俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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戦闘、通形ミリオ

「じゃ、本格的なインターンの話をしていこう」

 

「いきなりだな」

 

 挨拶とかあってもいいのに。そんなんだからめちゃくちゃいい人でカッコよくても結婚できないんだ。傑物のMs.ジョークはどうだろう。ぜひ結婚して相澤先生を毎日笑わせてほしい。

 

「職場体験とどういう違いがあるのか、実際現場に行っている人間から話してもらう。多忙な中都合を合わせてくれたんだ。心して聞くように」

 

 なぜか俺を見ながら言う相澤先生に首を傾げて、教室の入り口を見る。現場に行っている、ということは今インターンに行っているということで、2年か3年の人だろう。あんまり他学年と交流がないから誰がきてもピンとこないけど。

 

「現3年生でもトップに君臨する3名、通称ビッグ3のみんなだ」

 

 入ってきたのはがっちりした笑顔の人、綺麗な人、背の曲がった人。がっちりした人は確か、去年の雄英体育祭で脱いでいた人だ。脱いでいたというより、脱げてしまったと言った方が正しい気もする。

 

「じゃあ手短に自己紹介頼めるか?天喰から」

 

 相澤先生が自己紹介を促すと、背の曲がった人の目にいきなり力が入った。鋭い眼光が俺たちを貫き、クラス全体に緊張が走る。やはりビッグ3。正直相澤先生に睨まれる方が怖いが、ものすごい迫力だ。

 

「駄目だ、ミリオ。波動さん」

 

 果たして何を言うのかと身構えていると、「駄目だ」という言葉。ビッグ3のお眼鏡に適わなかったということか。見ただけで分かった気になってんのかコイツ?

 

「……ジャガイモだと思って臨んでも、頭部以外が人間のままで依然人間にしか見えない……!無理だ、まったく言葉が出てこない……」

 

 出てきた言葉は、思っていたものとは大分異なっていた。震えながら発せられたそれは、緊張した空気を混乱へと染め上げる。しまいには俺たちに背を向けて「帰りたい……!」とまで言ってしまった。

 

「ノミかよ」

 

「コラ爆豪。目上の人に対して失礼だろ」

 

「会って間もない1年にノミだと言われた……!」

 

「ね!天喰くん人間なのにね!不思議!」

 

 あ、この綺麗な女の人もやばそうだ。悪い意味じゃなくて、個性的そうだなという意味である。俺は人の事を悪く言ったことはない。

 

「彼はノミの天喰環。私は波動ねじれ。今日はみんなにインターンについてお話してほしいと頼まれてきました」

 

 あれ、まともか?と思った瞬間、波動さんが障子に目をつけ、「なんでマスクしてるの?風邪?おしゃれ?」と聞いて答えが返ってくる前に轟へ突撃した。この瞬間俺は波動さんの声を聞かないように意識を逸らした。

 

「ケッ、大丈夫かよ」

 

「性格と実力は別だろ」

 

 爆豪が吐き出した文句にフォローを入れる。確かにこんな個性的な人が続いたら不安にもなるだろう。これがビッグ3と言われても疑ってしまう気持ちもわかる。俺も疑っている。でも、緑谷は普段おどおどしてるけど強いし、そんなもんだ。普段がどうであれ、実力とは関係ない。かもしれない。

 

「前途ー!?」

 

「うわっ多難」

 

「一人だけツカミ成功!君とは気が合いそうだね!」

 

「爆豪……」

 

「助けねぇぞ」

 

 意識外からいきなり「前途」と言われたので反射的に答えてしまった。あんな大スベリを全力でかます人と気が合うなんて……いや、ビッグ3だから気が合うのかもしれない。やはり頂点同士、惹かれるものがあってもおかしくない。

 

「まぁ、何が何やらって顔してるよね。必須でもないインターンの説明に突如現れた3年生。そりゃ無理もないよね。というわけで!」

 

 言って、がっちりした人は元気よく腕を上げて、

 

「君たち全員、俺と戦ってみようよ!」

 

「っしゃあ!ぶっ殺したらぁ!」

 

「血ぃ有り余ってんなぁ」

 

 戦うと聞いて席を立ちあがった爆豪は、相澤先生に睨まれて大人しく座った。可愛いところあるなこいつ。

 

「俺たちの経験を身を持って経験した方が合理的でしょう!どうですかイレイザー!」

 

「……勝手にしな」

 

 爆豪がガッツポーズした。ホント好きね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体操服に着替えて体育館γに集合したみんなは何が何やらという感じだった。先輩はやる気を見せて準備運動をし、俺も爆豪に付き合って準備運動をしているが、他のみんなは「本当にやるの?」と困惑している。

 

「ミリオ、やめておいた方がいい」

 

 そんな俺たちの耳に、天喰さんの小さい声が入ってきた。壁に向かって、というより壁に引っ付いて話す天喰さんの声を拾うため耳を澄ますと、そのままぼそぼそと喋り始めた。

 

「こういうことがあってとても有意義ですよ、で済ませるべきだ。みんながみんな上昇志向というわけじゃない。立ち直れなくなる子が出てきてはいけない」

 

「……!?」

 

「待て爆豪!すぐ手ぇ出そうとすんな!」

 

「見下してんじゃねぇぞコラ!!大体自己紹介もできねぇクソノミが立ち直れなくなる子が出てきてはいけないってンだそれ!大したユーモアだなぁオイ!」

 

