俺はずっと好きでいる   作:酉柄レイム

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天龍

「さて……」

 

 あの化け物に対抗するため上限解放70を発動したが、俺大丈夫なんだろうか。『玄岩』を纏って回復すれば少しはマシになるだろうが、それでも痛いものは痛い。上限解放60のときでも痛かったんだ。70となると相当な激痛だろう。

 

 ただ、そんなことを言ってられない状況なのも確かだ。すぐにエリちゃんを追いたい治崎は、容赦なく攻撃を浴びせてくる。床や壁を崩壊させた瓦礫の棘。治崎が身にまとう瓦礫の巨人の腕。そして脚。すべてが息を整える暇もないくらいの速さで俺を攻め立てる。

 

「……荒いな。慣れてないのか? その状態」

 

「さぁ」

 

 バレてる。確か体育祭の時もそうだったか。限界を超えての強化は制限時間が短くなる。上限解放40から60、そして70の重ね掛け。なんとなく、体が反動を与える準備をしてるような気がする。今も、体の内側から外側に向かってエネルギーが飛び出ようとしている感覚がある。

 

 気づかれたからと言って焦っちゃだめだ。焦りは隙となり、その隙を見せれば一瞬でやられてしまう。治崎はそういう個性だ。分解と修復。それを繰り返すことによって瓦礫の棘を瞬時に生み出す個性の制御能力もあり、正直言ってめちゃくちゃ強い。

 

「んっ」

 

 無限に生み出される瓦礫の棘を『玄岩』を操作して壊し、振り下ろされる瓦礫の腕を殴ることでぶち壊す。上限解放70を使ってると、『玄岩』を操作するだけでも大分体が痛む。まるで父さんの個性を使ってるみたいだ。

 

「いいのか、こんなちんたらしてよ! エリちゃんは保護されて、ヒーローが集まってくるぜ!」

 

「お前は確実に殺す。一瞬でも隙を見せれば倒されそうだからな」

 

 評価してくれるのは嬉しいが、もうちょっと油断してくれてもいいのに。いや、油断しなかったからこそ今まで陰で生きてこられたのか。なんで陰で生きてんだボケが。

 

「お前は強い。だが、その強さには制限時間がある。いずれ訪れる時間切れ、お前が焦って隙を見せる、そのどちらかを待てばいい」

 

 憎たらしいくらいに冷静だ。本当に八本の腕つけてその上瓦礫の巨人と融合してるやつなのか? そんな見た目してたら普通冷静でいられないだろ。ふざけんな。

 

 俺が心の中で文句を言っている間にも、攻撃は止まない。数回の攻防で俺が対処しにくい位置を理解したのか、背後から緩急をつけて瓦礫の棘が襲ってくる。『玄岩』は全方位カバー可能で操作もできるが、むやみやたらに操作すると暴発する危険性がある。つまり繊細な操作が必要で、目で見えている位置にエネルギーを動かすのはまだ簡単だが、目で見えていない背後への操作は難しい。

 

「そうするしかないよな」

 

 だから背後からの攻撃を避けるために前に走ったが、読まれていた。俺に襲い掛かってくるのは周囲から生えてきた瓦礫の棘。獲物を捕食する肉食動物の牙のようなそれを、俺は無理やり体を捻って一回転し、『玄岩』ですべてを壊した。

 

 が、続けざまに上から瓦礫の腕が振り下ろされる。ろくに態勢も立て直せないままになんとかそれを受け止めて、無理やり『玄岩』で瓦礫の腕を壊す。鞭のようにしなる『玄岩』は瓦礫の腕を壊したが、体を纏っていたエネルギーは『玄岩』によって纏っていない部位が生まれ、その纏っていない部位、俺の足に瓦礫の棘が突き刺さった。

 

「づっ!?」

 

「こうなると、早い」

 

 治崎は瓦礫の巨人を分解させ、俺の視界を埋め尽くすほどの瓦礫の棘を作り上げた。足に瓦礫の棘が突き刺さっている今、アレに対処するには『風虎』か『雨雀』しかない。ただそれをやってしまうと制限時間が短くなり、俺が耐えれる時間が短くなる。恐らくアレを壊して俺に残される制限時間は3分あればいい方だ。そして3分経てば40、60、70の重ね掛けによる大ダメージが俺を襲う。

 

 でも、やるしかない。俺が倒れれば治崎はすぐにエリちゃんを奪い返そうと追いかけるだろう。それだけはやらせちゃだめだ。

 

 すぅ、と短く息を吸って、右腕を引き絞る。放つのは『風虎』。あわよくば治崎を倒せればという願いを込めて、一気に、

 

「『風虎』!!」

 

 ──放とうとしたその時。俺を襲おうとしていた瓦礫の棘すべてが、下からの暴力で粉々に砕け散った。俺は『風虎』を撃っていない。俺以外に『風虎』を撃てるのは、俺に変身した被身子か、

 

「よく耐えたな、=ピース」

 

「ノーリミット!」

 

 ノーリミット。俺の父さんだ。

 

 父さんの『風虎』で空いた穴から出てきた父さんは俺を庇うように立つと、目を治崎の方に向けたまま後ろ手でサムズアップする。

 

「ルミリオンは無事だ。俺が応急手当をし、数分と経たずレップウと敵連合、エリちゃんが来て傷は元通りだ。安心していい。お前はルミリオンとレップウ、敵連合とエリちゃんを守り抜いた」

 

「いや、俺は」

 

「そして、今度は俺が守る番だ」

 

 守る番って、

 

「俺もヒーローなんだけど」

 

「そんな足では満足に戦えんだろう。立っているだけでもキツいはずだ。それに何より、ヒーローだからと言って守られてはいけないというわけじゃない。ヒーローはその場に応じて誰でも助けてしまうんだ」

