俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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エンターテイナーにご用心

《敵二名襲来!複数いる可能性あり!》

 

「知ってるよ!」

 

「肉、仕事?肉ゥ!」

 

 んでうるさいなこいつ!肉仕事ってなんだよ!

 

《動ける者は直ちに施設へ!会敵しても敵対せず撤退を!》

 

「無理だろ!」

 

「肉ゥ!」

 

 敵は肉を優先することに落ち着いたようだ。どう見ても落ち着いてないけど。どうでもいいこと考えながら、俺に向かってくる刃を避け続ける。上限解放40で避けるのはなんとかいけるが、まったく近づけない。刃を地面に突き立てて宙に浮かび、上から刃を伸ばしてくるから、いざ跳んで攻撃して避けられたら一巻の終わりだ。

 

 今日ある程度完成させた必殺技と『風虎』は、当たる、と確信したタイミングで撃つべきだ。戦ってわかるが、この敵は相当な手練れ。少なくとも入学当初の俺、もしくはダメージ、疲労がたまってない俺なら一瞬でやられていた。今ばかりはあの地獄の訓練に感謝だ。

 

「いっ!」

 

「やった。肉、肉ゥ!」

 

 腕が裂かれ、血が噴き出す。敵が大喜びしているのは血が好きだからだろうか。それとも肉肉言ってるから肉か?肉食いそうな見た目してるし。いや、人間だから肉は食うか。あれだ、人肉。人肉食いそうな見た目してる。

 

 これ、緑谷行かせない方がよかったか……?あの敵隙見せないじゃん。今ある必殺技は未完成、確実性がない。俺一人では……そういや二組目って爆豪いなかったか?一人で無理して交戦するより助けを待った方がいい。幸い、制限時間は10分間ある。今で大体3分くらい経ったから、あと7分くらいか?

 

「おいクソヤニ!どうなってんだ!」

 

「ナイスタイミングだ爆豪!あと障子!」

 

「俺はついでか」

 

 B組のやつを一人背負った障子と爆豪が後ろから走ってきた。刃を一本へし折りつつ二人のところまで後退する。

 

「歯が刃になる!んで、めっちゃ強い!」

 

「要はぶっ殺せってこったろ!やったらぁ!」

 

「いや爆豪、お前の個性を森の中で使うと火事になるかもしれん」

 

「アァ!?」

 

 そう、爆豪は爆破の個性。そしてここに消火活動のできる個性を持っているやつはいない。だから、慎重に作戦を立てて個性を使ってもらう。

 

「爆豪!シンプルに伝えるぞ!俺が刃をどうにかっすっから、怪我しねぇ程度にあの敵叩き落とせ!」

 

「俺に指図すんじゃねぇ!」

 

 って言いつつ素直に従ってくれるのが爆豪のいいところだ。敵が刃を伸ばしてきたタイミングで俺と爆豪が同時に動き出す。爆豪は爆破で宙に、俺は刃に向かい合うように。途中、宙へ上がった爆豪に向かって刃が伸びていくが、俺がどうにかすると約束した。だから、どうにかする。

 

 使うのは3分のエネルギー。両手の平を刃に向けて、じんわりと徐々に漏らしていくイメージで!

 

「『(あめ)(すずめ)』!」

 

 無数の赤いエネルギーが刃を叩き折っていく。エネルギーが手の平から出るたびに腕に激痛が走るが、今緩めたら爆豪が危ない。痛みに耐えながら、エネルギーを撃ちだしていく。細かな制御はできないから、できるだけ広範囲に及ぶように!

 

「ぎ、逃げ、」

 

「逃がすかァ!!」

 

 雨雀の勢いに押された敵が逃げようと身をよじるが、爆豪が敵を掴み、爆破で回転。その勢いを乗せて地面に向かって放り投げた。

 

「久知!!」

 

「おう!」

 

 爆豪の声で気を引き締め、歯がボロボロに砕けた敵に向かって拳を突き出す!

