俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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自分だけの技

 翌日。爆豪と起きるタイミングが重なっていつも通り喧嘩しつつ登校し、俺をワクワク感がこもった目で見てくる女子を睨みながら迎えた日常。

 

「昨日話した通り、当面は"仮免取得"が目標だ」

 

「はい!」

 

 仮免を取得すると、敵の確保で個性を使えるようになる。爆豪なんかは大喜びだろう。素行が悪くて仮免落とされそうだけど。まぁ最近段々マシになってきたから大丈夫だとは思う。うん。俺を助けに?きてくれようと?してたし?

 

「ヒーロー免許ってのは人命に直接かかわる責任重大な資格だ。合格率は例年5割を切っている厳しい試験だ」

 

 5割。人命にかかわるなら当然か。クソ弱い上に人命を優先しないやつが資格を持ってしまったらとんでもないことになる。ここを厳しくしなければ市民に対して胸を張れない。

 

「それで君らには最低でも一人二つ……」

 

 相澤先生が指で合図すると、教室のドアが開いてミッドナイト、エクトプラズム、セメントスが入ってきた。

 

「必殺技を作ってもらう!」

 

「必殺技……」

 

 学校っぽくてそれでいてヒーローっぽいのキター!!とみんなが喜んでいるが、学校っぽいだろうか。ヒーロー科っぽくはあるが、学校という大きな枠でくくるとそれっぽいとは言いづらい。こんなこと考えるやつはろくなやつじゃない。社会不適合者と言っても過言じゃない。

 

「詳しい話は実演を交え合理的に行いたい。コスチュームに着替え、体育館γに集合だ」

 

 必殺技。完璧とは言えないが俺も一応必殺技を持っている。『風虎』に『雨雀』。父さんの必殺技のうちの二つだ。……俺も、考えていたことがある。父さんの必殺技ではなく、自分の必殺技を編み出そうと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体育館γ。通称トレーニングの(T)台所(D)ランド(L)。USJだとかTDLだとか、雄英はテーマパークに金でも払っているのだろうか。それとも金を貰ってるから宣伝のためとか?

 

 必殺技とはそのヒーローを象徴するものであり、状況に左右されることのない安定行動はそのまま戦闘力につながる。つまり、必殺技を持っていると仮免の合否に大きく影響するというわけだ。

 

 俺の必殺技は、代償を伴う。使えば勝てるが、安定行動とは言いづらい。そのため、大怪我しないように個性を伸ばし、なおかつ大怪我しないような必殺技を編み出さなければならない。今のままでもいいが、より合格を確実にするためにはそうした方がいい。

 

 セメントスがトレーニングの場を作り上げ、エクトプラズムを相手に必殺技を考案する。エクトプラズムは『分身』の個性を持っており、自身の複製を複数出せる。対人訓練をしたいときにはものすごく便利な個性だ。

 

 俺は緑谷と並んで必殺技の訓練をしている。緑谷にはなにかと学ぶところがあるため、どうせなら近い方がいいかという理由だ。

 

「うーん」

 

「どうした緑谷?」

 

 必殺技の訓練を始めず考え込む緑谷。組手してくれていたエクトプラズムに待ってくださいと断りを入れてから緑谷に話しかける。

 

「えっと、ちょっと必殺技のビジョンが見えなくて。腕に爆弾ができちゃったんだよね、僕」

 

「あー、緑谷ってオールマイトの必殺技参考にしてるもんな」

 

 オールマイトは腕主体の必殺技だ。なのに腕に爆弾ができてしまったとあれば、緑谷としては痛いところだろう。

 

「俺も父さんの必殺技を真似しててな。でも、どうしても怪我を伴うから怪我をしないような必殺技を編み出そうとしてる」

 

「『風虎』だっけ。腕すごいことになってたもんね」

 

「緑谷に言われたくねぇけどな」

 

 最近大怪我しなくなったなと思えば気づいたら腕に爆弾。こいつとことん俺と似てないか?個性。

 

「でも、今ある必殺技じゃなくて新しく、か。ん?待てよ……」

 

「お、なんか思いついたか?」

 

 緑谷は考えるタイプだ。咄嗟の判断にも優れている。少しヒントがあれば答えに辿り着けるような思考能力があるから、何か思いついたのだろう。俺はヒントを与えたつもりはまったくないが。

