俺はずっと好きでいる   作:酉柄レイム

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雄英入試~体育祭
倒して助ける


 入学試験とは。

 

 大半の学生が緊張し、らしくないミスをしたり、焦っていつも通りの力を出せない場のことである。

 

「今日は俺のライブへようこそー!エヴィバディセイヘイ!!」

 

 だというのに、実技試験のプレゼンをする先生は物凄くハイテンションだ。これは緊張しているであろう学生を柔らかくするためのものだろうか。だとしたら尊敬するべきことだが、恐らく自分がああしたいからああしているのだろう。なんか楽しそうだし。

 

 実技試験の概要はこうだ。

 

 持ち込み自由の10分間の模擬市街地演習に現れる攻略難易度によって1、2、3、とポイントが割り当てられた仮想敵を行動不能にし、ポイントを稼ぐというもの。その仮想敵の他に0ポイントの所謂お邪魔虫が1体おり、なんでも大暴れするとか。1体ということはものすごくめんどくさいやつに違いない。よっぽどのことがなければ避けて通るべきだろう。

 

「俺からは以上だ!最後に我がリスナーへ我が校“校訓”をプレゼントしよう!!かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者』と!!Plus Ultra(更に向こうへ)!!それでは皆、良い受難を!!」

 

 ……こういうのってなんかいい。男の子なら震えあがるところだろう。それがこれから始まる試験への緊張か、プレゼンの熱さに心を震わされてかはわからないが。少なくとも俺は後者だ。

 

「……よしっ」

 

 ヒーローたるもの前向きに。俺は受かるに決まっている。そう自分に言い聞かせて俺は試験会場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 周りを見ると、やはり緊張しているのが何人か。普通はそうだろう。最高峰の雄英を受験しにきて緊張しないはずがない。していない、あるいはしているかもしれないがしていないように見えるのはパッと見る限り金髪のツンツン頭のやつか。目怖いな。

 

(怖さで言えば相澤さんもそうか)

 

 種類は違うが、あの人もどこか冷たい印象を受ける。実際は優しい人なんだけど。

 

『ハイスタートー!』

 

「ん?」

 

 ハイスタート?なんだそれ、と考える前に、近くで爆発音が聞こえた。見ると、さっきのツンツン頭が受験生の群れから飛び出して、仮想敵を倒しにいっている。

 

『どうした!?実戦じゃカウントなんざねえんだよ!!走れ走れぇ!!』

 

 スタートの合図もないだろうけど、と屁理屈を頭の中でこねながら走り出した。

 

 俺の個性は、身体に負担がかかるまで発動できない。そして一旦発動すると10分間という長時間使用できるが、次使うまでに3分のインターバルが必要だ。使用中にまた発動させることもできるが、それは身体への負担が大きくなるのであまり使いたくない。

 なので、基本的には個性を使わず、どうしてもと言うときに使う。幸いこの試験は10分間。俺の個性の制限時間内だ。

 

「標的捕捉!ブッ殺ス!」

 

「物騒だな」

 

 敵らしいことを言いながら現れたのは1ポイントの仮想敵。速くて脆いという特徴のそれを、あのツンツン頭がバラバラにした仮想敵の一部を抱えて、一閃。

 

「1ポイント、っと」

 

 崩れ去る仮想敵を確認し、ポイントをカウントする。これくらい脆いなら強く叩けば行動不能くらいにはできそうだ。ただ、1ポイントばかり稼いでいても受かることはないはず。

 

(狙うなら2ポイントか3ポイント)

 

 他の受験生を襲っていた2ポイント仮想敵を上からたたき潰しつつ、その仮想敵の一部を拾う。この超人社会に武器を現地調達って、まるで原始人だな。

 

「サンキュー!助かったぜ!」

 

「おう。ちょうど武器が欲しかったところだ。気にすんな」

 

 見た目がカチカチなやつの礼に「また雄英で会おうぜ」と軽く返して、仮想敵を探しに行く。今の恥ずかしいやつと思われてないかな。いや、だってこういうの憧れるじゃん。誰だって。決勝で会おうってやつと同じノリ。

 

