俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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戦闘訓練 (1)

 戦闘不能判定はモニタールームにいる相澤先生、オールマイトによって行われる。また、ハンドカフスをかけることでも倒した判定となる。

 

「正直轟と上鳴以外怖くねぇんじゃね?」

 

「怖ェやつなんざいねぇだろ!全員ザコだ、ザコ!」

 

「女子と組めなくてもいいからこいつらと離してくれぇ……」

 

 チームワークが不安過ぎる。一人は全員見下してるし、一人は俺たちと組むのをめちゃくちゃ嫌がってる。なんでそんなに嫌なのかと聞くと、ただ単純に一言「怖い」と返ってきた。クラスメイトを怖がってんじゃねぇよ、ヒーローだろ。

 

 Aチームは俺と爆豪と峰田。Bチームは緑谷と上鳴と耳郎。Cチームは轟と瀬呂と芦戸。Dチームは麗日と蛙吹と口田と青山。Eチームは常闇と障子と飯田と砂藤。Fチームは切島と八百万と尾白と葉隠。注意すべきはBチーム、Cチーム、Dチームくらいか。Bチームは耳郎、Cチームは轟と瀬呂、Dチームは麗日が厄介だ。索敵されるのは言わずもがな、轟は単純な制圧力、瀬呂は拘束力、麗日は触れられたらアウト。ただ一番怖いのはBチーム。耳郎の索敵に、上鳴の放電、ブレインに緑谷。……上鳴と戦っても勝つ自信しかないが、その後がキツイ。

 

「で、どうする?」

 

 今は作戦タイム。5分後に戦闘訓練が開始する。俺としては様子見がいいのだが……。

 

「手当たり次第ぶっ潰す!」

 

「だよなぁ」

 

「お前ら!オイラが弱いってこと忘れんなよ!」

 

 峰田が自分のことを弱いと言っているが、一緒のチームになって助かったと思っている。もぎもぎを引っ付けられたらそれだけで終わりみたいなものだ。ある程度ダメージ、疲労がたまらないと近接しかできない俺は、峰田に速攻をしかけられると案外勝てない可能性もある。

 

「テメェは対敵したら俺らの邪魔ンならねぇくらいに玉投げとけ。そうすりゃ俺らが使ったるわ」

 

「今のは『お前の個性は使えるが、どこに投げれば効果的かってのはお前のが知ってるだろうから任せるぞ』って意味だ。実際、峰田の個性はめちゃくちゃ強ェと思うぞ」

 

 峰田のもぎもぎは拘束力が高く、無視できるものではない。くっつけ方によっては相手の逃げ場を塞ぐこともできるのだ。相手の自由を奪えるというのはそれだけで強い。機動力のない近接型にはかなり有効だろう。

 

「そんなこと言っていざオイラが危なくなっても見捨てる気だろ!」

 

「ンなわけねぇだろ」

 

 卑屈になっている峰田を睨み、爆豪は口角を釣り上げた。

 

「本当に強ェやつは味方も死なせねぇ。3人残って全員ぶっ殺す!いいか、基本的に自分のことは自分でどうにかしろ!無理そうなら助けろ!」

 

「序盤はほとんど役に立たねぇから頼りにしてるぜ」

 

「……あーもう! 爆豪に言われたらやるしかねぇじゃん! いつの間にかいい子ちゃんになっちまってよぉ!」

 

『それじゃあ戦闘訓練開始!』

 

「よし、殺しに行くぞ!」

 

「できれば強いとこ同士潰し合ってほしいよなぁ」

 

「なんで久知はそういう考え方なのに爆豪についていけんだよ!」

 

 そりゃまぁ、爆豪がこの中で現状一番強いし。強いやつを完璧に活かした方が勝率高い。気がする。

 

「クソヤニ!20溜まったら教えろ!」

 

「一応待ってくれんのね」

 

「ったりめぇだろ!20も溜まってねぇテメェは玉より使えねぇ!」

 

「あれ? 今オイラもバカにされた?」

 

「悪いな。流れ弾」

 

