俺はずっと好きでいる   作:酉柄レイム

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守って救って

「俺の個性は『二倍』! 一つのものを二つに増やす! 例えば、それは人でも可能だ!」

 

 トゥワイスさんが叫んで生まれてきたのは、敵連合のトップ死柄木弔。確か、触れたものを崩壊させる個性を持っている。死柄木が治崎に触れてくれたらそれで解決なんだが……。

 

 死柄木は数本の腕は避けたものの八本の腕を避けることはできず、一瞬でバラバラにされてしまった。おい、なにあの化け物? 完全に死柄木の上位互換じゃん。

 

「触ってバラバラにされるとしても、触れなきゃ意味ないわよ!」

 

 死柄木が稼いだ時間を無駄にせず、マグ姉は個性を発動させた。人に磁力を付与する個性で治崎に磁力を付与し、マグ姉が持っている大型の棒磁石と磁力を付与した治崎の斥力を利用して治崎を弾き飛ばした。しかし治崎は弾き飛ばされながら床に触れると一瞬で床が崩れ瓦礫となり、その瓦礫が棘となって俺たちに向かってくる。

 

「『風虎』!」

 

 正面からくるそれらを壊すために前に出て全力の『風虎』でぶち壊す。激痛が体中を襲うが泣き言は言っていられない。俺はたまったダメージを利用して、上限解放40を使った。

 

 攻撃を凌ぎきったところで、マグ姉の個性の効果範囲に出た治崎が納得したように頷いた。

 

「確か、マグネの個性の効果範囲は5mあたりだったか……それなら、この距離から殺せばいい」

 

「へっ、それは古い情報だぜオーバーホール! 大正解だ!」

 

「仕方ないわね。私は二人がやられないように個性でサポートするわ」

 

「何とか隙を作って一発おみまいしたいが、あの腕の量反則だろ」

 

 治崎にとって手の数は個性の発動範囲の拡大につながる。近接戦闘を挑んでも、さっきバラバラにされた死柄木みたいなことになるだろう。あれは分身だからよかったが、俺たちの体は一つ。触られたら終わりだと思った方がいい。マグ姉を警戒してこっちにこないのはむしろありがたい。

 

「トゥワイスさん! 俺を増やしてくれ!」

 

「そりゃ無理だ! 俺はしっかり見てしっかり測ったやつしか増やせねぇ!」

 

「だったら被身子を! さっきの見た限り、被身子は俺に変身できるだろ!」

 

「それだ! もちろん俺もその答えに至ってた!」

 

 愉快なことを喋りながら増えた被身子は、俺を見ると一目散に駆け寄ってくる。そのまま笑顔で俺に抱き着くと、ふにゃりと笑った。

 

「想くんだ! 会えてうれしいな」

 

「俺も嬉しいがあそこでものすごい形相で今にも俺たちを殺そうとしてきてるやつを見ろ! アレぶっ倒すの手伝ってくれ!」

 

「わ、ほんとだ」

 

 治崎が床に手をついたのと、被身子が変身したのはほぼ同時だった。治崎の個性によって無数の瓦礫の棘が生み出され、四方八方から俺たちを襲ってくる。さっきは正面からだけだったが、今度は天井、地中、壁から。

 

「被身子は後ろを」

 

「想くんは前を」

 

 トゥワイスさんとエリちゃんを庇うマグ姉を挟むように立って、互いに背中を向ける。そして、すぐ近くの地面から瓦礫の棘が生まれた瞬間、俺と被身子は同時にそれを放った。

 

「『雨雀』!」

 

 放たれるのは無数のエネルギー。一つ一つがテニスボールくらいの大きさのそれは、瓦礫の棘を悉く破壊していく。

 

「……さっきの俺の攻撃を防いだ時、一瞬顔を顰めたのが見えた。恐らくお前はダメージを力に変える個性。そして、今お前が使っているその技は、さっきの技よりも小さいのに威力がほぼ同じだ。ということは、お前の個性には限界がある」

 

