『立て続けに4名通過ー!現在通過82名!残席は残り18名です!』
肉の塊にされていた人が結構いたため大混戦になったが、案外危なげなく一次を通過することができた。ボールが飛んできても見てから避けれるのは大きい。個性を使えば速くなれるから、ボールで直接ターゲットを殴れば余裕だった。俺以外の三人も元々戦闘力が高いため、そこまで苦労していなかったように思う。爆豪もちゃっかりサポートしてくれてたし。あいつ他を気にする余裕あるってやっぱ才能マンだな。
「皆さんよくご無事で!」
「ヤオモモー!ご無事よご無事!つかみんな早くね!?」
控室に行くと、既にA組の半分以上がいた。残り18名ってアナウンスで言ってたからもうちょっといると思っていたが、やっぱり雄英のマークはきついのだろうか。峰田辺りはこの試験なら最強だろうにまだ通過していないということはそういうことだろう。
個性を使って痛む体を休めるため、水分補給。ある程度回復できるようになったとはいえ、それは上限解放60をすればの話。『玄岩』を使えない状態では回復はできず、今まで通り反動がモロにくる。爆豪たちと一緒じゃなかったら俺もまだ通過していなかったかもしれない。
「わっ」
「あ、すんません」
水分補給を終えて肩をぐるぐる回していると、後ろにいた人に腕が当たってしまった。何か柔らかい感触がしたのは気のせいだろう。セクハラで仮免取れなくなるのは勘弁してくれと振り向いたそこには、士傑、の女の人がいた。
「ねぇ君雄英の子だよね?」
「あー、そう、ですね」
体を摺り寄せてくる女の人の柔らかい感触に鼻の下を伸ばしそうになり、慌てて表情を引き締めた。他のA組のやつらがいる今、だらしない顔はできない。後でいじられるに決まっている。
しかしそんな俺の思いを無視して、女の人はそっと手を絡ませてきた。
「……ね、気づいてる?」
「声抑えろ」
言外に気づいてるという意味を込めて言うと、女の人……被身子は俺の見覚えのある笑みを浮かべた。他人の顔でそれをやられると違和感があるが、むしろこの人は被身子なんだと確信できる。俺が被身子の笑顔を見間違えるわけがないから。
「……試験始まる前からなんか見覚えあると思ってんだ。こうしてこの距離まで近づいて確信した。何しに来てる?被身子」
「それはちょっと教えられないねぇ。ふふ」
こうして接触してきたのはなぜだろうか。俺を見て我慢できなくなった、とかだったら嬉しいところだが、被身子は敵連合の一員。相手が俺とはいえ、わざわざ正体を明かすとは思えない。こんな仮免試験という場で、周りはヒーローのタマゴ。俺がここで被身子を取り押さえれば終わりだというのに。
考えられるのは、見つかってもいいから。これは捕まりにきたというわけではなく、俺が騒いだ瞬間に黒霧のゲートで大量の敵が乗り込んでくるとか、そういう脅しの要素があるからあえて見つかりに来た、と考えられる。気づかせることで俺を脅し、目的の邪魔をされる前に封じておく、ということか。どちらにせよ、今は下手に動けない。
本音を言うなら、今ここで捕まえた方がいいとは思う。いや、捕まえたい。ただこれは俺の私情であり、そうすることによってここにいる誰かが死ぬようなことになったら、俺に責任がとれるのか。
「考えてる姿もカッコいいねぇ。安心して。誰かに危害を加えるつもりはまったくないから」
「それを信じろって?」
「見つかったら黒霧さんのゲートですぐ逃げる予定ですし」
だったら尚更ここで止めるわけにはいかない。黒霧のゲートで逃げるなら、ほぼ確実に逃げられる。そんな逃げると言っている相手を変に刺激すると被害が大きくなりかねない。
「君に接触したのは脅しの意味もあるけど、これを伝えたくて」
……プロポーズ?いやいや何を浮かれてるんだ俺は。好きな子から伝えたいことがあると言われて期待しないやつはいないとはいえ、今この状況で浮かれるのはない。どんだけおめでたい野郎なんだ。
動揺する俺を見てクスクス笑った被身子は俺の耳に顔を寄せて、そっと囁いた。
「仮免取れたら、やっと迎えにこれるね」
俺が何か反応する前に被身子は俺からすぐ離れて、薄く笑いながら手を振って去っていった。アレは、どういう意味だろうか。宣戦布告?これるものならきてみろよみたいな?ダメだ、わからん。案外俺と会える機会が増えそうで嬉しい、というだけかもしれない。
「オイ久知なんだ今の!いつの間にあんな仲良くなってんだ羨ましい!」
「お、落ち着け上鳴!」
被身子が離れた瞬間に駆け寄ってきた上鳴は、俺の肩を掴んで激しく揺さぶってくる。結構体痛いから勘弁してほしい。というかこんな時にも女女って節操ないなお前。俺もだけど。
「クソッ!見た目は同じくらいなはずなのになんでお前がモテんだよ!何か秘訣とかあるんですか?」
「いきなりへりくだるな。別にモテてねぇし」
「俺はお前と耳郎に噂が立っていることを知っている!」
「上鳴、見てみろ」
上鳴が俺の指した方を見ると、耳郎がとんでもなく無表情で俺たちを見ていた。
「な?」
「無ってあぁいうことを言うんだな……」
「俺がモテてるなら、『は!?そ、そんなわけないじゃん!』って赤くなりながら慌てるはずだろ。つまり俺はモテてない。謝れ」
「ごめん……」
耳郎の無表情は上鳴に結構効いたらしい。怖いよな。下手に動けば殺されそうな雰囲気がある。……別にそこまで嫌がらなくてもよくない?上鳴もなんか慰めてくれてるし。切島もこっちにきて肩に手を置かれた。何慰めに来てんだお前。俺がそんな惨めに見えたか?
