ショッピングモールでの出会い
クラスメイトと訪れた木椰区ショッピングモール。個性の関係で普通の衣類等では合うものがない人にも合うものが見つかる最先端。あまりこういうところへ買い物にきたことがなかったから新鮮だ。見渡す限りの人、人、人。俺が敵ならこういうところでパニックを起こさせる。
ショッピングモールについた俺たちはそれぞれの目的のもの買うために、時間を決めて自由行動をとることにした。靴、バッグ、果てはピッキング用品と小型ドリルなどと怪しいものまで。最後のやつは絶対いらないだろと思ったが、触れるとめんどくさいので放置することにした。
俺も誰かについていこうとしたのだが、遠くの方に興味深い店を発見した俺は一人その店にきていた。店の前にある看板にはタバコの絵が描かれており、タバコから出ている煙にバツ印がつけられている。
そう、ここは体に有害な物質をあまり含まないタバコ『アロマシガレット』が売られている店だ。タール、ニコチンが一切ないが形はタバコ。その役割は線香、アロマと似たようなもので、バニラやローズなど様々な香りを持ったものが売られている。もっとも、有害な物質を『あまり』含まないというだけで、子どもにはあまりおすすめしないらしい。
そして俺は、『アロマシガレット:Peaceフレーバー』という商品をこれでもかというくらい眺めていた。興味本位で入店したときはどうせタバコ風なだけで実際はクソ甘い空気吸うだけなんだろ、と思っていたが、まさかのPeace。どうやらアロマシガレットは禁煙具としても用いられているらしく、様々な銘柄のアロマシガレットがある。ただ、Peaceのように香りが目立つもの以外のタバコは再現が難しいのか、『MEVIUS風フレーバー』と保険をかけている。少し心配になるが、逆を言えばPeaceには『風』がついていないため期待してもいいと言える。
俺は、ヒーローになるためにタバコをやめた。でもこれならいいんじゃないか?別に20歳未満は禁止されてるわけじゃないし、値段もひと箱20本で710円……高いが、払えない値段じゃない。普通のタバコより高いって、それだけ技術が必要ってことか。
「うーん……」
「お悩みですか?」
あまりにも悩みすぎていた俺を見かねてか、店員さんに話しかけられた。ここでセールストークをされたら間違いなく買ってしまうので、「自分で考えさせてください」と申し訳ないと思いつつ言おうと店員さんの方を見ると、
「随分、いい趣味してるんだな」
店員さん、ではなかった。フードを被り、全身真黒で不健康そうな顔。様々な個性で溢れている現代だ。それくらいなら個性の関係でそうなってるんだろうな、で済むがこいつに関してはそうもいかない。
こいつは、USJで襲撃をかけてきた敵。
「死柄木、弔」
「お話しようぜ。想くん」
死柄木はまるで旧知の友人のように俺に笑いかけ、俺の肩に四本指で手を置いた。
「弔くんも想くんに会いたいなら、どっちが先に見つけるか競争です!」
待て、と止める前にトガは去っていった。ここへ来る前に変身させたから大丈夫だとは思うが、ここに想くんがいたとして、トガが俺より先に想くんを見つけたらマズい。あいつの想くんに対する執着を考えると何をするかわからない。
俺はため息を吐いて、トガとは別の方向に歩き始めた。
正直、俺たちと想くんの行動が被る可能性なんてほぼゼロだろう。トガは想くんのことが大好きだが、その行動パターンを熟知しているわけではない。数年ストーカーしてタバコをやっていたり悪い先輩とつるんでいたりしていたことは知っているらしいが。俺からすればなんでストーカーしていたときに声かけなかったんだと思うのだが、トガ曰く『確実に縛り付けられないから』らしい。今の敵連合のように、滞在できる場所があって、そこでじっくりゆっくり想くんとの時間を過ごしたいと聞いた時は、トガを追い出そうと本気で考えた。
もっとも、人間性的に想くんが欲しいのは間違いない。理由はわからないが未成年でタバコをやっているやつは間違いなく敵の素質がある。そしてあいつは雄英生。雄英生が敵に寝返ったとなれば、雄英は大打撃だろう。
(タバコをやってたなら、アロマシガレットってのを見てみるか)