 強いうえに賢い。俺が自分に個性があるってわかったのは相沢先生のおかげだってのに、あいつは一瞬で俺の個性を見抜きやがった。教師にでもなればいいんじゃねぇの? 向いてると思うぜ。その賢さだけは。

 

 もっとも、まだ賢さが足りない。

 

「たまったぜ!」

 

 『雨雀』を使い続けることで蓄積していったダメージで、上限解放60を発動する。俺の体を赤いエネルギーが纏い、それと同時に右腕を後ろに引いて、一気に放った。

 

「『風虎』!」

 

 狙いは治崎。確かに『雨雀』には限界があり、瓦礫の棘を生み出され続ければいずれ俺たちはやられていたが、本体を叩けば話は別。そして、上限解放60の『風虎』は瓦礫の壁程度じゃ防げない。不意打ち気味に放たれた『風虎』は治崎を狩り取るかのように見えた。

 

 しかし、治崎は『風虎』が放たれた瞬間に床を崩し、下に落下することで『風虎』を避けて見せた。落下して避けた治崎は上がってこず、不気味な沈黙が流れている。

 

「なんだ? 逃げたのか?」

 

「多分、下だ、ろっ!」

 

 案の定下から突き出てきた瓦礫の棘を避け、俺が本体の被身子とエリちゃんを、被身子がマグ姉とトゥワイスさんを抱えてその場から離れる。さっきまでは治崎の挙動が見えてたから攻撃に対処できたが、挙動が見えてない分攻撃タイミングがわからない。だから、近くにいると危険だ。

 

「って」

 

「おいおい!」

 

 俺がそう考えるってことは、治崎も同じことを考えているわけで、つまり俺たちを逃がすまいとする。治崎は個性で俺たちが立っていた床を崩壊させ、俺たちを宙に放り出した。驚くことに、俺たちの真下には巨大な瓦礫をつなぎ合わせて作られた3mほどの瓦礫の巨人とつながっている治崎だった。ロボットアニメかよ。

 

「被身子っ!?」

 

「想くん!」

 

 このままやられるのはまずい、と被身子と一緒に治崎へ向けて『風虎』を撃とうとしたが、その前に瓦礫の腕で叩き落され、地面に叩きつけられる。咄嗟に『玄岩』を纏ってダメージは軽減できたものの、結構な高さから叩きつけられたためどこかの骨が折れていてもおかしくない。

 

「きてるわよ!」

 

 崩壊、修復を繰り返すことで疑似的な瓦礫の巨人を操作する治崎は、俺に向かって瓦礫の巨人の腕を振り下ろした。『風虎』で迎え撃とうとするが、直線状に被身子たちがいる。『玄岩』を使っても大ダメージは免れない。

 

「くっ」

 

 くるであろう衝撃に備え歯を食いしばったその時。優しい横なぎの突風が俺をさらった。一瞬遅れて瓦礫の腕が俺のいた場所を砕き、それを見て嫌な汗を流す。

 

 いや、それよりも今の突風。俺が知る限りそんなことをできるのは一人しかいない。突風で俺をさらい、ついでに空中にいた被身子たちを風で安全に地面に下ろしたのは、今俺の隣に立っている、

 

「レップウ!」

 

「ごめん! 遅くなった!」

 

 夜嵐イナサ。乗り込んで早々離れ離れになった、同じ事務所のインターン生。この窮地にやってくるその姿は、まさにヒーローだった。

 

「今どういう状況っスか!」

 

「敵連合がエリちゃん連れてきて、治崎が追いかけてきて、敵連合と共闘してる!」

 

「熱いな! 俺そういうの好きだ!」

 

「多分マズいんだけどな! ってアレ!? =ピースが二人いる!?」

 

「どうも。トガヒミコって言います。よろしくです」

 

「新技か!」

 

「いや、俺の個性さ! 俺は一つのものを二つに増やす個性!」

 

「みんな、仲良くするのはいいけど集中しなさい!」

 

 マグ姉の言葉にはっとして、治崎を見ると鬼の形相で俺たちを睨んでいた。

 

