俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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屋内戦闘訓練

「わーたーしーがー!!普通にドアから来た!」

 

 次の日。

 

 午前中に英語等の普通の授業をし、爆豪が食う真っ赤な食い物に引きつつ昼食を終えた午後、ヒーロー基礎学の時間。

 

「今日は戦闘訓練だ!」

 

 いきなり戦闘訓練をするらしい。後ろ姿でも爆豪がめちゃくちゃ嬉しそうにしているのがわかる。君好きそうだもんね。

 

「それに伴って!君たちの個性届と要望に沿ってあつらえた戦闘服(コスチューム)!これを来てグラウンドβに集まるんだ!」

 

 ヒーロー科とはこれほどワクワクするものなのか。男の子なら一度は憧れるだろう。ヒーロースーツを着て戦うという燃える行為。まぁ俺の戦闘服は白い線が入った前を開けたジャケットに黒い肌着、更に黒いカーゴパンツとほとんど私服みたいなもので、ヒーロースーツとは程遠いのだが。

 

 ただ、普通の服に見えても衝撃を吸収したり熱に強かったりと様々な素材を用いて作られている。どれだけお金がかかったかなんて想像したくもない。

 

 戦闘服に着替えてグラウンドβに向かう。うきうきしている爆豪を俺と切島で挟んで歩き、辿り着いたのは入試の演習場。また市街地演習でもやるのだろうか?

 

「いいや!屋内での対人戦闘訓練さ!」

 

「対人……」

 

「なんで俺を見る?」

 

 こいつ俺を殺してやろうとか考えてないか?

 

「君らにはこれからヒーロー側と敵側に分かれてもらい、二対二、もしくは二対三の屋内戦を行ってもらう!」

 

「2対3か。不利じゃん」

 

「何人いてもブッ殺しゃ一緒だろ」

 

「ブレねぇな爆豪……ま、劣勢を覆すのも漢っぽくていいけどな!」

 

 それはわかるが、できれば二対二をしたい。それか三人のうちの一人になるとか。できれば個性を使いたくないから、強いやつと組んでそこそこにいい動きをして終わりたい。消極的に思えるかもしれないが、俺にとって個性を使わずに動くということは一番といっていいほど重要なことだ。

 

「状況設定は敵がアジトに核兵器を隠していて、ヒーローはそれを処理しようとしている!勝利条件はお互い二つ!ヒーロー側は制限時間内までに敵を捕まえるか核を確保すること!敵側は制限時間終了まで核を守るか、ヒーローを捕まえること!捕まえたという判定はこの確保テープを巻くことだ!」

 

 なんだ、気絶させなくていいなら少しやりやすい。流石に個性なしで爆豪みたいなやつに勝てるとは思えないし。爆豪とやるって決まったわけじゃないけど、雄英のヒーロー科なんて強いやつらの集まりに決まってる。

 

「さぁみんなくじ引いて!」

 

 くじて。まぁ入学して間もないから適当にペアを組むっていうのもやりにくいからくじの方がありがたいけど。爆豪とか絶対ペアになってくれないし。むしろ嬉々として俺を殺そうと敵になるだろ。

 

「ん、Jか」

 

「お、久知と一緒か!知ってる分気が楽だな」

 

 どうやら切島と一緒らしい。よかった。爆豪と一緒になったら仲間割れ起こす可能性があった。あいつ基本的に俺の事嫌いだから爆破されかねない。これであいつのペアとやることになったらそれはそれで爆破されるんだけども。

 

「さぁ最初はAコンビがヒーロー!Dコンビが敵だ!」

 

 その心配もないみたいだ。確かDコンビって爆豪とメガネ、飯田、だっけ?だったはずだし。……Aコンビに緑、緑谷?爆豪が因縁つけてるやつがいるのがちょっと心配だけど、爆豪だって場はわきまえるだろう。恐らく。多分。

 

 

 

 

 

 

「わきまえなかったなぁ」

 

「なにがだ?」

 

「いや、なんでも」

 

 あれからしばらく経って、俺たちの番。俺たちが敵側で、Gコンビがヒーロー側。なんか耳になんかついてる女の子と、チャラいやつが相手だ。女の子の方は耳が個性に関係するんだろうけど、チャラい方がわからん。

 

 あの後。爆豪は人殺しギリギリの攻撃をかまし、結果的に負け、めちゃくちゃ静かになってしまった。アレは触れちゃいけない状態だ。触れた瞬間爆破して俺が粉々になる可能性がある。一応友だちとしてなんとかしてやりたいが、俺じゃどうにもできなさそうだし。

 

 まぁ、今は訓練に集中するべきだろう。爆豪は爆豪だし、明日には元通りになっている。はず。

 

「切島。先に俺の個性を説明しとく」

 