「3ポイント」

 

 心の中で誰かに向けて言い訳しつつ、一閃。2ポイント仮想敵の武器を放り投げ、3ポイント仮想敵の一部を抱え上げる。中々の重さだが、こうして重いものを持って疲労を蓄積することは俺にとって都合がいい。

 

『残り5分!』

 

 そうして淡々と仮想敵を狩り続け、時には他の受験生を後ろから狙っていた仮想敵を横取りしていると、もう時間は半分となっていた。稼いだポイントは20くらいだろうか。まだまだ不安なので、そろそろ個性を使う頃合いだろう。

 

「上限解放30、くらいか」

 

 呟きとともに、体中に力が溢れてくる。ちなみに上限解放30は固いものを容易く壊せるほどの力が手に入るくらいで、これは解除したときに激痛が数分続くくらい。動けないほどではないが、今からそのことを考えると少し憂鬱ではある。

 

(ただ、今は受かることが第一)

 

 抱えていた武器を放り投げ、市街地を駆ける。

 

 風になるとはこういうことか。思えば個性を思い切り使ったことがなかったのでこうして全力で走れるのは初めてだ。全力といっても上限解放をした時点での全力、といったほうが正しいか。

 

「ほっ」

 

 すれ違いざまに軽く仮想敵を叩き、破壊する。こんなに簡単に破壊できるなら最初から使っておけばよかったと思ったが、そういえば最初から使えないんだったとアホなやり取りを自分の頭の中で完結させ、そうしながらも数体破壊。

 

(1、2、……4、くらい?)

 

 そして強化された聴覚で仮想敵の位置を割り出し、そこに向かって駆け出した。同じ方向で爆発音が聞こえたので、もしかしたらあいつがいるかもしれないが、4体は流石にきついだろう。加勢にいく振りしてポイントを頂こう。

 

「って、速いな」

 

 到着と同時に仮想敵を叩き潰すと、もう残りはいなかった。確かあと3体くらいいたはずなのだが、俺が到着する前に目の前にいるツンツン頭が破壊してしまったらしい。というかなぜかめちゃくちゃ怒ってる。

 

「っテンメェ横取りすんじゃねぇ!」

 

「悪い。加勢のつもりだったんだが」

 

「余裕ぶってんじゃねぇザコ!俺を舐めとんのか!」

 

 舐めてしまっていたかもしれない。そういえばスタートの合図と同時に飛び出していたこいつなら、4体くらい余裕だと考えた方がよかったかも。もしかしてこれ俺が悪いのか?

 

「……ん?」

 

「っ、なんだ」

 

 しばらく睨まれて、お互いまた仮想敵を倒しに行こうとしたとき、突然地面が揺れ始めた。そして俺たちの目の前に、とてつもなくデカい何かがビルを崩しながら現れる。

 

「でっ、か」

 

 恐らくあれが0ポイントの仮想敵。あんなもん誰が相手にするっていうんだ。証拠に受験生全員0ポイント仮想敵を背にして逃げている。

 

「ありゃあダメだな。俺たちも逃げよう」

 

「うっせぇ!言っとくがアレが0ポイントじゃなきゃぶっ壊してたからな!」

 

「待ってくれ!」

 

 ?と二人同時に首を傾げる。聞こえてきたのは俺たちの背後で、つまり俺たちより0ポイント仮想敵に近い距離。見ると、そこにいたのはさっき会ったカチカチのやつと、腰を抜かしているやつらが四人ほど。

 

「こいつら運ぶの手伝ってくれねぇか!?腰抜かして動けねぇみたいなんだ!」

 

「腰抜かしてって……」

 

 仕方ない、と思うと同時に、間に合うか?という疑問が浮かんだ。あいつらとの距離を考えると、こっちが向かって一人が二人抱えるとして、あの0ポイント仮想敵から逃げられるだろうか。他の仮想敵が襲ってこないなんて保証もない。

 

 となると、これはつまり。

 

「……なぁ」

 

「あ?」

 

 俺はツンツン頭に声掛け、0ポイント仮想敵を指して一言。

 

「あいつ、ブッ倒してみたくねぇ?」

 

