「お世話になりました!」
「なんのなんの!」
脳無たちを倒して……父さんが倒してから。脳無たちを拘束して引き渡し、その後処理で俺たちの職場体験は終わりを告げた。最後の敵退治はほとんど見学しているようなものだったが、プロの本気を見れたという点では有意義だったと思う。おかしいってあれ。ほぼオールマイトじゃん。
「君らがヒーロー資格を持っていれば脳無たちの相手を最後まで任せてもよかったんだが、流石にな。勝てたとは思うが、それで大怪我をしてしまえば大問題だ。ここはひとつ、俺の『風虎』を見れたということで我慢してくれ」
「カッコよかったっス、『風虎』!」
「ありがとう!まぁ実はうちの息子が爆豪くんとの試合の最後に出したアレも『風虎』なんだが」
「マジ?」
いや、でも確かに似ている。赤いエネルギーを撃ち出すというのは同じだし、違うところと言えばそれが意図的かどうかと、俺のは周り全体に放出していて、父さんのは敵の方だけに放出していたってところか。感覚を覚えてしまえばできるようにはなれそうだが、果たしていつになることやら。
「俺と息子の個性は似ている。だから、もう少し成長すれば俺の必殺技を教えてやらんこともない。一番は自分で作り出すことだがな」
「頑張ってみるわ」
「よし!それとな」
父さんは笑顔をすっとやめて真剣な顔になり、声のトーンを落とす。真面目な、というかきりっとした父さんはあまり見ないので珍しく思いつつ身構える。
「今日会った脳無だが、基本的には無差別に人を襲うと聞いている。しかし今回は迷わず想を攻撃し、最後まで俺たちから目を離さなかった。となると、初めから俺たちを標的にしていたという予想ができる」
「え、やべぇっスね」
「しばらくは警戒しておけよ。それだけだ!また近いうちにな、二人とも!」
「軽っ」
「お世話になりましたァ!」
また近いうちにって、そりゃ俺と父さんは家で会うし。でも、二人ともってことは夜嵐もまた近いうちにってことか?まさか雄英に来る気じゃないだろうな、この人。
嫌な予感を抱えながら、俺の職場体験は終わった。
「爆豪がイメチェンしてる」
「誰がすっかコラ!変なクセついちまったんだよ!」
翌日。一日くらい休ませてくれよと思いながら登校すると、爆豪が8:2分けのピシッとした髪型にイメチェンしていた。あの爆発頭がここまでピシッとしていると面白いを通り越して逆に心配してしまう。職場体験で何か辛いことがあったのだろうか。
「……まぁ元々変な奴だし、変な髪型でもいいか」
「誰が変だ!ぶっ殺すぞ!」
「あ?やんのか?お前が頑張って変な髪型になってる間、俺はずっとトレーニングしてたんだぞ?」
「この髪型を努力の結晶みたいに言うんじゃねぇ!」
「じゃあお前なんのために職場体験行ってたの?」
「俺が知りてぇわ!」
爆豪が俺のいじりに耐え切れなくなったのか、机を叩いて立ち上がるとそれとともに髪が爆発していつもの爆豪の髪型になった。どうなってんだこいつの髪型。個性が髪型にも影響してるとか?すぐにハゲそう。すぐキレるし。
「そういやお前、脳無と会ったんだってな」
「ん?あぁ」
舌打ちして座り、戻った髪型の調子を手で触って確認しながら聞いてくる爆豪に軽い返事。会ったには会ったが、気づいたら父さんが倒してたって感じだから実のところあまり実感はない。
俺の軽い返事が気に入らなかったのか爆豪が俺の机を蹴った。オーバーリアクションの方がよかった?
