俺はずっと好きでいる   作:酉柄レイム

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戦闘訓練 (4)

「……って、あれ? うっそ、一人も倒せてねぇじゃん」

 

 許容上限を超えていないのか、アホ面になっていない上鳴が俺たちを見て首を傾げている。

 

 俺は無理やり体を捻って峰田に飛びつくと、そのまま『玄岩』で俺と峰田を覆って放電を防いだ。誰にも言っていないが『玄岩』は攻撃を防ぐとその分消耗するから、制限時間も短くなる。轟との戦闘とさっきの放電で大分減った。

 

「随分ご機嫌な挨拶だな。ぶっ飛ばしてやろうか?」

 

「待てって、コエーな!」

 

「いけ、久知!オイラは後ろで応援してるぞ!」

 

 お前も戦えと言いたいところだが、上鳴と戦うなら峰田は邪魔になってしまう。上鳴が放電する度に峰田を庇っていたらまともに戦えない。ここは下がっておいてもらった方がいいだろう。峰田の方を見てそれを伝えようとすると、突然炎の波が俺たちに向かってきた。声を出して驚く暇もなく、俺は峰田を掴んで上鳴に飛びつき、上鳴も掴んで炎の波から逃げる。一瞬してから、炎の波は俺たちがさっきまでいた場所を飲み込んでいった。

 

「あっぶね! 何してくれてんだ轟!」

 

「ワリィ! 助かったぜ久知!」

 

「二度も助けてくれるなんて、オイラたちの友情は本物だったんだな!」

 

 上鳴と峰田と無事を確認しあってから一息ついている暇もなく、目の前に巨大な氷の壁が現れた。俺たちを凍らせるためのものかと思ったが氷は俺たちまで伸びてくることはなく、そこにそびえたつのみ。しばらくしてから、分断されたことに気づいた。

 

「まさか、爆豪とサシでやるつもりか!?」

 

「ウソだろ! クソ、すぐに助けにいかねぇと!」

 

「オイラは足手まといになるからここで待っとくぜ!」

 

「いや、上鳴。なんか勝手に寝返ってるけど、アンタはウチらのチームだからね?」

 

 上鳴たちと爆豪の加勢にいく算段を立てていると、耳郎の声。見ると、腰に手を当てて呆れた様子の耳郎と、苦笑している緑谷がいた。

 

「はっ、しまった! 助けてもらったからつい仲間って勘違いしちまってた!」

 

「おわっ、なんで助けてんだ俺!」

 

「間抜け! 上鳴を見殺しにすりゃ一人減ってたのによ!」

 

「ひどくね!?」

 

「……はぁ」

 

「ま、まぁまぁ耳郎さん」

 

 緑谷が耳郎をなだめている。仕留めに来たらかわされて、なぜか自分のチームの人間が敵と仲良くしていたんだからそりゃため息の一つも吐きたくなるだろう。俺も上鳴を見殺しにしなかったことに対してため息を吐きたい。

 

「んじゃとりあえず殴っとくか」

 

「うおっ、あぶねっ!?」

 

 敵だと決まればぶっ飛ばす。まだ俺の近くでぼーっとしていた上鳴に殴りかかると、間一髪のところで避けられてしまった。そのまま逃げだした上鳴を追おうとすると、緑谷がこっちに向かってきているのが見えたので防御の構えをとり、そのまま緑谷の一撃を受け止めた。

 

「今の俺に肉弾戦たぁ、いい度胸だな!」

 

「ぐっ、硬い!」

 

 俺は緑谷を受け止め、そのまま地面に叩きつけようと持ち上げると、緑谷がデコピンを俺に向けているのが見えた。それに構わず、一気に叩きつけ、

 

「チッ!」

 

「あ、惜しい!」

 

 ようとしたところで、上鳴のシューターが飛んできた。アレは上鳴の放電に指向性を持たせるアイテム。くっつけられたら俺が避雷針みたいになっちまうから、避けるしかない。そして、恐らく。

 

「『ハートビートファズ!』」

 

「そうくるよな! 峰田!」

 

「ちゃんと指示してくんなきゃわかんねぇこともあるんだぜ!?」

 

 言いながらも、峰田は俺が思った通りに動いてくれた。

 

 俺が上鳴のシューターを避けてバランスを崩した瞬間、耳郎がまた地面を崩してくるのは読めていた。そうすることによって俺に大きな隙ができ、緑谷が俺を仕留めることができる。緑谷たちには作戦、行動指針を決める時間が十分あった。だから、すべての攻撃が連携につながると考えた方が自然だろう。

 

 そして俺はまず緑谷の接近を封じるため、峰田にもぎもぎを緑谷へ投げてもらうよう頼んだ。といってもしっかり口にしてはいないがそれはちゃんと伝わって、峰田は緑谷へ複数のもぎもぎを投げてくれた。その間に態勢を立て直して上鳴と耳郎を倒そうとしたその時、

