俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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初めての寮の夜

 俺の部屋は特に面白くもなく、Peaceの配色が好きすぎてそれが色濃く表れているくらいだ。ベッドもPeaceの配色だし、カーテンも、カーペットも。中央に置いてある灰皿、ノートパソコンを置いてあるテーブルや、壁に引っ付けてある机は流石にシンプルな白色だけど。……一応誰かが来た時は灰皿隠した方がいいか?いや、むしろやましいものみたいになってしまう可能性がある。俺が吸ってるのはアロマシガレットだし、隠す必要もないだろう。説明するとき無駄に焦らなければ大丈夫なはずだ。

 

 それにしても、落ち着く。吸って吐くという行為がこんなにも素晴らしいものだなんて思いもしなかった。こう、アロマシガレットの先が吸った時にジリジリと燃えていくのがなんともたまらない。口で吸うのと同時に鼻から空気を吸うと、甘い香りが鼻を抜けてじんわりと広がっていく。止まらないなコレ。クスリでもやってんのか俺は?

 

 クールスモーキングを心掛け、ゆっくりと吸う。かなりの数貰ったが、恐らくこのペースならすぐになくなってしまうので、一本一本を大事にしようという腹だ。そうでなくてもゆっくり吸わないと熱くなりすぎてしまうので、アロマシガレット本来の香り、味が破壊されてしまう。タバコを吸う前はみっともないと思っていたが、こうやって楽しむように吸っていると渋く感じてしまうから不思議だ。実際、先輩たちが吸ってた姿はカッコよかったし。

 

 しばらくアロマシガレットを楽しんでいると、ドアが力強くノックされた。同じ階には障子、切島、爆豪がいたはずで、多分このノックは切島だろうとあたりをつけてから咥えタバコならぬ咥えアロマシガレットでドアを開けると、そこには案の定切島がいた。

 

「よっ、って甘っ!?なんだこの匂い……つかタバコ!」

 

「あ、やべ。違うんだよコレ。アロマシガレットっつって未成年でも吸っていいやつだ。体に害はない」

 

「ん?そういやショッピングモールでも見てたっけか。悪ぃな。一瞬疑っちまった!」

 

「俺こそ紛らわしいことして悪いな。で、何の用だ?」

 

 切島を気遣って上を向いて煙を吐く。気遣うなら消していけと言われそうだが、別に害はないからいいかというのが俺の考えである。これがタバコなら消してたけど。というかドアを開けていない。タバコは本人が思っているよりも数倍臭いからな。

 

 切島は俺に聞かれて思い出したのか、手の平をぽん、と打って人懐っこい笑みを浮かべた。

 

「部屋出来たんなら下集まんねぇか?爆豪は『くだらねぇ、寝る』つって寝ちまったけど」

 

「健康的な生活してんなぁ」

 

 高校生にしては寝るのが早すぎる。雄英生としては正しいかもしれないが、高校生としてはどうなのだろうか。

 

「まぁどうせ爆豪は輪を乱しまくる問題児だからな!!赤ちゃんみてぇに早めのおねんねがお似合いだぜ!!」

 

「おい久知!なんだってそんな爆豪をバカにするようなこと」

 

「テメェぶっ殺してやらぁ!」

 

「普通に呼ぶよりこうした方が早いんだよ。爆豪呼ぶのは」

 

「慣れてんなぁ」

 

 そりゃ毎日口喧嘩してたらな。なんだかんだノリいい……というよりのせやすいし。

 

「爆豪。下集まるらしいから行こうぜ」

 

「けっ、誰が行くか」

 

「ほら、せっかく共同生活するようになるんだから最初くらいはさ」

 

「めんどくせぇ」

 

「えーじゃあ俺も行かなーい」

 

「気色ワリィなテメェ!行けや!」

 

 部屋の中に戻ってアロマシガレットの火を消す。消すときは香ばしい甘い匂いがするから好きだ。

 

「俺コレ吸いたいし」

 

「テメェさっき共同生活するようにとかどうとか言ってたクセにンだそれ!」

 

「まーまー落ち着けって爆豪。多分久知はお前に気ぃ遣ったんだよ」

 

 それもある。朝爆豪怒られてたし、ここでみんなに混ざらなかったら気まずいかなと。でも今思ったら爆豪はそんなこと気にする奴じゃないか。それにみんないいやつだし、敵にでもならない限りどんなことになっても受け入れてくれるだろう。多分。

 

「んじゃ、悪いな。誘ってもらったのに」

 

「気にすんな!」

 

「死ね」

 

 死ね?爆豪の暴言があまりに唐突過ぎて反応できないまま、ドアが閉められた。あいつ本当いい加減にしろよ。暴言吐かれてるのが俺だからいいけど。俺以外ならもう嫌われてるぞ。……いや、緑谷がいるからそんなことないか。

 

