そんなこんながあって、林間合宿当日。俺たちはバスに揺られて合宿地へ向かっていた。車内はしりとりやらなんやらで大いに盛り上がっているが、俺は敵連合のことが気になって仕方がない。合宿地についたらついたで楽しめるとは思うが……そもそも合宿だから楽しむとかないのか?相澤先生がそんなレジャー目的で合宿させないだろうし。
今はみんなのように盛り上がれる自信がないので、隣に座っている爆豪が寝ているのはありがたい。俺に気を遣ってじゃなくてただ単純に寝たいからなんだろうけど。
「ついたぞ。休憩だ」
降りろ、という指示が出たので寝ていた爆豪をたたき起こし、反撃を鳩尾にくらいながらバスを降りる。俺が乗り物酔いするタイプだったらゲロ吐いてたぞ、ゲロ。むしろ爆豪を汚すために吐いてやりゃよかった。
「……って、ん?」
勝ち誇っている爆豪を睨みつけるので忙しく周りを見ていなかったため気づかなかったが、よく見ればここはパーキングではない。どころか山と緑を一望できるだけの何もない場所だ。ここで休憩って相澤先生とうとうおかしくなったのか?
「よーうイレイザー!」
不穏な空気を感じて警戒していると、女の人の声が聞こえた。相澤先生が「ご無沙汰してます」と言っていることから、今回の合宿のサポートをしてくれる人か何かだろう。
「煌めく眼でロックオン!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!』
「うわ」
ポーズをとる女の人二人を見て、きっつ、と言いかけた口を慌てて抑える。流石にそれは失礼だ。たとえいい歳した女の人がキュートにキャットにスティンガーであろうとも、『きっつ』なんて傷つける言葉を言っていいはずがない。爆豪は隠すことなくキツそうな顔してるけど。
「連盟事務所を構える4名一チームのヒーロー集団!山岳救助等を得意とするベテランチームだよ!キャリアは今年でもう12年にもなる……」
「心は18!」
ヒーローオタクの緑谷曰くキャリアは12年らしい。高校出てすぐ活動を始めたとしたら、30……。
「爆豪、どう思う?」
「なんかガキがいんな」
「目を逸らしたくなるくらいの気持ちであることはわかった」
確かに目つきの悪い子どもがいることも気になるところだが、明らかあのキツイ二人組の方が気になるだろうに。爆豪が触れたくないほどキツイということだろう。……ヒーローってあんなこともしなきゃいけないのか。
「ここら一帯は私たちの所有地なんだけどね。あんたらの宿泊施設はあの山のふもとね」
「遠っ!!」
「……爆豪」
「バスにゃ戻れねぇだろうな」
やっぱりそう思う?だってこんな中途半端な場所に降ろして宿泊施設はあそこ!なんて説明、どう考えたっておかしい。入学初日に体力テストを行った相澤先生のことだから、きっと……。
「今はAM9:30、早ければ12時前後ってとこかしらん」
「12時半までにたどり着けなかったキティはお昼抜きね!」
諦めに似た感情を抱きつつその時を待っていると、俺たちが立っていた地面が一斉に崩れ始めた。恐らく女の人のどちらかの個性で人為的に起こされたであろうこれは、単純に言えば土砂崩れ。生徒に対してやっていいことじゃないと思いながら土の波に飲まれ、下の方に見えていた森に放り込まれた。
「っと」
常人なら死ぬくらいの勢いで放り込まれたが、その辺りはどうやら考えていたらしく、土がクッションとなって俺たちを受け止めた。
「私有地につき個性の使用は自由だよ!今から三時間!自分の足で施設までおいでませ!この……魔獣の森を抜けて!!」
上からキツイ人の声が聞こえてくる。なんでこんないきなり土まみれにされなければならないのだろうか。雄英っぽいの一言で片付いてしまうのがとんでもないところである。
「つか魔獣の森って、まーた嫌な予感すんだけど」
「今はそんなことどうでもいい!シッコだシッコ!」
股を抑えながら峰田が走っていく。あんまりみんなから離れない方がいいと思うんだけど……だって、魔獣の森だし。
今峰田の目の前に『あれは何ですか?』と聞かれれば誰もが『魔獣です』って答えるくらい魔獣な魔獣が出てきたし。
「マジュウだー!?」
「静まりなさい獣よ。下がるのです」
口田が人以外の生物を操れる個性『生き物ボイス』を魔獣に使うが、効いた様子はない。あんな魔獣を飼ってるとすれば敵しかないだろうから、あれは土でできたやつだろう。緑谷、爆豪、轟、飯田が魔獣をボロボロにしたことで確信した。
「うーん、優秀なやつが多くて助かる」
「お前一応体育祭3位だろ?」
「序盤はただの人間と変わんねぇから期待すんな」
呆れた様子の上鳴にこちらも呆れた様子で返す。俺が疲労もダメージも溜まってない状態で役に立てると思うか?せいぜい囮程度だ。わかったらお前ら前出ろ。