 爆豪が空を飛び、俺と峰田が走って街を駆け抜ける。まだ戦闘音が聞こえないことから、どこもぶつかっていないのだろう。耳郎と障子、口田あたりは敵チームの位置を把握していそうだが。

 

「爆豪!空!」

 

「鳥はいねぇ!」

 

 そりゃそうか。開始と同時に口田が鳥を索敵に出したら、自分たちの位置を知らせるようなもんだ。恐らく戦闘が始まった時に飛ばすつもりだろう。それか高く飛ばさずに低空飛行で飛ばしているか。

 

 ……今考えたらEチームも結構厄介だな。爆豪がいるから常闇は怖くないと思ったが、奇襲性能が高すぎる。障子に索敵され、飯田が持ち前のスピードで俺か峰田のどちらかにハンドカフスをかけてしまえばそれで一人脱落だ。唯一の救いはエンジン音が聞こえることだろうか。速さに対応できるかはともかく。

 

「! クソヤニ!」

 

「溜まってる!」

 

「行くぞ! クソ髪ンとこだ!」

 

 切島か。「ラッキースケベできっかな?」とほざいているブドウを掴んで、上限解放20を発動し爆豪を追いかける。峰田には悪いが、爆豪に追いつくには俺が峰田を運ぶしかない。ちょっとの間我慢してくれ。

 

「いきなり掴んだらあぶねぇだろ!」

 

「悪い!そうしねぇと爆豪に追いつけなかった!」

 

 俺の手を離れて背中におんぶする形でよじ登ってきた峰田に謝罪。いきなりじゃなくても掴んだら危ないと思うのだが、そこは気にしないでおこう。

 

 爆豪を追って角を曲がる。すると、数メートル先に切島たちの姿が見えた。八百万のことだからこんな街中には出ずに籠城するのかと思ったが、そうしようとしていた途中だったのだろうか。表情に焦りが見える。

 

「合わせろ!」

 

「はいよ!『針雀!』」

 

 爆豪が空中から攻撃を仕掛ける前に切島たちの足を止めるために『針雀』を放つ。上限解放20程度の威力では切島に防がれてしまうが、向こうには薄い八百万と葉隠がいる。八百万は自分で対応できるとしても、葉隠は守るしかないだろう。

 

「みなさん!作戦通りに!」

 

「おう!」

 

 作戦……?と首を傾げたのも束の間、八百万は上へマトリョーシカを投げた。それと同時に向こうのチームが全員ゴーグルをかける。

 

「峰田! 俺の背中に顔伏せて耳塞いどけ! 爆豪!」

 

「わぁってる!」

 

 俺が声をかける前に、爆豪は既に回避行動に移っていた。俺の予想が正しければ、あのマトリョーシカの中にはスタングレネードのようなものが入っているはず。それに備えて目と耳を塞ぐと、直後強烈な光と音が炸裂した。この間にハンドカフスをかけられるといけないので、一旦向こうのチームから距離をとろうとした、その時。

 

「おわっ!?」

 

 体に何かが絡みつき、そのままこけてしまった。感触的には……網?ネットランチャーか!マズい!

 

「聞こえてっかしんねぇけど、峰田!ちょっと衝撃いくぞ!」

 

 ネットはもがけばもがくほど絡みついていく。そして、ハンドカフスで捕まれば終わりの今そんなごちゃごちゃしてたら負けは確実。瞬時にそう判断して、俺はネットを掴んで瞬間解放20を使い、強引に引きちぎった。すぐにネットから抜け出して、徐々に戻ってきた視界を頼りに向こうのチームを見て、上限解放30を発動。切島と尾白が飛び出していることから、俺たちにハンドカフスをかけるつもりだったのだろう。……溜まっててよかった。

 

「拘束解けた! どうする!」

 

「久知さんは後半になればなるほど強くなります! 同じチームに爆豪さんがいる以上逃げられないと考えれば、まだそれほど溜まっていない今倒すのが最良でしょう!」

 

「っし! 行くぞ尾白!」

 

「あぁ!爆豪が来る前に」

 

「誰が来る前にって!?」

 

 爆音、それとともに、爆豪が八百万と切島、尾白の間に着地した。あれ?俺たちを助けに来たわけじゃないの?