雄英の破滅を想像して静かに笑っていると、視界の端にアロマシガレットの店が見えた。シガレットというくらいだからタバコに関係するものだろう。20歳未満立ち入り禁止とも書かれていない。なんとなく想くんは誘惑に弱そうだから、いるならここか友だちのところ。
「いらっしゃいませ!」
元気のいい店員の声を聞きながら入店する。なるほど、禁煙グッズ、それかタバコの雰囲気を味わいたいやつ向けの店か。なんとも不良にバカにされそうなものだな。これを吸っていると腰抜けだと思われそうだ。
そんなことはどうでもいい。アロマシガレットはそこそこに店内を探し回る。そこまで広くない店内を歩き回っていると、そいつはいた。
トガがうるさいくらい言っていたから容姿ははっきり覚えている。浅黒い肌、黒い刈り上げのショートヘア。毛先が立っていて、サイドにある分け目がカッコいい、らしい。俺にはわからない。ある棚の前に立って商品を見ている目は眠そうなつり目で、二重でまつ毛が長いところが更にカッコいいと褒めていたことを覚えている。鼻筋が通っているギリシャ鼻で、薄めのピンク色の唇。あいつはそこがギャップがあって可愛いと興奮していた。背が165と少し小さめなのもまた可愛いらしい。
余計な情報が多い。それもこれもトガが可愛いとかカッコいいとかを連呼するからだ。俺から見てもそう思いかけているため、軽い洗脳をかけられている。
ただ、トガから聞かされていた容姿と体育祭で見た容姿と目の前の男の容姿は完全に一致している。あれで想くんじゃなければトガが変身しているんだろう。それか、想くんは双子だった、とか。
「うーん……」
「お悩みですか?」
自然に近づくため店員を装って声をかける。狙い通り想くんは何の警戒心も持たず振り向いて、何かをいいかけた。俺の顔を見ると流石に警戒心を引き上げたが、何か行動する前に想くんの肩に手を置いた。五指で触れると崩壊するため、中指は立てて。
「死柄木、弔」
「お話ししようぜ、想くん」
トガのせいでしっくりきてしまっている呼び方をすると、想くんはわかりやすいくらいに嫌そうな顔をした。
「おいおい、そんな顔しなくてもいいだろ?」
「俺のこと名前で呼んでくれる人10人もいないのに、そのうちの一人がお前ってなぁ」
言いながら、想くんは目で周りの状況を確認している。いざというときを考えてのことだろう。妙な行動をする前に、俺と話す価値があると思わせた方がいい。
「まぁ、そのことはいい。知ってるとは思うが、俺が五指で触れた瞬間そこを起点に崩壊が始まる。妙な気は起こすなよ?」
「お前がおとなしく帰ってくれるならな」
「そりゃお前次第だ」
想くんはタバコをやっていてなおかつ悪い先輩とつるんでいたのにも関わらず雄英に合格していることから、頭は悪くないはずだ。うまく隠していたにしても、黙認されていたにしても。黙認されるということはそれだけ優秀だったってことになる。そんな人間が、この状況を理解できていないわけがない。
俺の個性は触れるだけで殺せる。つまり、想くんが俺を完封できなければ時間の許す限り人を殺せるということだ。
「……何の用だよ」
「単刀直入に聞くが、敵連合に来る気はないか?」
「ない」
そうだろうな。別に驚くことじゃない。雄英に入るほどの人間が、ただの勧誘で首を縦に振るはずがない。そんなことがあったら雄英は終わりだ。入試システムと教育システムを一新するべきだろう。雄英の財力があれば可能なはずだ。忌々しい。
俺を睨みつける想くんに肩を竦める。同時に、ますます気に入った。警戒心だけしか見えてこないところがいい。普通学生なら恐怖心、出し抜いてやろうという若さ、様々なものが見えるものだが、こいつにはそれがない。よっぽど隠れること、それか隠すことがうまいのだろう。トガと同じように。
「そうか、そりゃ残念だ。想くんはきっといい敵になるはずだと思ったが……ん?おい、どうした」
まだ焦って無理やり連れて行く時じゃない。次会った時にでも連れて行けばいいだろう。そう思いながら話していると、想くんが俺の背後を見て驚愕していた。さっきまではうまく感情を隠せていたのに、今は様々な感情が漏れ出ている。驚愕、不安、警戒……歓喜?
