俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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演習試験開始

 上鳴のあほさ加減と爆豪の天才加減を再確認した勉強会の成果を発揮し、筆記試験を終えた俺たちは演習試験を迎えていた。筆記が終わった後切島と上鳴がそろって「爆豪だけに頼まなくてよかった」と言っていたので、力にはなれたのだろう。俺は爆豪と違って勉強して点数取るタイプだし、どこで躓くのかは理解してるつもりだからな。

 

「これから演習試験を始める」

 

 俺たち1-Aの前には相澤先生だけでなく、多くの先生が立っている。この時点でクラスの誰かが仕入れていたロボ相手ではなさそうだと予想がつく。というかこれアレじゃね。先生たちと戦うとかそういうやつ……。

 

「諸君らなら事前に情報を仕入れて内容は薄々わかっているとは思うが……」

 

「ロボなら楽勝だぜ!」

 

「花火!カレー!肝試ー!」

 

「残念!諸事情あって今回から内容を変更しちゃうのさ!」

 

 相澤先生の捕縛布から出てきた校長先生の言葉を聞いて、ロボ相手の戦闘だと思って浮かれていたアホ二人組が膝から崩れ落ちた。まぁロボ相手なら体育祭の時もやったし、あまりやる意味もないだろう。……俺もロボ相手のがよかったなぁ。

 

「諸君らには、二人一組(チームアップ)でここにいる教師一人と戦闘を行ってもらう!」

 

「二人一組……」

 

「お疲れ」

 

「テメェはやるまでもないってよ」

 

「お?喧嘩なら買おうじゃねぇか」

 

 二人一組、そして1-Aは全員で21名。ということは一人余る計算になる。それを理解した上鳴と爆豪が俺を一人になるやつだと決めつけてきたので、演習関係なくぶちのめすことを心に決めた。あと上鳴はもう試験のとき助けてやんない。

 

「そこでわちゃわちゃ騒いでいる通り、うちのクラスは21名。つまり一人余る」

 

「あ!そういえばB組も21名だからB組から一人とA組から一人で二人一組ってことですね!」

 

「一人になるのは久知、お前だ」

 

 どうやら俺は先生に嫌われているらしい。上鳴と爆豪も本当に俺が一人になるとは思っていなかったのか、気まずそうに俺から目を逸らしている。いや、普通そうじゃね?B組から一人とA組から一人で二人一組だと思うじゃん。それが自然じゃん。

 

 抗議の意を込めて相澤先生を睨むと、先生はめんどくさそうにため息を吐いた。おい、教師なら生徒と真摯に向き合え。

 

「そもそも、この演習試験にはそれぞれに課題があり、それを基に組み合わせを決めている。動きの傾向や成績、親密度……つまり、お前は誰と組んでも問題がなく、となれば見るべきは一人でいるときの立ち回り。個性上、課題があるのは一人でいるときだからな」

 

 確かに。俺の個性は疲労、ダメージを蓄積しなければならないという縛りがあるため、一人のときの立ち回りは慎重にならなければならない。ペース配分、ダメージの受け方、その他諸々。二人一組ならまだ味方に敵の相手を任せながら疲労、ダメージをためることもできる。

 

 そう考えると俺は一人の方が試験になるんだけど、やっぱり寂しい。みんな二人一組なのに。

 

「って、それだと先生側の人数足りなくないですか?」

 

 今ここにる先生の人数は合わせて10人。もしかして俺は今日帰ってもいいとか?

 

「あぁ、お前の相手は俺だ。で、全員演習試験が始まる前に俺とお前でやっているところを全員モニタールームで観てもらう」

 

「え?職員会議の結果、俺を公開処刑する運びになったんですか?」

 

「それはお前次第だな」

 

 俺に対する特別扱いがすごい。なんで俺の演習試験をみんなに見られなきゃいけないんだろう。あれか?これがお前らが目指すべき姿だ、みたいな?へへ、照れるな。

 

「なんで久知の演習試験を全員に見せるかだが、まぁそれは各々考えてくれ。俺の見込み違いじゃなきゃきっと勉強になるはずだ」

 

 何そのプレッシャー。もしかしてここで潰して除籍しようというお考えでしょうか?

 

「じゃ、モニタールームに移動な。久知は俺と演習場だ」

 

「お前の宗派ってなんだっけ?」

 

「俺が死ぬことを予想してお焼香のあげ方を勉強しようとするな」

 

「そんだけ口が回るなら大丈夫そうだな」

 

 頑張れよ、と俺の背中を叩いて上鳴は去っていった。何カッコつけてんのあいつ。

 

「恥ずかしいやつだなぁ」

 

「お前には人の心がないのか?」

 

 呆れたように俺を見る先生に、俺は肩を竦めてみせて「ジョーク」と一言。

 

 先生は無視してバスの方へ行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 バスに揺られて着いたのは住宅地を模した演習場。

 

 

「制限時間は30分。お前の目的はこのハンドカフスを俺にかけるか、ステージから脱出するかのどちらかだ」

 

 つまり目的は一つということか。俺と相澤先生の相性で俺が勝てるわけないし。

 

 相澤先生の個性は見ている間その人の個性を消すことができる個性。対して俺は個性を発動してその時の体への疲労、ダメージを身体能力強化につなげることができる代わりに、個性の制限時間が終わるとともに激痛が体を襲う。つまり、俺は一度個性を発動するという過程が必要なため、発動した瞬間先生に見られてしまえばただただ激痛が体を襲う。相性は最悪だ。

 

「で、俺のことは敵だと考えろ。戦って勝てればそれでいいが、実力差が開きすぎている場合逃げて応援を呼ぶ方が賢明だ」

 

