俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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仮免試験終了

「腕を怪我したの!」

 

「助けて!痛い!」

 

「今助けますねー!」

 

 斜面を滑り降り、被害者に駆け寄る。ここは山エリアで、足場がかなり不安定だ。怪我をしている一般人が移動するには厳しいだろう。

 

「上鳴と切島はこの人らを救護所に連れて行ってくれ。見たところ軽傷だがしっかり怪我の確認をして、敵のテロである以上何が起こるかわからんから周囲を警戒しながら頼む。俺と爆豪は奥行って他に人がいないか探してくるから、あとで合流してくれ」

 

「おう、わかった!安全なとこ連れてくんで、もう大丈夫っスよ!」

 

「足下不安定なんで気を付けてくださいね!」

 

 上鳴と切島は強いのは強いが、この不安定な場所を軽く移動できるかと言われればそうでもない。爆豪は空中を移動できるし、俺は個性を使えば障害物を跳び越えることができる。不安なのは、岩の下敷きになっている人を助けづらいということだろうか。

 

「しっかし驚いたな。爆豪のことだから自分で助かれや!っていうかと思った」

 

「実際、救護所と距離がなきゃそっちのがいいだろ」

 

 確かに。途中まで護衛は必要だが、あの人たちの怪我なら自分で救護所まで行けているはずだ。このエリアが救護所から遠いって理由で上鳴と切島を護衛につけただけで、爆豪の言うことは正しい。

 

「まだこっちのエリアに何人残ってっかわかんねぇ以上、人手減らすのは悪手だろ。ただでさえ救助に万能な個性じゃねぇんだから」

 

「だな。俺の聴覚が個性で強化されてんのが唯一の救いだが……」

 

「誰かいたら返事しろや!!」

 

 隣から響く大声に思わず耳を塞ぐ。俺今聴覚強化してるって言ったよね?そのタイミングで大声って喧嘩売ってんのかこいつ。

 

 まぁ、そういう確認は大事だけど。目で探しているだけでは重傷者を見逃してしまう可能性がある。こうして確認することで、ちょっとでも声を出してくれれば俺の耳が拾えるから行動としては正しいのだが、今から言うぞみたいなことは言ってほしかった。おかげで耳が痛い。

 

「どうだ、クソヤニ」

 

「……聞こえん。そもそももういないか、重傷者が岩の下敷きになってる可能性がある。俺は探しながら音聞いとくから、爆豪はじゃんじゃん声出してくれ……もっと柔らかい言葉でな。ヒーローじゃなくて敵だと思われかねん」

 

「なっ、チッ……ヒーローだ!助けがいるやつは返事!」

 

 あんまり変わってない。やっぱりここら辺は変わらないか。最近丸くなってきたが、それでも爆豪は爆豪。むしろいきなり優しい言葉使いだしたら不安になる。

 

「……ぁ」

 

「爆豪。聞こえた」

 

「どっちだ」

 

「ついてきてくれ」

 

 変わらない爆豪に安心していると、耳が誰かの声を拾った。受験生ならもっとはっきりした声を出すだろうから、十中八九被害者だろう。爆豪に呼びかけをしてもらいつつ、声のする方へ走っていく。

 

「多分ここら辺……いた!」

 

 大きな岩と岩が寄りかかって、奇跡的なバランスで屋根のようになっており、その下に仰向けで倒れている男の人がいた。

 

「状態……意識ほぼねぇな。安全は?」

 

「早いとこ岩の下から出した方がいいな。ただ、下敷きになってるわけでも、体が埋もれてるわけでもねぇから……恐らく落石が頭に当たって、打ち所が悪かったんだろう。声かけてみて、反応なかったら頭動かさないよう慎重に運ぶぞ」

 

「オイ、聞こえっか」

 

「ぅ……」

 

 爆豪が声をかけると、仰向けに倒れたまま呻き声をあげ、閉じていた目が徐々に開いてきた。うっすらとだが意識が戻ってきたことを確認し、状態を聞いていく。意識が戻ったからとはいえ、重傷者じゃないと決まったわけではない。

 

「吐き気、手足のしびれはありますか?あったら瞬きを一回。なかったら二回お願いします」

 

「い、いや……大丈夫だ。ちょっとショックで気絶していたようで」

 

「動くな。自分でもわかんねぇ怪我があるかもしれねぇ」

 

 起き上がろうとした男の人を制し、爆豪が頭を支える。頭を打った人は、体を揺するのもダメでもちろん頭を揺するのもダメ。急に起き上がろうとせず、起き上がるとしてもゆっくり支えながらがベストだ。見たところ意識はしっかりし始めているが、用心するに越したことはない。

 

「ゆっくり起こして、岩の下から出てまた寝かすぞ。それで何もなけりゃ救護所に連れて行く」

 

「だな。二人で支えるぞ」

 

 体を揺らさないよう慎重に支えて、岩の下から出ていく。この途中で岩が崩れてきたら手荒な真似をするしかなかったので、崩れてこなかったのは幸運だった。こういう時『創造』で支えを作れる八百万が羨ましい。

 

