俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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期末試験終了

 演習試験が終わり、翌日。

 

 切島、上鳴、芦戸、砂籐の四人は見るからに沈んでいた。俺は試験が終わった後リカバリーガールに治癒してもらって校舎のベッドで休んでいたから試験内容を見ていないが、目的を達成できなかったことだけは知っている。俺のように小細工をするタイプにも見えないし、小細工をしたところで赤点を免れるわけでもないので、赤点は確実と言っていい。赤点をとれば林間合宿には行けないと言われていたので、もう林間合宿に行けないと思っている四人の空気が重い。

 

「うぅ……みんな、土産話、楽しみにしてるからっ……」

 

「あぁ。期末試験も突破できねぇようなアホにもわかりやすい土産話持ってきてやるよ」

 

「鬼かテメェは!!ここは普通『まだわかんないよ!』って慰めてくれるところだろうが!!」

 

「って爆豪が言ってました」

 

「あ?」

 

 つい口が滑ってとんでもなく性格の悪いことを口にしてしまったので、爆豪に罪を擦り付ける。アホだから騙されてくれるだろ。だって爆豪言いそうだし。

 

「ぐっ、絶妙に言いそうで嘘か本当かわかんねぇ……!」

 

「嘘に決まってんだろ!んなこともわかんねぇからクソ赤点なんだよカス!」

 

「言ってるじゃん……」

 

 シンプルに傷ついた上鳴が膝をついた。芦戸は俺と爆豪を睨みつける女子に慰められている。おいおい、睨むなら爆豪だけにしろよ。俺は何も言ってないんだから。そんな、赤点取った友だちを慰めもせず死体蹴りするなんて。

 

「まぁ落ち着けよ。俺も峰田のおかげでクリアはしたけど寝てただけだし、多分赤点だろ。逆に、クリアできてなくても赤点じゃないってこともありえるんじゃね?」

 

「なぁ緑谷。みんなの試験を見ていたお前に聞きたいんだが、この四人は合格できそうな試験内容だったか?」

 

「え、えっと、うーん」

 

「だってさ」

 

「知ってたよチクショウ!」

 

 とうとう上鳴は床にうつぶせになってしまった。少々言い過ぎただろうか。ちょっとフォロー入れておこう。

 

「ま、色々言ったけど多分全員行けるって」

 

「今更下手な慰めなんていらねぇんだよ!」

 

「いや、聞いてくれ。雄英がただの林間合宿をするわけがない。つまり、林間合宿という名の強化合宿だってことで、赤点を取ったやつこそ行かなきゃダメなんだよ」

 

「よく回る口だな。殺してやろうか?」

 

「ごめんなさい」

 

 どうやらおちょくりすぎたらしい。そんなに林間合宿を楽しみにしていたのかと思うと罪悪感がふつふつとわいてきた。いや、元からあったけど。

 

 このまま話し続けると本当に殺されそうなので、自分の席につく。こっちもこっちで爆豪とかいうブチギレ地雷野郎がいるが、俺が悪者になってしまうよりはマシだろう。そう思いながら先生の到着を待っていると、爆豪が俺の方を向いて話しかけてきた。

 

「お前は思考検査したら敵に向いてるって言われそうだな」

 

「お前は見た目言動行動すべてが敵に向いてるって言われそうだな」

 

「あ?」

 

「お?」

 

「予鈴が鳴ったら席につけ」

 

 立ち上がって今まさに喧嘩をしようとしていたところで先生がやってきた。怒られるのはごめんなので「ぷー」と言ってから席につく。なんかよくわからないけど、「ぷー」って言われたらムカつくと思うんだよな。爆豪顔中の血管が浮き出てるし。

 

「おはよう。今回の期末試験だが、残念ながら赤点が出た。したがって……」

 

 このままだと本気で上鳴に殺されかねないので、どんでん返しがあってくれと手を合わせる。さっき俺の言ったこともあながち間違いじゃないし、なくはない。

 

「林間合宿は全員行きます」

 

「どんでん返しだぁ!!」

 

 やっぱりそうだよね!いやぁ、まさか天下の雄英が一部の生徒を林間合宿に行かせないなんてそんなことあるわけないと思った。

 

「筆記の方はゼロ。実技で切島、砂藤、上鳴、芦戸、瀬呂が赤点だ」

 

 赤点取得者は予想通りだった。林間合宿に行けるとは言っても、恐らく現地で地獄の補習があるだろうからせめて五人の幸福をお祈りしておこう。あと俺赤点じゃなくてよかった。結構不安だったんだよな。

 

「今回の期末試験、我々敵側は生徒に勝ち筋を残しつつ、どう課題と向き合うかを見ていた。勝ち筋を残さなかったら課題以前に詰むやつばかりだったからな」

 

 詰むっていうなら俺もそうだ。相澤先生が策に乗ってくれなかったら開始早々詰んでたし。クリアしたっていうよりもクリアさせてもらえたっていう感覚の方が強い。

 

「ま、そもそも林間合宿は強化合宿だ。赤点取ったやつこそ行ってもらわなきゃ困る。赤点取ったら行けないっつったのは……まぁ、やる気出たろ?合理的虚偽ってやつだ」

 

「俺言ったこと当たってんじゃん」

 

 嘘を本当にする個性でも発現したのだろうか。それならもう『窮地』いらなくね?最強じゃん。「君、敵じゃないよ」って言ったら敵じゃなくなるんでしょ?最強。

 

「先生!二度も虚偽を重ねられると信頼に揺らぎが生じるかと!」

 