「ザコ」
「吠えたな爆豪!俺がお前らの囮になってザコじゃねぇってとこ見せてやるよ!」
それってザコじゃね?と言った上鳴を軽いビンタで黙らせて、俺は前に出た。どうせ魔獣に一、二発やられた方が個性使えるし、都合がいい。本当に三時間程度でつくなら、だが。
「三時間でつかねぇじゃねぇか」
夕焼け。カラスが鳴くに相応しい空。三時間しか経っていないなら今は昼のはず。しかしこれはどう考えても8時間は経っている。あと俺は後半にダウンしてもう立つのがギリギリ。なんとか気力で歩いているが、この反動がどうにもならないのは俺の明確な弱点だ。父さんはある程度反動を克服しているから、俺も克服できるとは思うが、それがいつになるかはまったくわからない。できれば早い方がいい。
「とりあえずお昼は抜くまでもなかったねぇ」
本当に死ぬかと思った。個性の反動で体がボロボロになるわ、空腹で倒れそうになるわ。本当にザコじゃん俺。大体夜嵐に体育祭で勝てたのだってアイツの頭がちょっとアレだったからだし。
「ねこねこねこ……でももうちょっとかかるかと思ってた。私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃった。いいね、君ら。特にそこ4人。躊躇のなさは経験値によるものかしらん?」
「俺は?」
「ボロボロになってただけだろ、カス」
爆豪にボロクソ言われたが、ぐうの音も出ない。最初に魔獣が出てきたとき飛び出していった緑谷、爆豪、轟、飯田より俺が優れているとは思えないし。いや、ダメージ溜まってたら俺の方が優れてるけどね?
「でも上出来だと思うぜ?前までの俺なら今こうして立ててなかっただろうし。USJの時は実際そうだった」
「そんでもギリギリだろうが。ダメージゼロに抑えてから威張りやがれ」
厳しい……。爆豪の言うこともわかるけど。
「んじゃ、部屋に荷物運んだら食堂にて夕食。その後入浴で就寝。本格的なスタートは明日からだ。さァ早くしろ」
相澤先生の指示をすぐに実行しないと機嫌がものすごく悪くなるので、重い体を引きずりながら部屋に荷物を運び、食堂へ向かう。体がバキバキなため切島に食事を手伝ってもらいながら夕食を終えると、男子全員で風呂に向かった。
「切島ァ、体洗うの手伝ってくれェ」
「いいけど、前は自分でやってくれよ?」
「そりゃそうだ」
優しい切島に背中を洗ってもらい、バキバキの腕をなんとか動かして背中以外を洗う。「ロボットみたいだな!」とバカにされながら体を洗っていると、「くそガキィイイィイ!?」という峰田の叫び声が聞こえてきた。どうせ女湯を覗こうと個性を使ってよじ登ったら、プッシーキャッツと一緒に居た男の子……洸汰くんだっけ?に突き落とされたんだろう。見なくてもわかる。峰田だし。
「アイツ、男らしくねぇことを……」
「むしろ男らしいだろ」
「そういうことじゃねぇんだけど」
わかってるよ、と手をひらひら振って、体を洗い流した。シャワーですら痛い。これで明日から本番ってどんだけきついの?いや、今日は俺が加減をちょっと間違えただけで、何もしなきゃこんなに苦しむことはなかったんだけど。
入浴を終え、時刻は21時。
「好きな子だーれだ!!」
男がもっとも男らしい理由で盛り上がっていた。こういうのは中学生で終わりだと思っていたが、どうやら高校生でもやるらしい。中学生でやった記憶がないのはなんでだ?
こういう話が好きそうな上鳴が率先して場を盛り上げる。ほとんどの男子に話を振りつつも俺に振ってこないのは、俺と被身子の関係を知っているからだろう。
ショッピングモールでの一件があってから、当然俺はあの場にいたやつらから質問攻めにあった。そりゃそうだ。ただの女の子と仲良くしていただけならともかく、死柄木弔と一緒にいた女の子と俺が仲良くしていたら気になるに決まってる。だから俺は塚内さんに言ったのと同じように「小さい頃の知り合い」って言ったら「じゃああの『俺はずっと好きでいる』って何?」と聞かれ、詰んだ。正直に答えた。
……なんで俺はあそこであんな恥ずかしいセリフを口走ってしまったのだろうか。穴があったらその穴を更に深くして入りたい。おかげで「きゃー!」って女子に騒がれるし。一応俺の好きな子だからって遭遇しても容赦するなよとは言っておいたけど。被身子は敵だし。俺だって容赦……しない。
みんなより一足先に寝ながら、これからのことを考える。今思えば俺の未来は不安ばかりだ。個性のこともそうだし、被身子のこともそうだし。こういうときにポジティブな思考ができればよかったのに、生憎俺はどちらかといえばネガティブ思考。現時点でできそうにもないことをできるとは思えない。ただ。
両想いだったのはやっぱり嬉しい。うふふ。