 男の人を寝かせて、状態を聞いていく。段々しっかりしてきたので、本当にショックで意識が薄れていたっぽい。そう判断して、俺が男の人を背負って爆豪に護衛を頼んだ。俺なら背負っていても多少は動けるが、爆豪は『爆破』という個性なため誰かを背負って戦うのは向いていない。爆豪ならできそうだが。

 

 時々声をかけて状態を確認し、途中で合流した切島と上鳴を山エリアに向かわせる等なんやかんやしていると、救護所についた。救護所にいる人に状態を伝えて、また山エリアに向かおうとした、その時。

 

 救護所近くで爆発が起きた。慌てて爆豪を見るが、俺に中指を立てているだけ。どうやらまた爆豪ではないらしい。ということは、

 

「テロ……」

 

「敵か……!」

 

 爆豪が嬉しそうに笑っている。これじゃどっちが敵かわかったもんじゃない。

 

『敵が姿を現し追撃開始!ヒーロー候補生は敵を制圧しつつ、救助を続行してください』

 

「行くぞクソヤニ!」

 

「あの強そうなのは任せるからな!」

 

 爆破が起きたところから現れたのは、なにやら右腕にごついものを付けた全身黒いスーツが複数と、強そうなシャチの人。確か、ギャングオルカだったか。あまりヒーローのことを知らない俺が知っているくらいだから、相当強いはず。今俺はあまりダメージ等がたまっておらず上限解放できても40くらいなので、ギャングオルカの相手は爆豪に任せて周りの敵の制圧に移る。

 

 飛んでいった爆豪に遅れて走っていると、ちょうど目の前で傑物の目が笑っていない人、真堂さんが地面を崩し、足止めしていた。しかしその人一人が殿で、他の人は避難を優先している。プロヒーロー相手にそれはない。上限解放40を重ね、一気に距離を詰めて爆豪に追いつくと、上空の爆豪がギャングオルカに向けて爆破を放つと同時、ギャングオルカの目の前にいる真堂さんに飛びついて距離をとる。

 

「っぶね!」

 

 俺が通り過ぎた後、ギャングオルカが超音波を放っていた。爆豪は爆破で攻撃しながらうまく避けたようで、いまだに好戦的な笑みを浮かべている。楽しそうだな。

 

「悪い、助かった!」

 

「いえいえ、むしろ手荒になってすみません」

 

「おい久知ィ!テメェは周りのザコ狩ってろ!」

 

「加勢がきたらそっち行くからな!よく考えたら一人で相手できるわけねぇ!」

 

「いや」

 

 変に意地張り始めた爆豪にどうしてやろうかと考えていると、背後からイケメンの声。それとともに氷結がギャングオルカを襲った。

 

「俺がやる」

 

「カッッコイーな!」

 

 轟は顔もイケメンで登場のタイミングもイケメンらしい。ギャングオルカは轟と爆豪に任せ、周りに漏れている敵を倒しに行く。爆豪の戦闘センス、制圧力の高い轟がいればある程度は戦線維持できるはずだ。

 

「轟、確かギャングオルカはシャチだ!恐らく乾燥に弱い!」

 

「わかった」

 

「真堂さん、あの地面崩すやつまた頼めます!?」

 

「威力によってインターバルがある!あまり大きいのをするとしばらく役に立たない!」

 

「足下崩す程度でいいです!」

 

 話している間に敵が何かを撃ってくる。何であるにしろ、当たっていいことはないだろう。

 

「いくぞ!」

 

 声と同時に真堂さんが個性を発動し、敵の足下が振動によって崩れ、敵のバランスも崩れていく。この程度ならすぐに態勢を立て直せるだろうが、俺にはこの一瞬で複数をぶっ倒せるようなちょうどいい必殺技がある。

 

「『雨雀』!」

 

 両手の平から放たれる無数のエネルギーは、バランスを崩した敵を撃ち抜いていく。全力でやると大怪我してしまうため、威力は抑えめで。訓練によって反動はいくらかマシになったが、あまり長くは続けられない。今は全エネルギーの20%程度。それでも腕が軋んでくるのだから、使い勝手が悪い。

 

「っし!片付いた!」

 

「便利な個性だね!」

 

「真堂さんこそ!」

 

 互いを褒め合いながら、敵の対処に向かっていく。真堂さんは一人でも強いのに、遠距離攻撃を持っている味方との相性が抜群にいい。さっきのようにバランスを崩すことで攻撃を確実に当てることができる。なんで雄英にいないんだこの人。学力かな?

 

「どうやら、ヒーローが集まってきたみたいだ」

 

「ですね。俺らがここを守り切ってれば避難は完了しそうです」

 

 敵の位置を確認しつつ、ギャングオルカの方に目をやる。二人ともやられてはいないが、やはり相手はプロヒーロー。きつそうだ。ある程度加減はしてそうだが、耐久力が半端ない。爆豪の爆破をものともせず、轟の氷結は凍らされる前に砕き、炎は普通に耐えられている。なんであの炎を耐えれんの?

