俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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合宿三日目、襲撃

 父さんから教えてもらった必殺技は『風虎』を含めて計四つ。うち三つは攻撃技で、一つは防御技だ。そして俺は攻撃技のうちの一つを習得しようとしている。ただ、期末で『風虎』を使った時に腕がぐちゃぐちゃになった通り、必殺技には多大な反動が伴う。それを抑えるためには単純に上限解放10、20程度で抑えればいいのだが、それでは必殺技に相応しい威力は出ない。

 

 俺の必殺技はすべて10分間という制限時間のうち、数分間分のエネルギーを使う技だ。使ったエネルギー分制限時間が短縮されるため、使いどころが重要になってくる。そのため、仕留めきれずに体だけがぐちゃぐちゃになる、ということもありえるのだ。

 

 どうしたものか。あの赤いエネルギーが回復に使えるかもしれない、とは言っても実際使えるかどうかわからないから、結局体を鍛える、個性を何度も使うという無理やりなやり方しか確実性がない。

 

「はい、5分」

 

「っでぇーー!?」

 

 考え事をしながら体を動かしていると、相澤先生に個性を抹消された。不意に来た反動に思わず叫びながらのたうち回る。昨日の分のダメージを引きずっているため、今日は一段とキツイ。これがあと数時間もあるというのだから、地獄だ。

 

「ぐあー……先生、俺何か悪いことしました?」

 

「したかもな。いいから立て」

 

 無慈悲すぎる。とはいっても立てないほど体が痛むわけではないので、素直に立ち上がった。

 

「拷問ですよコレ……弱点克服のためには仕方ないってわかってますけど」

 

「無駄口叩く暇あるなら個性使え。はよ」

 

「鬼!」

 

「確か次は必殺技の訓練だったな」

 

 文句を言ってもさらっと流されてしまう。もう少し優しくしてくれてもいいのに……。俺が本当にダメだと思っていたら優しくしてくれるとは思うが。きっと、相澤先生もまだ俺がいけると信じてくれているからこんな対応をしているのだろう。そうじゃなきゃ俺を殺す気だ。

 

「調整難しいんですよね、必殺技。加減間違えたら『風虎』になるし」

 

「『風虎』よりも弱いエネルギーを無数に撃ち出す技、だったか?『風虎』ができるならそれほど難しいとは思えないが」

 

「これがまた難しいんですよ。『風虎』は大雑把にエネルギーを撃ちだしゃそれで『風虎』になるんですけど、こっちはもっと繊細なコントロールが必要で」

 

 今までバカみたいに上限解放、瞬間解放を繰り返していただけなので、そういう繊細なコントロールは身についていない。これじゃ俺がバカみたいだ。成績はいいのに。

 

「……そういうコントロールなら、緑谷に聞くといいかもな」

 

「緑谷に……あぁ、あいつ途中から大怪我しなくなりましたもんね」

 

「お前の個性と緑谷の個性は似ている。何かヒントになるかもな」

 

 時間をやる、走って聞いてこい。と鬼教官に送り出され、プッシーキャッツの一人である虎の『我ーズブートキャンプ』で体を苛め抜いている緑谷のところに向かう。何か奇怪なダンスを踊っているように見えるが、あれはあれで効果的、らしい。俺はやりたくない。

 

「緑谷」

 

「あ、久知くん」

 

「動きを止めるな!」

 

「ぶへぇ!」

 

 声をかけると、緑谷が動きを止めて俺の方を見て、虎がすかさず緑谷に暴行を加えた。どうやらこっちもこっちで大分スパルタらしい。俺の足もとに転がってきた緑谷に手を貸して立ち上がらせ、「少し相談があって」と伝えると、「二分だ!!」とものすごい目力で言ってきた。怖すぎる。

 

「なんか悪いな、緑谷」

 

「ううん。動きを止めた僕が悪いから」

 

 緑谷も洗脳されてるし。恐ろしいな『我ーズブートキャンプ』。

 

