俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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決行

 決行日、当日。

 

「こうして集まると壮観だな……」

 

「燃えてきた! 頑張ろうな、=ピース!」

 

「二人とも実力はあるが、油断するなよ。俺みたいに手加減してくれる相手じゃないからな」

 

 むしろ父さんはもっと手加減してほしいんだけど、という言葉をぐっと飲みこんで頷いた。思えば、こうしてきちんと作戦に参加するのは初めてかもしれない。インターンじゃいつもボロボロの状態で流れ作業で敵退治してたから緊張する暇もなかったが、今めちゃくちゃ緊張してる。怪我も疲労もない状態の俺はすぐにやられてもおかしくない。

 

「令状読み上げたら速やかによろしくお願いします」

 

 お屋敷に取り付けられたインターホンの前で、警察の人がヒーローに確認を取る。夜嵐が隣で「任せてください!!」と元気よく返事するのを見て、俺は小さく息を吐いた。

 

「よく緊張しねぇな」

 

「緊張はしてるっス。でも、そんなこと言ってられないだろ?」

 

 俺たちはヒーローだから、笑顔でいることが大事なんだ! と夜嵐が俺に笑いかけるのと同時、死穢八斎會の敷地内から巨漢が門をぶち壊しながらこちらに飛び出してきて、その衝撃で数人の警察官が吹き飛ばされた。

 

「レップウ!」

 

「もうやってまス!」

 

 父さんが指示するより前に、夜嵐は風を操って吹き飛ばされた警察官を保護していた。柔らかな風は警察官の体をまるで羽のように地面へ着地させ、それを見て夜嵐の個性の繊細さを理解する。こいつ、また個性の使い方うまくなってねぇか?

 

「彼はリューキュウ事務所で対処します。みんなは突入を」

 

「ドラゴンだ! カッケェ!」

 

「カッケェのは同意するが、行くぞレップウ」

 

 子どものように目を輝かせながらドラゴンに変身したリューキュウを見る夜嵐を引っ張って、敷地内に突入する。

 

「レップウ。俺の疲労がたまるまでサポート頼む」

 

「お任せ!」

 

 個性、武器、拳、様々な方法で俺に殴りかかってくるヤクザをレップウに対処してもらう。腐っても雄英生、個性なしでも対処できないことはないが、目的地までまっすぐ行った方がいい今、余計な時間は使っていられない。

 

「おじゃまします!!」

 

「礼儀正しいな君!」

 

「皮肉ですよ!」

 

 そのまま走って屋敷の中に入り「おじゃまします」と言うと、ファットガムに褒められてしまった。俺としては皮肉のつもりで言ったんだが、夜嵐も俺をまねして「おじゃましまス!」と言っているからなんだかな、という感じである。

 

「しかし、やけに一丸になって襲ってくるな」

 

「俺知ってるぞ。チューギってやつだ!」

 

「その忠義を尽くされてる治崎も、それに幹部も見当たらねぇから今頃逃げ出してるんだろうな」

 

「なにぃ!? じゃあチューギじゃない! 俺が知ってるチューギはもっと熱かったぞ!」

 

 屋敷に入ってもヤクザが襲い掛かってくるため混戦状態になり、なんとかヤクザを蹴散らしつつ奥へ向かう。父さんとの戦闘訓練で体が勝手に動いてくれるようになってるから、今のところ攻撃はもらっていない。その代わりちょっと無茶な態勢になったりはしたが。

 

「ここだ」

 

 そうやって走って進んでいると、ナイトアイが立ち止まった。そして板敷きを押し込んだかと思えば、忍者屋敷のように壁が低い音を鳴らしながら動き始めた。夜嵐が目を輝かせて興奮しているのに共感できてしまうのは、俺が男の子だからだろうか。

 

「なんじゃおまえら!!」

 

「びっくりした!」

 

 壁が動いて通路が現れると、そこから三人のヤクザが飛び出してきた。忍者屋敷かと思ったらお化け屋敷かよ、とびっくりしている俺の前に出たナイトアイのサイドキック、バブルのお姉さんとムカデのお兄さんが鮮やかに三人を抑えつけた。

 

「先行ってください! すぐ合流します!」

 

「迅速だなぁ」

 

「感心してる場合じゃないぞ」

 

 父さんの言葉に「わかってますよ」と返事して、地下へ続く階段を下りていく。このまま進んでいけばエリちゃんのいるところにたどり着くはずだったが、進んだ先にあったのは壁だった。

 

「いや、道は続いてます! 壁で塞がれてるだけです!」

 

「となると、俺の出番だなァ!」

 

 通形先輩が透過で壁の向こうを見て道があることを報告すると、父さんが風を巻き起こすほどの勢いで地を蹴り、風を切りながら壁を蹴りぬいた。

 

「ふっ、完璧、どわぁ!?」

 

「ノーリミット!?」

 

 壁を蹴り抜いて華麗に着地した父さんは、突然地面に飲み込まれて姿を消した。あんた俺と一緒にいるって言ってなかったか!?