 

「またシューターか!」

 

「また当たんねぇのか!」

 

 俺に向かってシューターが飛んできた。いきなり飛んできたそれを無理やり避けてしまったため、不安定な地面に耐えることができず軽くこけてしまう。マズい、と思った時にはまた俺に向かってシューターが飛ばされていた。引っ付けられてはマズいと『玄岩』でシューターを落とそうとした瞬間、俺の個性が解けた。

 

 制限時間オーバー。それはまさかのタイミングで激痛とともに訪れた。結構無理したから反動がやばい。すぐに個性を発動しようとしても痛みで脳が追いつかない。

 

 その隙を逃す上鳴ではなかった。俺の個性が解けたのを見た上鳴は即座に走り出し、放電の射程圏内に俺と峰田を収める。

 

「俺さ、結構気にしてたんだぜ。お前らと差が広がるの。俺だけ置いて行かれたみたいでさ」

 

 お前ら、というのは爆豪、切島、俺のことだろう。そこそこ一緒にいたから、自分だけインターンに行ってないことを気にしていたのか。

 

「だから今」

 

 痛みに霞む視界の中で見えたのは、発光する上鳴が曖昧に笑っている姿だった。

 

「正直、どうだ! って思ってる!」

 

 そして、二度目の放電。個性を使えなかった俺にそれを防ぐ術はない。そんな状態で動けたのは、意地としか言いようがないだろう。個性が発動できないながらも、体が動いてくれて助かった。

 

 俺の体には、上鳴につけられたシューターがある。それは放電に指向性を持たせるためのもの。所謂避雷針。だったら、俺が峰田から離れれば少しでも峰田に向かう電気を減らせるはずだ。そう考え、俺は峰田から距離をとるために無様に地面へ飛び込んだ。「久知!」という声が聞こえる。今の俺、ヒーローっぽくね?

 

「ぐっ、があああああ!?」

 

 俺が飛び込んだ一瞬後に、電撃が俺の体を焼いた。入学して間もない頃の戦闘訓練で受けたものとは比にならない。そりゃそうだ。俺が成長したように、上鳴も成長している。でも、俺はどこかで上鳴のことを下に見ていたんだ。だから、上鳴には勝てるなんて甘いことを考えていた。それが今はこの様。

 

 放電が終わり、膝をつく。もう体が限界を迎えているのがわかった。意識を保てているだけでも奇跡だろう。峰田の声が微かに聞こえるから、どうやら俺の行動も無駄じゃなかったみたいだ。ハハ、後で爆豪になんて言われるかな……。

 

「……?」

 

 負けたか、と思い意識を失いかけたその時、俺の後ろから何かが割れる大きな音が聞こえた。それは氷。それから聞こえてきたのは、聞きなれた怒号だった。

 

「なに、死にかけてんだ! テメェはそうなってからが本番だろ!」

 

 爆豪の声。いや、でも爆豪は轟と戦っていたはずで、轟が脱落したっていう放送は流れてなかった。だとしたら、爆豪は。

 

「立てや! 久知!」

 

 言葉とともに、俺の体を赤いエネルギーが覆った。それと同時に『玄岩』で爆豪に迫っていた炎を防ぎ、無理やり足に力を入れて立ち上がり、峰田を倒そうと迫っていた緑谷に肉薄して蹴り飛ばした。

 

「は、はは。冗談だろ? なんであっから立てんだよ」

 

「あぁ、俺はあぁなってからが本番なんだよ」

 

 バチ、と上鳴が放電する態勢になったのを見逃さず、地面を蹴って耳郎の隣に移動。耳郎が俺に気づく前に耳郎を上鳴の方へ押し飛ばすと、二人まとめて地面に倒れ込んだ。

 

「峰田!」

 

「よしきた!」

 

 少し焦げ付いている峰田が俺の意思をくみ取って峰田がもぎもぎをもつれ合っている上鳴と耳郎に向かって投げた。もぎもぎは上鳴と耳郎をくっつけ、戦闘不能に陥れさせる。

 

『上鳴、耳郎、脱落』

 

「上鳴くん、耳郎さん!」

 

「ワリィ緑谷!」

 

「ちょ、もうちょっと離れて!」

 

 密着している上鳴と耳郎を見て、峰田が血涙を流している。そんなに羨ましいと思いつつもぎもぎを投げたんだから大したやつだ。

 

『続いて轟、戦闘不能』

 

「ハッ、ザコが!!」

 

 大きな爆発音とともに轟の戦闘不能が告げられ、つられて爆豪を見るとその手に気絶した轟が握られていた。完全に悪役である。不思議でもなんでもなく似合ってるのだが。

 

「さて……」

 