 

「さっきのを見て、必要以上に近づかなくなってきたね」

 

「あの二人の邪魔をされてもマズい。俺たちが戦線上げていきましょう」

 

 敵が俺たちの連携技を見て周りにこなくなってしまったので、二人で前に出る。ここで一番マズいのは爆豪と轟の邪魔をされることだ。さっきまでは避難を邪魔されることが一番マズかったが、既に避難を完了させている今、制圧が第一優先。

 

「きやがった!バカめ!」

 

「撃て!セメントガン!」

 

 が、それが敵の狙いだったのか俺たちに向けて一斉にセメントガンを撃ってくる。名前的に当たったら固まってしまうのだろう。それはまずい。戦場のど真ん中で身動きがとれないやつほど邪魔な奴はいない。ここは……。

 

「真堂さん!俺の後ろに!」

 

「ああ!」

 

「上限解放60!『玄岩』!」

 

 『風虎』、『雨雀』のいいところは、強化中に能動的にダメージを蓄積できるところだ。今までは強化が切れた時の反動を利用してまた一、二段階上の強化をするか、瞬間解放をするかしかなかったが、必殺技なら相手を制圧しながらダメージを蓄積できる。溢れ出るエネルギーを操作してドーム状にし、セメントガンを防ぐ。威力の高い攻撃は防げなくてもセメントガン程度なら屁みたいなものだ。

 

「真堂さん。1、2、3でドーム解きます。合わせて崩してもらえますか?」

 

「オッケー。相手が多いから強めに行くよ」

 

「お願いします。1、2、3!」

 

 合図でエネルギーの操作をやめ、真堂さんが地面を揺らして崩していく。それに合わせて『雨雀』。やばい。真堂さんとめちゃくちゃ相性いいかもしれない。

 

「ヒーローになったら組んでみます?」

 

「ハッ、ありかもね!」

 

 軽口を叩きつつ、後ろから加勢がきたことを確認する。これで俺が無理をする必要もなくなった。真堂さんが足を止めて、全員で倒しにかかれば……。

 

「久知!手ェ空いたんならこっちこいや!」

 

「!」

 

「俺と半分野郎じゃ決定打を出しにくい!加われ!」

 

「……真堂さん、あとお願いします!」

 

「任された!」

 

 まだ残っている敵の隙間を擦りぬけて、轟の隣に立つ。爆豪はギャングオルカを挟んで向こう側に。辺りは氷結で凍っており、爆破でボロボロに崩れているその戦場とは対照的に、ギャングオルカにはほとんど傷がついていない。

 

「おっせぇんだよ!ターゲットバラけさせて決めれそうなら一気に決めっぞ!」

 

「基本は維持だ!倒されないよう戦ってりゃどんどん加勢してくれる!」

 

「接近戦するなら氷結と炎、気を付けてくれよ」

 

 わかってる、と小さく返してから『玄岩』を使う。あの超音波は接近戦だとめちゃくちゃキツイ。できるだけ遠距離から攻撃した方が……って!

 

「ホウ、避けたか」

 

「遠距離もいけんのか!」

 

 ギャングオルカが俺の方を見て超音波を飛ばしてきたので慌てて避ける。上限解放60まで行くと見てから避けるのが可能だから便利だ。反面、可能だからこそ慎重さが少しなくなってしまう。俺は慎重さで個性をカバーしてなんぼなのに。

 

「合わせろ」

 

 轟が超音波を放ったギャングオルカの一瞬の隙をついて大氷結。視界を塞いでしまうため格上相手ではマズい選択肢だが、俺がいれば別の話。

 

「飛べ、爆豪!『風虎』!」

 

 向こう側にいる爆豪に声をかけてから、エネルギーの30%を使って『風虎』を放つ。当然上限解放60の30%ともなると腕が死ぬほど痛むが、『玄岩』を纏えばある程度は治る。ある程度は。

 

 『風虎』は轟音を響かせ空を裂き、氷を容易く砕きながら進んでいく。少し威力強すぎたか?と思ったがギャングオルカ相手ならむしろ弱いくらいだろう。氷が砕け散った先で見えたギャングオルカは回避行動をとっていた。ただ、少し離れた程度なら風圧で吹き飛ばすことくらい容易い。そして、吹き飛ばせば大きな隙が生じる。そこへ一気に、

 

「死ねや!!」

 

 手榴弾のようになっている腕の装備から放たれる、爆豪の最大火力!

 

 が、ギャングオルカを襲う前に。けたたましいブザー音が鳴り響いた。

 

『えーただいまをもちまして、危険区域より配置されたすべてのHUCが救助されました。まことに勝手ではございますがこれにて仮免試験全工程終了となります!』

 

「ンだそれ!!」

 

 爆豪がガンギレしている。そりゃもうすぐギャングオルカにダメージ与えられたんだから、悔しいよなぁ。俺と爆豪、轟の三人でやっとだけど。本当にダメージ与えられたのかどうかもわからんし。

 

『集計ののち、この場で合否の発表を行います。怪我をされた方は医務室へ。そうでない方は着替えてしばし待機でお願いします』

 

 ただまぁ、なんというか。爆豪ほどじゃないが俺も釈然としない。爆豪の戦闘狂がうつったか?


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