「それで、相談って?」

 

「あぁ、個性のことでちょっとな」

 

 そういえば前も緑谷に相談した気がする。俺が個性でつまったとき緑谷に相談するっていうのがお決まりのパターンになりそうで怖い。それってつまり緑谷が常に俺の前を走り続けてるってことだから。爆豪みたいなことを言いたくないが、それは気に入らない。同じような個性で負けるって、完全な敗北じゃん。

 

「今必殺技の訓練しててな」

 

「必殺技!?流石久知くん。個性を伸ばす訓練をしてる僕らと違ってもう必殺技の訓練をしてるなんて」

 

「相澤先生から個性を鍛えるついでにやった方が合理的だって言われてな。多分お前よりキツイぞ」

 

「そ、それは……あはは」

 

 笑ってごまかしてしまいたいほどのことらしい。さっき緑谷が虎に殴られていたが、俺は長時間にわたって筋トレして、数分感覚で体をぐちゃぐちゃにされてるようなものだからな。今俺が本当に生きているのかどうかも怪しい。

 

「んで、必殺技のことなんだが……緑谷って前まで大怪我してたけど、途中から怪我しないようになったよな?」

 

「え、あ、うん」

 

「それってどういうイメージでやってる?」

 

 うーん、と緑谷が考え込む。緑谷は理論派な感じがするから何かイメージがあってやってるもんだと思ったが、違ったか?細かい制御方法となると流石に違ってくるから、イメージを教えてくれると助かるんだが。

 

「えっと、電子レンジでたい焼きを温めるときみたいにじんわり……みたいな。つ、伝わらないよね!ごめん。えっと、要するに」

 

「なるほどな」

 

「わかったの!?」

 

 じんわり、つまり徐々にってことか。なるほど。さっきまでの俺は『風虎』より弱いエネルギーを一発ずつのエネルギーにわけて撃つイメージでやっていた。そうするとどうしても『風虎』のイメージが強くて、調整をミスってしまう。なら、『風虎』と同じように使うエネルギーだけ意識しておいて、それを徐々に漏らしていくっていうイメージなら……。

 

「サンキュー緑谷。助かった」

 

「うん。役に立てたならよかった」

 

 俺が勝手に理解してしまったためか、緑谷はまだ混乱した様子。申し訳ないが、早く戻らないと相澤先生が怖いから急いで戻る。二分過ぎると緑谷が虎に殴られるし、お互いにとっていいことがない。軽く手を振って緑谷と別れ、相澤先生のところに向かう。

 

「何か収穫あったか」

 

「ありました。あいつ教師向いてんじゃないですか?」

 

 言いながら個性を発動。上限解放20。そして、そのまま誰もいない方へ向けて、一発一発じゃなく、じんわりと徐々に漏らしていくイメージで!

 

「……空に向けて撃つとかなかったのか」

 

「すみません。考えてませんでした」

 

 必殺技は成功したが、森に向けて撃ってしまったため木が数十本バキバキに折れてしまった。いや、ほら。成功するかもって思ったらテンション上がっちゃうし、ね?

 

 相澤先生に個性を消されてしまった。あの男、いつか絶対訴えてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訓練を終え、晩飯を食べた後。肝試しをするために、森の前に集まっていた。

 

「肝を試す時間だー!」

 

 クラスでも林間合宿を楽しみにしていた芦戸、上鳴の賑やかし組が大はしゃぎしている。俺としては休ませてほしいところだが、こういうものに参加しておかないとクラスとしての結束が……結束より俺の体の方が大事じゃないか?

