俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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ヒーロー:ノーリミット

 ノーリミットの個性『限界突破』とは。己の限界を壊し、身体能力を強化する個性。ノーリミットを知る者は、口をそろえて「オールマイトのようだ」と言う。実際にオールマイト級の力を出すことはできるが、それに伴う反動がある。オールマイト級の力を出した後の反動は計り知れない。

 

 だが、オール・フォー・ワンにはオールマイト級の力がなければ対抗できない。一瞬で廃倉庫を周りの建物ごと崩壊させる力は、あまりにも強大だ。

 

 つまるところ。反動を気にして戦っていたノーリミットはオール・フォー・ワンにまったく及ばなかった。

 

「期待外れ、と言えばいいのかな?」

 

 腕を膨らませて宙に浮かびながら、ノーリミットを見下ろすオール・フォー・ワン。余裕そうなオール・フォー・ワンに対して、ノーリミットは体中に打撲、切り傷が見え、膝をついていた。

 

「僕の力に対抗するにはどの程度の強化をすればいいのか、君ならわかりそうなものだが……何か企んでいることがあるのかな?」

 

「さてな……」

 

 ノーリミットは、戦闘に関して言えばランキングに名を連ねるヒーローたちに後れを取らないどころか、一対一で戦えば勝利を収めるほどの実力を持っている。それは元から持っている戦闘センスも含め、単純な個性の強さ。更に意外と考えるタイプであり、相手に合わせて強化するのはお手の物。そのノーリミットがなぜ、強化しないのかと言えば。

 

(俺が倒れたら、みんなを守る者がいなくなる)

 

 ノーリミットの反動は、個性の使用中に訪れる。つまり、個性の反動によって、個性使用中に倒れる可能性も十分にありえるということだ。そうなってしまえば、満足に戦える人物がいなくなってしまう。ベストジーニストはオール・フォー・ワンからの攻撃を防ぐノーリミットに守られながら、救助活動をしている。それもギリギリの状態でだ。

 

(やつが俺に合わせて遊んでいる今、強化する必要はない)

 

「とでも、考えているんだろうね」

 

「なっ」

 

 時間稼ぎに徹していたノーリミットの思惑を打ち砕くかの如く、オール・フォー・ワンの腕が肥大化した。廃倉庫を吹き飛ばしたときよりも更に大きく。

 

「アレは耐えきれたみたいだが、これはどうかな?強化しないと耐え切れないばかりか、守り切れないと思うよ?」

 

「クソッ!」

 

 ノーリミットが慌てて個性で強化すると、体中から赤いエネルギーがあふれ出た。天へ上る勢いのエネルギーを右腕に集約させると、オール・フォー・ワンが肥大化した腕を突き出したのに合わせて右腕を突き出した。

 

「『風虎』!」

 

 右腕から放たれたのは、巨大な赤いエネルギー。空気を切り裂き、風をも裂く巨大な赤いエネルギーは、オール・フォー・ワンの放った暴力的な威力を持つ攻撃とぶつかり、大気を震わせた。相殺には成功したが、ノーリミットの腕は一撃の『風虎』で限界に近付いている。それほどの威力を一瞬で撃ってみせたオール・フォー・ワンに戦慄しながらも、ノーリミットは笑ってみせた。

 

「うん、そうこなくちゃね。僕としてもやりがいがない」

 

「言ってろ」

 

 数段上がった速度でオール・フォー・ワンの背後に回り、その移動だけで脚に走る激痛を無視しながら拳を上から叩きつけた。

 

「だろうね」

 

 しかし、オール・フォー・ワンは腕を後ろに回し、一瞬で肥大化させて衝撃波を生み出した。『風虎』を出す暇もなく、ノーリミットは衝撃とともに弾き飛ばされる。強化しているとはいっても、空中で身動きはとれない。オールマイトのように拳圧で移動しようものなら、確実に腕が死んでしまう。

 

「クッ」

 

「強化したんだから、そりゃあ後ろを警戒するだろう」

 

 また腕を肥大化させるオール・フォー・ワンを見て、ノーリミットも腕にエネルギーを集約させる。

 

「『風、……!?」

 

 しかしオール・フォー・ワンはそれをノーリミットには向けず、人が集まっている街に向けた。

 

(チッ、ふざけやがって!)