 

 お前が敵を助けたようにな。と言って、父さんは治崎に向かって走っていった。

 

「ノーリミット! 治崎に触れられると一瞬で分解させられる!」

 

「知ってるさ!」

 

 迫る父さんに振るわれるのは、八本の腕。その八本の腕はしかし、治崎の目の前で父さんが消えたことによって空を切る。そこで俺は、なるほどと思った。俺と父さんは感覚が強化され、速く動くものも目で追えるが、治崎はそうじゃない。となると、近接戦闘でも十分渡り合える可能性があったんだ。

 

 治崎の目の前で消えた父さんは、治崎の背後にいた。

 

「=ピース! 慎重さも大事だが、時には大胆さも大事だ!」

 

 父さんは治崎の背中を蹴ると一瞬で治崎の前に移動し、仰け反った治崎の顎を蹴り上げた。

 

「お前がもっと大胆になれるよう、最後に俺の技を見せてやろう! 必ず見てモノにしろ!」

 

 最後? と聞く前に、父さんは蹴り上げた治崎に向かって跳んだ。エネルギーを足の裏で弾けさせて移動する技。あれも習得しろといことだろうか。『玄岩』の応用、のように見える。

 

 治崎は空中で苦し紛れに腕を振るうが、父さんに触れる前にそのすべてが払われる。そしてその払われた腕は、力を無くしたかのようにだらん、と下がった。あれは父さんに聞いたことがある。エネルギーを相手の体内に通し、一時的に機能を停止させる技。かなり繊細なエネルギーの操作が必要な技で、今の俺じゃ相手を弾けさせることにしかならないと思う。

 

「お前に教えた『天昇龍』、その弱体化版!」

 

 言いながら、父さんは治崎に手のひらを当て、エネルギーを小さく爆発させた。弾き飛ばされた治崎の背後を取るように父さんは空中でエネルギーを弾けさせて移動すると、今度は治崎の背中に手のひらを当てた。弾いて追いつき、弾いて追いつき。それを繰り返し、

 

「『天龍』!」

 

 最後に空中から地面に治崎を叩きつけた。……死んでないよな? 『玄岩』を纏って警戒しながら近寄ると、治崎はピクリとも動いていなかった。が、息はしている。よかった。身内から殺人犯が出たらどうしようかと思ってた。

 

 父さんは危なげなく着地すると、俺に向かってピースサイン。この状態から治崎が起き上がってくるとは思えないが、警戒しなくていいのだろうか。あんな攻撃をくらっても、執念で起き上がってくる可能性もある。

 

「決まったな。治崎を抑えた以上、制圧は直に完了するだろう。つまり、俺たちの勝利だ!」

 

「だな。……それとさ、さっき最後って言ってたけど」

 

「ん? あぁ、アレだ」

 

 父さんがあっけらかんとして言ったそれは、治崎を倒した喜びを容易く打ち消す言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリちゃんの個性が止まった!」

 

「スゲーなイレイザー! クソしょうもねぇ個性だな!」

 

「うおー! よかったっスね、エリちゃん!」

 

「あ、あの、ありがとうございます。おじさん」

 

「……あぁ、いいよ。ところでルミリオン、この状況なんだ?」

 

「えっとですね、ハハハ! 僕もあまりよくわかってないんですよね!」

 

 その光景は、異様だった。ヒーローと敵が子どもが助かったことを同じように喜び、同じように笑っている。マグネは緑谷に「あの時殺そうとしちゃってごめんね」と合宿のときのことを謝罪しており、緑谷はどうすればいいかわからない、といった様子だ。

 

 俺たちのところにこいつらが来たのはついさっき。俺たちと交戦していた死穢八斎會の連中を瞬く間になぎ倒し、久知の姿をしたトガヒミコが「先生、エリちゃんをお願いします!」と言った時は思わず目を疑った。なぜ、と聞く前に個性を発動できたのは、長年のヒーロー活動の賜物だろう。

 

 エリちゃんの個性を止めて、さぁ理由を聞こうとこの場で一番マシであろう通形に聞いても、答えは返ってこなかった。なんとなく敵連合のやつらが協力してくれているであろうことはわかるが、なぜそうなったかがわからない。

 

「先生。私たちがエリちゃんを連れだしたんです」

 

 そんな俺の疑問を解消したのは、エリちゃんの個性が止まったことによって久知の姿になっておく必要がなくなったトガヒミコだった。変わらずその腕の中にエリちゃんを抱きつつ、トガヒミコは俺と目を合わせて続ける。

 

「想くんなら、エリちゃんを助けたいって思うだろうから。裏切って、連れ出しちゃいました」

 

「……」

 

 信じられん。あの敵連合が、子どもを助けた? 連れ去ることもせずに? トガヒミコがエリちゃんの個性を荒業とはいえ抑え込めるという事実がある以上、連れ去ることも可能だったはずだ。それをせず俺のところにきたということは、敵連合はヒーロー側にエリちゃんを預けようとしている?

 

「あ、想くん! 想くんが危ないの!」

 

「何?」

 

「えっとね、おじさんが一人想くんのところに行ったけど、戦ってて、それでね」

 

「想くんが治崎と一人で戦って、それを聞いたノーリミットが今想くんを助けに言ってるわ」

 

「なっ」

 

 マズい、と思ったのはこの場にいる全員だろうが、俺とナイトアイは違った。今回の作戦を決行するにあたって、ヒーロー全員に告げられている事実。

 

「すぐに助けに向かうぞ! ノーリミットは今、個性を使い続けると死んでしまう状況にある!」

 

「えっ……?」

 

 いつも笑顔の夜嵐が、珍しく笑顔を消して顔を青ざめさせた。

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