 

「『風虎』!」

 

 残っているエネルギーを一気に放出。『風虎』はまるで獣が唸るような音を響かせながら風を裂き、木々を薙ぎ倒しながら敵を吹き飛ばした。アレを食らって無事ならもう勝てない。どっちにしろ逃げられるから無事でも無事じゃなくてもいいけど。

 

「ぎゃあああ!!」

 

「大丈夫か、久知!」

 

「何自滅しとんだ!」

 

 反動の激痛で思わず膝をついた俺は宙から戻ってきた爆豪に手を引かれて無理やり立たされる。腕はやめて!今ボロボロだから!

 

「チッ、体育祭の時より随分調子いいみてぇだな」

 

「そりゃ、成長してなかったらお笑いだろ」

 

 大丈夫か?と心配してくれる障子に手をひらひら振って応え、大きく息を吐いた。確実に倒すために『風虎』を使ったが、別にシンプルに殴り倒してもよかったか?いや、折った刃がまた生えてこないとも言い切れないし、あれでよかったはず。俺はもう戦えないくらいボロボロになってるけど。

 

《生徒のかっちゃん!かっちゃんはなるべく戦闘を避けて!》

 

「お、狙われてるってよ。まぁ森の中で使いにくいクソ個性は大人しく後ろ下がっとけ。俺が守ってやるわ」

 

「ンだと?」

 

「ガチギレじゃん……」

 

 爆豪が人に見せられないような顔で俺を睨んできた。睨んでるかどうかすらもわからないくらい顔の筋が浮き上がっている。悪かったって。今どう見ても俺の方がお荷物だもんな。

 

《久知くんも戦闘を避けるように!二人は単独では動かないこと!》

 

「テメェもじゃねぇか」

 

「俺もだったわ」

 

「言っている場合か?」

 

 だって俺は狙われてること知ってたし、爆豪はそういうので怖がるタイプじゃないし。もう交戦もしちゃったし。伝達が遅い。

 

「っつーかかっちゃんて、緑谷無事だったのな」

 

「あ?」

 

「そういえば久知は緑谷と一緒だったな」

 

「洸汰くんを助けに行ったんだよ。で、『かっちゃん』ってマンダレイが言ったってことは、緑谷は洸汰くんを助けた上に敵を倒したんだな」

 

 敵と交戦した上で敵の目的を聞き出すって、緑谷やるなぁ。俺なんて爆豪の力を借りてぶっ飛ばすので精いっぱいだったのに。どうせ目的聞き出そうとしても聞き出せなかっただろうけど。あいつ肉しか言ってなかったし。RPGのNPCかよ。

 

「かっちゃん!久知くん!」

 

「噂をすれば……ってボロボロじゃねぇか!」

 

「お前には言われたくないと思うぞ」

 

 うるせぇ。今俺と緑谷ってやっぱ似てんだなぁって再確認したところだよ。

 

 緑谷は敵と交戦したからか、とても動いていいような状態ではなかった。見た目だけで言えば俺よりひどい。俺は腕がぐちゃぐちゃで体中に切り傷といった具合だが、緑谷は全身打撲のような見た目になっている。とても痛々しい。

 

「俺なら抱えられる。緑谷、俺の背中に掴まれ」

 

「でも、それじゃいざというときに戦えな、」

 

「ンなクソボロ雑巾でどう戦うってんだ、アァ!?クソ敵は俺がぶっ殺すからテメェはクソヤニと一緒に下がってろ!」

 

「お前も狙われてんだよ。お前が下がってろ」

 

「二人が狙われてるんだよ!二人が下がってて!」

 

「今口論していても仕方ないだろう。狙われているとわかった以上久知と爆豪を守らないといけないが、人員的に完全に守るのは不可能だ。俺が前で索敵しながら進み、二人が後ろにいるのが最善だ」

 

 おっしゃる通り。正直俺は結構きついから、障子の言う通り後ろに爆豪を引っ張りながら行く。抵抗するかと思ったが、爆豪もそれが最善だとわかっているのだろう。案外大人しくついてきてくれた。

 