 

 敵は周りの被害はお構いなし。更に、人質はお手の物。そして、オール・フォー・ワンは()()()()()ノーリミットの力を最大限まで引き出そうとしている。オール・フォー・ワンはノーリミットの個性に注目し、調べ上げ、人柄についても知っているため、どうすれば自身を強化するのかを理解していた。

 

 ノーリミットは、市民の安全を第一に考える。周りに人がいれば自身が怪我をすることは無視して守りに動き、建物への被害すら最小限に抑えるヒーローだ。その意識を持っているヒーローは数多くいるが、実際にそれができるヒーローは多くない。

 

 ノーリミットには、それをできるだけの力があった。

 

 だからこそ、ノーリミットは自身の限界をもう一つ突破した。

 

 足の方へエネルギーを集約させ、それを弾けさせることでオール・フォー・ワンが狙う人々の前へ移動する。同時に、オール・フォー・ワンが衝撃波を放った。

 

(『風虎』では衝撃が後ろに逃げる可能性がある!ここは……)

 

「『玄岩(くろいわ)』!」

 

 ノーリミットは体から溢れ出るエネルギーを前方に広げ、衝撃波を受け流した。『玄岩』は溢れ出るエネルギーを操作する防御技であり、一か所に集約させれば何をも防ぐ盾になる。広げれば硬さは薄れるが、自在に形を変えれるエネルギーという点を利用して、衝撃を逃がすこともできるのだ。この方法で衝撃を逃がしたノーリミットは、『玄岩』を自身の体に纏い、跳んでオール・フォー・ワンに肉迫する。

 

「驚いた。本当にオールマイトみたいだね」

 

「余裕だな!」

 

 『玄岩』は盾であり、同時に矛でもある。溢れ出るエネルギーを利用するという性質上、かなり強化しなければ使えないが、その強化に見合った性能はある必殺技だ。

 

 その性能は、オール・フォー・ワンにとっては大したものではないのだが。

 

「あぁ、余裕だよ」

 

 確かにオール・フォー・ワンへ向かっていたはずのノーリミットは、突如上から圧力に襲われ、地面に叩きつけられた。叩きつけられたノーリミットにオール・フォー・ワンは再び衝撃波を放つが、間一髪のところで跳んで避ける。

 

「速いな」

 

「……っ!」

 

(遊ばれている……!)

 

 オール・フォー・ワンがノーリミットを殺すチャンスは何度もあった。最初からオール・フォー・ワンが本気を出していれば今ノーリミットは立っていない。反動がなしで済む強化上限を超えても、歯が立たなかった。

 

「いや、なに。僕相手にここまで戦える人間はそういない。誇るといいよ。今そこに立てていることを。もっとも、もう限界みたいだけどね」

 

「……限界?」

 

 しかし、そんな逆境に立たされて尚、ノーリミットは笑っていた。映像越しに、あるいは実際に目で見た人々はその姿にNo.1ヒーロー『オールマイト』を想起する。どんなときでも笑顔を絶やさない、ヒーローの中のヒーロー、平和の象徴。

 

「俺に対して限界だと?面白いことを言うな」

 

 人々は、声を張り上げて応援していた。頑張れ、倒せと。初めはオールマイトの到着までの時間稼ぎとしか思われていなかったノーリミットは、今まさに巨悪を打ち砕くヒーローとなった。

 

「教えてやろう。俺に、限界はない!」

 

(──想は、観ているだろうか)

 