「……ちったぁ気が合うみたいだな」

 

 返事と同時に走り出し、ツンツン頭は手の平を爆破させて飛び、加速していく。

 

「ちょ、お前ら」

 

「お前は襲ってくる仮想敵蹴散らしとけ!」

 

「あのデカいのは俺らでなんとかする!」

 

 ぎょっと目を見開き俺たちをみるカチカチにそう告げ、0ポイント仮想敵を睨んだ。

 

「お前は関節っぽいところを爆破でぶっ壊して少しでも軽くしてくれ!そうすりゃ俺があいつをブッ倒してやる!」

 

「あ!?指図してんじゃねぇ!っつーかできんのかよ!」

 

「できる!」

 

 上限解放40。さっき重ねてやるとキツイって思ってたばかりなのに、まさかやることになるとは。ヒーローはいつだって命がけって誰かが言っていた気がするが、こういうことなのだろうか。

 

「頼むぞ!」

 

「言われんでもやったるわ!」

 

 聞くと同時に、跳躍。一気に0ポイント仮想敵の頭まで跳び、そのまま頭を押さえ、力を込める。

 

「おっっっっも!!」

 

 殴って壊してしまえば、あいつらのところに倒れてしまうかもしれない。なら答えは一つ。あいつらとは逆の方向に無理やり倒す!

 

「オラァァァアアア!!」

 

 下の方でガラの悪い声が聞こえるのは、あいつが仮想敵を爆破させて軽くしてくれているのだろう。徐々に傾いていく0ポイント仮想敵に、より一層力を込めて、とどめ。

 

「ぶっっっ倒れろ!!」

 

 勢いのまま腕を振りぬくと0ポイント仮想敵が少し浮き、大きな地響きと音とともに仰向けに倒れ込んだ。そして、

 

「う、おおぉぉぉぉおお!?」

 

 腕を振りぬいた勢いのまま落下していく俺。そういえばこうした後考えてなかった。もしかして俺このまま落下して死ぬ?

 

「バッカ野郎が!」

 

 人生二度目の死をそうして覚悟したとき、俺の襟首を誰かが掴んだ。そのまま抱え込まれ、激しくも規則的で、どこか緩やかな軌道で空を飛び、やがて地面に降ろされる。

 

 俺を地面まで運んでくれたのはツンツン頭だった。

 

「倒すだけ倒して後は考えねぇってバカがいるか!俺に脇役やらせといて死ぬ気かテメェ!」

 

「いや、それはもう。ハハ。ありがとう!」

 

「詰めが甘ぇんだよ!落ち死ね!」

 

 なんだろう落ち死ねって。受験にってことか?

 

「おい、無事か!?」

 

 イライラしているツンツン頭に頭を下げていると、カチカチがやってきた。固そうな姿をしている割には、人のよさそうな表情をしている。

 

「このバカが死にかけたが、後は問題ねぇ」

 

「怪我はない。そっちは?」

 

「大丈夫だ!あいつらはちゃんと逃げれたぜ!ありがとな、助けてくれてよ」

 

「いやいや、これでもヒーロー志望だからな。当然のことよ」

 

「もういいか?俺はもう仮想敵ブッ潰しに行くぞ」

 

 あぁ、そういや今試験中だったなとツンツン頭に賛成して、俺も倒しに行こうとしたその時。

 

『終了ー!!』

 

 試験終了を告げる放送。目を合わせる俺たち。

 

「……」

 

「……」

 

 何か怒鳴られる前に個性を解除し、激痛に苦しむことによって逃げることにした。怒鳴るツンツン頭と心配してくれるカチカチが対照的で物凄く面白かった。人間追い詰められるとまともな思考じゃなくなるのである。




名前:久知(ひさち)(そう)

年齢:15

誕生日:9月9日

身長:165cm

好きなもの:タバコ銘柄『Peace』(やめてる) 平和

個性:『窮地』

個性詳細
自分の体にかかる負担を力に変える!傷でも疲労でも病気でも果ては心労でもなんでもありだ!ただし、強化すればするだけ後で反動がくるぞ!
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