「かっちゃんが大人しく……」

 

「なんか言ったか」

 

「な、なんでも!えっと、施設に向かおう!施設には相澤先生とブラドキングがいるから、そこが一番安全だと思う。でも広場はプッシーキャッツが交戦中だから、森をまっすぐ突き抜ける最短ルートで行こう」

 

「敵に遭遇するかどうかはほとんど運だな。森の中だと爆豪は戦えないし、ほぼ博打だ」

 

「でも、広場に行くよりは断然いい。危ない橋だけど、今はそれしかない」

 

 敵に遭遇したら結構やばい。障子が抱えてる二人を下ろしたとしても、戦えるのは障子とボロボロの俺、個性を使いづらい爆豪。緑谷は戦えるような状態じゃない。

 

「行こう!二人とも、離れないでね!」

 

「りょーかい」

 

「けっ」

 

 納得いってなさそうな爆豪が何かやらかしそうで怖い。いや、爆豪は賢いから最善をわかってるはずだ。最悪なことはやらかさない。はず。俺は信じてる。

 

 森の中をできるだけ音を立てないように進んでいく。万が一を考えて後ろを警戒しながら。敵の個性はわかっていない。もしかしたら隠密行動に優れる個性があるかもしれない。爆豪にも伝えておくかと爆豪の方を見た瞬間、

 

「爆豪!」

 

 上から伸びてきた手が見え、爆豪を突き飛ばす。そして。

 

 俺の視界は黒に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「て、めぇ!!」

 

「まさか反応されるとは、いやはや俺のマジックもまだまだということか」

 

 久知くんの叫び声が聞こえたと思ったら久知くんがいなくなっていて、代わりに木の上に仮面をつけてシルクハットをかぶったトレンチコートの男がいた。その手にはビー玉サイズの玉が一つ。

 

「ま、目的の一つは貰っちゃったよ。俺の未熟なマジックでね」

 

「返せよ!!」

 

「返せ?おかしな話だな。君と彼がそういう関係ならあるいは"返せ"という表現も間違いではないかもしれないが……そうではないだろう?彼は彼自身のものだ」

 

「じゃあ死ね」

 

 いやに静かな怒りを抱えたかっちゃんが爆破で仮面の男に向かって飛び上がろうと膝を畳んだ。かっちゃんの能力なら森が燃えないように個性を使うことができるかもしれないけど、そうすると戦いがものすごく制限される。木の上に立っている仮面の男に爆破で攻撃するわけにもいかないし、何より仮面の男の個性が割れてない!

 

「ダメだかっちゃん!君も狙われてるんだ!」

 

「アァ!?なら久知をほっとけってか!」

 

「落ち着け爆豪!敵の狙いはお前と久知だ!二人とも攫われるわけにはいかん!」

 

「あら残念。近づいてくれりゃあっと驚くマジックショーをお見せできたのによ……ま、こねぇならここでおさらばだ」

 

 このままじゃ逃げられる!かっちゃんなら空を飛んで追えるけど、かっちゃんも敵の目的の一つ、追わせるわけにはいかない。考えろ、どうする!?

 

「チッ、うじうじ悩んでる時間がもったいねぇ!俺ァ行くぞ!」

 

「待ってかっちゃん!君が行くのは」

 

「ダメだっつっても行くってわかんだろテメェなら!」

 

 宣言通り、かっちゃんは飛んで行ってしまった。せっかく久知くんが守ってくれたのに……それだけ冷静でいられなくなったってことだろうけど、今はそんなこと考えてる場合じゃない!

 

「障子くん、麗日さんを探そう!確か麗日さんは蛙吹さんとペアだったはずだ!」

 

 麗日さんに浮かせてもらって、蛙吹さんに投げてもらう。今すぐ考えられるのはそれくらいしかない。

 

「……なるほど。だが俺たちだけでいけるのか?」

 

「かっちゃんが行っちゃった今、行くしかない!二人とも攫われるのだけはダメだ!」

 

 僕たちが行くまで無事でいてくれよ、かっちゃん!


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