 

「俺ァこいつをすぐぶっ殺すから、テメェらはそいつらとやっとけ!」

 

「了解! あ、峰田。右に玉4、5個くらい投げてくれ」

 

「え? いいけどよ」

 

「!」

 

 峰田が玉を投げ始めたのを見て、切島と尾白が焦り始めた。やっぱりそうか。

 

「きゃっ!」

 

「なんだ今のエロイ声!」

 

「エロくはないだろ」

 

「クッソ! なんで気づいたんだ!」

 

「俺は聴覚も強化されんだよ。つってもギリギリだったわ」

 

 強化して気づいたのは、徐々に近づいてくる足音。鳴らないように気を付けているのだろうが、近くまでくればどれだけ小さい音でも聞こえるため、「あぁ、葉隠か」と理解できた。あとは峰田に玉を投げてもらえば、気づかれないと思って近づいてきていた葉隠に玉があたり、場所がわかるようになるってことだ。できれば足にくっついて身動きがとれなくなってくれればよかったんだが、くっついたのは場所的に腹あたりか。

 

「オイラの玉が葉隠にくっついてる……!? オイ久知、ナイスだな!」

 

「うるせぇ。次は前に3個」

 

「もぎもぎ使いが荒い!」

 

 言いながらもしっかり投げてくれる。峰田の玉の厄介さは全員知っているため、尾白は一瞬足を止めた。が、切島は気にせず走ってくる。なるほど、男らしい。

 

「葉隠! 挟むぞ!」

 

「オッケー切島くん!」

 

「挟む……!?」

 

「いい加減にしろよエロブドウ」

 

 俺まで変に思われるだろうが。

 

 前から切島、遅れて尾白。右から葉隠。葉隠は正直怖くない。確か目くらましができたはずだからそれにさえ気を付けていれば十分だ。問題は、上限解放30で前の二人をさばききれるかどうか。……峰田がいなければ厳しかっただろう。

 

「峰田、降りて切島と尾白を足止めしといてくれ」

 

「は!?」

 

「頼むぞ」

 

 言って、峰田を無理やり降ろして葉隠に向かって走る。峰田から「チクショー!」というやけくそになった声が聞こえるのは、やる気を出してくれているからだろう。

 

「わっ、久知くん!?」

 

「痛いかもしんねぇが、我慢してくれよ」

 

 まず腕を振って、袖の部分を葉隠の腹にくっついている玉にくっつける。そのまま勢いに任せて腕を振り抜くと、葉隠がバランスを崩して倒れこんだ。頭をうたないように葉隠の後頭部があるであろう部分をそっと支えてからハンドカフスを取り出し、手探りで葉隠の手を掴んでからハンドカフスをかける。

 

『葉隠戦闘不能!』

 

「悪い。怪我ないか?」

 

「うっわ、何今の。うわー」

 

 玉にくっついた袖を引きちぎりながら葉隠を気遣うと、頬(だと思う)に手をあててなにやらぶつぶつ呟いていた。もしかして頭打ったか?

 

「オイ久知! もう限界だ!」

 

「今行く!」

 

 葉隠が気になりつつも、泣きながら玉を設置して逃げ回っている峰田を助けに行く。玉はくっつく性質を持っているが、峰田自身を弾く性質も持っている。だから、玉で埋め尽くしてしまえば峰田の独壇場になってもおかしくないのだが、やはり地面にしか設置できない場所では逃げるのに限界があったようだ。膝を畳んで力を籠め、一気に距離を詰める。そのまま勢いを乗せた拳を切島に向かって振るう、が。

 

「おっもいな!」

 

「かったいな!」

 

 即座に反応されて硬化で防がれてしまった。流石。

 

「ガチでやり合うのは体育祭以来だな!」

 

「また俺が勝つけどな」

 

「あの、俺もいるんだけど……」

 

「オイラは無視していいぜ!」

 

 こんな玉だらけの地面なのに無視できないでしょ。


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