「みつけた」
俺の背後から聞こえてきた声に、やってしまったと後悔する。極力トガと会わせないように人目のつかない場所へ移動するべきだった。
「久しぶりだね。想くん」
振り向くと、トガが見たこともないほど綺麗に笑っていた。
一瞬、見間違いかと思った。だってそうだろう。未成年だからメディアに情報があまり載らず、なんとなく敵になったということしか理解してなくて、どこにいるかなんていう情報も入ってこない。それに俺のことなんて眼中にない可能性もあったから、もう一度会う可能性はほとんどゼロだと思っていた。
でも、ゼロじゃなかった。死柄木の後ろにいるその子は、姿こそ違えど絶対にあの子だ。俺が惚れたあの笑顔を、見間違えることなんてあるはずがない。
「久しぶりだね。想くん」
「……被身子」
渡我被身子。俺の初恋の人で、今でも好きな女の子。俺がヒーローになった理由。
被身子は笑みで歪んだ口を更に歪ませ、死柄木を突き飛ばして俺に抱き着いてきた。それと同時にドロリ、と変身が解けて本来の被身子の姿になる。どうやら、服ごと変身したわけではないらしい。……服ごと変身していると、変身を解いた時に裸になるから危なかった。
「嬉しい!わかってくれた!私を私だって、私が想くんを見つけたのと同じように!想くんも私を見つけてくれた!」
「おい、トガ」
「弔くんは黙っててください」
「……はぁ。あ、すみません。ツレが騒いじゃって」
好きな女の子に抱き着かれてドギマギしながらも、死柄木が俺たちを迷惑そうに見ている店員さんと他のお客さんに頭を下げているのを見て笑いそうになる。敵連合のトップが一般人に頭を下げるって、かなりレアではないだろうか。
というかそんなことより俺の理性がやばい。柔らかい体をすりすりと擦り付けながら、俺の匂いを目いっぱい吸い込んでいる被身子の姿にやられそうになる。俺臭くないよな?タバコやめたし。タバコに似たようなものに誘惑されてたけど。
「ふ、ふふ、ふふふふふふ。本物の想くんだ。やっと触れる、やっとお話できる!ね、嬉しいね。嬉しいねェ!」
「……あれ、ちょっと待って。冷静に考えるとこの反応ってもしや両想い?俺の片想いじゃなく?え、ほんとに?そりゃ嬉しい!」
「嬉しいね!」
「……イカレてんなこいつら」
イカレてるって、どこが。好きな女の子と両想いだってわかったんだ。嬉しい以外に何がある?そうか、死柄木は恋をしたことがないんだろう。恋は切なくて、だけど幸せで尊いものなんだ。そんな幸せがわからないなんて、今すぐ俺が教えてやりたいくらいだ。
「ね、弔くん!想くん一緒にきてもいいよね!」
「それがな。さっき誘ったんだが、断られた」
「えー!なんで!」
超至近距離で俺を見てくる被身子に興奮、ドキドキしながら、なんとか「いや、俺ヒーローだし」と答える。そろそろやばい。なにがやばいって、ね?
「や、です」
「いや、や、じゃなくて」
「せっかく一緒になれるのに、我慢なんてできないよ、想くん」
俺だってしたくないよ!