「ンでテメェの親父は俺に指名出してねぇんだ」
「出してたとしても父さんがすぐに倒したから、爆豪の出番なかったぞ」
「あるわ!出番!」
髪型を変えただけの職場体験が不満だったのか、その不満を爆発という形で表そうと手に力を込めている。ここで爆破すると危ないからやめてほしい。ほら、髪型爆発したからそれでいいじゃん。
「あとはあれだ。毎日どんぶり三杯の米と大量のおかず。パトロール、トレーニングを2セット。ほら、もう行かなくてよかったと思えてきただろ?」
「……上等だ!」
あの戦闘好きの爆豪が少し悩むほどだ。大体のことには即答で生意気なこと言ってくるのに、爆豪が少し悩むだけで俺がやっていた職場体験がどれだけ異常だったかがわかる。昨日は夕方に帰ったから晩飯は家で食べたが、あの量に慣れてしまって今でもお腹が空いている。こんな体にしてしまうって、ダメだろ。下手すりゃ死ぬぞ。
そんなこんなで。
職場体験が終わっていつも通りの日常を過ごし、いつもより学食を多めに食べ、迎えた放課後。
「あぁ、久知。後で生徒指導室にこい」
「え?俺なんかやっちゃいました?」
「広告でよく見る主人公かよ」
上鳴のちゃかしに「うっせぇ」と中指を立てる。俺は品行方正で成績優秀だから怒られるようなことは何もしていないはずだが、もしかしたら知らないうちに何かやってしまっていたのかもしれない。爆豪と一緒にいるとどうしても口が悪くなるし、その関係だろうか。だとしたらそれは爆豪が悪い。
「んじゃ、行くわ」
「明日からいなくなるのは勘弁な」
「あ?テメェのが実力的に下だろ」
またも上鳴がちゃかしてきたので事実をぶつけてやると面白いくらいに崩れ落ちた。あまりの情けなさに「あんた頑張ってるよ」と耳郎が慰めにいったのを横目に教室を出る。……さっきのは言い過ぎたか?俺上鳴と正面から戦って勝てる自信あんまないし。でも体育祭の成績は俺の方が上だったから俺の実力の方が上だってことにしておこう。自分くらい自分を褒めてやらないと。
生徒指導室の前に立って、ノックを三回。どうでもいいが、二回のノックはトイレで、正しくは四回らしい。四回やると長すぎて鬱陶しいから三回が普通になってるけど。そもそも、こういう知識を全員が持っているとは限らないのでノックは三回って覚えておけば間違いない。
「失礼します」
生徒指導室のドアを開けると相澤先生がいた。軽く頭を下げてからドアを閉めて、相澤先生の対面に座る。
「それで、あの、何の御用でしょうか」
「職場体験についてだな」
正しくは脳無、か。と相澤先生は続けて、
「どうも、あの時の脳無の動きがクサくてな。あの数日前にも脳無が現れたが、その時の脳無は無差別に人を襲っていた。が、お前らを襲った時は……久知を狙っていた、という報告がある」
「狙われるようなことした覚えないんですけどね」
「覚えがあるにせよないにせよ、狙われたかもしれないっていう事実はある。そこでだ」
相澤先生はスマホを取り出すと、画面を俺に見せてきた。これは……。
「緊急連絡。お前が無理やり聞き出してきた普段の俺の連絡先とは別の、非常時に使う連絡先だ。これに連絡するとお前の位置情報が伝えられる仕組みになってる」
「なんとまぁご迷惑をおかけして」
「すぐ連絡できるようにしておけよ。お前、頭いい風を装ってるくせに結構抜けてるからな」
「そんな幼馴染が言う『俺だけはわかってるぜ』みたいなこと言わなくても……」
ギロ、と睨まれた。普段眠そうな目してるくせに睨むときだけめちゃくちゃ怖いんだよなこの人。ネコ好きなのに。
「まぁ俺もお前にそこまで狙う価値があるとは思えないから、気のせいだとは思うが用心するに越したことはない」
「先生なのに随分な言いようですね?」
「冗談だ。お前のことは評価してる」
「え、すき」
「冗談だ」
「は?」
鼻で笑って俺をバカにする相澤先生。俺の性格がわかってるからこんなことするんだろうが、相手が相手なら泣いてるぞ。先生に恋する系の女子生徒なら「もう!先生!」って怒ってから頬を赤くして幸せそうに笑うぞ。父さんが持ってる漫画で見た。ということは俺が女だったら先生に惚れていたかもしれないということか?
「ほら、用は済んだから出てけ」
「ドライなセフレかよ」
本気で睨まれてしまったのでそそくさと退散する。相澤先生みたいな人ならセフレのくせに急に恋人感出してくる女の人とかいそうなのに。だから睨まれたのだろうか。
生徒指導室のドアに手をかけて、相澤先生に「さようなら」と頭を下げる。礼儀は大事だと教わってきた俺は挨拶を殊更大事にする。それは嘘。尊敬する人以外には適当にしがちだ。
「はいさようなら。気をつけてな」
あぁいうぶっきらぼうに見えて生徒の身を心から案じてくれるところとか、ものすごく尊敬できる。だから俺は相澤先生にちゃんと挨拶をするのだ。時々変なことを口走ってしまうのは信頼の表れだということで大目に見てほしい。「ドライなセフレかよ」なんて他の先生には言えないしね。ミッドナイト先生に言ったら興奮しちゃうだけだし。
なってくれないかな?ドライなセフレ。
「何考えてんだ俺」
あまりにもズレ始めた思考に喝を入れるために自分で自分の頬を叩き、気を引き締める。俺は一途が売りなんだから。そもそも誰に売ってるの?って話になるけど。あの子が買ってくれるかどうかもわからないし。
学校を出て、相澤先生に『今日はありがとうございました。センキューベリーマッチベイベ』とメールで送り、『?』と返ってきたのを確認して帰路につく。どうせ相澤先生のことだから俺のことを心配してスマホをちらちらみる生活が続くのだろう。今すぐに返信がきたことがその証拠だ。一文字どころか一記号しか返ってこなかったけど。ムカついたから爆豪に『かきくけこが言えるってことはあいうえおも言えるってことだよな?』って送っておこう。
……この間に襲われたら笑えないよなぁ。