「すんません!コイツ戦闘前はハジケちゃうんです!今のは『ムカついたからぶっ飛ばしてやる!あとあなた面白い人ですね』って意味なんで!」

 

「フォロー下手かよ!元気があって大変よろしい!」

 

 先輩……ミリオと呼ばれた人は腰に手を当て、高らかに笑った。どうやら気にしていないらしい。天喰さんは「確かにそうだ……僕なんかが口を出すべきじゃなかったんだ……」ってめちゃくちゃ気にしてるけど。あとで謝っとけよ。

 

「よし!いつどっから来てもいいよ!一番手は誰だ!?」

 

「僕……ってかっちゃん!?」

 

 緑谷が前に出て「行きます!」という前に、爆豪が飛び出した。ほんと戦闘ってなると我慢できねぇなアイツ。まぁあの才能マンのことだから多分なんとかなるとは思う……。

 

「あー!!」

 

 耳郎が叫んだ。それは、ミリオさんの体操服がすべて脱げたからである。いや、落ちた。初心で乙女な耳郎には刺激が強いだろう。かわいそうに。爆豪にはできるだけ早く股間を爆破で隠してほしい。

 

「失礼!調整が難しくてね!」

 

 ミリオさんは慌てて下を履き始めた。脱ごうと思って脱いだわけではないらしい。脱ごうと思ってたならとんでもない変態だからそうじゃなくてよかった。ビッグ3がノミ、不思議ちゃん、変態って雄英が終わったと思われてしまう。

 

「ふざけやがって!」

 

 爆豪がキレながらミリオさんに接近していく。しかし、ミリオさんは爆豪には目もくれず、まだ履こうとしている。ということは別に見なくても大丈夫ということか?そう仮定するなら体操服が落ちたのは……。

 

「爆豪!手ぇ狙え!」

 

「わかっとるわ!」

 

「おっ」

 

「緑谷!先輩の動き見ててくれ!」

 

「え、わ、わかった!」

 

 俺一人じゃ考えがあっているか不安なので、俺より鋭い緑谷に協力してもらう。すり抜ける個性であることは間違いないが、その条件はまだわからない。ただ、今履こうとしてズボンを掴んでいる手は少なくともすり抜けないはずだ。避けられないとは言ってないけど。

 

「君!鋭そうだね!」

 

「うおっ、速っ!」

 

 ぐだぐだ考えているうちに、いつの間にかミリオさんが目の前にいた。そして、腹パン。マジかこの人。会ったばかりの1年に腹パンする3年生っているの?

 

「なにしてんだクソヤニ!」

 

「悪い!」

 

「お、腹パンされて喋れるタフネス!やっぱり早めに倒した方が」

 

 言い切る前に、ミリオさんが炎にのまれた。実際は無事だろうが、やはり目の前の人がいきなり炎にのまれたらドキッとする。が、ドキッとしている暇もないので瞬間解放10でそこから一気に離れた。ワープ紛いのことをしてくるから離れても意味はなさそうだが。

 

「そういうことなら、まずは遠距離持ちからだよね!」

 

「轟くん!」

 

 また気づいたら一瞬で移動していたミリオさんに、轟が沈められた。そりゃ轟倒すよな。俺でも倒せるなら真っ先に倒す。ただ……。

 

「緑谷、見てたか」

 

「うん。沈んだ」

 

 ミリオさんは移動する前に一瞬沈んでいる。そして気づけばワープしている。どういう原理かはわからないが、恐らくすり抜けて沈み、弾き出されるように移動しているはずだ。そういう移動の仕方なら、どう沈んだかである程度出てくる場所は予想できる。

 

「できた、ところで」

 

 そうして考えている間に、俺たちの後ろにいる遠距離組が全員倒れていた。まだ5秒くらいだぞ?

 

「比較的安全なのは空中だな」

 

「……大人しいと思ったら、爆豪。お前、見てたんだな」

 

 俺の隣に立って冷静に言う爆豪。いつもなら「待てや!」とかなんとか言って相手を追いかけまわすのに、今はいやに冷静だ。それほどミリオさんが強いということだろう。

 

「沈んで移動するってことがわかってんなら、空中に引きずりだしゃそん時は移動できねぇ。一度空中で避けちまえば追撃はねぇはずだ」

 

「沈み具合で距離が変わるとしたら、空中に逃げた瞬間地面に沈んで移動、避けられたら天井に沈んでまた移動ってのをされんじゃねぇか?」

 

「なら避けてぶっ殺す」

 

「してみなよ!」

 

 気づけば、二人仲良くみぞおち。二発目はダメだ……!上限解放して無理やり耐えるしか、

 

「知ってるよ!」

 

「がっ」

 

 解放しようとした瞬間に、叩き伏せられた。どうやら爆豪もやられたようで、二人仲良く地に伏せている。

 

「特にタフそうだったからね!ごめんね!」

 

 嬉しいのか嬉しくないのか微妙な言葉を残して、ミリオさんは他のみんなを沈めに行った。

 

「ぐ、ぎぎぎ」

 

「アー……ここは大人しくしとこう。授業だし」

 

 隣で呻いている爆豪が今にも飛び出しそうだったので制しておく。この戦いの目的はインターンがどんなものか知ることであって、ミリオさんに勝つことではない。俺も少々ムキになってしまったが、勝敗は関係ないのだ。隣の爆豪はまったく納得いってなさそうだけど。めちゃくちゃ悔しそうに歯を食いしばっている。

 

「……クソが」

 

 どうやら、納得してくれたようだ。無理やりに。


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