 

「うん!ありがとう久知くん!ちょっとコスチュームの改良に行ってくる!」

 

 本当に何か思いついたみたいだ。緑谷は成長が早いから、きっとまた進化して帰ってくる。……そう考えると俺ってあんまり進歩ないよなぁ。

 

「成長ノスピードハ人ソレゾレダ。焦リモ大事ダガ、無理ハ禁物ダゾ」

 

「うっす」

 

 そうだ、比較しても仕方ない。違う個性だから、成長スピードが違って当たり前だ。にしたっていまだ上限解放10、20でもめちゃくちゃ痛いのはどうにかしたいところだが……ここはやはり、回復できる可能性を探っていった方がいいだろうか。そのことをエクトプラズムに伝えると、フム、と一つ頷く。

 

「君ノ個性デ回復デキルヨウニナレバ、カナリ強ミニナルナ。タダ、ドウスレバ回復デキルノカガ……今君ガ持ッテイル必殺技ハドンナモノダ?」

 

「持っているというより、教えてもらったもので未完成なものもありますけど……」

 

 一つ一つ説明していく。まずは『風虎』。自分の内にあるエネルギーを体外に放出する必殺技。初めに習得した必殺技で、体育祭のときに強化限界を超えた際、偶然できてしまったものだ。

 

 次に『雨雀』。内にあるエネルギーを体外に放出するところまでは『風虎』と同じだが、『雨雀』は一気にエネルギーを放出する『風虎』と違い、徐々にエネルギーを放出する。やろうと思えば使用中に撃つ方向を変えることもできる。

 

 まだ習得していない『玄岩』。体外のエネルギーを操作する必殺技。自分の体に纏って防御力を上げるとともに攻撃力を増すのもよし。遠距離攻撃から身を守るため盾にするもよし。汎用性のある必殺技だが、体外にエネルギーが漏れ出るほど強化しなければ使えない。俺の場合、上限解放60からだろうか。

 

 そして、『天昇龍(てんしょうりゅう)』。父さんがあの戦いですら見せなかった必殺技。なんでも作ったはいいが相手が死んでしまうから使えない、らしい。相手を天までぶっ飛ばして相手を無防備にした後、目にも止まらぬ連撃を叩きこむだけの技だ。しかし、これは空中で自分が自由に動ける必要があるので、相応の強化が必要である。俺の場合上限解放80、いや、90は必要かもしれない。そこまで強化すると天までぶっ飛ばした時に殺してしまいそうだ。

 

「これくらいですかね」

 

「気ニナルノハ、体外ニ出ルエネルギーダナ。『玄岩』ト言ッタカ……他ノ必殺技ハ単純ナ攻撃ダガ、『玄岩』ダケハエネルギーノ形ヲ変エテイル。恐ラクソコニヒントガアルノデハナイカ?」

 

「……なるほど」

 

 エネルギーは操作することが可能ということであり、だとすればその性質を変えることができる可能性がある。そもそも、俺のエネルギーは攻撃的要素以外にも別の要素があるかもしれない。

 

「となると、まずは『玄岩』を習得した方がいいかもしれませんね。母さんにも『活性』について聞いておきます」

 

「ソレガイイダロウ」

 

 そのためにはまず上限解放60ができるくらいの疲労、ダメージをためなければならない。……あまり気が進まないが、あの方法が一番だろう。

 

「相澤先生!ちょっといいですかー!」

 

 エクトプラズムにちょっと離れますと言って、遠くで俺たちを見ていた相澤先生に声をかけ、走り寄る。相変わらずダルそうな目で俺を見た相澤先生が手の平で静止の合図をしたので、急ブレーキをかけ停止した。

 

「なんだ」

 

「お願いがありまして」

 

 俺が考えたのは、合宿での訓練をもう一度する、ということだった。あのやり方が早めにダメージ、疲労がたまる上に、強化したときの動きも学べていい。あの時は組手相手がいなかったが、今回はエクトプラズムがいる。あの時よりも濃密な訓練になると言っていいだろう。

 

「5分間強化して5分間組手。それを上限解放60ができるくらいまで繰り返して、そこから『玄岩』の練習。お願いできますか?」

 

「死んでも文句言うなよ」

 

「死人に口なしですから!」

 

