切島の硬化と上限解放30ではほぼ互角。速さでこちらに分があり、防御力で切島に分があるくらいか。隙を狙って瞬間解放を使えばひっくり返せるだろうが、この後も戦うことを考えるとあまり使いたくはない。となると、ここは峰田にかかっている。
「うおっ、峰田のもぎもぎ!」
「結構いいタイミングで投げてくるな!」
「いいぞ峰田! けど頭大丈夫か!?」
「言い方には気をつけろよ!」
まだ大丈夫だ!と返した峰田に一つ頷く。上限解放30を発動していても切島と尾白の二人をさばくのは厳しいため、やられそうになった時に峰田が二人に向かって玉を投げてくれる。あの玉を体に引っ付けられると動きが大分制限されるから、二人は避けざるを得ない。この戦闘だけで終わるなら別に引っ付けられてもいいが、この後のことを考えれば峰田の玉を体に引っ付けられるのはかなりのハンデだ。
やっぱり峰田は強い。峰田の玉が地面に散らばって切島と尾白は身動きがとり難そうにしてるし、こうなればどこで踏み込むかもわかりやすくなってくる。俺は尾白が踏み込んで体をしならせた瞬間にその場で踏ん張り、直後振るわれたしっぽを受け止めた。
「峰田!」
「任せろ!」
「まっず!」
しっぽを掴んで動きが止まった尾白に、峰田が玉を投げつける。避けようとしてももう遅い。俺は力を籠めてしっぽを引っ張り、尾白のバランスを崩して回避を妨害した。結果、三個の玉が尾白のしっぽ、胸、脚に引っ付いた。
「オォ!」
「まぁくるよ、な!」
尾白の相手をしている隙をつき、切島が向かってくるのを見て尾白のしっぽから手を離して迎え撃つ。いくら硬いとはいえ、殴ってもダメージがないわけではない。切島の顔を狙って拳を振るうと、切島は読んでいたのか姿勢を低くして潜り込み、そのまま下からアッパー。
「峰田!」
焦りながら無理やり体を捻って避け、峰田を呼ぶ。切島に向かって玉を投げてもらい、それを避けるために切島が一度離れてくれるだろうと考えてのことだったが、切島は怯まずに追撃を仕掛けてきた。
「チッ!」
「覚悟しやがれ!」
「うおー! 久知!」
峰田が焦ったように叫ぶ。このまま殴られたら終わる可能性がある。瞬間解放を使えば切り抜けられるが、今はもう必要ないだろう。
「『
「っ!?」
俺と切島の間を圧縮された爆破が射抜き、思わずよろめいた切島の腕を爆豪が掴んだ。そして、掴んだ手と逆の手を爆破させ、その勢いを利用して切島をぶん回し、玉が設置されてある地面に向かってぶん投げた。
「『
「おおぉぉっ!?」
切島は地面との衝突に備え体を硬化させるが、叩きつけるのが目的ではなく玉に引っ付けて行動不能にさせるのが目的だ。空中で動けない切島は玉を避ける術がなく玉に引っ付いて身動きが取れなくなってしまった。
「クッソ……って、尾白!? オメーなんで」
「爆豪にやられたよ……加勢しようと思ったら後ろからいきなりね」
よく見れば、八百万は気絶している。容赦なしかよ。
「何ちんたらやっとんだカス!二対二でしっかりやられかけてんじゃねぇぞ!」
「まーまー、チームプレイだよチームプレイ。な?」
「そうだ! 二人とも、よくオイラの指示通り動いてくれたな!」
「テメェも肉弾戦クソヤニだけに任せずもっと前出ろや!」
「インファイター三人の中に入るのってめちゃくちゃコエーんだぞ!」
『Fチーム脱落。と、同時に砂藤、口田が脱落だな』
放送を聞いて、爆豪がすぐに飛んでいった。峰田に背中に乗ってもらい、それをすぐに追いかける。ちょっと休んでもいいのに、そんなに戦いたいのか。
「爆豪! オイラもうちょっと人減るの待った方がいいと思うぜ!」
「っるせぇ!」
「理由くらい言ってくれてもいいじゃん……」
俺の背中で峰田が拗ねてしまった。悪いな、爆豪がクソで。でも、戦い続けて勝ちたいって気持ちはわかる。今までの行動が行動だから、爆豪は隠れて勝つわけにはいかないってのもあるし、まだインターンに行って間もないとはいえ、その成果を試したいという気持ちもある。爆豪は前より空中での移動速度が速くなっているような気もするから、少しずつ成長していってるんだろう。
「浮いてる! 行くぞ!」
「砂藤が浮いてるのが見えたから、あそこでDチームとEチームが戦ってるはずだ、乱入するぞ! ってことらしい」
「スゲーな久知!」
俺も浮いてる砂藤が見えていなかったら何言ってんだってなっていた。爆豪は好き勝手喋ってこっちが混乱していたら「わかれや!」って言うタイプだから、こっちが苦労する。幸い爆豪と一緒にいる時間が長いからなんとなくわかるが、もうちょっとわかりやすくしてほしい。峰田が置いてけぼりになりかねない。
「俺があいつらの足止める!その間に何人かぶっ殺せ!」
「はいよ! 峰田、あいつらの周りに玉投げてくれ!」
「いいけど、もっと近づいてくれよ!」
一足早く上空から近づいていた爆豪が気づかれたようだが、気づかれる一瞬前に爆豪が空からDチームとEチームに向かって圧縮された無数の爆破を放った。暴力的な雨に曝された2チームがその対処に追われている間に一気に近づいて、
「『風虎』!」
