俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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インターン再び

「久しぶりの、インターン! だ!!」

 

「やっとだなぁ」

 

 数日後。最近呼ばれていなかったインターンにやっと呼ばれ、俺は夜嵐と学校の前で合流した。正直あのスパルタな日々が延々続くと思っていたからここまで呼ばれなかったのが意外だが、父さんにも色々あるんだろう。

 

「お、二人も今日なのか」

 

「切島」

 

「奇遇っスね! もしかしたら一緒に仕事できちゃったり!?」

 

「だといいな! そんときはよろしく頼むぜ!」

 

「……」

 

 一緒に仕事するってことは、事務所が二つくっついて対処しなきゃいけない案件があるってことだから、あまりいいことではない。できれば俺はよろしくしたくないところだが、ここで口を挟むのも野暮だろう。まぁ俺はそんなデカい案件はない方がいいってだけで、一緒に仕事をしたくないわけじゃない。切島はいいやつだからな。

 

「あれ、久知くんたちも今日?」

 

「おぉ、緑谷!」

 

「なんかここまで一緒だと嬉しいっスね!」

 

「あれー? みなさんお揃いで!」

 

「こんなに揃うのは珍しいわね」

 

「麗日に梅雨ちゃんまで!」

 

「なんかテンション上がるな! な! 久知!」

 

「……」

 

 いやいや、まだデカい案件があるって決まったわけじゃない。大体そんなデカい案件ならエンデヴァーのところに行ってる轟や、ベストジーニストのところに行ってる爆豪がいなきゃおかしいからな。別に緑谷たちのインターン先のヒーローが弱いって言ってるわけじゃないけど、最低でも四事務所がチームアップしなきゃいけない案件ならエンデヴァーかベストジーニストが絡んできてもいいはずだ。

 

 せっかくだから一緒に行こうということで、俺たちは並んで駅に向かった。途中なぜかヒーローが多い気がしたのは気のせいだと思いつつ、送ってくれるというヒーローの厚意に甘えて駅に到着。

 

「ん? 切島は関西じゃなかったか?」

 

「なんか今日は集合場所が違うんだよ」

 

「……奇遇だな。俺たちもだ」

 

 更に下りる駅も同じだった。

 

 曲がる角も同じだった。

 

「お! きたね」

 

 そして、目的地にはビッグ3も揃っていた。

 

「? どうしたんスか? なんか元気ないな!」

 

「恐れていたことが現実になり始めた」

 

 こういうときむしろ燃え上がる爆豪の性格が羨ましい。こうなると十中八九チームアップで何かデカい案件を対処することはほぼ決まりと言っていいだろう。コスチュームを持ってこなくていいと言われているため、今日は説明だけっぽいところがありがたい。

 

 建物に入ると、様々なヒーローがいた。俺たちインターン生を受け入れている事務所のヒーローだけいればまだ研修的な何かかなと思えたのだが、明らかにそうじゃないヒーローたちがいる。あぁこれチームアップだわ。相澤先生までいるじゃん。

 

「おう、来たかお前たち!」

 

「父さん……あ、ノーリミット」

 

「おはようございまス!」

 

「はいおはよう! いやすまないな。もっと呼んであげたかったんだが、こちらの都合であまり呼べなかったんだ」

 

「いや、それはいいけど……これ、チームアップですよね?」

 

「思い出したかのように敬語を使ったな。ま、そういうことだ。詳しい話はナイトアイがしてくれる」

 

「みなさんご協力感謝します。みなさんから頂いた情報のおかげで、調査が大幅に進みました」

 

 父さんの言葉の後を狙いすましたかのように眼鏡で長身のヒーローが話始めた。確か、あの人がナイトアイ。緑谷から一度話を聞いた。なんでも、ユーモアを大事にしているらしい。

 

「つきましては、死穢八斎會という組織が何を企んでいるのか、情報の共有とともに協議を行いたいと思います」

 

「死穢八斎會……?」

 

 それが、今回の案件だろうか。俺はまったく話を聞かされていない。父さんにそのことについて聞くと、なぜか微妙な顔をした後、「少し、迷ってしまってな」と返された。それがどういう意味かはわからなかったが、なんとなく俺は素直に引き下がって父さんの後ろにつき、会議室へと向かう。なにやらテンションの高い夜嵐を軽くいなしつつ席に座ると、すぐに会議が始まった。

 

「えー、私たちナイトアイ事務所は二週間まえから、独自に死穢八斎會という指定敵団体について調査を進めてきました。きっかけは、レザボアドッグスと名乗る強盗団の事故で、どうにも腑に落ちない点があり追跡を始めました」

 

 いきなりついていけない。死穢八斎會が所謂ヤクザだってことはわかったが、レザボアなんたらが何かわからない。なんか死穢八斎會が遭遇した事故があって、その自己が不自然だったから死穢八斎會を追い始めたってことだろうか。

 