 アロマシガレットをもう一本取り出し、火をつける。体に害がないとはいっても、これだけ連続で吸っていると体に悪そうな気もする。電子タバコも害がないタバコと言われてたが結局害あったし。アロマシガレットもまだ知られていないだけで何か害があるかもしれない。

 

 ……まぁ、害があったらあったで個性に利用できるので完全に悪いことではないのだが、両親や相澤先生はブチギレそうだ。個性を早く発動させるために興奮剤を打つのがダメだと言われるのと一緒で、自分の体を自ら壊すような真似は絶対にダメだ。

 

 爆豪の部屋側の壁をドンドン叩いて嫌がらせしながら煙を吐く。口に煙をためて、わっかをつくる遊びもしながら。これをすると燃えやすくなるからあまりしたくないのだが、時々やりたくなる。ほら、見た目がポップでいいから。ポップって思ってるのは俺だけかもしれないけど。

 

 そうやってゆったりとした時間を過ごしていると、再びノックの音。また切島か?とドアを開けると、先頭が切島の大所帯だった。

 

「またか」

 

「よっまただ!」

 

「わー!久知がタバコ吸ってるー!」

 

 また咥えアロマシガレットで出てしまった。もう俺から切って離せないものになってしまっている。これはこれで中毒性があってマズいものなんじゃないか?初日でこんなことになってるんだぞ?ちゃんと政府の審査とか通っているのだろうか。

 

「これはアロマシガレットっつって、タバコに似てるが体に害のないアロマとか線香とか、そういう類のもんだ」

 

「へー!そういえばなんか甘い匂いすんね!」

 

 入っていいとも言っていないのにずかずか芦戸が部屋に入ってきて、部屋を見まわしながら鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ。さっき切島がきたときに「甘っ!」と言っていたので匂いをこもらせるのはダメか、と思い換気しながら吸ってたから、いい感じの香りにはなっていると思う。

 

「で、なにこれ?」

 

「部屋王つって、みんなの部屋見て回ってんだよ」

 

「部屋王」

 

 教えてくれたのはありがたいが、まったく意味が分からない。上鳴が勝手に言ってるだけかと思い近くにいた耳郎に聞いてみると、「合ってるよ」と返ってきたので間違いないだろう。

 

「なんで信用してくれねぇの?」

 

「なんか上鳴ってノリで生きてそうだからな。耳郎の方が信用できる」

 

「わかる」

 

「ひでぇ!」

 

 上鳴とよく話している耳郎ならわかってくれると思っていた。なぜかその耳郎が俺の方をじーっと見ているのが気になるけど。何?俺の鼻が逆さまになったりしてる?

 

「なんだ?」

 

「いや……うーん」

 

 まぁいいや、と言って耳郎は部屋の中に入っていった。なんのこっちゃ。

 

「うーん、結構普通なんだねー。いっつもバクゴーと喧嘩してるからもっと攻撃的な部屋かと」

 

「なんだ攻撃的な部屋って」

 

「でも落ち着いた感じで何か大人?っぽい!」

 

「葉隠。いいやつだな」

 

 芦戸に普通と言って貶されたが、葉隠の優しいフォロー。葉隠って透明人間なのに女の子らしくてかわいげあるんだよな。別に褒めてもらったから好感度上がったわけじゃなくて。

 

「おっ、何このカッケーの!ライター?」

 

「Zippoつって、簡単に言えば香りがいいライターだな。結構違うんだよ、ライターで火つけるのとZippoで火つけるの」

 

 ……喋ってからしまったと思った。俺今部屋にライターないから、なんでライターでつけた時のこと知ってるの?って聞かれたらマズい。家でライター使ってたんだよーって言えばいいか?よし、そうしよ、

 

 胸に、とすん、という小さな衝撃。見ると、耳郎が周りにばれないよう俺の胸にプラグを置いていた。そのままそっと俺に身を寄せて、耳打ちしてくる。

 

「アンタ、タバコ吸ってた?」

 

「……」

 

 耳郎が耳を抑えてうずくまった。どうやら俺の心音はものすごいことになっているらしい。周りが耳郎を心配して駆け寄るのに合わせてしゃがみ、「大丈夫か?」と白々しく声をかける。睨まれた。

 

「また今度話すから、な?」

 

「……いいケド」

 

 恨めしそうにプラグで叩かれた。クセになりそう。いやいや俺は被身子一筋だ。確かに耳郎は気やすくていい子だが、俺には被身子がいる。悪いな、耳郎。向こうも俺なんかごめんだろうけど。

 

「よし次いこー!久知もくる?」

 

「いや、もう寝るわ。色々疲れてるし」

 

 誘ってくれた芦戸に申し訳なさそうな顔を作って断ると、「そっか!」と明るく返して、みんな部屋から出て行った。あそこまで明るく言ってくれると申し訳ない。何か俺が汚れているように思えてしまう。汚れてるんだけども。

