俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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みとめ、あい

「……ほんとにきた」

 

「ワリィか」

 

 荒々しいノックに慌ててドアを開けると、そこにいたのはかっちゃん。共同スペースで「後でテメェの部屋行くからな」と言った時は耳を疑ったが、どうやら僕の耳は正常だったらしい。聞き間違いだったほうがよかったと思っている僕もいる。なぜかっちゃんが僕の部屋にきたのかまったくわからない。そんなに仲良くないというか、仲は悪いはずなのに。

 

「オールマイトばっかだな」

 

「あ、あはは。まぁファンだしね」

 

 かっちゃんが僕の部屋を眺めて、つまらなさそうに呟いた。かっちゃんなら「キメェ部屋作ってんじゃねぇよカス!」くらい言うと思ってたのに、意外だ。最近のかっちゃんは丸くなったから、そのおかげだろうか。

 

 かっちゃんは、中学の頃と比べて大分変わった。僕からすればすごい人だけど嫌なやつで、どうしても悪感情を持ってしまっていた。だって、いじめられてたし。でも、雄英にきてからかっちゃんは柔らかくなったように思う。それはきっと、久知くんや切島くん、かっちゃんと友だち関係を築いてくれてる人たちのおかげだろう。見た目はブチギレていても、かっちゃんは毎日楽しそうに見える。そう見えてるのは僕だけかもしれないけど。

 

 かっちゃんは遠慮なくベッドに座り、僕を睨みつけた。それから椅子に目線を移し、また僕を睨む。座れ、ということだろうか。ここでぐだぐだしているとキレられるので、おとなしく座ることにする。

 

「……な、何の話かな?」

 

 僕を睨んで何も話さないかっちゃんに耐えられなくなった僕は、遠慮がちに聞いてみた。すると舌打ちが一つ返ってきて僕から目を逸らし、オールマイトのフィギュアを見ながら口を開いた。

 

「テメェの個性の話だ」

 

「!」

 

 ……そういえば、かっちゃんには僕の個性が人から貰ったものだってことを言っていたんだった。そのかっちゃんから個性の話を切り出されるってことは、そういうことだろう。多分、かっちゃんは僕の個性が元々誰のものだったかってことに気付いている。

 

「変な誤魔化しはいらねぇ。その個性、オールマイトから貰ったんだろ」

 

「……」

 

 僕が何を言っても、かっちゃんの考えが変わることはないだろう。それほど、確信めいた聞き方だった。

 

「ヘドロ、いや……オールマイトが街にやってきたあの日から。テメェはどんどんどんどん成長していきやがる。考えてみりゃすぐだった。無個性だったお前が、オールマイトと出会ってから急に変わったんだ」

 

 オールマイトのフィギュアを見ていたかっちゃんは僕に視線を戻し、続ける。

 

「ねこババアが個性を失ったこと、脳無が複数個性を持っていること。それから考えて、人から人へ移動する個性があるっていう信憑性は高ェ。ンで、神野の一件でオールマイトは力を失った。あの日。俺の隣でみっともなくぎゃんぎゃん泣いてたお前は、俺とはまったく別の捉え方をした」

 

 『次は、君だ』。オールマイトがカメラを指しながら言ったあの言葉は、敵への宣戦布告とも捉えられた。でも僕は、僕へのメッセージだと捉えた。『私は使い果たしてしまった。だから、次は君が』、と。僕の隣で見ていたかっちゃんは、それに気づいたらしい。

 

「聞いて、どうするの」

 

 これは、誰にも言わないようにっていう言いつけを守らなかった報いだ。僕には、かっちゃんを真正面から受け止める義務がある。

 

「……気づいた時は、ガチでやり合ってお前の何がオールマイトにそこまでさせたのか確かめてやろうかと思った。ただ、バカらしくなっちまってよ」

 

「ガ、ガチでって……」

 

 そんなことしようとしてたのか、かっちゃん。確かにかっちゃんならやりかねないけど、思い直してくれてよかった。

 

「バカらしくなったって?」

 

「俺とお前で、オールマイトが認めたのがお前だってことを、認められない俺が、だ」

 

 まず、びっくりした。かっちゃんが自分のことをバカらしいと言ったことに。いや、内心では思っていたのかもしれないが、人にそれを伝えるということにびっくりした。人に弱みを見せることなんてなかったのに。

 

「ガチでやり合うより、早ェ話テメェの上に立ちゃいいんだ」

 

 言って、かっちゃんは立ち上がった。僕を見下ろして、中指を立てて。

 

「選ばれたお前よりも、俺は上に行く」

 

「……!なら、僕はその上を行く!」

 

 勝手にしろ。と吐き捨ててかっちゃんは僕の部屋から出て行った。……少しは、わかり合えるようになったのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……死柄木」

 

「なんだ?」

 

 肩を組んで馴れ馴れしく呼んでくるトゥワイスを押しのけながら、一応返事をしてやる。するとトゥワイスは前を指しながら耳打ちしてきた。せっかく押しのけたのに。

 

「トガちゃん、どうしたんだ?心配してねぇけど」

 