「おう。頼む」

 

 ちなみに俺は見た目通り硬くなる個性な。と言ってカチカチになる切島に頷き、説明を始めた。

 

「俺の個性は『窮地』。痛み、疲労、病気、あらゆる負担を力に変える発動型の個性だ。負担が大きければ大きいほど力を増せるが、制限時間は10分、インターバルは3分。使ってる途中に重ねて個性を発動できるが、その場合体に返ってくる負担もデカくなる」

 

「だから入試ん時のたうち回ってたのか」

 

「アレは忘れろと何度も言ってる」

 

 まぁつまりだな、と続けて、

 

「はじめは個性なしで戦うしかない。で、この個性って防衛戦はすげぇ不向きなわけ。速攻されると負担をためる間もなくやられるし、不意をつかれると個性を発動される前に捕まりかねない。だから、そのためのサポートを頼みたいんだけど」

 

「おう!お前が個性を使えるようになるまで俺が盾になってやる!」

 

「男前すぎるだろ。ま、捕まらない程度には戦うから盾にするつもりはない」

 

『それでは戦闘訓練スタート!』

 

「じゃあ行くか」

 

「おう」

 

 俺たちは部屋を出て、四階から下に降りていく。ちなみに俺たちがいた部屋に核は置いていない。なんか向こうに耳っぽい個性の子がいたから、音で索敵できると踏んで俺たちがいた部屋に核がないかと勘違いしてくれないかな、と思ってそうしただけだ。できなかったらできなかったでどうせ向こうはローラー作戦するしかないし。

 

 今は四階建てのビルの二階。向こうが索敵できるなら一階を探さず迷わず上がってくると思うけど……。

 

「はい、確、ほっ!?」

 

「読め読め」

 

 索敵できると警戒している以上、角は要注意。案の定俺が近づいた瞬間飛び出してきたチャラいやつを蹴り飛ばす。うわ、モロに腹に入った。痛そう。

 

「よし、確保するぞ!」

 

「いや、ストップ。どんな個性かわからんうちは不用意に近づかない方がいい」

 

 それに、起き上がって一対二を覆せるようなやつならどうせどんな状況でもこっちが勝てるわけないし。というか一人?これは……。

 

「おい、もう一人はどこ行ったんだ?どこで誰が待ってるかもわからん状況で単独行動は危険だろ」

 

 逆に考えれば誰がどこで待ってるかわかってるから単独行動してる、って捉え方ができるんだが。

 

「そりゃ俺が多対一でも勝てる個性だからだ!降参するなら今の内だぜ!」

 

 あ、これ索敵能力あるな。

 

「切島、上に行ってくれ。こいつは俺がやる」

 

「わかった!」

 

「行かせるか!」

 

 上に行ってくれ、というのには意味があり、今は二階だから、探しに行くなら当然選択肢は上か下に分かれる。そこでわざわざ上に探しに行ってくれ、という意味は「今から上に行きますよ」とわかりやすく伝えるためで、それを嫌がるということは高い確率で上に相方がいる、ということになる。このチャラいやつわかりやすそうだ、

 

「しっ?」

 

「久知!」

 

 俺の体を襲ったのは、痛みと熱、痺れ。何をされたかわからなかったが、これは絶対に電気だろう。電気使えるって、それ強すぎない?

 

「これで一人!お前も痺れさせて」

 

「やらせねぇよ」

 

 麻痺していた俺の隣を抜けようとしたチャラいやつを蹴り飛ばす。

 

 上限解放20。電気を浴びせてくれたおかげで手っ取り早く個性が使えた。

 

「ったく、普通の人間なら気絶するくらいの電気あびせやがって。死んだかと思ったわ」

 

 切島に行け、とアイコンタクトを送るとすぐに上がっていった。いやぁ、上限解放すると耐久力増すってのが便利すぎる。こういう持続ダメージの中で動けるようになるっていうのは大きい。その他がほとんど不便な個性なんだけど。

 

「ってぇー……なんで平気なんだよ!」

 

「俺実は電気平気なんだよ。小さい頃雷にうたれてから」

 

「マジ!?」

 

「は?嘘に決まってんだろ」

 

「ムカつく!」

 

 とても純粋なやつだ。いや、アホって言うのか?こういうやつは。

 

「ま、これ以上相手にする必要もないし俺行くわ」

 

「は?おい待て!」

 

 チャラいやつに背を向けて走り出す。個性を使っている俺にあいつが追いつけるはずもなく、どんどん距離をはな……さずに、途中で振り返って急加速し、スライディングをかました。俺のスライディングはチャラいやつの足をしっかり捉え、思い切り転倒させた。受け身をとれているのは流石ヒーロー科といったところか。

 

「はい確保」

 