 

「その前に大変心苦しいが、補習連中はこれから俺と補習授業だ」

 

「ウソだろ!!」

 

 相澤先生に連行されていく補習連中を敬礼で見送る。夜嵐も補習かよ。あいつ絶対筆記で引っかかったろ。

 

 肝試しはクラス対抗で行われ、まず初めに回るのがA組。二人一組になって3分置きに出発し、ルートの真ん中にある名前の書かれたお札を取って帰ってくる。その間にB組が個性を使って脅かしてくる、という内容だ。できればこういうのを被身子と回りたかったのだが、恐らく肝試し中に刺される。つまり死ぬ。

 

「俺は一組目で……緑谷とか」

 

「よろしくね。久知くん」

 

 二組目が爆豪と障子。三組目が耳郎と葉隠、四組目が轟と八百万、五組目が麗日と蛙吹、六組目が尾白と峰田、七組目が飯田と口田、八組目が常闇と青山……ん?なんか轟と八百万だけずるくない?一組だけ青春してない?

 

「よりにもよってテメェらが俺の前を歩くんじゃねぇ!」

 

「ありえないくらい一番に固執するな」

 

「流石かっちゃん……」

 

 あんな粗暴なやつと組まされる障子が可愛そうだ。物静かだし絶対爆豪と合わないだろ。

 

「じゃあ早速一組目行っちゃって!」

 

「うっし。じゃあ行くか」

 

「……叫んじゃったらごめんね」

 

 まぁ、所詮学生のやることだから大丈夫だろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こわい」

 

「こわい」

 

 俺たち二人は見事に怖がっていた。だって地面から出てくるって反則だろ。緑谷めちゃめちゃ叫んでたし。後ろから「うっせデク!!」って爆豪も叫んでたし。緑谷からしたら爆豪のが怖くね?叫ぶたびに後ろから爆豪が叫んでくるんだから。

 

「まぁもうちょっとで終わりだし、あとは風呂入って寝るだけ、」

 

「肉」

 

 咄嗟の判断で緑谷を突き飛ばし、地面に伏せる。森の中から伸びてきた無数の刃で体中に切り傷ができたが、致命傷じゃない。いきなりにしては上出来だろう。

 

「久知くん!」

 

「大丈夫だ!そっちは!?」

 

「僕は大丈夫!それより」

 

「肉ゥ!」

 

 どうやら刃は襲ってきたやつの個性らしく、もはや口しか見えていないほど拘束具を付けた男の歯から伸びてきている。その伸びてきた刃を慌てて避けた。喋る暇くらいほしいもんだけどな!

 

「なんでここに敵が!?」

 

「知るか!話が通じる相手じゃなさそうだし、やるぞ!緑谷!」

 

「……」

 

「緑谷?」

 

 ふらふらと俺たちに近づいてくる敵を前にして、緑谷がどこか迷った様子を見せる。しきりにある方角を気にしているような……。

 

「洸汰くんが、危ない」

 

「……あー」

 

 洸汰くん。確か、プッシーキャッツの一人、マンダレイの従甥だったか。そういえば緑谷は洸汰くんのことを気にかけていた。もしかしたら、

 

「場所、知ってんのか?」

 

「うん、でも……」

 

「行っていいぜ」

 

 正直二人で相手をしたいが、それで早くなるとは思えない。あんな見た目してる敵なら脱獄囚か何かだろうし、口だけしか見えていない拘束具で脱獄できるんだとしたら相当な実力を持っているはず。それなら、一人があいつの相手をして、一人が洸汰くんを助けに行った方がいい。

 

 それに、多分俺は殺されないだろうから。

 

「俺と違って、洸汰くんは自衛の術がない。敵に襲われたら終わりだ。大丈夫。俺は死にゃしねぇ」

 

「……わかった。死なないでね」

 

「そっちこそ」

 

 緑谷が去ろうとするのと同時、敵が刃を伸ばしてきた。それを見て上限解放40を発動し、緑谷に向かう刃の横っ面を蹴ってへし折った。

 

「俺が相手だ。クソ敵」

 

「肉……仕事?」

 

 ただでさえ体がボロボロなのに敵がくるとは。しかも、俺が敵連合に狙われてるらしいってときに。まったく、ついてない。


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