峰田が玉を2チームの周りに投げたのと同時に2チームの間を割くように『風虎』を放つ。爆破の雨を貫くように走る突風は2チームを吹き飛ばし、麗日の個性で浮いた蛙吹と、その蛙吹の舌で玉を避けた麗日、そもそも風圧をものともしなかった障子、無理やり方向転換した飯田、黒影によって回避した常闇以外……つまり青山だけを峰田の玉で拘束することに成功した。
『青山脱落』
「クソヤニ! 『風虎』使って一人だけってどういうこった!」
「俺が聞きてぇよ!」
思ったよりも対処されてしまった。おかげで制限時間が短縮されて残り強化時間5分。そして腕にダメージ。これで青山一人は割に合わん。
「うわー、爆豪くんと久知くんのチームか! どうする? 梅雨ちゃん」
「離脱しても追ってきそうね。青山ちゃんもやられちゃったし、ここは……」
「麗日、蛙吹」
「なに?」
「梅雨ちゃんと呼んで」
「ここは、協力しないか」
爆豪が俺の隣に下りて、めちゃくちゃ好戦的な笑みを浮かべている。楽しそうなことになりそうだからだろう。最初の奇襲が失敗に終わった以上、俺たちも作戦立てなきゃいけないから一回こっちにきたってのもあるんだろうけど。
「正直、三つ巴の状態で勝てる相手ではない。俺は爆豪と相性が悪いしな」
「できれば俺たちの力だけで勝ちたいが……ルール上は問題ないはず! どうだろうか!」
「オイ爆豪、久知。なんかマズくね?」
「上等ォ」
「何がマズいって、爆豪が乗り気なのがマズいんだよな」
蛙吹を下ろすために麗日が個性を解除し、空から落ちてきた砂藤を慌てながら受け止めている障子を見てため息を吐く。今のままいけば3対5か。常闇は爆豪が相手すれば問題ないが、素直に相手させてくれるかどうかだ。
「……えぇ、私たちも二人はキツイと思っていたところなの」
「んじゃ、協力しよっか!」
「ザコが組んで勝てると思ってんじゃねぇぞ! 作戦、"俺に合わせろ"だ!」
「随分な策士だな、オイ」
「やっぱりこのチームやだ!!」
どんだけ嘆いてもチームは変わらないんだから、もう諦めろ。俺は諦めてる。
さて、どう考えても厄介なのは麗日だ。触られた瞬間終わりなんてチートだろ、チート。飯田も厄介だが、猛スピードからのハンドカフスに気を付けていれば問題ない。問題は爆豪が誰を相手にするか、だが。
「行くぞ!」
「お」
爆豪は爆破で麗日を狙いに行った。まずは常闇から倒すと思っていたから意外だ。それくらい麗日を警戒しているということだろうか。
「『
身構える麗日と蛙吹に向かって不意打ち気味の目くらまし。それに合わせて、爆豪たちと常闇たちを分断するように『風虎』。
「くっ!?」
「そりゃあ助けに、行くよな!」
「久知……!」
腕が死ぬ!しかも制限時間はもうあと1分……、いや、もしかしたら1分もないかもしれない。ここで爆豪が麗日と蛙吹を仕留めてくれなければきつくな、る……。
「ヒュー」
「ちったぁ役に立つじゃねぇか」
『Dチーム脱落』
麗日と蛙吹がハンドカフスで仲良くつながれているのを見て、思わず口笛を吹いてしまった。行動が迅速過ぎる。こいつ才能ある才能あるとは思ってたけど、ここまで強かったか?白黒つけてやるって息巻いてたが、同じチームでよかったかもしれない。強すぎる。
「協力しても意味なかったなぁ!?」
「完全に敵役だぜコレ」
「二人とも似合いそうだしな」
「誰がだ! 殺すぞコラ!」
お前がだろ。
「ワリィが、一瞬で終わらせっぞ」
「……そう簡単に負けるつもりはない」
話している間にこっそり上限解放40を発動。これで最終的に60を発動して回復するしかなくなった。このまま制限時間が終わればただでさえひどい反動が重ね掛けで死ぬほどひどくなる。……まぁ、この後恐らく緑谷と轟と戦わなきゃいけないから、上限解放60でちょうどいいくらいだろう。
「んじゃまぁ、死ね!」
『Eチーム脱落』
「また……!」
「早いってコレ! 本当に逃げ切れんのか?」
「耳郎さんの個性があれば逃げ切れるはず。音を消す個性の人はいないはずだから……唯一心配だった麗日さんに浮いて奇襲されるっていう心配もなくなったし、あとは待ちでいいと思う」
放送を聞く限り、あと残っているのはAチーム、Bチーム、Cチームの3チーム。僕たちは戦闘訓練が始まると、すぐに大通りへ出られるような路地裏に入り、耳郎さんの索敵で他のチームから逃げていた。その理由は、上鳴くんにある。
上鳴くんの個性は強いけど、許容上限をオーバーするとアホになってしまう。そうなるともう僕と耳郎さんの二人チームになったのと同じだ。となると、できるだけ交戦を避けて上鳴くんがアホになっても勝ちきれるような状況まで待った方がいい。耳郎さんの索敵で相手の位置を割り出し、奇襲で上鳴くんの放電。動きを止めている間にハンドカフスをかけるのが一番だ。
「……! やり合い始めた!」
「よし、案内してくれる?」
「ひぃー、こえぇなぁ。残ってんのって爆豪と轟だろ? 俺の放電通用すんのかなぁ」
……通用する、と信じたい。自信なさげな上鳴くんを鼓舞しつつ、僕たちは戦っている場所へと向かった。