俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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逃げきれ、鬼ごっこ

 試験開始から9分。制限時間のおよそ三分の一を過ぎようとしている今、久知はまったく動きを見せない。個性の影響で考えナシのバカに見えるがその実、考えて動くタイプであり、戦術の組み立てではクラスの上位に位置するあいつのことだから、どうせこの無駄に見えるような時間も作戦の一部なんだろう。相手は素人だが、警戒しておいて損はない。

 

 恐らく、あいつは初期位置からそれほど動いていない。俺との相性がわからないほどバカではないから、先手をとられるのだけは避けなければならないのはわかっているだろう。疲労、ダメージのないあいつはほぼ無個性と同じだ。

 

 が、このままガン待ちしていてもいいがそれでは試験にならない。そろそろ動いてもいい頃だろう。

 

 そう思い一歩足を進めたその時、遠くの方、スタート位置からさほど離れていない場所からロック調の音楽が聴こえてきた。

 

「……なるほど」

 

 小賢しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっわ、こっすい……」

 

 久知が起こした行動の一部始終を見ていた1-Aは、誰かが言ったその言葉に同意した。

 

 久知がとった行動はまずスタート位置から離れたところにスマホを置き、アラームを最大音量でセット。それが終わるとスマホを置いた位置から離れて、アラームが鳴ると同時に塀を上り、相澤の位置を確認。そして瞬時に家の庭に入って移動を開始した。

 

 簡単に言えば、相澤の視線を音で釣ったのである。数分間行動を起こさず、いきなり音を鳴らして一瞬音の鳴る方へ視線を誘導し、その一瞬をついて相澤の位置を確認。少々博打要素もあるが、相澤は久知を確認できていないようなので賭けには勝った。

 

「……アイツ」

 

 その上、久知は連絡先を知っている者全員に敵に襲われている、ということと位置情報を送信しており、また言い訳を作っていた。目的を達成できなくても「とるべき行動はとれてましたよね?」と赤点を免れるつもりである。

 

「でもこれってほとんど位置バレたくね?まさか音が鳴った方にいるとは思わないだろうし」

 

「音が鳴った方に行くしかないんじゃないかな。相澤先生は見張っていた範囲で久知くんが移動してないってことはわかってるんだから、まだスタート位置近くにいるってことはわかってるはず。それなら音が鳴ったところを確認して、他の場所を探した方が合理的だ。もし音が鳴ったところに久知くんがいたとして、相澤先生が音が鳴ったところにはいないだろうって決めつけたら、久知くんにすぐゴールされちゃうから」

 

 純粋な疑問を口にした上鳴は、思ったよりも返ってきた言葉に「お、おぉ」と押され気味。そんな上鳴の様子は知らず、緑谷は調子よく続けた。

 

「もし相澤先生の位置を確認したときに見つかったとしても、『見つかった』ってことがわかってるから迎え撃ちやすい。奇襲されるよりは全然いいんだ。ただ、ここからの移動は相澤先生を警戒しつつのスピード勝負になってくる。久知くんに音を聞ける能力があればいいんだけど」

 

「あいつ確か、個性使ったら感覚も強化されたはずだぜ」

 

「うーん、でも、強化できるほど疲労がたまってるかっていうところなんだよね。バレないうちに強化できたらいいんだけど」

 

「……してる」

 

「え?」

 

 長い間喋っていた緑谷にイライラした様子の爆豪がモニターの久知を見ながら呟いた。緑谷は爆豪が会話に入ってきたこともそうだが、久知が強化しているということにも驚き、改めてモニターに映る久知を見てみた。

 

「……あっ」

 

 よく見てみると数秒に一瞬だけ、久知は普通より少し速い速度で移動していた。そう、久知は職場体験での経験を経て、より小刻みに強化することを可能にしていた。ただ、緑谷がよく見なければ気づけないほどの強化であり、その程度の強化であっても反動はそこそこのものなので使い勝手は非常に悪く思えるが、使えば使う程ダメージが蓄積されていくのでそう悪いものでもない。

 

「ゴールまでの距離を縮めつつ、しっかり戦闘できるように準備してやがる」

 

「あ、瞬間開放から上限解放になった?」

 

 モニターの中の久知の速度が目に見えて上がった。瞬間開放を重ねることによって上限解放できるほどのダメージが蓄積したのだ。上限解放20。爆豪の攻撃になんとか対応できる程度の強化である。

 

「ただ、今使っちゃうと相澤先生に見られた時ものすごく痛いんじゃ……あっ」

 

 緑谷の言ったことはすぐに実現された。

 

 スタート位置周辺を確認していた相澤が急激なスピードで久知と距離を詰め、その姿を捉えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思ったより、早かった。

 

「よう。久しぶりだな」

 

「あぶなっ!あぶなっ!」

 

 くる、とはわかっていたがまさかここまで速いとは。体に激痛が走った瞬間に横っ飛びして捕縛武器を避けたのはいいものの、ゴールまでの距離を思ったより稼げていない。

 

「すぐに回避したのは流石だな。まぁくるのがわかっていたんだろう、」

 

「さようなら!」

 

 ごちゃごちゃ喋り出したのを無視して、瞬間開放を使って跳躍。屋根の上に着地する。

 

 瞬きの瞬間を狙えないなら、瞬間開放をひたすらやろうとすればいつかそのタイミングと合致する時がくる。ただここからが問題だ。俺が屋根に上ったということは瞬間開放をすれば一気にゴールまで跳べる可能性があるということで、それを無視できない相澤先生は意地でも捕縛しようとしてくるはず。ということは瞬きをせずに無理やり俺を見続けて個性を封じてくるだろう。ここからは素のフィジカルで相澤先生の攻撃をやり過ごし、いつか訪れる瞬きのタイミングで一気にゴールまで行かなければならない。

