俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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個性把握テスト

「死ねぇ!!」

 

 死ね?

 

 個性把握テスト。言ってしまえばそれは個性使用ありの体力テストのようなものだった。今爆豪がモラルに欠けたセリフとともに投げられたボールは、爆豪の個性である『爆破』の勢いが乗せられ、705.2mを記録した。どや顔でこちらを見ている爆豪に迷わず中指を立てる。

 

「まず君らには自分の最大限を知ってもらう」

 

 自分の個性でどこまでできるかってことね。でも、これちょっと俺に不利というかなんというか。

 

「個性思いっきり使えんのか!すげー面白そう!」

 

 心の中で「俺は思いっきり使えないんだよ」と文句を言いつつ、ただまぁ爆豪みたいな個性のやつは面白いだろうなと俺にめちゃくちゃキレてくる爆豪を見ながら思う。何せ個性を思い切り使う場所なんて普通の生活をしていればなかったはずだ。日常的に役立つものなら別だろうが、モロ戦闘向きの個性なんか使う機会なんてそうそうない。

 

 爆豪なら関係なしに使ってそうだけど。

 

「面白そう、か。うーん、よし。じゃあトータル成績最下位の者は見込みなしとして除籍処分にします。頑張れ」

 

「え」

 

 面白そうと思ってしまったことが気に入らなかったのか、先生が大人げないことを言い出した。いやいや、いくら自由が校風といっても入学初日に除籍て。……俺数年前に見込みありって言われたから大丈夫よね?

 

(ちょっとずつ重ねがけしていってもいいけど、負担がやばいからナンセンス)

 

 限界ならとっくに知ってるから、俺は万全の状態からできることを模索していくべきだろう。先生もそれを期待しているに決まってる。ちっともこっちを見てくれないけど。

 

 第一種目は50m走。これは普通に走ろう。なんかメガネのやつがすげぇ記録出してるけど、他のやつのすごさに引っ張られて対抗してもいいことがない。……3秒04って、どれくらい上限解放すれば出せるかな?

 

「次」

 

「お、よろしく爆豪」

 

「消えろ」

 

 消えろ?

 

「爆速ターボ!!」

 

「邪魔!」

 

 スタートの合図とともに、爆豪は爆破で飛んで行きすぐにゴールした。それはいいけど目の前で爆破させられたらめちゃくちゃ邪魔なんだけど。やり直しききませんかね?

 

(といっても)

 

 記録は6秒5。個性を使っていないにしては速い方だろう。個性の都合上、やろうと思えば限界を超えて鍛えられるのでそれが幸いした形か。あの激痛を思えば嬉しいやら嬉しくないやら。

 

「ザコ」

 

「?」

 

 爆豪にザコと言われた気がしたが、気のせいだろう。俺凄いし。

 

 握力、立ち幅跳び、反復横跳びも個性なしでこなしていく。待ち時間とかの都合上、残り三種目あたりで個性を使った方がいい。時間制限のある個性って本当に難儀すると思う。いや、俺のはインターバルがあれば使えるんだけど。

 

「テメェ、なんで個性使わねぇ」

 

「反動がな。結構辛いのよ」

 

「喋るな。次」

 

 ソフトボール投げを終えて帰ってきた爆豪とちょっと話すと先生に怒られてしまった。厳しいのね。久しぶりだから話をしたいが、今は教師と生徒の関係なのであまりよくはないだろうし。生徒じゃなくなるかもだけど。

 

(まぁ)

 

 あの緑のもじゃもじゃ。あいつも個性使ってないみたいだから現時点の最下位はあいつだろう。ここから巻き返しがくるかもしれないから油断はしないようにしよう。俺みたいに反動がデカい発動型かもしれないし。というか多分そう。

 

「よし、はじめ」

 

 今までの疲労的にはそこまでたまってない。せいぜい使えて20くらいか。……いや、20もなさそう。もう少しだけど。俺の個性ってここら辺がわかりにくいから不便なんだよな。

 

 とにかく、足りなさそうなら疲労をためればいいだけ。

 

「先生、円から出なきゃ何してもいいんでしたっけ?」

 

「いいからはよ」

 

 全然興味なさそうだな、と思いながら許可を得られたので腿上げを開始する。上半身をめちゃくちゃに動かしながら。周りからはめちゃくちゃ滑稽に映っていることだろう。聞き覚えのある声で「とうとうおかしくなったか」って聞こえてくるし。絶対爆豪だ。覚えとけよ。

 

「よし、たまった」

 

 仕上げにその場でぴょんぴょん跳ねてからボールを構える。

 

「上限解放、20」

 

 言葉とともに沸きあがってくる力。解除したときの痛みを今は忘れておいて、力いっぱいボールを投げた。

 

(多分、500くらいだろ)

 

 大体の飛ぶ距離にあたりをつけつつ投げたボールは、意外にも俺が思っていたよりも伸びていき、出た記録は。

 

「678.4」

 

「……ほえー」

 

 限界を知るってこういうことか。なるほど。どうやら俺は身体を鍛えれば鍛えるほど上限解放した時の力の伸びが増すらしい。悪い見方をすれば、鍛えれば鍛えるほどまた自分のできることを見直さなければならないってことだけど。

 

「やっとヒーローらしい記録出たな!」

 

「まぁこんなもんよ。こっからは全部ヒーローらしい記録だすからよろしく」

 

「俺よりはザコ」

 

「ぷぅー」

 

 恐らく言い返すよりもムカつくであろう返しをすると、本気パンチが飛んできた。やめとけその喧嘩っ早いの。

 

