。

 

「そっち行ってるぞ!=ピース!」

 

「わかってる」

 

 上限解放40。長い四肢を使って恐ろしい速さで俺の方へ向かってくる脳無を避けようと左に回避する。しかし、脳無は超反応で方向転換し、俺に腕を伸ばしてきた。

 

「『疾風(しっぷう)(れつ)』!」

 

 避けられない、と腕を交差させて防御態勢をとった時、俺の目の前まで来ていた腕が夜嵐の必殺技で弾かれる。その隙に夜嵐の方へと逃げるように移動して、いつの間にか止めていた息を思いきり吐き出した。

 

「助かった!」

 

「助けた!」

 

 知ってるよ。昨日父さんに言われていた『必殺技を効果的に使う』っていうのをやってのけたこと。本当にすごいやつだ、こいつは。

 

「基本的には無理せず距離をとりながら、ノーリミットの方へ行かないようにする。レップウは風で牽制して、俺はあいつの周りで気を引く。それでいこう」

 

「危なくなったらまた助けるっス!」

 

 さっき『疾風・烈』で腕が弾かれたところを見ると、少なくとも常時発動の防御系個性はないと見ていい。それなら俺の攻撃で倒せそう、ではあるが、無理をしてやられてしまうのはよくない。ここは父さんを信じて耐え、無理は控えるべきだ。となると、攻撃を仕掛けるのは愚策。

 

「っぶね!」

 

 何やらよくわからない叫び声をあげながら俺に伸ばしてくる腕を避けていく。ギリギリになったときは夜嵐の援護で助けてもらい、援護も間に合わないと思った時は赤い蒸気を出して一瞬身体能力を強化して避ける。待て、俺今咄嗟に個性成長させなかったか?

 

「うおっ!?」

 

「大丈夫か!」

 

 自分の成長に気が緩んで、脳無の攻撃が頬を掠る。掠るだけで頬が裂けるというのだからとんでもない。一体どんな個性持ってるんだ?こいつ。

 

「一旦離れるっス!『乱風・連』!」

 

 夜嵐の指示通り一気に離れ、それと同時に無数の風が脳無を襲う。いくら脳無といえど、これは一たまりもないだろう。そう思いつつも脳無を警戒していると、脳無は突然勢いよく空気を吸いだした。すると、

 

「おいおい」

 

「マジっスか」

 

 夜嵐の『乱風・連』がすべて吸い込まれてしまった。個性『吸い込み』、みたいな?なんだその星の戦士みたいな個性。というかこれマズくね?あれ吐き出されたら大惨事になると思うんだけど。

 

「レップウ!最大威力を!」

 

「言ってなかったが、『壁風・牢』を使ってると最大威力出すの無理なんだ!」

 

「なんで先に言っておかねぇんだ!」

 

「俺も今気づいた!」

 

 俺と夜嵐は回避行動に移る。これで父さんがダメージを受けて負けた、なんてことになったら大戦犯だ。死んでも勝つしかない。

 

「って、アレ?」

 

 とりあえず父さんにでかい攻撃がきそうだと伝えようと思って周りを見てみると、黒い脳無が地に沈んでいる姿が目に映り、そして。

 

「よし、よく見ておけよ=ピース。俺とお前の個性はよく似ている。お前の個性の更なる成長のために、俺が必殺技を見せてやろう」

 

「アレ!?ノーリミット、あの脳無は!?」

 

「倒した!」

 

 いつの間に?あんな化け物みたいな脳無をこの数分で倒すって、どんだけ強いんだこの人。いや、俺たちがいるから無理してくれたのだろうか。それともこれがプロの普通?……ただ単純に俺たちが必死で周りが見えていなかっただけ、というのもありえる。むしろこれが正解ではないだろうか。

 

「ノーリミット!くるっス!」

 

「これが俺の必殺技の一つ!個性のエネルギーを爆発的に撃ちだす必殺技!『風虎(かぜとら)』!」

 

 父さんが手の平を突き出して必殺技を撃つのと脳無が巨大な風を吐き出したのは同時だった。しかし、威力は圧倒的。圧倒的に父さんの方が高く、爆発的に放たれた赤いエネルギーは脳無が吐き出した巨大な風を脳無ごと一瞬で飲み込んだ。それはあまりにも圧倒的で、必殺技にも、暴力にも見える技。

 

「よし、終わり!」

 

 輝く笑顔で俺たちにサムズアップを向ける父さんに、安心感に襲われ、同時に離れすぎている実力を感じて肩を落とした。


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