俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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友だちって?

「久知ー!」

 

「お?」

 

 いつものように訓練していると、元気な声が俺を呼んだ。今ここにいるはずのないやつの声に振り向いてその姿を確認すると、しっかりコスチュームを見に纏って個性を発動して飛んでおり、そいつはうまいこと個性を使って周りに被害が出ないよう着地した。

 

「よう!元気そうだな!」

 

「お前もな」

 

 夜嵐イナサ。一緒に職場体験を過ごしたB組の生徒で、体育祭でも戦った何かと縁のあるやつである。ちなみに体育祭の時は俺が勝った。

 

「なんでここに?」

 

「午後からB組がTDLを使うことになってるからな」

 

「午後……?まだ10分早いぞ」

 

「待ちきれなかったっス!」

 

 久知にも会えるしな!と嬉しいことを言いながら肩を叩いてくるので、急いでエネルギーの性質を元に戻した。『玄岩』の練習中だったから、あのままだったら夜嵐が怪我をしていた。夜嵐は俺の『玄岩』を知らないだろうから無理もないが、もうちょっと気を付けてほしい。こんなにわかりやすいくらいエネルギー漏れてるんだから。

 

「久知、強くなったか?俺は強くなったぞ!もう負けないっス!」

 

「言うじゃねぇか。体育祭で俺に負けたくせによ」

 

「だったら戦ってみるかい!?」

 

 ウザそうな声が聞こえてきた。俺と夜嵐の間に入って挑発してきたこいつは、物間。B組の汚点と言っていいくらいA組を貶し、挑発するが、それもB組のことを想っての事だと思えば、別に……ウゼェな。

 

 物間はいつものようにへらへらしながら俺を見て、挑発を続ける。

 

「仮免試験の前に自分の実力を試すにはちょうどいいんじゃないかな?でも体育祭で夜嵐にまぐれで勝った君じゃ怖くて戦えないか!あぁ残念!まぁこれで夜嵐の方が、B組の方が強いってことが証明されたんだけど!!」

 

「あ、轟!こんにちはっス!!」

 

「おう」

 

「B組が使うんなら個性止めとくか」

 

「……無視ってことは認めたってことだよね!喜べみんな!今B組の方が優れているということが証明された!」

 

 そのB組のうちの一人がお前を無視して轟のところに行ったんだけどな。というかあいつら面識あったのか?体育祭の障害物競走の時、夜嵐が轟と友だちになりたいって言ってたのはなんとなく覚えてるが……ま、夜嵐くらい元気でいいやつなら友だちになるのはすぐだろう。

 

 ……ただ、轟のことが嫌いだとも言ってたからちょっと心配だ。一応どんな感じか聞いておこう。夜嵐と話す轟を待ち、夜嵐と別れたところを捕まえてそういえば轟と話したことあんまりなかったな、とどうでもいいことを考えながら話しかける。

 

「轟、夜嵐と友だちだったのか?」

 

「友だち……なぁ久知。嫌いって言ってきたやつでも友だちになんのか?」

 

「ストレートだなアイツ……」

 

 普通人に対して嫌いなんてあんまり言わないだろう。言うとしても心の通じ合った相手に悪ふざけで言う。それを夜嵐はまだ友だちと言っていいくらい話してもいないのに「嫌いだ!」と言ったらしい。素直なのはいいことだが、素直過ぎる。

 

「あぁでも、最近は俺のこと好きって言ってたから友だちになんのか。よく話すし」

 

「なら友だちでいいだろ。俺も友だちがどんなもんかよくわかんねぇけど」

 

「お前と爆豪みたいな関係じゃねぇか?」

 

 俺と爆豪の関係。日々口喧嘩し、煽り合う。はた目から見ればめちゃくちゃ仲が悪いように見えると思うのだが、案外そうじゃないらしい。まぁ爆豪はどう思ってるかわからないが、俺は友だちだと思ってるし。爆豪も助けにこようとしてくれたし。親友じゃん俺ら。

 

「珍しい組み合わせじゃん!何話してんだ?」

 

「上鳴」

 

 並んで歩く俺たちの間に入って肩を組んできたのは上鳴。最近ではちょっとの訓練じゃアホになることはなく、ひどくてもアホになりかけるくらいだ。

 

「友だちについて話してたんだよ」

 

「友だち?」

 

「なぁ、友だちってなんだ?上鳴」

 

 えらく哲学的な質問をされた上鳴は「友だちぃー?」と間抜けな声を出してから考え込み、ふらふら揺れて俺、轟と交互にもたれかかる。俺の方が身長低いんだからやめてほしい。重い。轟は満更でもなさそうだけど。

 

「別に、そんな難しく考える必要なくね?一緒にいて楽しいとか、面白いとか、そう思ったら友だちだろ。ほら、俺と一緒にいたら楽しいっしょ?」

 

「あぁ、楽しい」

 

「え、やだ。嬉しい……!」

 

 上鳴のキャラ的に、「別に」と言われるかと思っていたが、そういえば轟は素直なやつだった。上鳴も明るくていいやつだし、こいつと一緒にいて楽しくないって言うやつは相当な根暗だろう。調子に乗って「久知は?」と聞いてくる上鳴に「俺も」と答えると、また嬉しそうな間抜け面。

 

「久知のことだから絶対暴言吐いてくると思ったのに」

 

「どういう意味だコラ」

 

「確かにそういうイメージあるな」

 

 轟までそんなことを。これは絶対に爆豪のせいだ。あいつといつも喧嘩してるから口が悪いというイメージを持たれているに違いない。だって俺爆豪と話してないときは口悪くないし。多分。多分って思ってる時点で本当かどうか不安なところがあるが。

 