 

 しかし、耳郎どうすっかな。なんであそこまで俺のタバコどーたらこーたらを気にするんだろうか。ただ単純に同級生が非行してないか知りたいだけ?まぁ同級生が知らないとこで非行見つかって除籍、ってなると後味悪いからな。なんだ、耳郎めっちゃいい子じゃん。

 

 俺が密かに耳郎の評価を上げていると、切島とは違う控え目なノック。耳郎かな?と思ってドアを開けると、耳郎だった。

 

「部屋王終わったのか?」

 

「うん、砂藤の優勝でね」

 

「あー、なんかケーキでも作ってたんだろ」

 

「よくわかったね」

 

 糖分でパワーアップする個性だし、お菓子が作れても不思議じゃない。たらこ唇でがっちりした体だからお菓子作るイメージないけど。

 

 耳郎を部屋の中に招き入れ、アロマシガレットの火を消す。灰皿の底が見えなくなるくらいたまった吸い殻を見て自分で引きつつ、耳郎にクッションを投げつけた。「ありがと」と言って耳郎はクッションを抱き、話を切り出す。座れっていう意味で渡したのになぁ。

 

「まず最初にごめん。久知の部屋行くって何人かにバレちゃった」

 

「誰に?」

 

「女子全員」

 

「あーあ」

 

 あいつらそういう話大好きだからな。女の子だから仕方ないとは言え、少々めんどくさい。男にバレるよりはいいけど。特に峰田辺りはやばい。女子と部屋に二人きりになったってだけで殺しに来そうだ。

 

「ま、別にやましいことはないしいいだろ」

 

「やましいことないかどうかはアンタ次第なんだけど」

 

「女の子座りするって可愛らしいな」

 

「話逸らすな」

 

 頬にプラグを当てられた。こうされると尋問を思い出す。あの時は切島が守ってくれたが、今はそうはいかない。いても耳郎は確信してるだろうから逃げられないだろうし。

 

「胸じゃねぇの?」

 

「アンタ、胸に当てたらめっちゃうるさいし」

 

 チッ、それで逃げられると思ってたのに。耳郎の耳をぶっ壊してうやむやに……。敵の思考じゃん。恐ろしすぎだろ。

 

「で、単刀直入に聞くけど、アンタタバコ吸ってたよね?」

 

「吸ってないって言っても信じてくれないだろ?」

 

「ってことは吸ってたんだ」

 

 へー、と怖い反応を見せる耳郎。警察に取り調べ受けてるときってこんな感じなのだろうか。だとしたら随分可愛らしい警察官である。

 

「今は?」

 

「今は吸ってない。吸ってたのは中学の時で、高校入ってからはまったく」

 

 これは本当だ。相澤先生に会ってからはまったく吸っていない。吸いたいとは思っていても、一度も。だからこそその我慢がたまってこうしてアロマシガレットを吸っている。

 

「ふーん……ならいっか。ごめん。あんまり知られたくないことだったよね」

 

「え?あ、あぁ。なんか意外とあっさりしてるな」

 

「今吸ってたらやめさせたけど、吸ってないなら別に。せっかくこうしてみんな集まれたのに、非行で除籍なんて馬鹿らしいじゃん」

 

 まさかの俺が考えていた通りだった。めちゃくちゃいいやつだこいつ。爆豪はあんなにドブみたいな性格してるのに。あいつはあいつでいいやつだけど。

 

「じゃ、ウチ帰るね。これ以上居座ると何言われるかわかんないし」

 

「ぜひそうしてくれ。俺と変な噂が立つと耳郎に申し訳ない」

 

「ウチは悪い気しないけど?」

 

「可愛いとか俺がからかったやつの仕返しだろ。騙されねぇぞ俺は」

 

「ウソつき上手の久知には通じないか……」

 

「偉く不名誉な称号だなぁ……」

 

 軽口を叩き合いながらドアの方に向かい、一応耳郎は女の子なのでドアを開けた。女の子は大事にしろというのは親の教えである。

 

 ただ、俺の部屋の前で集まっていた女の子はあまり大事にしたくない。

 

「オイ」

 

「えーっと、ね?アハハ!」

 

「だって!久知くんの部屋行くってなったら気になるしー!」

 

「私はやめとこうって言うたんやけど、ちょっと、気になって……」

 

「すみません。後学のために、と……」

 

「ごめんね久知ちゃん。響香ちゃんが心配で」

 

「俺ァ一途なんだよ!耳郎とはそういう関係じゃねぇわ!耳郎に謝れ!」

 

 俺の部屋の前に集まっていた女子たちに説教していると、俺の大声で起きた爆豪が参戦し、ぐちゃぐちゃになった。爆豪、これに関してはごめん。でも俺も悪いけどこいつらも悪いと思うんだよ。な?


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