 一人で会敵したときに逃げたらその敵が逃げるかもしれないし、民間人に危害を加えるかもしれない。あれ、そう考えるとこの試験においては逃げの選択をしたら赤点ってことか?でも目的にステージから脱出するってあるし、んー。

 

「で、俺は体重の約半分の重量があるおもりを装着する。意味は自分で考えてくれ」

 

 おもりをつけないとそもそも勝負にならないからですね。いつもなら俺を舐めんなよと調子に乗ったことを言うところだが、今回はそんなことを言っていられないので黙っておこう。

 

「お前はここ、ステージ中央からスタートだ。俺は脱出ゲートと中央の間のどこかからスタートする。以上」

 

 言って、相澤先生はさっさとどこかへ行ってしまった。

 

 さて、正直めちゃくちゃ不安だ。相手が他の先生ならごり押しでなんとかいけたかもしれないが、相澤先生は無理。ごり押しじゃ無理ってことは頭脳戦で上をいかなきゃならないってことで、もうあーあーって感じ。あんなバスの中でスマホに保存してるネコの画像見るような男なのに、なぜああも有能なのだろうか。ネコの画像見てるくせに。

 

「なんとか頑張ろ。赤点とっても死にゃしないし」

 

 これが実戦だったら死ぬんだけど。試験開始の合図とともに、俺はブロック塀を背に座り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 所変わってモニタールーム。1-Aと数名の教師陣が観ているモニターには、ブロック塀を背に座り込んでいる久知と、屋根の上で油断なく周囲を警戒している相澤の姿が映されていた。

 

「何してんだ、あいつ?」

 

 座り込んでいる久知の姿を見て率直な疑問を口にする上鳴。比較的久知と過ごす時間の多い彼だが、久知のとる戦術、また思考については厄介そうだということしか理解していない。

 

 数人には、諦めたように見えていた。試験開始とともに座り込んでぼーっとしている姿を見て諦めたと判断するのも無理はない。実際、久知という少年はやる気があるかないかと言われればない方に属する人間で、普段からそのような言動や行動をとっている。

 

 しかし、数人が『諦めた』と判断した中で、一度久知と組んだこともあり体育祭で拳を交えた経験のある切島はとてつもなくやる気がなさそうな顔をしている久知を見ても、「きっと考えがあるんだろ!」と信じて疑わなかった。

 

「僕も、そう思う。確かに久知くんは怠惰な感じはするけど、初めから諦めるなんてことはしない」

 

「でもあぁやってたらただ時間が潰れるだけだぜ」

 

「言い訳を作ってんだろ」

 

 久知に対する緑谷のフォローに上鳴が返し、その会話に爆豪が割り込む。緑谷は意外そうに目を丸くしたが、そういえば爆豪は久知と仲が良かったと思い意外でもないのか、と自分を納得させた。

 

「言い訳?」

 

「テメェに言ってねぇよクソデク」

 

 しかし自分に対する態度は相変わらずのようだったので、緑谷はおとなしく引き下がることにした。

 

「俺らは二人一組で、クリア条件は同じ。ただ、俺らの場合どちらか片方が逃げるのに成功したら、っていう条件だがあいつの場合そもそも一人しかいない。で、孤立無援のヒーローが逃げ出したら何が起こるかっつったら、敵が逃げる、もしくは民間人に危害を加える。それを考えたあいつはまず行動をしないことによって、『自分の存在を知っていて、自分を警戒して動けない敵』っていう状況を作り上げて、自分は合理的な行動をしてるっつーアピールでもしてんだろ」

 

 くだらねぇ、ぶっとばしゃいいんだよ。と続けた爆豪に、今度は緑谷だけでなくクラス全員が目を丸くした。驚いたのはブチギレずに長い間喋り続けたこともそうだが、冷静に状況を判断していたこともそうである。ここで、1-Aは「そういえば爆豪は天才だった」ということを思い出した。

 

 爆豪の考察だが、これは見事に的中していた。

 

 久知はまず、相澤とまともに戦っても勝てない、という前提条件で動いている。そのため、どうにかして評価点を稼いでいこうという腹なのだ。

 

「大方、目的とは言われてるがそれを達成しなきゃ赤点だって言われてないから、達成できなくてもなんとか合格できるって考えてんだろうな」

 

「あ、でもそうか。確かに達成できなきゃ赤点だとは言われてない」

 

「っせェ!テメェは喋んな!」

 

 こういうときくらいは普通に話してくれてもいいのに、と思いながら緑谷はまたおとなしく引き下がった。

 

「でも、久知さんからは相澤先生の位置はわかりませんが、相澤先生は久知さんの位置を把握しています。早めに動かなければ」

 

「センセーは少なくとも数分はあの位置から動かねぇだろ。自分から有利位置を捨てる必要がねぇ」

 

 僕以外の人とはちゃんと話すんだね、と八百万の疑問に被せる形で話始めた爆豪に、緑谷は小さな不満を抱いた。

 

「まずセンセーは後手に回ってもあのクソを封殺できる。そんぐれぇの相性の良さがある。その前提があって、今の有利位置は捨てる理由がねぇだろ。まぁ、センセーだから何かしらのアクションはとるだろうがな」

 

 爆豪はこの時、アクションをとるのは相澤からだろうと踏んでいた。今まで当たっていた考察はしかし、久知の手によって裏切られることになる。

 

「あ、久知がなんか取り出して……って、スマホ?」

 

 試験開始5分。モニターに映る久知が取り出したのは、自身のスマホだった。


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