「あとはテメェだけだなぁ、デク!」

 

「くっ……」

 

 数分後、爆豪の宣言通り一人も欠けることなく俺たちの勝利が決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、強すぎな!?」

 

「まぁ、これが"差"ってやつかな?」

 

 授業を終え、寮に帰ってから。俺たち1年A組は共同スペースで今日の反省会を兼ねて集まっていた。俺たちを強いと評する瀬呂に、峰田が調子に乗っている。

 

「でも、やっぱり強かった。かっちゃんと久知くんはもちろんだけど、峰田くんの個性も強い。体にくっつけば戦えなくなる個性なんて、自由度の高いハンドカフスをいくつも持っているようなものだ。かっちゃんと久知くんの強さに埋もれがちだったけど、一番に警戒するべきは峰田くんだった。ちょっと考えればわかることじゃないか。いやでも、久知くんがあぁなるとサポートの幅も広いし、峰田くんを狙っても」

 

「絶好調やなぁ」

 

 最後に俺たちと一人で戦った緑谷はいつも通りぶつぶつと反省していた。確かに緑谷の言う通り、敵チームに峰田がいるならまず俺は間違いなく峰田を狙う。峰田はフリーにすると厄介だが、速攻をしかけてもぎもぎを設置する前に仕留めればなんてことはない。ただ、峰田を制圧しやすい個性を持っているのが緑谷のチームに上鳴しかおらず、その上鳴のシューターが俺についてしまったことが敗因だったと言える。

 

 まぁあと、爆豪が強すぎたってことか。

 

「クッソ、次こそ勝ってみせっからな!」

 

「ハッ、俺が負けるわけねぇだろうが!」

 

 件の爆豪は切島と男の友情を深め合っている。熱いな、あそこ。

 

「これより、被告人久知の『安易にイケメンな行動をしてしまった』裁判を始める!」

 

「は?」

 

 俺がソファに寝そべってみんなの様子を見ていると、芦戸が突然わけのわからないことを口走った。隣には葉隠がいて、その後ろでは八百万が作ったのか、眼鏡をかけた耳郎と八百万がノリノリで付き添っている。そのわけのわからない集団は俺の前までくると、丁寧に俺の体を支えながらソファに座らせた。デイサービスかよ。

 

「被害者葉隠、前へ」

 

「はい。私は今日行われた戦闘訓練で、怪我をしないように細心の注意を払われながら、しかも頭に手を添えられて優しく手をとられ、『悪い。怪我ないか?』とイケメンな顔とイケメンな声で迫られました!」

 

「被告人、この証言に間違いはありますか!」

 

「いや待て。身に覚えはあるがそんなつもりでやってない」

 

「しかし葉隠はその乙女心を刺激されています!」

 

「知るか! つか葉隠はちょっと加減間違えりゃミンチになんだから、誰でも気ぃ遣うだ……」

 

 俺は一旦言葉を途切れさせ、爆豪を見た。

 

「いや、まぁ誰でも気ぃ遣わないかもしんねぇが、気ぃ遣うのが普通だろ!」

 

「オイ! テメェなんで今俺を見た!」

 

「言い換えれば、俺が強いから気ぃ遣う余裕があったってこったな!」

 

 向こうでうるさい爆豪は無視して、俺に詰め寄る芦戸に言い放つ。あんまりな言い方だが、妙な疑いをかけられるよりはマシだ。と思ったがしかし、俺の嫌味な言葉にも動じた様子はなく、むしろ葉隠は体をくねくねさせ、

 

「と言いつつ、久知くんは紳士だってこと知ってるよ?」

 

「葉隠の乙女心を刺激し、クソな性格がよく見えるようにした罪は重い! よって有罪!」

 

「久知には私たちの興味関心、乙女心を満たすために恋愛トークをしてもらう!」

 

「さぁ、おとなしくお縄につきなさい!」

 

 芦戸が有罪判決を言い渡し、耳郎が罪状を告げて八百万が俺の体を持ちあげた。待て、今から何が行われようとしてるんだ?

 

「オイ! どこに連れてく気だ!」

 

「私の部屋!」

 

「葉隠の!? ってかさっき頬を染めて恥ずかしそうにしてたワリにゃ随分平気そうだな! 全部演技か、コラ!」

 

「まぁちょっとドキッとしたのは事実だけど、久知くんだしって思って」

 

「ンだと!? テメェ俺が優しくしてりゃ調子に乗りやがって! 今すぐミンチにしてやろうか!?」

 

「でも、そんなこと言いつつ久知くんは女の子に優しいってこと知ってるよ?」

 

「ウッセェわボケ!」

 

「……段々お前と似てきてね? 久知」

 

「どこがだコラ!」

 

 ほら、と言う切島の声を最後に、俺は葉隠の部屋へと連行された。

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