 

「って、こともない」

 

 相澤先生が屋根に上ってきたのを少し首を後ろに向けて確認し、それと同時に屋根から飛び降りた。これで相澤先生の視界から外れたので、個性を使うことができる。

 

 相澤先生と戦うとき、遮蔽物があるならそれを利用しない手はない。そして、それは平面上での遮蔽物だと上から見られるから意味がなく、となれば立体的に遮蔽物を利用していけばいい。だから、上から見られる前に跳躍して、再び屋根の上に乗る。そしてまた飛び降りて相澤先生の視界から外れる。これの繰り返しでいいはず。

 

「よっ!」

 

 瞬間開放で跳躍し、降りた屋根から二軒先の屋根に着地。ここを素早くしなければ相澤先生に追いつかれるから、またすぐに飛び降りる。って、

 

「あー、なるほど」

 

「また会ったな」

 

 しばらく相澤先生は屋根伝いに追ってくると思ったが、相澤先生も飛び降りていたらしい。そして俺の後を追って捕縛武器を使って移動し、最短ルートで俺に追いついて俺の目の前に着地したと。まさか高い位置をすぐに捨てるとは思わなかった。

 

「しかも個性消されてるし。あの、見逃してくれません?」

 

「何度も策に乗ってやったんだ。もう見逃さん」

 

 まぁ、先生は俺がとってほしい行動をなぞっていたところがある。アラームを鳴らした時もそうだし、最初動かなかった数分にしてもそうだ。相澤先生の機動力があるなら、俺が個性を使えないうちに速攻をしかけてもよかった。なのに、相澤先生は試験だからとわざわざ待って、策に乗ってくれた。そう考えたら乗ってくれた上で追いつめられている今が問題だろう。

 

「じゃ、行くぞ。うまく避けろよ」

 

「合図してくれるって、随分優しいんですね!」

 

 捕縛武器がまっすぐ俺に向かって伸びてくる。個性が使えるならひっつかんで無理やり投げ飛ばしてもいいのだが、今は個性が封じられている状態。これは回避しながら影に隠れるのが一番だが、隠れさせてくれるとも思えない。

 

「いや、それは悪手だろ」

 

「どうですかね」

 

 捕縛武器をすり抜け、相澤先生に突進する。このままではすぐに捕縛されるだろうが、これなら。

 

「っと」

 

 相澤先生に向かってハンドカフスを投げる。当然それを無視できない相澤先生は避けるように後ろに下がった。その隙をついて、近くにある塀の裏へ一気に跳ぶ。そして追いつかれる前に瞬間開放を使って一気に跳躍。

 

「ゴキブリみたいだな」

 

「ゴキブリはカッケーらしいですよ!」

 

 夜嵐曰く、だが。あいつの言うことは一般的ではなさそうだから気休めにしかならないけど。

 

 体に走る激痛を我慢しながらゴールに向かって走る。瞬間開放を多用したためか体はズタズタだ。相澤先生に気づかれてなければいいが、どうせ気づいているだろう。痛いところを突かれる前に早くゴールにつかなければ。

 

「くっそ、速いな」

 

 後ろから聞こえた着地音を聞いて一層脚に力を籠める。正直脚はボロボロだが、職場体験での地獄を思えばなんてことはない。むしろ心地いいくらいだ。それは言い過ぎ。

 

「って!」

 

 余計なことを考えていたからだろうか、ついに俺の脚が捕縛武器で捕らえられた。その拍子で思い切りこけて、顔面を強打するかという寸前で手を屋根につくことでそれを回避。でもあぁよかったなんて言ってられない。

 

「やっと捕まえたぞ」

 

「一度逃がしてみる気はありません?」

 

「ないな」

 

 また瞬きする瞬間を狙おうと思ったが足を捕らえられたまま、まるで釣り上げられた魚のように宙へ引っ張り上げられる。瞬きするために俺が移動できないようにしたのか。本当に油断がないというか、もうちょっと手加減してもよくない?

 

 まぁ、俺の勝ちなんだけども。

 

「相澤先生」

 

「?」

 

 俺を宙に引っ張り上げて目薬を差す相澤先生にニヤッと笑い、拳を振りかぶった。

 

「俺、実は秀才なんで理解さえすれば習得早いんですよ」

 

 思い出すのは体育祭の爆豪戦と父さんの必殺技。父さんは強化のエネルギーをそのまま放出しており、俺が同じようにそれを使うとすれば瞬間開放と似たやり方になる。強化に使うエネルギーを一瞬体にあふれさせ、それを外部に向かって弾き出す!

 

「『風虎』!」

 

 俺が降りぬいた拳から、サッカーボール程の大きさの赤いエネルギーが放たれた。父さんの『風虎』はバス程の大きさでそれと比べるとものすごく頼りないが、威力、スピードは絶大。

 

「なっ!?」

 

 予備動作が丸見えだったため避けられたが、俺の『風虎』は小さな台風と言っても過言ではない。突風を生み出し、屋根をもはがすその台風は回避行動に移った相澤先生を軽く吹き飛ばした。それと同時に着地し、先生に見られる前にゴールに向かって瞬間開放で跳躍する。

 

「ぶへっ!」

 

 着地に失敗して無様に転がってしまったが、ゴールを通り抜けた。博打要素が多かったが、なんとか赤点は回避できたんじゃないだろうか。多分、恐らく。

 

 問題は、まだあまり制御できない『風虎』を撃ったことでぐちゃぐちゃになった腕を見てなんて言われるか、だけど。




相澤先生、強すぎて動かしにくいです。

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