俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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白黒つける?

 今日はインターンに呼ばれず、普通に登校する日。度重なるトレーニングと量のおかしい飯のせいでぐちゃぐちゃになった体を引きずって、なんとか一日を過ごす。今日ほど疲労がたまっていても動ける個性でよかったと思った日はない。そのおかげで学校での訓練も乗り越えることができた。同じくインターンに行っているらしい緑谷はどこか集中できていない様子だったが……まぁ、あいつもあいつで何かあるんだろう。

 

「切島は関西だっけ?」

 

「クソ根暗先輩のインターン先に行ってるんだとよ」

 

 共同スペースのソファに座ってインターンの体験交換会という名の雑談をする。クソ根暗先輩……天喰さんのことか。こいつ先輩にも容赦ねぇのな。あの人は一応雄英ビッグ3なのに……とはいっても爆豪からすればいずれ自分の下になる人間なので、総じてクソなのだろう。

 

 爆豪はベストジーニストのところに行っているらしく、それを聞いた時に意外だと思った。職場体験で得たコネクションを使うというなら正しいが、あんな髪型にされたところへまた行くとは思えなかったのだ。この前さらっとなんでベストジーニストのところに?と聞いた時は「ただ強ぇだけじゃダメだからだ」って言ってたけど、アレどういう意味だろう。爆豪はポエマーにでもなってしまったのだろうか?

 

「あーあーお前らまた俺と実力差つける気かよ!俺も行きてぇなインターン!」

 

「行きゃいいじゃねぇか」

 

「オイ爆豪。上鳴の学力で両立できるわけねぇだろ」

 

「両立できねぇってごちゃごちゃ言わずに、すンだよ」

 

 上鳴はうぐっ、と言葉を詰まらせた。上鳴もわかっているんだろう。インターンに行けばかなりの経験値が貰えるし、行けるなら行くべきだと。ただ、少し頭がよろしくないので学業との両立が厳しい。別で補習してくれるとは言っても、ただでさえ補習レベルの学力だ。無理だと思っても仕方ない。

 

 しかし、爆豪の言うこともわかる。できないって言ってやらないんじゃなくて、とりあえずやれ。やらずに文句言うのが気に入らないんだろうな。多分。

 

「これでも週末に予習会とかやってんの!でも無理なの!」

 

「お前ならできんだろ」

 

「オイ久知!お前だな!爆豪を前向きなことしか言わないようにさせたやつは!あの頃のクソみたいな爆豪を返せ!」

 

「言い方は前のが悪かったが、元から結構前向きだっただろ」

 

 俺も今の爆豪にはなんとなく違和感があるが、きっとインターンで疲れているか、思うところでもあったんだろう。それか、上鳴の相手がめんどくさいから適当に喋っているかだ。だとしたら無視しているだろうから、多分それはない。

 

 俺がインターンに行っていて参加していなかった予習会は、八百万が教えてくれるらしい。確か期末のときも勉強会的なことをやっていた記憶があるから、それくらい八百万は教えるのが上手なんだろう。人望も厚いし、爆豪とはえらい違いだ。上鳴はその予習会に参加してなお無理なようだが、きっと普段の授業を真面目に受けていないからだろう。予習もして、普段の授業も真面目に受けていれば勉強の方は問題ないと思う。

 

「俺は学校の自主トレで頑張っからいーの!」

 

「そうか、頑張れ。いくらやっても俺たちのがすごくなるだろうけど」

 

「まずはアホになんのを克服しろや」

 

「ほんと痛いとこついてくるなぁ!?」

 

 相澤先生も痛いところはついていけって言ってたから、爆豪はそれを実践してるだけだ。優等生で大変よろしい。上鳴は「もういいもん!」と気色悪い拗ね方をしてどこかへ行ってしまったが。爆豪にあとで謝っておくように言っても無視されてしまったため、この辺りはあまり変わっていないようである。

 