 ……どうも、中学まで友だちがいなくて先輩とつるんでばっかだったから友だちがいるっていうのは新鮮な感覚だ。こうなるとなぜ俺に友だちがいなかったのか不思議になってくるが、中学の俺はとても仲良くしたいような人間じゃなかったんだろう。個性もなかった、というより見つかってなかったし。無個性ってだけでバカにしてくるような人間がいる現代だ。無個性だと思われるだけで結構なマイナスである。

 

「相手が爆豪ならまだしも、誰彼構わず暴言吐くかよ。ちゃんと相手は選んでんだよ」

 

「俺何回か吐かれたことあんだけど」

 

「それくらい心許してるってことだ」

 

「俺は吐かれたことないってことは、心許してないってことか?」

 

「いや、そういうことじゃないんだ」

 

 上鳴をあしらおうとしたら轟に隙をつかれてしまった。まさかここに反応するとは。まさか轟、気心の知れた関係に憧れがあるとか?でもそれなら緑谷とか飯田とかいるだろうし、そうでもないか。多分ただ単に気になっただけだろう。

 

 そう思っていたが、轟は何を思ったのか俺の目をじっと見て、「なぁ」と短く切り出した。

 

「ちょっと俺に暴言吐いてみてくれ」

 

「え?」

 

「轟がおかしくなった!」

 

 轟は一体何を考えているのだろうか。暴言を吐いてみてくれって、どう考えても普通じゃない。そんなことしてほしがる人なんてド変態しかいないだろう。ということは轟はド変態?こんなにイケメンなのに?イケメンだからこそ?いやいや何を考えているんだ俺は。だらだら考える前に、本人が目の前にいるんだから聞けばいい。聞くの怖いけど。

 

「なんで暴言なんか」

 

「いや、いつも爆豪と言い合ってるとき楽しそうだと思ってな。俺もやってみたくなった」

 

「それって轟が暴言吐くってことか?超レアじゃん!」

 

「轟はそんなことしない方がいいと思うんだけどなぁ」

 

「なんでだ?」

 

 なんでだ、って。そりゃ暴言吐き合ってるから楽しいんじゃなくて、アレは俺と爆豪だから楽しいわけで。いや楽しくないけど。ムカつくけど。とにかく、轟には向いてないというか、俺が暴言吐いてる轟を見たくない。

 

「やってみてぇ。ダメか?」

 

「うわぁ。おい上鳴、これがイケメンってやつだ」

 

「轟にこんなこと言われて『ダメだ』っていうやついんの?」

 

 こんなイケメンに首を傾げて聞かれたら断れない。俺が男だったからよかったものの、これを女の子にやったら一撃でやられてしまうだろう。耳郎なんかあぁ見えて乙女だから顔が真っ赤になるに決まっている。俺が「可愛い」って言っても受け流すのに。

 

「わーったよ。でも暴言ってどんなのかわかってんのか?」

 

「自分で言うとなるとわかんねぇ」

 

「基本的には相手が嫌がる言葉だな」

 

「なるほど。久知」

 

 上鳴の説明に頷き、俺を見つめる轟。暴言ってそんな構えてから言うもんじゃないんだけどなと思いつつ、どこか微笑ましいものを感じながら待っていると、ゆっくり開いた轟の口から出てきた言葉はとんでもないものだった。

 

「好きだ」

 

「ぶふっ!」

 

「はぁ!?」

 

「えー!」

 

「きゃー!」

 

 上鳴が噴き出し、俺は顎が外れるほど口を開いて驚き、俺たちをちらちら見ながら前を歩いていた葉隠と芦戸が騒ぎ始めた。アイツらに聞かれるとろくなことがないので、睨みつけて目で「こっちにこい」と言うと、正しく伝わったようで興奮した様子で歩いてきた。

 

「やーなんかイケメンが並んでたから何話してんのかなーって聞いてたら、何今の!」

 

「やるねぇ轟くん!轟くんのことだからどうせそういう意図ないんだろうけど!」

 

「ん?なんかわかんねぇけど褒めてくれてんのか。ありがとな」

 

「このド天然野郎が!今なんで俺に好きっつったんだ!」

 

「? 相手の嫌がる言葉を言えばいいんだろ」

 

「嫌がる言葉ってとこは合ってるのがタチわりぃな」

 

 今の罵倒か?となぜかキラキラした目で俺を見てくる轟を無視して頭を抱える。嫌な言葉ってだけじゃなくて、汚くて嫌な言葉だと説明しておくべきだったか。確かに轟から「好き」と言われるのは嫌だが、暴言ではない。嫌のベクトルが違う。

 

「なんか久知と仲良くなれた気がする。暴言ってすげぇな」

 

「一応言っておくがさっきのは暴言じゃねぇからな?もっと汚ねぇ言葉が暴言っつーんだよ」

 

「久知の性格はクソ下水一週間煮込みだとか、なぁああああ!?」

 

「アホだねー上鳴」

 

「そんなこと言われたら久知くんキレるに決まってるのに」

 

 俺にとんでもない暴言を吐いた上鳴の腕を掴み、思いきり握る。跡ができるくらい握っては流石に可愛そうなので、程のいい頃合いで握るのをやめた。涙目で上鳴が睨んでくるが知ったこっちゃない。お前が悪い。

 

「久知は黙ってたらイケメンなのにねぇ」

 

「あ?喧嘩売ってんのか」

 

「そーいうとこ!」

 

「なぁなぁ、俺は?」

 

 期待の眼差しで聞いた上鳴を無視してきゃっきゃっと騒ぐ芦戸と葉隠に、上鳴は肩を落とした。あまりにもかわいそうだったので肩を叩いて「お前もイケメンだぞ」と言うと、「お前に言われても嬉しくねぇ」と言われてしまった。なんでも、心が感じられないらしい。誰が中身からっぽ人間だコラ。


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