「やーん可愛い!若頭さん、エリちゃん持って帰ってもいいですか?」
「……」
「悪い、オーバーホール。好き勝手させちまったのは俺の責任だ」
死穢八斎會の本拠地に招かれ、加わることが決定しているトガを連れてきたのだが、気づけばトガはいなくなり、かと思えば小さい女の子を連れて戻ってきた。その時のオーバーホールの形相はとんでもないものだったが、しばらくすると諦めたようにため息を吐いた。わかる。めんどくさいよな。
「……こいつをうちに入れるのが不安になってきた」
「俺も毎日不安に思ってる。結果大丈夫だったから、まぁ気にするな」
困惑する子ども……エリを膝の上に乗せて手を握り、呑気に遊ぶトガを見て頭を抱えるオーバーホール。有能だからとトガを死穢八斎會によこすのは賛成していたが、今になって不安になってきたらしい。トガが想くんにしか変身できないことは言わない方がいいだろう。言ってしまえばトガはいらないと言われるに違いない。想くんに変身できるのも十分強いのだが。
オーバーホールは「まぁ、いい」とどう見てもよくなさそうな表情で吐き捨てると、トガを見ないようにでもしているのか俺を睨みつけた。
「で、トガ以外は誰を寄越してくれるんだ?俺としてはトゥワイス、黒霧はほしいところだが」
「トゥワイスはいいが、黒霧はダメだ。代わりにコンプレスかマグネはどうだ?」
黒霧は今少々忙しい。そうでなくても有能なやつだ。オーバーホールに渡すには惜しい。トガとトゥワイスが惜しくない、というわけではない。ただ単純に、客観的に見た時の重要度の話だ。それに、こいつらなら適当に仕事をこなして適当に帰ってくるだろう。
「……マグネ、だな」
「コンプレスがくると大事なもんが盗まれるかもしれないからな」
オーバーホールが考えているであろうことを言い当てると、ただでさえ鋭かった眼光を余計に鋭くした。今のは「俺が何か狙ってますよ」って言ってるようなものだったからな。狙ってるんだけど。
トガには適度に死穢八斎會を探って定期連絡を頼んでおり、トガ以外のやつらにも頼んである。死穢八斎會に行ったやつは十中八九監視されるだろうが、バレたらバレたで黒霧にゴーサインだ。本当に便利すぎる。
「まぁ、利用し合う関係がちょうどいいか。お前らが無償で動くやつらだとも思えん」
「そりゃあな。そんなボランティア精神があるなら敵なんてやってない」
「子どもの面倒を見るボランティアはやってると思っていたが……」
「それについては目を瞑ってくれ」
俺もできれば瞑りたいさ。と言うオーバーホールに、俺は深く頷いた。
週末!
「強くなったなぁ二人とも!」
「エグイ……」
「職場体験の時よりきついっス……」
インターン初日。父さんの事務所を訪れると、「よし!戦闘訓練だ!」とトレーニングルーム2に連れてこられ、今しがたボコボコにされた。職場体験の頃より強くなったはずなのに夜嵐と一緒に一瞬で捻り潰され、少々自信をなくしているところである。
父さんは地面に倒れている俺たちの前に立って満足そうに頷いているが、俺たちの攻撃をすべて受け止めた上でほぼ無傷なのだから、強くなったなぁと言われても煽っているようにしか聞こえない。……いや、父さんがおかしいんだと思うようにしよう。
「話には聞いていたが、本当に『玄岩』を使えるとはな。しかも俺と違って回復もできるときた。こりゃあ超えられる日も近いかもなぁ!」
「流石っス!俺も負けないぞ!」
「レップウも個性の使い方がうまくなった!繊細な操作、更に相手の嫌がる行動、戦闘技術が大幅に向上している。俺が俺じゃなかったら危なかった!」
「自慢かよ……」
ゆっくり起き上がりながら悪態をつくと、父さんは歯を見せて笑った。どうやら自慢だったらしい。まぁ、自慢してもいいくらいすごい個性……というか、強さだけど。父さんがここまで戦えるのは努力の結果。すごい個性なんて言葉で片づけていいものじゃない。
「いやしかし、素晴らしい成長スピードだが俺も負けていない!一、二か月の入院は覚悟していたが、まさかこうも早く退院できるとはな。成長している証拠だ」
「それ以上強くなるって、もうオールマイトみたいなもんじゃん」
「ノーリミットがNo.1っスか!……!」
「似合わないって思うならハッキリ言ってやれ」
「ハッハッハ!俺自身もそう思うから別に構わん!」
俺も父さんがNo.1になるところはあまり想像できない。地域に密着したヒーローだからというのもあるが、そこまで地位にこだわりがあるわけでもなく、実際世間にノーリミットを呼ぶ声があるのに対し、父さんは地域から出ていない。俺なら名声がほしくてバンバン出ちゃうのに。
「そういえばノーリミットってなんでこの地域だけで活動してるんスか?そんなに強いのにもったいないっスよ!」
「ふむ、なんで、か」
聞くもんでもないだろうと思っていると、いつの間にか夜嵐が聞いてしまっていた。本当に素直というか、まっすぐなやつだな。でもこういうやつが上の人に好かれるんだろう。俺も可愛がってほしい。