 

「待て、道がうねって変わっていく!」

 

「本部長入中か!? しかしあいつが操れるのはせいぜい冷蔵庫サイズまでのはず」

 

「オクスリ使えば、できひん話やないけどな」

 

「父さんなら大丈夫だろうけど、厄介だな。まさかコンクリートに入って地下を丸ごと操ってくるなんて……!」

 

「みんな、俺は先に向かってます! どれだけ歪められようと、向かうべき位置がわかってるなら俺は行ける!」

 

 思い切りがいい。まだ学生なのに一人で奥に行くのはどれだけの勇気がいるだろうか。相澤先生がNo.1に近い男だって言ってたけど、こういうことなんだな。

 

「レップウ。俺たちは基本的にプロヒーローと一緒に行動するべきだ。だから──」

 

「=ピース!?」

 

 絶対に離れるなよ、と言おうとした瞬間に、壁に飲み込まれた。それと同時に夜嵐が落下していく。恐らく床が開いたんだろう。なんで俺だけ別なの? なんて。

 

「……お前がいるからに決まってるよな」

 

「久しぶり。想くん」

 

 飲み込まれた先には、俺の好きな女の子であり敵でもある、被身子がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでマグ姉!」

 

「何? トゥワイス」

 

「俺たちはなんで、若頭から逃げてるんだろうな!?」

 

「そりゃあ私の腕の中にエリちゃんがいるからよ!」

 

「返せ!」

 

 地下、最奥。そこで追いかけっこをしているのは敵連合のトゥワイス、マグネ、治崎の三人だった。もちろん鬼は治崎であり、捕まったら死ぬという死の追いかけっこである。

 

 なぜそんな楽しくないことをしているのかと言えば、マグネの腕の中にいるエリが原因であり、つまるところ、トゥワイスとマグネがエリを攫ったからこうなっている。

 

「ヒーローを排除しに行ったのは、トゥワイスが増やしたお前らだな?」

 

「正解! 全然違うぜ!」

 

「いやんバレちゃったわ! どうしましょう!」

 

「ところでマグ姉!」

 

「なーにトゥワイス!」

 

「俺たちの目の前の壁が塞がれちまったってことは、絶体絶命ってことか!?」

 

「えぇ、大ピンチね!」

 

「じゃあ勝負だ若頭! 優しくしてね!」

 

 治崎の個性によって道を塞がれた二人は、振り返って治崎と対峙する。しかしトゥワイスはすでに個性で数人増やしているため個性を使ったところで脆い人形が出来上がるだけであり、マグネはエリを抱えているためろくに磁石が振るえない。

 

「手間取らせやがって、死──」

 

 二人に手を伸ばした治崎は、突如壁を壊しながら現れた赤いエネルギーに弾き飛ばされた。その壁を壊したエネルギーを使っているのは、浅黒い肌、黒い刈り上げのショートヘア。毛先が立っていて、サイドにある分け目がカッコいい男の子。

 

()()()()()! 遅いぜ。生き永らえちまうかと思った!」

 

「随分ボロボロね。大丈夫?」

 

「想くんボロボロバージョンです。怪我したわけじゃないよ!」

 

 想に変身した被身子だった。被身子は想以外に変身することはできなくなったが、想に変身するならそのレパートリーは豊富であり、髪の長さ、肌の質、果ては傷まで。様々な時期の想を再現することできる。ちなみに、服ごと変身してはいないので、想が女子高生の制服を着ている姿となっている。

 

 そして今はボロボロになった想に変身し、想の個性で治崎の側に置かれている汚れ役、鉄砲玉八斎衆の酒木泥泥と音本真をブチ転がして二人を助けにやってきた。ブチ転がしたとは言っても完全に不意打ちであり、『人に気づかれないスキル』と『個性"窮地"上限解放60』を併せ持った被身子は一撃で勝利をもぎ取って見せた。

 

「さ、行こ! 私が道を開くから!」

 

 被身子は想の姿のまま女の子の口調で話し、壁を壊して道を開いていく。それを見たトゥワイスとマグネは顔を見合わせた後、「おっかない」と呟いた。

 

「むっ、おっかないとはなんですか。カッコいいと言ってください。──エリちゃん。もうすぐ会わせてあげますからね。カッコよくて、温かい人に」

 

「──」

 

 この人たちなら、私を助けてくれるかもしれない。エリは、闇の中に突如射した希望の光に、小さく頷いた。

 

 ──そして、被身子たちが去っていった後、再び闇は動き出す。

 

「オーバーホール。こいつぁ一体」

 

 治崎がすぐ戻ると言って走り出し戻ってこないのを不思議に思って駆け付けた若頭補佐、クロノスタシスが治崎に近寄ると、一瞬にして塵となった。塵となったのは治崎も同じであり、やがて塵となった二人は一つの体となって融合する。

 

「……なぁ酒木、音本」

 

 お前らも、クロノと同じく俺のために死んでくれるよな? と言って治崎は二人に手を伸ばし、今度は四つの体が一つになった。

 

 生まれたのは、異形。治崎の個性の発動条件である手は腕が背中、腹、いたるところから生え八本になったことで効果範囲を増し、重さが増した上半身を支えるように下半身は肥大化していた。その全長は2メートルを超え、どう見ても異形であり化け物であるその姿は、脳無に酷似していた。

 

 そして、異形が生まれたのと同時に通形ミリオが到着する。

 

「……これは」

 

「ああ、学生さんか」

 

 ミリオは、辺りを染める赤い色に眉を顰め、異形となった治崎を見た。

 

「お話聞こうかと思ったんですけど、お話しできる状況じゃないみたいですね」

 

「すみませんね。またエリが駄々こねちゃいまして」

 

 訪れたのは、破壊だった。治崎が手で地面に触れた瞬間、通路は崩れ去り、そしてそれらが細かいレベルで修復され、瓦礫の棘となってミリオに牙を剥く。

 

「私も少々、気が立ってるんですよ」

 

 ミリオは、その個性の速さに冷や汗を流した。崩壊が始まったかと思えばそれは棘になり、棘になったかと思えば自身にそれが襲い掛かってきた。ミリオは予測ではなく、反射で透過を使用していた。

 

「すぐにどいてもらうぞ、学生さん」

 

 そして、異形による蹂躙が始まった。


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