「……アー、トガ。その辺にしとけ。今日はもう帰るぞ」
「や!連れて帰る!」
「ペットか。俺は」
ペット飼いたい!とねだる娘とそれを拒否するお父さんの図に見えてきた。正直被身子のペットならなってもいい。やっぱりよくない。どうも抱き着かれてる状況に頭が混乱しているらしい。普段の俺ならこんなことは思わない。思わない?
しかし、どうするか。被身子はともかく死柄木は俺が妙な真似をすればその辺りの人を殺すだろうし、状況的にマズいのは間違いない。なんとなくほんわかしている空気に油断してはいけない。何か死柄木と被身子の仲がよさそうなのも気にしてはいけない。場合によっては死柄木を一生許さない。
死柄木に対して一方的な恨みを募らせながら、この場を切り抜ける方法を考える。嬉しいことに、いや、最悪なことに腕は被身子にがっしりホールドされているためスマホは使えない。助けを呼ぼうにも助けが来る前に死柄木が動き出す。となると、俺が呼ばずとも助けがきてくれるのが一番……。
「オイ、なにしとんだ」
その一番がきてくれた。いつもは憎たらしいとしか思えない爆発頭が、今は大親友としか思えない。大親友、爆豪は上鳴や飯田らを引き連れて現れた。
「え、久知が女の子に抱き着かれて……た、よな?おい爆豪。俺たちお邪魔じゃね?」
「久知くん!公共の場でそのようなことは慎むべきではないか!」
流石、と言うべきか。俺の友だちがきた瞬間に被身子は俺から離れて、死柄木の隣に並んだ。名残惜しさを感じながらも気を引き締め、二人の動きを注視する。
「ねー久知。あの子とどういう関係?」
「もしかしてもしかして!」
きゃーきゃー騒ぐ芦戸と葉隠に「そのもしかしてだ!」と叫びたいが今はそんなことを言っている場合ではない。もしかすると一般人に被害が出るかもしれない今、気を抜くのは一番やってはいけないことだ。
しかし、俺の心配とは裏腹に、被身子と死柄木はショップの出口に向かって歩き始めた。
「っ、おい!」
「追ってくるなよ。わかってるよな?」
「うー、ごめんね。想くん。今度は一緒に帰ろうね」
「それは無理だ」
死柄木に対してではなく、被身子に対してはっきり告げる。
「俺は、ヒーローになる。ヒーローになって、ちゃんと迎えに行く」
意外にも、死柄木は立ち止まった。くだらないと切り捨てて立ち止まらないと思っていたのに。何を考えているのかわからないが、ちょうどいい。
「だから、それまで待っててくれ」
「……んーん。それは無理だよ。私は、一刻も早く想くんを私のものに」
「俺はずっと好きでいる」
死柄木が面白いものを見た、と言わんばかりにニタァ、と笑った。被身子は可愛らしく頬を赤く染めている。
「……ダメか?」
「ふ、ふふ!じゃあ競争だね!」
被身子は本当に綺麗に笑う。初めて会った時からずっと。
「私が想くんを捕まえるか、想くんが私を捕まえるか!競争だね!」
その綺麗な笑顔で告げて、被身子は死柄木とともに去っていった。瞬間、上鳴たちに囲まれる。そりゃそうだ。こいつらの目の前であんなこと言ったら。
「おいどういうことだよ久知!今の!聞いてないぞ!?」
「今のって恋だよね!愛だよね!」
「詳しく聞かせてー!」
「あーうっせぇなテメェら!ちょっとおとなしくしとけ!」
一応通報しなければならない。もうショッピングモールにはいないだろうが、敵と会ったのに放置はありえない。囲んできた上鳴たちを散らして警察に通報しようとスマホを取り出したその時。
「おい」
爆豪がいやに真面目な表情で俺を呼んだ。
「大丈夫なんか。今の」
「……アー」
らしくない友だちの心配に、俺は変な声で返すことしかできなかった。
ラブを書くのは向いてない。