『100人!今埋まり!終了です!』
「お」
「お!終わったみてぇだな!A組は……」
緑谷たちが嬉しそうに騒いでいる。あの様子なら恐らく全員通過したんだろう。例年がどうかわからないが、マークされている中全員通過するのはすごいことなのではないだろうか。しかも俺たち一年だし。優秀すぎる。
脱落した人の撤収を終え、A組が全員合流した後しばらく。控室にあるモニターに、先ほどまで試験を行っていたフィールドが映された。
『えー100人のみなさん。これご覧ください』
言われた通りモニターを観ていると、突如すべての建物、地形が爆破された。思わず爆豪を探したところ、ちゃんといる。よし。爆豪が犯罪者になったのかと思った。俺に中指立ててるから犯罪者と言っていいかもしれないけど。
『次の試験でラストになります!皆さんには今からこの被災現場でバイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます!』
「パイスライダー?」
上鳴と峰田がアホなことを言っている。バイスタンダーとはざっくりいえば現場に居合わせた人のことで、一般市民のことも言う。ちなみに俺もパイスライダー好きだ。何言わせてんだ。
『ここでは一般市民としてではなく仮免を取得した者としてどれだけ適切な救助が行えるのか試させていただきます』
二次試験の内容は救助。フィールド内にいる要救助者のプロHUCが傷病者に扮し、その人たちの救助を行う。その救助活動をポイントで採点していき、基準点を超えていれば晴れて合格。
『10分後に始めるのでトイレ等済ませておいてくださいねー』
「救助かぁ」
むしろされる側だしな、俺。個性的にもそうだし、実際救助してもらったし。それに、救助となると戦闘力とは全く別で、こればかりは他校に劣る。俺たちは前倒しで仮免試験を受けに来ているため、救助活動等の経験がほとんどない。あっても授業でやるか、職場体験でやったかくらいのもの。
確か、父さんは救助活動のとき、一番大事なのは被害者を安心させることだと言っていた。オールマイトの「私がきた!」なんてモロにそれだ。オールマイトの場合はNo.1という知名度も含まれた安心感がある。それがない俺が被害者を安心させるのに必要なのは、笑顔と言葉。被害者の状態を確認することも大事だが、安心させるという点で言えば笑顔と言葉が大事だと思う。
「……」
「何見とんだ」
無理そうなやつを見つけてしまった。ただ、爆豪は心から鬼というわけではないので多分大丈夫。暴言さえ吐かなければ。……吐きそう。
採点基準が明かされていない以上、やれることはやっておくべきだ。被害者を安心させることで加点があるかもしれない。正直個性を使えば使うほど怪我人に近づいていく俺は救助活動に向いていないが、そんなことを言ってられない。より個性の使用を抑え、より多くの人を助ける。これを目標にしよう。
「爆豪、わかってるよな。被害者に対していつもみたいな言葉遣いしたら落ちるぞ。冗談抜きで」
「わーっとるわカス。舐めんな」
「言っとくけどついてくぞ。お前だけ仮免落ちたってなったら嫌だし」
「勝手にしろ」
「じゃあ俺も!」
「俺も!」
俺に便乗して切島と上鳴も爆豪のそばに寄る。……正直救助活動なら八百万、麗日のどちらかと行動したいが、むしろあの二人がいると俺のやることがなくなりそうだ。それほど救助活動においてあの二人の個性は役に立つ。
「確認しとくぞ。まず最初は安心させるための言葉掛け。次に怪我の状態を確認して、適宜必要な処置。んで、安全なところに連れて行く。基本は抑えとこう」
「こういう時の久知は頼りになるな!」
「爆豪はわかってても教えてくんねーし」
「授業聞いてりゃ分かんだろ。だからテメェはアホ面なんだよ」
上鳴が涙目で俺を見る。でもごめん。授業聞いてりゃ分かるっていうのには同意だ。こればっかりは聞いてない方が悪い。
このまま放っておくとめんどくさいので適当に慰めていると、突然ジリリリ、とベルの音が鳴り響いた。恐らく試験開始の合図。
『敵による大規模テロが発生!規模は○○市全域!建物倒壊により傷病者多数!道路の損壊が激しく救急先着隊の到着に著しい遅れ!到着するまでの救助活動はその場にいるヒーローが行う!』
「っし、行くか」
「足引っ張んじゃねぇぞ」
「ぜってぇ受かる!」
「俺やっぱヤオモモのとこ行こっかな……」
『一人でも多くの命を救い出すこと!』
上鳴に「八百万のとこ行ったらお前やることないぞ」と言ったら素直についてきた。もっと自分に自信持ちゃいいのに。