「……お前、前まではキツイ訓練嫌がってたのにな」

 

 真面目なのはいいことだ、とギリギリ聞こえるくらいの声で褒めてくれた相澤先生に「でしょう?」と返すと調子に乗るな、と言われ睨まれてしまった。ちょっとくらい調子に乗ってもいいじゃん。

 

 ……相澤先生の言う通り、俺はあまりキツイ訓練が好きじゃなかった。好きじゃなかったとは言いつつもやるにはやっていたのだが、自分から積極的にやりたいと言ってやったことなんてなかった。でも、あの日父さんが戦う姿を見て、早く父さんに追いつきたいと思ってしまった。やはり、俺も男の子でヒーロー志望だということだろう。

 

「さ、お願いします!」

 

「遠慮セズニコイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔すんぞ」

 

「わぁ!?」

 

 訓練が終わり、夜。アロマシガレットを吸いながらゆっくり過ごしていた俺の部屋に、爆豪がドアをバン!どころかドバァン!という心配になる爆音を立てて開け、侵入してきた。とうとう強盗でも始めたのだろうか。

 

「いきなりなんだよ。びっくりすんなぁ」

 

「るせェ。黙って話を聞け」

 

「マジモンの強盗じゃん……」

 

 クッションを手に取って投げようとすると、強奪されて尻に敷かれた。耳郎はあんな可愛らしく抱きしめてたのに、やはり爆豪は爆豪だ。期待を裏切らない。

 

「座り心地がワリィ」

 

「喧嘩売りに来たのか?」

 

「いつもしてんのに、わざわざしにくるかよ」

 

 いつもしてる自覚はあったのか。

 

「……今からする話に関しては、あんまり詮索すんなよ」

 

「恋?」

 

「テメェと一緒にすんな。昨日は随分楽しそうだったじゃねぇか」

 

「うっ、アレは違くてですね」

 

 まぁどうでもいい、と爆豪は切り捨てて、偉く真面目な表情。どうでもいいならその話振ってくんじゃねぇよ。

 

「テメェは、個性を人から貰うってのがあると思うか?」

 

「人から、貰う?それは遺伝じゃなくてか」

 

「遺伝じゃねぇ。そのまんまだ」

 

 言われて、考え込む。遺伝じゃないならあまりピンとこない。人から個性を貰うなんて聞いたこともない。俺のように後から個性があるってわかった例なら実際に体験してるからわからなくもないが、貰うとなると……。

 

 いや、ある。

 

「脳無」

 

「っぱそうか」

 

「複数個性持ちの化け物……それを敵連合が所持していて、なおかつ攫われたピクシーボブの個性がなくなってた。それなら、敵連合は個性を奪うことができて、なおかつそれを与えることができた、ってことになる、か?」

 

「恐らくな。推測の域は出ねぇが、人から個性を貰うってこと自体は確実にあると見ていい」

 

 俺に聞いたくせにずっと確信めいた口調で話す爆豪に違和感を覚えるが、最後の確信を持ちたいから聞いてきたんだろうと勝手に納得する。詮索はするなって言われたしな。

 

「そういや、テメェの個性はオールマイトに似てるな」

 

「んなこと言ったら父さんだって似てるし、緑谷も似てるだろ」

 

 むしろ緑谷が一番似てる気がする。必殺技をオールマイトっぽくしてるからそう思うだけかもしれないが、個性を制御できていない頃に見た緑谷のパワーはまさしくオールマイト級だった。

 

「……テメェもそう思うんなら、っぽいな」

 

「ん?」

 

「なんでもねぇ。悪かったな」

 

 らしくもなく爆豪は礼を言うと、立ち上がってこちらを振り向きもせず部屋から出て行った。……一体、なんだったのだろうか。個性を貰うことはあるかを聞いて、いきなり俺の個性がオールマイトに似ているって言ってきて……ダメだ。詮索するなって言われてもあんなこと言われたら気になってしまう。新手の嫌がらせか?訓練に身を入らなくさせるための。

 

 いや待て、オールマイト?そういや最近活動限界だかなんだかで個性も使えなくなって……考えすぎか。オールマイトの個性が受け継がれていくモンなわけが、ないとは言い切れないが判断材料が少なすぎる。

 

 とりあえずこのことを頭から追い出すために、俺はアロマシガレットを吸った。


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