俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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入学初日

 あれは、いつの頃の話だっただろうか。

 

 周りから笑顔の気持ち悪い子と言われ避けられていた子を可愛いと思い、周りから色々言われつつも一緒に遊び。子どもながらに立派な恋をして。

 

 肌を突き破られ、血を吸われたのは。

 

 普通の子どもならその時点で怖がって近づかないと思う。が、俺はおかしかったのか、それとも実は周りがおかしいのか、俺は血を吸われて嬉しかった。なぜなら、その子にとって特定の誰かの血を吸うことは好きな人にキスをするように、愛する行為だと心のどこかで感じ取ったからだ。

 

 まぁ、本人がどう感じ取ろうと大人からすれば関係ないわけで。

 

 その子とは物理的に距離を離され、その日から一度も会わないまま、敵になったという情報だけを得て今に至る。ただ、そんな経験をして、親からやめておけと言われても、恋は盲目というかなんというか。

 

 まだその子のことを好きなのだから、やはり俺はおかしいのかもしれない。

 

 

 

 

 

「うーん、キマってる」

 

 姿見の前でポーズ。背は少し低いが顔がいいので、制服を着るとよりカッコよく見える。……背が低いのはタバコのせいか?やめときゃよかったか。なんだかんだいい先輩と出会えたきっかけではあるから、後悔はしていないけど。

 

「そんじゃ、いってきます」

 

 俺が家を出るころには家に誰もいない。両親ともに朝早くから出勤である。最後にご苦労様と伝えたのは何年前だろうか。ヒーローになると会う暇もなくなるだろうから、今のうちに親孝行をしておいた方がいいかもしれない。

 

 雄英高校ヒーロー科に合格した、という通知がきたのは試験を受けて一週間後だった。あの日は母親が慌てて機動隊ばりに俺の部屋に突入し、通知を投げつけてきたのを覚えている。そこまで慌てなくてもと思ったが、受験したのが天下の雄英なので無理もないかと変に冷静だった。あの自分より慌てている人を見たら冷静になるというやつである。

 

 通知を見ると、投影されたのはオールマイト。どうやら雄英で教師をすることになったらしく、一人ひとりにこうやってメッセージを送っているそうだ。まぁ、メッセージ自体は要約すると合格おめでとうという簡単なものだったが。

 

 と、絶対に受かると思いつつ内心びくびくしていた俺は無事雄英に合格することができた。晴れてヒーロー科42人の仲間入りである。

 

 雄英ヒーロー科は21人が2クラスの合計42人。そのうち推薦入試組が4人、だったか。雄英に推薦入試で入るとは、きっとものすごいやつなのだろう。あのツンツン頭よりすごいってもうそれは人ではなく化け物かなにかだと思うのだが、どうだろう。そういえばあいつらの名前聞くの忘れてたな。多分俺のせいだけど。

 

「……お?」

 

 そんなことを考えながら通学路を歩いていると、前の方に見覚えのあるツンツン頭がいた。きっちり雄英の制服を着ているし、アレは見間違えようもない。ここで声をかけないのはないだろうと小走りで近づき、挨拶した。

 

「よっ、おはよ」

 

「……」

 

 目線だけこちらに寄越し、中指を立てるツンツン頭。そういえばイヤホンしてるなこいつ。

 

「人と話すときはイヤホンしちゃダメなんだぞ?」

 

「……」

 

 更にもう片方の手の中指を立て、こちらに向けてきた。なるほど。

 

 俺はツンツン頭の耳からイヤホンを外そうとして腕を伸ばしたが、直前で叩き落とされた。中指を立てながら。ムカついたので足を踏んでやると、鬼の形相で胸倉をつかまれ、イヤホンを外し、

 

「上等だテメェ!!その喧嘩買ったらぁ!!」

 

「おはよう。久しぶり」

 

「どんなメンタルしとんだコラ!!」

 

 やっとイヤホンを外してくれたので挨拶すると、精神状態を心配されてしまった。俺も俺自身の精神が心配になることがあるので何もおかしなことではない。

 

「いや、だってムカついたし。お前イヤホン外さねぇし。そりゃ踏むだろ」

 

「踏むな!!朝から最悪な気分だクソが!!二度とそのツラ見せんじゃねぇ!」

 

「あ、一緒に行こうぜ。せっかく一緒の高校なんだし」

 

「行くか!今すぐ落ちろ!」

 

 無理だろ。

 

 ツンツン頭の隣に並び、歩調を合わせて歩く。あれほど暴言を吐いた割には隣を歩くことを許してくれるらしく、俺は高校生活最初の友人と桜を眺めながら、晴れやかな気分で通学路を歩いていた。ちなみにもう横っ腹を既に三回はどつかれている。

 

「おい」

 

「今のでお相子だ。一回踏んだろ」

 

「雄英生ともあろうものが数も数えられねぇのか?俺は一、お前は三」

 

「あんときの迷惑料だ」

 

「その節はどうも」

 

 それを言われたらどうしようもない。潔く頭を下げると、ツンツン頭はふん、と鼻を鳴らした。

 

「はい。これで同じ立ち位置な。貸し借りゼロ。対等な関係。というわけでお名前は?俺は久知想。好きな物はタ、……平和」

 

「た?」

 

 そっぽを向いて口笛。うっかりタバコと言いかけた。危なすぎる。ツンツン頭の密告によって俺の退学が決定するところだった。

 

「で、名前は?」

 

「誰が教えるかカス」

 

「それが名前か?よろしくな。カス」

 

「爆豪勝己だコラ!!いっぺん殺し倒したろか!」

 

「殺し倒すっていっぺんじゃすまなくない?」

 

 バカな話をしながら歩いていく。何度か飛んでくる本気パンチを避けていると、無駄にデカい雄英の門が見えてきた。この前雄英を見た父親が小さな声で「税金……」と言っていたのが印象深い。

 

「何組?」

 

「A」

 

「お、一緒じゃん」

 

「最悪だわクソが」

 

 1-A、1-A……あった。ドアでか。雄英はデカけりゃデカいほどいいと思ってるのか?