「そして私、サイドキックのセンチピーダーがナイトアイの指示の下追跡調査を行っておりました。死穢八斎會は裏稼業との接触が急増しており、組織の拡大に動いていると思われます。そして追跡を開始してすぐ」

 

「!」

 

 モニターを観て、驚愕した。そこには、敵連合のトゥワイスの姿があった。視界の端で、父さんが俺の方を見た気がした。

 

「敵連合の一人分倍河原仁、敵名トゥワイスとの接触。尾行を警戒されたため追跡は叶いませんでした」

 

「……すまんな想。敵連合と聞いてお前を呼ぶべきだという父親の俺と、呼ぶべきではないというヒーローの俺がいた」

 

「いいよ。俺だって父さんの立場ならそう思う」

 

 むしろ、私情を挟みかねない俺を、一度敵連合にさらわれた俺をここに呼ぶのは相当の勇気がいる、というか変だ。俺は本来この場にいるべきじゃない。みんな触れてはいないが、被身子のことを調べているなら俺のことはとっくにバレてるはずだから。

 

「……少し気になったんだがよぉ、雄英生とはいえガキがこの場にいるのはどうなんだ?」

 

「アホ言え! この二人はスーパー重要参考人やぞ!」

 

 浅黒い肌のヒーローの文句に立ち上がったのは、丸々太ったヒーローだった。どうやらファットガムというらしい。切島を受け入れてるヒーローか。見た目からして脂肪に関する個性っぽいが、どうだろう。あの人と戦うなら腹は極力狙わない方がよさそうだ。 

 

 なんで俺はファットガムと戦う話をしてるんだ?

 

「死穢八斎會は以前認可されていない薬物をシノギにしていた疑いがあります。そこで、その道に詳しいヒーローに協力を要請しました」

 

「昔はそーいうのをぶっ潰しとりました! そんで先日の烈怒頼雄斗(レッドライオット)デビュー戦! 環に個性を壊すクスリが撃ち込まれた!」

 

「個性を壊すクスリ……!?」

 

 幸いそれを撃ち込まれた天喰先輩は個性が戻っているようで、牛の蹄をアピールしている。

 

 個性を壊す、と聞いて最初に思い浮かんだのは相澤先生のことだった。相澤先生の個性は抹消。目で見た相手の個性を使用できなくする個性。ただ、相澤先生が好きな俺に言わせてみればちょっと違う気がする。

 

「抹消は個性を攻撃しているわけじゃないので、俺のとはちょっと違うみたいですね。俺は個性因子を一時停止させているだけで、攻撃はできない」

 

「ただ、環がクスリを撃たれたとき病院で診てもらったんやが、その個性因子が傷ついとったんや。連中が持っとった弾もそれっきり。もちろんダンマリや。ただ、ここにおる切島くんが身を挺して弾いてくれたおかげで、中身の入った一発が手に入った!」

 

「おっ、俺っスか!? びっくりした!」

 

 まさに切島はうってつけだったってことか。切島がいなきゃその弾の解析はできなかったし、お手柄過ぎる。俺なら撃ち込まれて終わりだ。

 

「そしてその中身を調べた結果、えらいもんが出てきた。人の血や細胞が入っとったんや」

 

 つまり、個性によって個性を破壊したってことか? 気色悪いにもほどがある。ありえない話じゃないって思ってしまえることがなおさら気色悪いが……シノギにするとしても生産は間に合うのだろうか。個性によって個性を壊すなら元の個性因子が必要っぽくて、それを弾にするなら弾の元になった人間が生産スピードに耐えられるとは思えない。

 

「切島くんが捕らえた男が使用した薬物。死穢八斎會が売りさばいた証拠はないけど、その中間売買組織との交流があった」

 

「先日リューキュウたちが対峙した敵グループ同士の抗争。片方の元締めがその交流のあった中間売買組織だった」

 

 最近起きてる事件が、死穢八斎會につなげようと思えばつなげられるのか。隣で夜嵐がアホ面晒してぼーっとしているのは話についていけないからだろう。俺が説明できればいいんだけど、流石にこの場で喋るのは緊張感がすごいし、場違い感もすごい。話を聞く限り学生が出ていい案件じゃなさそうだし。一応仮免持ってるけど。

 

「これだけでは死穢八斎會がクロとは言い切れませんが……若頭、治崎の個性は『オーバーホール』。分解し、修復する個性です。分解し治す個性。そして、個性を壊すクスリ。詳細は不明ですが、治崎には娘がいる。私の受け入れているインターン生二人が遭遇したときには、手足に夥しい数の包帯が巻かれていました」

 

「まさか、そんなおぞましいこと……」

 

「ぅぇ、まじか」

 

 気づいたら声が漏れていた。さっき考えていた生産の話、ここで回収されるなんて思ってなかった。回収されない方がよかったし、されるべきでもなかったんだが……。

 

「? どうしたんスか、久知」

 

「いや、なぁ……」

 

「やっぱガキはいらねーんじゃねぇの? 分かれよな」

 