 林間合宿に全員行けるとわかって喜んでいるところに、飯田が水を差した。そういえば相澤先生は体力テストの時に最下位は除籍にするって言って、それも嘘だったんだっけ。どっちも本気にさせるためには必要な嘘だと思うけど、確かにこう嘘ばっか言われると「今回もどうせ嘘なんでしょ?」って思いかねないな。

 

「確かにな、省みるよ。ただ全部嘘ってわけじゃない。赤点取得者には別途補習の時間を設けている。ぶっちゃけ学校に残っての補習よりきついから覚悟しておけよ」

 

 じゃ、合宿のしおり配るから後ろに回してくれ。という言葉を果たして赤点を取った五人は聞けたのだろうか。多分、近いうちに訪れる地獄を感じてそれどころじゃなかったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一週間の強化合宿だってよ。行く前にたっぷりママに甘えておけよ」

 

「あ?喋んじゃねぇ。息が乳クセェんだよ」

 

 爆豪はどうしても俺の手によって殺されたいらしい。誰がママのおっぱいを未だに飲んでるって?お前俺の母さんに会ったことあるだろ。乳が出るような胸に見えたのか?

 

「んー、一週間か。俺旅行とかあんま行ったことねぇから色々必要なもんあるなぁ」

 

「友だちいなかったもんな」

 

「おいおい。おいおい」

 

「返す言葉ねぇじゃねぇか」

 

 だって本当に友だちいなかったし。ふざけんなテメェ今はお前が俺の友だちだろ。それでいいじゃん。

 

 爆豪に事実を言われたので拗ねかけていると、先ほど「お前が言った通りだったな!」と純粋さを見せた上鳴がこっちに来た。やっぱり殺してやるとか?

 

「なぁお前ら!明日A組で買い物行くことになったんだけど、くるよな?」

 

「勝手に行ってろ」

 

「あぁ、爆豪も友だちいなかったからこういう集まりどうしたらいいかわかんないんだっけ?いやぁ残念だ。集団でびくびくする爆豪が見たかったのに」

 

「上等だコラ!行って本気のぼっちのテメェとは違うってとこ見せつけたるわ!」

 

「おい、本気のぼっちってどういうことだ?」

 

 爆豪は静かに俺を指してから、話すことは終わったと帰り支度を済ませて席を立った。待てやコラ。

 

「あいつら、買い物の時も喧嘩しねぇよな?」

 

「したら知らん振りしとこう。雄英の汚点だ」

 

 好き放題言う切島と上鳴の声を背に、俺は爆豪を追った。今日という今日はぶっ殺してやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ショッピングモール、興味あります!」

 

「は?」

 

 いつものようにアジトでだらだらしていたら、いきなりトガが立ち上がって顔を寄せてきた。それを手の甲で押しのけつつ、ため息を吐く。

 

「なんでまた」

 

「ここ、陰気クサいと思いません?もっと華が必要だと思うのです」

 

「華ならお前だけで充分だろ」

 

「死柄木弔。敵らしく思ってもないことを言っていますね」

 

 黙ってろ、と目で黒霧を制する。トガは適当に喋っておくのがちょうどいい。いちいち本気で相手してたらこっちの労力がえげつないことになる。大体、あの荼毘とかいうクソムカつくステイン大好き野郎のせいで今ちょっとイライラしてるんだ。大人な対応で敵連合に入ることを許してやったが、本来なら殺しているところだ。

 

「さっき叩き出した荼毘くんも、ここがもっと華やかになれば好きになってくれると思うんです」

 

「叩き出してない。黒霧が勝手に放り出したんだ」

 

「あのままでは手を出しそうだったので」

 

 俺はそんなことはしない。黒霧は余計なことばかりする。

 

「で、ショッピングモールだったか?勝手に行ってこい。ただし、いらねぇ心配だとは思うが見つかるなよ。念のため黒霧に送り迎えはさせるが」

 

「私の了承は」

 

「ありがとうございます!黒霧さん!」

 

「……」

 

 俺をじっと見てくる黒霧は無視することにした。黒霧もトガは必要な人材だってわかってるから、無下に扱わないだろう。ぜひ送り迎えをやっておいてくれ。

 

「トガヒミコ。ここが陰気クサいのはリーダーである死柄木弔が陰気クサいのもあるかと。一緒にショッピングモールへ行ってみては?」

 

「あ、いいですねそれ。行こ?弔くん」

 

「誰が行くか」

 

 こんなイカれた女とショッピングモールってどんな地獄だ。喜ぶやつがどこにいる?……心当たりはないこともない。

 

「えー、行こうよ弔くん。隣歩きたくないので別行動ですけど」

 

「よし。どこからバラバラになりたい?」

 

「あ、弔くんが嫌なわけじゃなくて、隣を歩くのは想くんだけって決めてるんです」

 

「やっぱり華ならお前の頭ん中に咲いてるやつだけで充分だろ」

 

 口を開けば想くん想くん。そんなにいい男かね?性格がねじ曲がってて友だちがいなさそうで、いかにも敵になりそうなやつじゃねぇか。……いいな。そういえば雄英は林間合宿があるんだったか。ならそれの買い出しにショッピングモールへ行っていてもおかしくない。ということは、想くんがいる可能性もなくはない。

 

「わかった。俺も行く」

 

「あれ、どういう心変わりです?」

 

「目を離したらお前が想くんのところに行きそうだからな。監視だ」

 

「わ、えっちです」

 

「黒霧」

 

「殺してはいけませんよ」

 

 こいつの個性、脳無に移しちゃダメだろうか。そうすればこいつを殺しても問題ないのに。


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