 

「バリアフリーだろ」

 

「あぁ、なるほど。口悪い癖に頭いいのな」

 

「テメェ一言多いってよく言われねぇか?」

 

「よく言われる相手がいなかった」

 

 今まで暴言を吐いてきた爆豪の口撃が止んだ。そこで止むなや。悲しくなるだろ。

 

「開けるぞ」

 

「何ためとんだ。格付けか」

 

 爆豪の言葉に少し笑いつつ、ドアを開けた。

 

「結構集まってんのな」

 

「どけカス」

 

「俺に開けさせといて?」

 

 どこまでも自分だな、爆豪。既にこれまでのやり取りで慣れてしまったのでらしいとしか思わないが。

 爆豪の後をついていき、空いている席を探す。ちょうど爆豪が座ろうとしている後ろが空いているのでそこに座ろうとすると、

 

「ん?お!お前ら試験のときの!」

 

 教室に入ったときからこっちを見ていた赤髪の男子が俺たちを指して話しかけてきた。試験のとき?同じ試験会場だったのか、こいつ。

 

「ほら、0ポイント仮想敵のときの!」

 

「……あぁ、あの固そうな!」

 

「そう!あんときお前がのたうち回るから自己紹介もできねぇままでよ!俺は切島鋭次郎!よろしくな!」

 

「そののたうち回ったっていう情報伏せといてくれない?」

 

「ザコカス」

 

 爆豪に対して親指を下に向けながら、切島に自己紹介する。

 

「俺は久知想。よろしくな。で、あいつは爆豪勝己」

 

「何勝手に紹介しとんだ!」

 

「勝己ちゃんがまともに自己紹介できないからでしょ?」

 

「できるわ!し倒したろか!」

 

「一回でいいんだけど……」

 

「仲いいんだな、お前ら!」

 

 爆豪が大きい舌打ちをして机にどっかりと座った。そんな勢いよく座るの王様くらいだろ。王様の座り方知らないけど。

 ひとまず先生が来て怒られるのは嫌なので爆豪の後ろの席に座る。どんな先生がくるのだろうか。雄英の先生なのだからきっとヒーローの鏡のような人に違いない。例えば相澤さんみたいな……そういえば相澤さんってヒーローなのか?何度か会ってるけどそこらへん全然知らないぞ。

 

「……ん?」

 

 ごちゃごちゃ騒いでいる爆豪を無視して教室の入り口に目を向けると、芋虫みたいな何かがいた。正確には寝袋に入って芋虫みたいになっている人。そして俺はその人にものすごく見覚えがある。

 その人は寝袋に入ったままのそりと立ち上がり、寝袋からぬっと出てきた。やはり見覚えがあると感じたのは間違いではなかったらしい。

 

 ボサボサの長い髪に無精髭。俺を助けてくれた布を首に巻いているあの人は。

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

 相澤さんその人だった。というかヒーローだったのか。

 

 相澤さん……先生は寝袋から体操服を取り出し、グラウンドに出るよう命じた。まさかグラウンドで、しかも体操服で入学式をするわけでもあるまいし、合理的を好むあの人の事だ。きっと何かやるに違いない。

 

「おい、何にやけとんだ」

 

「え?あ、あぁ。悪い。カッコよくて」

 

「は?誰の許可得て人の形してんだゴミ」

 

 行くぞ、と既に着替え終わった爆豪にジャブを放ちながら付いて行く。あてるとめんどくさいのでもちろん寸止めだ。

 

「いや、あの人知ってる人でな。所謂命の恩人ってやつ」

 

「聞いてねぇわ」

 

「何にやけとんだって言ったろ」

 

「きめぇからにやけんなって意味だ」

 

「やんのか?」

 

「待てよ二人とも!」

 

 一触即発。睨みあっている俺たちの間に切島が割り込んできた。人のよさそうな輝かしい笑顔を浮かべて肩を組んでくる。

 

「せっかくなんだから一緒に行こうぜ!」

 

「お、悪い。置いてっちまって」

 

「いいって!爆豪が早すぎたんだろ?」

 

「テメェらが遅すぎんだよ」

 

 なぜこれほども清々しく俺様でいられるのだろうか。己に勝つっていう名前だし、勝ち続けた結果こうなったのかもしれない。自尊心の塊か?

 

「何するんだろうな。体操服着てグラウンドって」

 

「体力測定とか?」

 

「ありえる。ヒーロー科だから基礎運動能力を知る、みたいな?」

 

 多分そんなところだろう。入学初日にやるっていうのがまた相澤先生らしいというか。ヒーローになるためには入学式も無駄っていうことか。

 

 みんなより早めにグラウンドにつき、喋っていると相澤先生に睨まれたので大人しくしているとすぐに全員揃った。やはり雄英にくるだけあってこのあたりは優秀らしい。

 

 そして、先生の口から告げられたのは。

 

「個性把握」

 

「テスト?」

 

 個性把握テストという、雄英ならではの測定だった。


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