 浅黒い肌のヒーローはそう言うが、むしろ学生のうちはわからなくてもいいと思う。そりゃインターンで経験を積んでいるなら分からなければいけないが、まだ一年も経ってないうちに察しがつくやつは賢いやつか、汚いやつだ。

 

「つまり、娘の体を銃弾にして売りさばいてんじゃね? っつーこった」

 

 頭を抱えたくなる。俺でもこんな気分悪くなってるんだから、その娘に遭遇したっていう緑谷は大分キてるはずだ。

 

 これから対峙しなきゃいけないであろうものを考えて漏れそうになったため息をぐっとこらえた。まぁ、気が重いなんて言ってられる場合じゃないしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会議が終わって、俺たちはテーブルを囲んで緑谷と通形先輩から話を聞いた。緑谷はその場で保護しようとして、先輩は先を考えて確実に保護できるよう動いた。どっちも間違いじゃない。でも、こんな話を聞いた後で間違いじゃなかったからよかったね、なんて思えるわけがない。

 

「悔しいな……」

 

 元気印の夜嵐も、今は大人しい。どうしたらいいかわからない、って感じだ。なんとか元気づけようとしてもその方法がわからない。あんな話を聞いた後ではどんな風に慰めていいかなんて、夜嵐じゃなくてもわからないだろう。

 

 胸糞の悪さを解消したくて胸ポケットに入れているアロマシガレットを取り出そうとするが、流石にここじゃ印象悪いかと思って手の中で転がすだけに止め、代わりに思いきり背もたれに体重を預けた。

 

 そんな重い空気の中、エレベーターが到着する音が聞こえ、エレベーターからゆっくりと相澤先生と父さんが出てきた。相澤先生は俺たちの様子を見て「通夜でもしてんのか」とぼそっと呟いた。

 

「相澤先生、父さん」

 

「学外ではイレイザーヘッドで通せ。しかし、まぁ……」

 

 父さんは父さんでいいんだな、と思いつつ相澤先生の言葉を待つ。父さんは、父さんに似合わない神妙な顔をしていた。

 

「今日は君たちにインターン中止を提言するつもりだったんだが……」

 

「えぇ!? いきなりなんで!」

 

「連合が関わってくる可能性があるって聞いたろ。そうなると話は変わってくる、が」

 

 相澤先生が俺と緑谷を見て、緑谷に話しかけた。

 

「緑谷はエリちゃんと実際に会って、その性格だ。きっと俺が止めても飛び出してしまうんだろう。だったら」

 

 相澤先生は緑谷に目線を合わせるようにしゃがんで、緑谷の胸に拳をそっと置いた。

 

「俺が見ておく。するなら正規の活躍をしよう」

 

「……はい!」

 

「お前もだぞ久知」

 

「あ、やっぱりですか?」

 

 敵連合と言えばお前だろ、と不名誉な言いがかりをつけられた俺は、何やら怖い顔をしている相澤先生と目を合わせた。おいおい、緑谷に話してるときは優し気だったじゃん。

 

「敵連合に攫われたお前を今回の作戦に参加させるわけにはいかない、が。成績がよくて賢いフリをしているお前はその実、あることになるとバカで考えナシで一直線だ」

 

「ひどくね?」

 

「俺としては今回のことが終わるまで縛り付けて監禁していようと思ったんだがそうはいかない。むしろ、そうやってもお前は無理やり拘束を解いて会いに行くんだろうと確信してしまった」

 

 会いに行く、と聞いて緑谷と切島が目を逸らし、麗日と蛙吹が頬を赤らめた。俺が芦戸たちに連行されたあの日、麗日と蛙吹も途中から参加して根掘り葉掘り聞かれたんだっけか。気ぃ遣ってもらうのも申し訳ないけど、もうちょと遠慮しろと俺は思ったね。一応俺が好きな子って敵だぞ?

 

「まぁ!!」

 

「いてぇー!!?」

 

 ぼーっと考えていると、突然後ろから両肩を叩かれた。腕が落ちていないか確認してから振り向くと、父さんがムカつくくらいの笑顔でサムズアップ。親に殺意を覚えたのは初めてだ。

 

「お前は俺の息子だ。どんな逆境だろうと、どんな限界だろうと、どんな窮地だろうと乗り越えていけると信じている。それに俺もついている! お前はお前のやりたいことをやればいい!」

 

「……ヒーローが自分優先しちゃダメだろ」

 

「頭が固いなァー!? ヒーローはヒーローだが、同時に人間で息子でもあり娘でもあり、親でもあり兄でもあり姉でもあり友でもあり恋人でもある! しかしそれでもヒーローだ! やりたいことをやっていれば、勝手に人は救われる! だから、堂々とお前のやりたいことをやればいい!」

 

 上向いて行こう! と父さんは腕を高くつき上げた。……本当に俺の父さんか? 俺似てなさすぎじゃない?

 

「いいお父さんっスね! 流石ノーリミット!」

 

「……だろ? 流石父さんだ」

 

 褒めてくれる夜嵐に、俺は得意気に胸を張った。


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