「お、次はあの緑の子か」

 

「無個性のザコだからどうせ除籍だ除籍」

 

「無個性?君は入試時に彼が何をしたのか知らないのか?」

 

「あ?」

 

「え、普通に個性持ちじゃねぇの?」

 

 緑の子を無個性だと言い張る爆豪に聞くと、「無個性に決まってんだろ」と返ってきた。いや、お前の中で決まってることなんか知らねぇよ。

 

「発動型で反動がデカいから今まで個性使ってなかったんだと思ってたけど、マジの無個性?流石にあの試験を無個性で乗り切るのは無理あると思うぞ」

 

「セコイことしたんだろ」

 

「いや、彼は入試時に0ポイント敵を倒したんだ!」

 

 爆豪の「は?」と俺の「え?」が重なった時。緑の子がボールを投げた。しかし、0ポイント敵を破壊したらしい緑の子が投げたボールは46mという何の変哲もない記録に終わる。個性使ってなくね?出し惜しみ?

 

「個性を消した」

 

 個性を消した?

 

「そうか、あのゴーグル……視ただけで個性を消せる、抹消ヒーローイレイザーヘッド!!」

 

「そうなんだ」

 

「恩人じゃなかったのか?」

 

 いや、恩人だけど最初以外はほとんど話してるだけだったし。そういやあの布使うこと以外何も知らなかったな。てっきりあれが個性なのかと。

 

「つか、個性消したってことはやっぱり何かしらの個性は持ってるんだろ」

 

「……」

 

 黙ってしまった。何か思うところがあるのだろうか。

 

 恐らく、相澤先生が個性を消したのならやはり反動つきの個性で、しかもデカい反動なのだろう。そうじゃなきゃ個性を消す理由がない。俺の個性は消されてないし、これは許容範囲内の反動だからだと考えるとつじつまが合う。多分腕一本くらい犠牲にしようとしていたんじゃないか?

 

 あいつが俺が思っている通りの個性なら、腕じゃなくて指にすればいいのにと思ったが、もしかしてその辺りの調整ができないのだろうか。俺も脳の回転、感覚、筋力のどれか一つを強化、という程度ならできるが、まだ身体の部分強化はできないし。

 

「お、投げるぞ」

 

「興味ねぇわ」

 

 言いつつじっと見つめているので説得力がまったくない。

 

 そして。

 

 700m以上飛んだボールを見て、めちゃくちゃびっくりしているから尚更説得力がない。

 

「どーいうことだデク!ワケを言えコラテメェ!!」

 

「行っちゃったよ」

 

 ぶるぶると体を震わせていたので「あ、キレてるな」と思ったがまさか本当にキレているとは。全然どうでもよくないじゃん。

 

「何かややこしそうだなあいつら」

 

「爆豪がややこしいなんて今更だろ」

 

 心配するように爆豪たちを見る切島に軽く返した。あぁいうのは当人同士で解決する問題だろ。どんな問題か知らんけど。

 

 

 

 

 

 

 結局、結果は9位だった。個性を使ってから盛り返したものの、それまでの差が埋められずといったところ。ちなみに最下位除籍は嘘だったらしいが、見込みナシって思ったら絶対除籍したんだろうなと個人的には思ってる。

 

 個性把握テストが終わって、今日は解散。爆豪と帰ろうと思ったがめちゃくちゃ機嫌が悪そうなので断念し、相澤先生のところへ行くことにした。久しぶりだから挨拶くらいはしておかなければ。

 

「職員室……」

 

 地図を頼りにたどり着いたそこを前にすると、少し緊張してくる。ほら、学生って職員室入るのすごく緊張しない?俺だけ?多分一定数はいると思う。

 とりあえず落ち着くために深呼吸。あと体の激痛を和らげるためにも。結構普通に歩いてきたが、体が痛くないというわけではない。普通に痛い。

 

 深呼吸を終えて、いざ扉を開こうと職員室のドアに手をかけたその時。

 

「何してるんだ?」

 

「相澤さん」

 

「先生だ」

 

 いつの間にきていたのか、相澤さん、先生が俺の後ろにぬぼーっと立っていた。

 

「いえ、お久しぶりですので相澤先生に挨拶をと」

 

「必要ない。俺には仕事があるからまっすぐ家に帰れ」

 

「冷たくないです?」

 

 言いつつ、これが相澤先生だとうんうん頷く。頷いている俺をじとっとした目で見てくるのも相澤先生らしい。

 

「じゃあ帰ります。ちょっと挨拶をしておきたかっただけなので」

 

「おう、帰れ帰れ。その体休めないとダメだろ」

 

 普通にしていたつもりだったがバレていた。先生をやっているとそこら辺の目も養われるのだろうか。ちょっとカッコいい。「お前怪我してるだろ」って一生に一度は言ってみたい。

 

「では、失礼します。明日からよろしくお願いしますということで」

 

「あぁ」

 

 まったく不愛想な人である。爆豪とはまた違ったベクトルで。……俺変な人に懐きすぎじゃない?

 

「……久知」

 

「はい?」

 

 頭を下げてから帰ろうと歩いていると、相澤先生に呼び止められた。何だろうか。除籍とか言われたら泣く自信がある。

 

 相澤先生は職員室のドアに手をかげながら空いた手で似合わないOKサインを作り、

 

「個性、頑張ってるな。だが満足はするなよ」

 

 とだけ言って、職員室に入っていった。

 

 うん。除籍とか言われなくても泣くわこれ。


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