 まぁ受け身とろうが関係ないんですけどね。

 

 倒れたチャラいやつの足に確保テープを巻き、確保完了。いやぁこいつが素直で助かった。会話に応じてくれなかったら速攻でやられてただろうし。

 

「あ、クソっ!こすいなお前!」

 

「電気使うやつ相手に正面切って戦っても負けるだろ」

 

 情けないことを言うようだが、これは本当。実際最初のやつがもっと威力高かったら俺負けてたし。危なかった。強い個性を持っているやつはこれだから。羨ましい。

 

「お、残り数分。戦闘音聞こえないってことは不意つかれたか逃げられたかのどっちかだな」

 

「何ゆっくりしてんのお前?」

 

「だって核一階にあるし」

 

 言うと、チャラいやつは突然にやけ始めた。なんだこいつ?

 

「ふっふっふ、引っかかったな!」

 

「何が?」

 

「俺は油断したお前から核の場所を聞き出す役割!今頃耳郎が一階を探してる頃だぜ!お前の仲間は間に合わねぇし、お前も間に合わねぇ!俺たちの勝ちだぜ!」

 

 まさか。ということはこいつ俺が上に行ってくれって言ったときも演技してたのか?今頃一階を探してるってことは元々耳郎は一階にいたってことだろうし。

 

「あらそう。ならこうしよう。えーっと、耳郎?でいいのか。聞こえてる?」

 

 こいつの説明通りなら、耳郎はこの会話を聞いているのだろう。だとしたらやることは一つ。

 

「核を見つけても触るなよ。触ったらこのチャラいの殺すぞ」

 

「チャラいの!?」

 

 つか殺すって、と呟くチャラいのに何を不思議がっているのかと首を傾げた。

 

「今の俺は敵、らしいから、敵ならこうするだろ。多分。まぁアレだな、お前の命と核によって出る被害、どっちをとるかって話」

 

「鬼畜!」

 

「何とでも言え。今の俺は敵だ。制限時間はあと三分くらいか。よかったな。核と天秤にかけて悩んでくれてるぞ」

 

「うおー!!俺のことは構うな耳郎!早く核を!」

 

「そういうわけにはいかないっしょ」

 

 声とともに何かが俺に刺さったかと思うと、内部から衝撃。これあれだ。俺の個性の反動と似てる。なんて考えてる場合じゃない。

 

「助けに来たよ、上鳴」

 

「耳郎ー!!」

 

 衝撃に耐えながら振り向くと、クールな印象を受ける女の子、耳郎が耳から伸びたプラグを俺に刺していた。流石索敵できるやつは隠密行動もできるのか。まったく気づかなかった。

 

「確保!あとは敵が一人に核を見つけるだけ!」

 

「頑張れ耳郎!」

 

「あー、やられた。ところで耳郎」

 

「悪いけど、アンタに構ってる暇ないから!」

 

「いや、えっと」

 

「それに、核が四階にあるってことも知ってる!アンタほんっと性格悪いね!」

 

 俺に対してボロクソ言い残した耳郎は、急いで階段を駆け上がっていった。時間稼ぎ失敗。まぁあんだけ時間があれば一階探し終えてるだろうし、だとしたら四階に行った切島のところに核があるって考えるのが普通だよな。しかも俺が捕まってるから切島を捕まえても勝ちだし。

 

「あと一分か。なぁなぁ上鳴、でいいのか?いいこと教えてやろうか」

 

「なんだ?」

 

 痛む体を引きずって、上鳴を連れて歩く。確保されて戦えないが、これくらいは許してくれるだろう。

 

「ここの部屋ちょっと覗いてみ」

 

「……もしかして」

 

 そのもしかしてである。

 

「あー!!」

 

『敵チームWIN!!!』

 

「嘘ついてごめん」

 

「性格わりー!!」

 

 覗いた部屋に置かれていたのは傷一つない核。いやぁ、耳郎が索敵できてよかった。できてなかったら速攻見つかって負けてたし。

 

「おう、お疲れ」

 

「お疲れ、って」

 

 上から下りてきた切島の声に振り向くと、そこにいたのは切島だけではなく耳郎もいた。確保テープを巻かれて。

 

「なんだ、戦ったのか?」

 

「いやぁ、作戦通り逃げようと思ったんだけどよ。なんか、こう、漢が」

 

「それで負けてても文句は言わねぇけど、随分男らしい敵ですね?」

 

「言ってねぇか?文句。勝ってるし」

 

 結果ももちろん大事だが、過程も重視するタイプなんだ。俺は。

 

 こうして戦闘訓練は敵チームの俺たちの勝利で終わった。上鳴と耳郎からはみんなのところに戻るまでずっとじとっとした目で見られていた。いや、悪かったよ。


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