俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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訓練、訓練、訓練

「おわー!危ねぇ緑谷!」

 

「えっ、わー!?」

 

 俺の操作していたエネルギーが鞭のようにしなって暴れまわりながら緑谷に襲い掛かる。声をかけるのが間に合ったから間一髪回避が間に合い、エネルギーは緑谷が避けた先にある壁を粉砕した。これ以上暴れると危ないので、一旦エネルギーの操作……『玄岩』をやめる。

 

「悪い、緑谷!」

 

「ううん、大丈夫!びっくりしたけど……新しい必殺技?」

 

「新しいっつーか」

 

 体の周りに戻ってきたエネルギーにほっと息を吐きつつ、気を落ち着かせるために深呼吸。エクトプラズムと組手しながらってわけじゃなかったのに制御できないのは少々マズい。もっと精度をあげないと。

 

「『玄岩』っつー父さんの必殺技でな。体から溢れ出るエネルギーを操作する必殺技なんだが……どうもうまくいかなくてよ」

 

「でも、使いこなせるようになったら超強いよ!見た感じ『風虎』のときみたいに反動がくるわけでもなさそうだし!」

 

 そう、『玄岩』は『風虎』、『雨雀』と違って反動がない。エネルギーを操るだけだからか、と考えたが実はエネルギーを操るだけの必殺技ではないのだ。

 

 溢れ出るエネルギーは、そのままでは何の攻撃力も持たないただのエネルギーである。それを攻撃的なエネルギーに性質変化させ、操るのが『玄岩』だ。この性質変化する過程で反動がきてもおかしくないのだが、今のところまったくきていない。

 

 仮説的に言えば、やはり俺のエネルギーは『活性』の性質があり、性質変化のプロセスでその『活性』が反動を抑えている、と考えられる。難儀なのは、攻撃的なエネルギーにするのは今までの感覚があるからすぐにできるのだが、『活性』が全く掴めない。この仮説が当たっているとすればほとんど無意識化で『活性』を行っているということになる。使い続けて『活性』の感覚を掴めればいいのだが……。

 

「でもめちゃくちゃムズイんだよこれ。全力でマラソン走りながら全力でダンスするような感覚でな」

 

「それは難しいね……うーん、力になれたらいいんだけど、エネルギーってなると」

 

「いやいや。むしろ緑谷が思いついて俺が思いつかなかったってなったらムカつくからいいわ」

 

「ムカつく……」

 

 じゃあな、と言って緑谷から離れ、一人で『玄岩』の訓練をする。周りに人がいると危ないので、ギリギリまでみんなから離れて。まずは攻撃的な性質にエネルギーを変化させ、体に纏うように調整する。さっきは調整しきれずエネルギーが暴れ回ってしまったから、今度はより慎重に。じわじわと体を纏う感覚を肌で感じられてきたとき、いきなりエネルギーがうねりはじめ、そして。

 

「ぎゃぁああああああ!!」

 

「久知ぃぃいいい!?」

 

 エネルギーが爆発して床を陥没させ、その中心部で倒れこんでいる俺に近くにいた上鳴が駆け寄ってきてくれた。

 

「大丈夫かお前!」

 

「見た目よりは……」

 

 上鳴の手を借りながら立ち上がり、「ありがとう」と礼を言う。エネルギーが暴走して爆発した割にはあまりダメージがない。せいぜい体を動かすと痛いかな?程度だ。上限解放60の反動はこんなものではないので、恐らくこれも『活性』が絡んでいる。もしくは俺の体が強靭になったか、だがそれはありえない。いくらなんでも成長が早すぎる。

 

 大丈夫そうだと判断したのか、上鳴は「あんま無茶すんなよ!」と言って自分の訓練に戻っていった。あいつもあいつで時間がないだろうに俺の心配してくれるとは、本当にいいやつだな。アホだけど。

 

「……思ったより無事そうだな」

 

「相澤先生」

 

 コスチュームについた汚れを払っていると、相澤先生がやってきた。そりゃこんだけ爆発起こせばそうなるよな。今までの俺って個性使ったらボロボロになってたし、今回もそうなっていると思ったんだろう。

 

「『玄岩』の訓練だったか。その様子じゃ難航してそうだな」

 

「そうなんですよ。どうもエネルギーの操作が難しくて」

 

「だが、今怪我が少ないということは『活性』の性質がお前のエネルギーにあった、と考えられる。それだけでも収穫だな」

 

「まーそれをどう扱うかがわかんないんですけどね」

 

「繰り返せ。せっかく怪我が少なかったんだしな」

 

 はーい、と返事して上限解放60を発動。再びエネルギーが体から溢れ出た。

 

 昨日母さんに聞いた話では、『活性』は発動するタイプらしく、怪我をしたときにその箇所を「治すぞー!」と発動させることで怪我をしている部分が淡く光り、徐々に治っていくらしい。アバウトすぎるが、とりあえず「治すぞー!」という意識は必要そうだということはわかる。意識せず怪我が少なくなったからそれすらいらないかもしれないが。

 

 とりあえず『玄岩』に慣れるために再びエネルギーを性質変化し、体に纏う。相澤先生の目が気になるところだが、きっとアレはプレッシャーに耐えろという意味なのだろう。できればやめてほしい。怖いし。

 

「……お前、全身に纏おうとしてるんだな」

 

「? はい。一応防御技でもあるので」

 

「それ、一か所だけってのはできないのか」

 

「……!?」

 

 そういえば、そうか。なんで気づかなかったんだ。全身に纏うのが難しいってわかっているなら、一か所に集中して纏えばいい。めちゃくちゃ簡単なことだ。……どうも、父さんから「全身に纏うといいぞ!」と言われたのを意識しすぎたようだ。父さんなら多分最初から全身に纏えたんだろうが、俺は俺のペースでいい。