聞かれた父さんは腕を組んで悩み、地面に座り込んでいる俺を見た。そしてまた「うーん」と悩み始める。夜嵐ほどとはいかなくても結構ストレートな性格をしている父さんがここまで悩むとは、何かすごい理由でもあるのだろうか。少し期待して答えを待っていると、父さんは「よし」と頷いた。
「ヒーローになったときの身の振り方にも関係することだからな。話しておこう」
言って、父さんは座り込んだ。夜嵐もそれに合わせて体を起こし、期待の眼差しで父さんを見ている。まるでヒーローを見る子どものようだ。いや、ヒーローを見る子どもなんだけども。
「まず、俺がこの地域から出ていない理由だが……特にない」
「え?」
「気づいたらそうなっていた、と言うべきか。俺は自分のことをそこそこ強いと思っているが、多くの人を救えるほど器用なわけではない。救えるかどうかわからない人より、確実に救える人を優先したというわけだな。それと……」
父さんは俺を見て、男らしく笑った。
「あまり忙しくなると家族の顔が見れなくなるからな!」
「恥ずかしっ」
「なんでだ!スゲーいいお父さんじゃないっスか!」
いいお父さんだけど、それを聞くこと自体恥ずかしいのに夜嵐の前でってのが余計に恥ずかしい。というか、ヒーローがそれでいいのか。何か、一般市民より家族を優先してしまっているような気がする。ヒーローなら私情を挟むのはよくないのではないだろうか。
「家族も一般市民だからな!俺が守らねば!」
俺が首を傾げていたからか、父さんが俺の心を読み取って答えてくれた。時々こういうことをする父さんを不思議に思ってなんでそんなことができるのか聞いた時、「愛だ!」と言われ、以降気にしないようにしている。案外、父さんの個性の隠された能力的なものかもしれない。察する能力の限界突破みたいな?無理やりすぎるか。
まぁ、俺も家族がいればそっちを優先するだろうからあまり強くは言えない。というか、ほとんどのヒーローがそうじゃないか?エンデヴァーですら家族を優先するだろう。何か仲悪そうだけど、轟はインターンでエンデヴァーのところに行ったらしいし、思ったよりは悪くないのかもしれない。
「で、だ。俺が地域を出ない理由を話しただけでは勉強にならんから、ヒーローをする理由について話してみるか」
「ヒーローをする理由?」
聞くと、笑顔のまま頷いた。
「それぞれヒーローになる理由はあると思う。これをしたいから、こうなりたいから。ただ、なぜそれをするのか。なぜそれをしたいのか。それを考えてみるのがいいかもしれんな。俺の場合は、家族を守るためだな」
また恥ずかしいことを言うのだろうか。他人にとっては美しいものに聞こえるかもしれないが、身内にとっては恥ずかしいものでしかない。カッコいいとは思うけど、思うけど!
「名をあげすぎると家族に危険が及ぶ。そして危険に晒された家族を守るためには、あまり手を広げるべきじゃない。すぐに駆け付けられないからな。だから地域に密着し、実力をじわじわ伸ばしている。伸ばしたからと言って地域密着をやめるわけではないがな」
「みんなのヒーローっていうより家族のヒーローって感じっスね!」
「まァな!神野の一件も想……=ピースが攫われたからで、家族に関係しないなら行ってなかった……はずだが、アレを放置して家族が危険に晒されるならやはり行っていたかもな」
実際、神野での父さんの働きはかなりのものだった。自分が勝つのではなく守ることに徹し、最後は決死の限界突破を敵の動きを封じることに使った。普通、決死の限界突破をしたらその力で敵を倒そうとするのに、オールマイトが勝つことを信じて。他力本願ともいうが、あまりできることではない。人間、自分の利益になることが目の前にあれば手を伸ばしてしまうものだ。大物敵を倒したともなれば、オールマイト級の名声が手に入るだろう。
父さんには、その力があった。それなのに守りに徹した。口では家族優先みたいなことを言っているが、俺にとっては立派なヒーローで、目標である。恥ずかしいから言わないけど。
「自分の行動が正しいのか、間違っているのか。そう悩んだときは自分がヒーローを志した理由を考えてみるといい。自分の芯がしっかりあれば立派なヒーローだ。別に大勢を救えなくてもいい。誰かにとってのヒーローになれればな」
後半のは個人的な意見だ、と断りを入れてサムズアップ。なんでこの人がランキング上位にいないんだろう。俺めちゃくちゃファンなのに。
「ノーリミットカッケー!一生ついて行きまス!」
「ハッハッハ!ならもう一度訓練だ!その後飯!その後にパトロール!行くぞ!」
「ハイっス!」
「ちょ、待てって!」
いきなり戦闘態勢に入った二人を見て、慌てて個性を使う。いきなり上限解放60。こうでもしないと父さんと夜嵐についていけない。恐らく、俺は現時点でこの中じゃ一番弱いから。
数分後、俺たちは蹂躙されてまた地面に倒れ伏していた。強すぎるんだよチクショウ。