 指した先には、イスに座っているトガ。その顔は赤く染まっており、どこか遠くを見つめている。十中八九想くんのことだろう。この前、仮免試験で想くんと会ったそうだ。帰ってきたとき、「カッコよかったです!」とハイテンションで俺に詰め寄ってきたことを覚えている。カッコよかったって言う暇があるなら堕としてこいと言ったら、「堕とすだなんて、そんな」とくねくねされた。鬱陶しい。

 

「どうせ、愛しの想くんのことだろ」

 

「今想くんの話しました!?」

 

「うわっ!落ちついた!」

 

 想くん、という名前を聞いた途端トガが詰め寄ってきた。相変わらず想くんへの執着心が強い。トゥワイスものけぞって大層驚いている。

 

「お前がぼーっとしていたからな。トゥワイスが心配していた」

 

「そうなの?ありがとです、仁くん」

 

「どういたしまして!ありがとう!」

 

 こうしてにこにこしていると普通の女子高生にしか見えないのに、想くんが関わると一気にやばくなる。想くんの前では大人しくしているらしいが、帰ってきてからはものすごかった。うろうろしては「えへへ」と笑い、かと思えばぼーっとして。しばらくそれを繰り返すものだから気味が悪かった。マグネなんかは「あらあら」と微笑ましそうにしていたが、アレはそんなもんじゃない。

 

 トガと二人きりになった時、今まで想くんと会った時になんで血を吸わなかったのかと聞いたことがある。その時、トガは恋する乙女のように、「二人きりになったとき、誰にも邪魔されないところでゆっくりとがいいのです。いっぱい愛し合いたい。殺し合いたい。弔くんもそう思うよね?」と言ってのけた。俺は敵だが、想くんに同情してしまったほどだ。

 

 ただ、人それぞれ個性があるように人の想いも人それぞれだ。俺にそれを邪魔する権利はなく、俺以外のやつだってその権利はない。それに、想くんはトガの愛の形を受け入れている。……本当に、なんで想くんは敵じゃないんだか。

 

 いや、この場合トガがなぜ敵なのか、と言うべきか。

 

「? どうしたんですか、弔くん」

 

「なんでもない」

 

 こいつは、想くんに自分を受け入れてもらった。世間からは確実に受け入れられないであろう自分を。なのに、トガは敵になった。それは、想くんの親が想くんをボロボロにしたトガから引き離したから。一番トガを受け入れることができる想くんは、早々にトガの下からいなくなった。子どもを心配してのことだというのはわかるが、子どものことを考えていない。

 

 トガと想くんの関係は、こんなにも羨ましい……、いや。誰もが認めるべきものなのに。個性によって歪んでしまった愛の形をそのまま愛として受け止められる想くんという人物が近くにいたということは何より幸運なことで、引き離せばどうなるかなんてわかっていたはずだ。結果、トガは敵連合にいる。

 

「ふふ、楽しみだなぁ。想くんが迎えに来てくれるの。今度こそ二人きりになってぐちゃぐちゃにするのです!」

 

「優しくしてやれよ」

 

「トガちゃんバイオレンスだな……羨ましいぜ!」

 

 ぐちゃぐちゃにされてもあいつなら喜びそうだと思うが、俺はあいつが敵連合にくるなら大歓迎なのでできる限り勧誘する形でお願いしたい。あいつの中のヒーローを支えている芯をへし折って連れてきてくれるのがベストだ。想くんが死ぬと、トガも後を追って死にそうな気がするし、そうなると貴重な戦力と貴重な戦力になるかもしれないやつが同時に失われる。

 

 実際、トガは想くんが死んだら死ぬだろう。トガは血が好きだと言っているが、その実あまり口に含まない。想くんの血が美味しすぎて、他が不味く感じすぎてしまうからだそうだ。いきつけのラーメン屋以外のラーメンは受け付けないのと似た感覚だろう。……俺としては積極的に血を摂取してほしいのだが。仮免試験に潜入して適当に集めてきた血も摂取せず放置している始末。想くんには血を摂取せずとも変身できるのに、他は全然だ。変身できるだけマシとも言えるが。

 

「次はいつ会えるのかなー。あ、私が雄英に入学するっていうのはどうです?」

 

「イレイザーがいなかったらアリだったかもな」

 

「えぇ!?そんなことしたらトガちゃんと会えなくなっちゃうじゃねぇか!清々するな!」

 

「うーん、仁くんか想くんなら想くんですね。確実に」

 

「ショック……!こんなに嬉しいことはねぇ!」

 

 フラれたトゥワイスは俺に寄りかかり、「慰めてくれ」と一言。鬱陶しいから肘で押しのけると「あはん」と気持ち悪い声を出しやがった。バラバラにしてやろうか?

 

 俺たちのやりとりを見て、トガが上品にくすくす笑う。想くんと会うようになってから女らしさに磨きがかかってきたように思えるトガは、思い出したように「あっ」と言って俺を見ると、申し訳なさそうな顔で「そういえば、ごめんなさい」と謝ってきた。

 

「何がだ?」

 

「私、想くん以外に変身できなくなっちゃったっぽいです」

 

「は?」

 

「え?」

 

「ちょっと、好きすぎちゃったみたいで」

 

 申し訳なさそうな顔はどこへやら。幸せそうに「えへへ」と笑うトガに、俺は頭を抱えた。同情したように俺の肩をたたくトゥワイスを、今度は押しのけることができなかった。


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