「おにーさん!隣いい?」

 

「キャバ嬢かよ」

 

 上鳴が座っていたところに、芦戸と耳郎が新しく座った。華があって大変嬉しいが、お風呂上りに隣に座るのはやめてほしい。俺は健全な男子高校生であって、同性愛者でもなく、普通に女の子が好きなんだ。無警戒が過ぎる。

 

「ちょっとインターンのこと聞きたくてさ」

 

「そーそー!二人ともインターン行ってんでしょ?聞かせて!」

 

「私もお聞かせ願えませんでしょうか?」

 

 インターンのことを聞かれてどうしようかなと悩んでいると、八百万お嬢様も合流なされた。これは逃げられないなと思って爆豪を見ると、何か立ち上がろうとしていたので急いで腕を掴み、ソファに座らせた。

 

「っんどくせぇんだよ!気になんならテメェで行けや!」

 

「まーまー。実際行ってるやつのこと聞いて判断したいのかもしんねぇし」

 

「知るか!それならテメェがイチャイチャやっときゃいいだろ!」

 

「あ、もしかしてインターンのこと話したくないとか?」

 

「……!」

 

「わっかりやす」

 

 爆豪の性格から考えると、恐らくいいようにやられているのだろう。ベストジーニストは上位ランクのヒーロー。敵退治、救助、その他どれをとってもすごい人だ。いくら爆豪とはいえ、勝てるところはほとんどないはず。それを教えるのが嫌だから、いきなり立ち上がって部屋に戻ろうとしたってところか。

 

「考えてもみろ。俺が一人になって女の子と喋っているところをあのエロブドウに見られたらめんどくさくなるに決まってんだろ?俺を助けると思って!」

 

「誰もテメェのことなんか意識してねぇだろ!」

 

「ひどい……そうなんだけど……」

 

「確かに!イケメンだけどねぇ」

 

「友だちって感じだし」

 

「すごい方ですから、意識はしていますわ!」

 

「ヤオモモ、ちょっと違う」

 

 可愛らしく首を傾げるお嬢さまは置いといて、どうやら俺は激烈にモテないらしい。俺が好きな子は被身子だからいいんだとは思っていても、やはりそこはモテたいと思ってしまうのが男の子だ。……普段の言動と行動をどうにかすればもしかしたらモテるのでは?ほら、芦戸もイケメンだって言ってくれたし、耳郎も友だち関係から恋に発展するタイプっぽいし、八百万は知らん。

 

 まぁ俺がモテるのは天地がひっくり返ってもありえない。なぜなら俺は被身子一筋だから、女の子が遠慮してしまうかだ。ふっ、決まったぜ。

 

「……」

 

「どったの?久知」

 

「死にたくなった」

 

 一人で恥ずかしいことを考えてむなしくなり、頭を抱える。心配してくれる八百万に「久知はいつもこんなんでしょ」と言った耳郎は覚えてろ。今度仲良さげな上鳴との根も葉もない噂を広めてやる。と思ったけどそんなことしたら殺されちゃうからやめておこう。俺は冷静な男である。

 

「で、インターン何してんの?今日いつもより疲れてたみたいだけど」

 

 耳郎からの質問を聞いて、まず爆豪を見る。そっぽを向いているので、答える気がないみたいだ。爆豪が答えないならと、仕方なく俺が答える。

 

「朝から行って、父さんと戦闘訓練してちょっと休憩して戦闘訓練して、大量のおかずとどんぶり三杯のご飯を食べて、パトロール行って敵退治して……パトロール終わったらまた戦闘訓練して、いらねぇっつってんのにまた飯食わされて終わり」

 

「ひえぇスパルタ……B組の夜嵐も一緒に行ってたよね?」

 

「あぁ。流石のアイツも帰る頃には笑顔がなくなってたわ。あいつ今日大丈夫だったのか?俺は個性上疲労は平気……じゃないけど平気みたいなもんだが」

 