 

 相澤先生の言う通り、まずは今結構ボロボロな右腕に集中してエネルギーを纏う。すると、すべてのエネルギーが右腕に集まって見た目がものすごくブサイクになった。右腕に赤い透明な風船をつけてる、みたいな。

 

「先生、これ……」

 

「できたはできたみたいだな。予想とは違う見た目だが……」

 

 俺もこんなことになるとは思っていなかった。体の周りにエネルギーを残しつつ、右腕辺りのエネルギーだけが固まっていく感じかと……。

 

「恐らく、エネルギーの100%を操作してしまったからだろう。右腕にだけ纏い、他のエネルギーを体の周りに残すなら数%程度操作するだけでいいはずだ」

 

「あー、それもそう、です、ね?」

 

「どうした」

 

 俺って結構バカなんだなぁと思いながら相澤先生の話を聞いていると、エネルギーを纏っている右腕に違和感を覚えた。何か、痒い。そうあれだ、かさぶたができたときのような……。

 

「あれっ、傷が塞がってる!?」

 

 見てみると、右腕にあった小さな切り傷が塞がっていた。父さんの使う『玄岩』にこんな効果はない。ということは、

 

「『活性』か」

 

「やった!でも傷治んの時間かかるし何より見た目がカッコ悪い!」

 

「常時全身に纏えるようになれば大分変わるだろ。よかったな」

 

 『活性』があるってわかったのはよかったけど、エネルギーの100%を集めてこの治る早さは……いや、むしろ早い方なのか?時間にして1分経ったか経たないかくらいだったし。俺のイメージが一瞬で治る感じだったから遅く感じてしまっているだけだ。

 

「当面は全身に纏う訓練だな。多分そのまま個性を解除すると右腕以外ボロボロになるから気をつけろよ」

 

「あ、なるほど。『玄岩』で纏ってないところ以外は『活性』されてないから……ありがとうございます!」

 

「今倒れると時間の無駄だからな」

 

 冷たいことを言いつつどうせ俺のことを心配してくれている相澤先生に頭を下げてから、右腕に纏っているエネルギーを全身に渡らせる。一気に全身にではなく、まず胸から。胸に纏えたら左腕にと、徐々に広げていく。まずは全身に纏うという感覚を覚えなければならない。

 

 よし、このままこのまま……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタ、今日めちゃくちゃ爆発してたね」

 

「マジで!爆豪かと思ったわ」

 

「うるせぇ。俺だって好きであぁなったわけじゃねぇわ」

 

 共同スペースのソファに倒れこみ、上鳴と耳郎に体をつつかれながら反論する。爆豪と一緒にしてんじゃねぇよテメェ。

 

「っかー!なーんでうまくいかねぇかなぁ。いっつももう少しってとこで失敗すんだよな」

 

「金魚すくいみてぇ」

 

「久知下手そうだもんね」

 

「祭り行った事ねぇからわからん」

 

 上鳴と耳郎が俺から目を逸らした。そんな露骨な反応されるとむしろ傷つく。

 

「ほ、ほら。ウチが一緒に行ってあげるから。元気だしなって」

 

「もちろん俺も行くぜ!」

 

「別に凹んでねぇよ。それにもう今年は祭り行ってる暇ないしな」

 

 夏休みは訓練訓練また訓練。どこにも祭りに行っている暇が見当たらない。俺たち三人が訓練なんてしなくてもいいほど優秀なら行ってもいいのだろうが、生憎そういうわけでもなく。

 

「まぁ、祭りは置いといて。俺結構焦ってんだぜ?最近の久知スゲー訓練に真剣だからよ」

 

「あ、それ思った。なんか前までとは違うよね。前までは何かこう、やらされてる感?みたいなのがあったけど」

 

「俺そんなわかりやすかったの?」

 

 聞くと、二人から頷きで返ってきた。やらされてる感を出す生徒ってめちゃくちゃダメな奴じゃん。

 

「それでも結果残してたのに、訓練にやる気出されちゃそりゃこっちも焦るって」

 

「競争しようとしてるわけじゃないんだ。でも、どうしても意識しちゃうよね」

 

「俺を?爆豪とか轟とかならわかるけど」

 

 俺を意識するってどういうことだ。体育祭の成績はいい方だったが内容は褒められたものじゃなかったし、初めの方にやった戦闘訓練もうまく作戦がハマっただけだ。

 

「いや、追いつけそうだったから」

 

「爆豪と轟は最初から別次元だったけど、アンタは同じ次元にいて前を走ってた感じがしたから」

 

「要するに舐めてんだな?」

 

 あはは、と笑う二人は隠すつもりもないらしい。まぁ、俺もそう思うけど。轟は個性がめちゃくちゃ強いし、爆豪はセンスの塊だ。強がりでも絶対に勝てるとは言えないほど突出している。

 

「でも他人なんて気にしてたらキリがねぇだろ。似たような個性ならともかく、俺とお前らの個性なんかカスリもしねぇから参考にならん」

 

「そうやって割り切れたら楽なんだけどね」

 

 俺からすれば耳郎の強さは俺や爆豪、轟とは別のところにあると思う。集団戦ならまず耳郎から先に潰すほど耳郎は厄介だ。単純な戦闘力ではなく、その索敵能力はめちゃくちゃ鬱陶しい。障子もそうだが、索敵能力を持っているやつは味方に一人は欲しいし。上鳴は個性を使いすぎてアホになる弱点と電気を操れない弱点をどうにかすれば間違いなく最強クラスだし。だからこそ、他人と自分を比べるのはあほらしい。

 

 今は仮免を取れれば勝ちなんだし。


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