 ノーリミットは、ヒーローたちに助けてもらったであろう息子のことを想う。時間稼ぎで終わるつもりだった。しかし、今ここで限界を超えなければ、オール・フォー・ワンは確実に民衆へ手を下す。それを理解したノーリミットに、もはや限界を超えないという選択肢はなかった。

 

(恐らく、無事では済まないだろう)

 

 今までで何度か超えたことのある強化点。そこまで強化したときは確実にひと月は入院生活だった。ただし、それは訓練で強化しただけであり、実際に戦ったことはない。

 

(最後になるかもしれん。できれば、観ていてほしいものだな)

 

「ヒーローの、背中ってやつを!」

 

 ノーリミットは、更に限界を超えた。溢れ出るエネルギーに、体中が悲鳴を上げる。それでも笑ってみせた。

 

「俺は、ヒーローとは"勝つ"だけではなく"守り、勝つ"ものだと考えている!」

 

「……?いきなり何を」

 

「行くぞ、敵。ヒーローの強さを教えてやろう」

 

 ノーリミットが、消えた。その現場をみていた者でノーリミットに反応できたのは、オール・フォー・ワンただ一人。それも、()()()()()()反応だった。

 

「攻撃、入ったな」

 

「……」

 

 オール・フォー・ワンの顔面に突き刺さるノーリミットの拳を見て、歓声があがった。それは、この戦いを通して初めてまともにオール・フォー・ワンへダメージが通った攻撃。

 

 与えられた打撃は一発だけのように見えたが、実際には数発だった。オール・フォー・ワンの腕を防御に使えないようにまず腕を攻撃し、その後に顔面を殴りつけた。この間、一秒にも満たない。

 

 しかしオール・フォー・ワンは冷静だった。攻撃を受けたのは完全にノーリミットを下に見ていたからであり、今のノーリミットでもオールマイトの方が上だと判断したためである。当然と言えば当然の思考に、オール・フォー・ワンは自嘲するとともに落胆した。あれだけ自信ありげに喋っていた割には、この程度かと。

 

「……?」

 

 ハエを払うように個性を使って攻撃しようとしたオール・フォー・ワンはしかし、腕に違和感を覚える。腕が、動かなくなっていた。ノーリミットの打撃は、エネルギーを人体の内側に通し、機能をしばらく低下させる。わかりやすく言えば、それは破壊であった。

 

(なるほど、オールマイトにはない力だ)

 

 オール・フォー・ワンは感心するとともに、()()()()()()()と脚に複数の増強系個性を乗せ、ノーリミットを蹴りぬいた。

 

(醜いあがきだ)

 

 蹴りぬかれる直前、ノーリミットはオール・フォー・ワンの脚に数発打撃を与え、機能を低下させる。しかし、オール・フォー・ワンにとっては数秒程度で治るものでしかない。そして、ノーリミットは今の攻撃で立ち上がれないだろうと確信していた。

 

 実際に。限界突破を重ねたノーリミットの体はボロボロで、オール・フォー・ワンから受けた一撃で意識を失っていた。その顔に笑みを浮かべながら。

 

 ──ノーリミットは意外に考えるタイプである。そして、守り、勝つことを信条としている。その勝ちとは、自分で取りに行く必要はない。

 

「──オール・フォー・ワン!!」

 

「なるほど」

 

 ノーリミットが四肢に打撃を通すことで稼いだオール・フォー・ワンの数秒は、No.1に後を託すためのもの。ヒーローらしいタイミングで登場したオールマイトは、その数秒を無駄にすることなく必殺とも言える一撃をオール・フォー・ワンに与えた。今まで宙に浮かび余裕を保っていたオール・フォー・ワンは、必殺の一撃によって地に叩きつけられる。

 

「──よく、守り切ってくれた」

 

 初めの廃倉庫を吹き飛ばした攻撃以外の被害は、ゼロ。ノーリミットは戦いながら市民を、ヒーローを、人々を守り切ってみせた。

 

「勝つのは、私に任せてくれ」

 

 "勝つ"ことを、オールマイトに託して。


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