「次から次へと虫がうるさいな。一思いに叩き潰してやろう」

 

「……レップウ、他のヒーローは?」

 

「デクたちは交戦中、ルミリオンとノーリミットはわからない!」

 

 ……いや、待て。通形先輩は確かエリちゃんのところまで一直線に行って、でもエリちゃんは敵連合が連れてきてて、それを治崎が追ってきて……そんなはずはない。あの通形先輩が、やられるはずがない。

 

「ルミリオン? あぁ、俺がここに来る前に潰してきたあいつか。死んではないだろうが、早く助けた方がいいだろうな」

 

「!!」

 

 まさかとは思ったが、そのまさかだった。少し考えれば思い至ることだったが、信じたくなかった。エリちゃんが敵連合に連れて行かれて焦っていたからとどめはささなかったようだが、それでも治崎の個性なら重傷は間違いないはず。マズい、緑谷たちは交戦中ってんなら、通形先輩は今めちゃくちゃ危険な状態だ。

 

「どうせ死ぬから心配しなくてもいいだろう。お前たちも、そのルミリオンも」

 

「……みんな、ルミリオンのところに行ってくれないか」

 

「なっに言ってんスか! さっきも俺がいなかったらヤバかっただろ!」

 

「だからってルミリオンをほっとけないだろ。大丈夫。逃げ回ればなんとか時間は稼げるはずだ」

 

「おいおい、その精神は立派なもんだが、逃げるにしろ戦うにしろ一人じゃきついぜ!」

 

「いいよ。行こう、みんな」

 

「被身子? あれ、なんで」

 

 なんで被身子自身の声が、と思って振り向くと、被身子は綺麗に傷がなくなってしっかり立っていた。そして俺が二人いるのを見てにへ、と笑ってから、

 

「エリちゃんが辛そうなの。多分、個性が暴走してる。ね、想くん。こういう時は先生だよね」

 

「無理だ。壊理は個性の制御方法がわからない。そしてその個性は触れた者を際限なく巻き戻す。つまり、触れただけで"なくなってしまう"んだ」

 

「残念でした。私なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、エリちゃんに触れることができるのです」

 

 被身子は、ボロボロな俺に変身してエリちゃんを抱いた。その瞬間傷が治り、被身子の姿に戻るが瞬時にボロボロな俺に変身する。それは、かなり神経のいる行為なはずだ。一歩タイミングを間違えれば死んでしまう、消えてしまう。そんな恐怖を抱えながら相沢先生のところまで行くなんて、

 

「想くんが私を守ってくれるから、私がエリちゃんを守るの」

 

「……」

 

「私なら、(想くん)ならできる。だから、行くね」

 

「よっし、行こうぜトガちゃん! ただ勘違いすんなよヒーロー! 俺はトガちゃんのために動くだけで、別にテメェらなんか大好きだぜ!」

 

「まずはルミリオン? のところね! エリちゃんに治してもらって、それからイレイザーのところに行きましょ!」

 

「死ぬなよ! =ピース!」

 

「あの、私」

 

「エリちゃん」

 

 不安そうな顔で被身子に抱かれているエリちゃんに、治崎を警戒しながら話しかける。

 

「エリちゃんの個性はすげぇ個性だ。さっきだってボロボロだった被身子を治してくれた。命を救える個性なんだ。だから、俺たちに救えないルミリオンを、エリちゃんが救ってやってくれ。大丈夫、エリちゃんならできるから。安心しろ。ここ切り抜けたら待ってるのは平和だぜ」

 

「行かせると思うか?」

 

「やらせると思うか?」

 

 今までとは比にならない数の瓦礫の棘を『玄岩』で防ぐ。上限解放、70。溢れ出るエネルギーは荒々しく蠢き、瓦礫の棘を次々に破壊していった。

 

「じゃ、また後でな」

 

「いこ、エリちゃん」

 

「あっ、えっと」

 

 死なないで! という言葉に、俺は軽く手を挙げることで応えた。

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