 少し心配だ。俺は疲労を次の日に持ち越してもそれを個性に使えるからまだいいが、夜嵐は学校生活に支障が出ている可能性がある。パトロールで敵退治も参加できるようになったため、職場体験の頃よりキツイ。

 

「そのような状態で敵退治をして平気なのですか?危険としか思えないのですが……」

 

「プロに甘えられるうちに極限状態での敵退治を経験しておけ、だとよ。とことんスパルタだわあの人。雄英より断然厳しい」

 

「なんだかんだ、久知が一番成長早そうだね」

 

「アァ!?俺のが強くなるに決まってんだろが耳!」

 

「耳って……」

 

 確かに耳郎の耳は特徴的だけど、耳はないだろ耳は。丸くなったかと思えばそういうところは変わらないんだな。……いや、爆豪がちゃんとし始めたらモテそうだからこのままでいい気がする。だって暴言吐かなくなったらただのイケメンの才能マンじゃん。俺が何においても勝てなくなる。勉強は勝てるか?

 

「つか、強くなるじゃなくてずっと俺のが強ェ!クソヤニが俺より強くなることなんざねぇんだよ!」

 

「そんなこと言ってていざ俺に負けたらめちゃくちゃ恥ずかしくね?」

 

「勝ちゃ勝ちだ!」

 

「そもそも勝負する機会ないんだけどねー」

 

 芦戸、確かに直接勝負する機会はほとんどないかもしれない。だがこいつに言わせっぱなしは俺も我慢ならん。ちゃんと戦って負けたのは体育祭だけで、アレも俺は万全じゃなかったから完全に負けたとは言えない。むしろあの状態で拮抗してたから俺の勝ちともいえる。あれ、俺強い?

 

「……ウチ、偶然聞いちゃったんだけどさ」

 

 言っていいのかどうか悩んでいるのか、俺と爆豪を交互に見て悩んでいる耳郎に、「何をだ?」と聞いてみる。俺と爆豪を交互に見るってことはろくでもないことに違いないが、話を切り出されたら聞かないと気持ち悪い。あの爆豪ですら耳郎の方を見て続きを待っている。

 

 耳郎はコードをくるくると指でいじりながら「確かじゃないんだけど」と言って、

 

「次の全員が揃ったヒーロー基礎学、クラス内でチーム戦やるらしいよ」

 

「殺したらァ!!」

 

「早くも白黒つきそうだなァ!?」

 

 爆豪と額を突き合わせて睨み合う。爆豪とは仲がいいとは思っているが、それとこれとは話が別だ。そのチーム戦で勝って、俺が爆豪より上だってことを証明してやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、ヒーロー基礎学の時間。俺たち1-Aはグランドβに集まっていた。

 

「今日のヒーロー基礎学はチームに分かれての戦闘訓練だ。4人チームが3つ、3人チームが3つ。計6つのチームに分かれる」

 

「チーム分けは相澤くんと私が担当した。3人チームは数的に不利だが、それを覆してこそヒーローだ!」

 

「それぞれこちらで決めた位置からスタートし、戦闘を行ってもらう。戦略は自由。いつもならヒーローと敵という設定を設け、その設定に応じた動きをしてもらうところだが、今回は純粋な戦闘力を見る。体育祭を終え、仮免を取ったお前らが改めて自分の実力を知るチャンスだ。気張れよ」

 

「はい!」

 

「……」

 

「……」

 

「じゃあAチーム!きてくれるかな!」

 

 Aチーム。俺たちのことだ。一人に行こう、と声をかけ、もう一人にも不本意ながら声をかけて先生の所へ向かう。

 

「ンでこいつとチームなんだ!!」

 

「俺が聞きてぇよ!」

 

「俺も聞きてぇよ……」

 

 Aチームは俺、爆豪、峰田の三人。白黒つけるって息巻いてたのに、こりゃねぇよ。


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