俺はずっと好きでいる   作:酉柄レイム

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雄英文化祭
こい、文化祭!


「オーケーボーイ! レッツダンスィ!」

 

「何やってんだ芦戸……?」

 

「うるせぇから黙らしてこい」

 

「んな無慈悲なことできるかよ」

 

 10月某日。エリちゃんのこととか被身子のこととか連絡まだかなーと教室でぼーっとしていると、教室の後ろで何やら芦戸が騒ぎ始めた。ブレイクダンスである。俺も中学の頃少しだけはまっていたような気がする。先輩たちがやっているのを見て、見様見真似でやったらなんとなくできてしまった。それは本当になんとなくで、あの頃は筋肉も柔軟性も何もなかったから、形だけだった。

 

「でもあぁいう趣味っていいよな。ヒーローになる助けになるじゃん」

 

「テメェはヤニしかねぇからな」

 

「アレに有害物質入ってたら俺からすりゃ助けになるんだけど」

 

「自分で体壊すヒーローがどこにいンだ」

 

 それもそうだ。そんなバカなことはない。いくら個性が使えるような状態になるって言っても、寿命を縮めていいことなんかないんだから。年取ってヒーローやってるかどうかは別として。

 

「つってもヒーロー活動に役立つ趣味をやる必要なんてないだろ? 趣味は趣味なんだから」

 

「テメェはほんとにいい子ちゃんなセリフが得意だな」

 

「そりゃ性格いいからな。ドブみてぇなお前と違って」

 

「アァ!?」

 

「席につけ」

 

 爆豪がキレたタイミングで相澤先生が教室に入ったため、爆豪は顔中に青筋を立てたまま前を向いた。怖すぎるだろ。俺が先生でこんな生徒がいたら怖くて単位めちゃくちゃあげちゃうわ。

 

「さて、世間では色々あり、色んな敵の動きが見えてきた今、雄英にもあるものが迫ってきている」

 

「あるもの……?」

 

「まさか敵が活発になって休学になるとか?」

 

 相澤先生の不穏な物言いに教室中に緊張が走る中、相澤先生はそんなことを気にした様子もなく軽く言った。

 

「文化祭があります」

 

「ガッポォォオオオイ!!」

 

「るせぇ」

 

「お前ほんと流されないよな」

 

 まぁ文化祭とかそういう学校行事で爆豪がテンション上げてたらそれはそれでなんか違うんだけど。にしたって「るせぇ」はないだろ。みんな爆豪に慣れてるから平気ってだけで、全員初対面だったら空気凍るからな?

 

「でもいいんですか!? この敵隆盛の時代に!」

 

 まさか切島からそんな言葉が出るとはと思ったが、死穢八斎會に乗り込んだあいつだからこそ思うことか。インターンでも敵を肌で感じただろうし、心配するのも無理はない。現状を考えると、体育祭で襲ってこなかったのが不思議なくらいだ。……あんだけプロヒーロー集まってたらそりゃ襲ってこないか。今のは俺が間違えてた。

 

「もっともな意見だ。だが、今回の文化祭は体育祭と違って他の科が主役。おいそれと中止にするわけにはいかないんだよ。最近寮制やらなんやら、ヒーロー科主体の動きが多いからな。それに対してストレスを感じている生徒も少なからずいるだろう」

 

「うっ、そう考えると中止するわけにはいかないっすね……」

 

「あぁ。雄英はヒーロー科だけじゃないからな。簡単に自粛するわけにはいかないんだ」

 

 確かに、体育祭で他の科から何か言われた気がするし、心操だって宣戦布告しにきたほどだ。ヒーロー科を敵視している人がいたって不思議じゃない。俺たちだって被害者だが、そんなことを言っても知ったこっちゃないからな。

 

「それで、今年は一部関係者を除いて学内だけの文化祭になる。今回ヒーロー科は主役じゃないが、決まりとして一クラス一つ出し物をしなきゃならん。今日はそれを決めてもらう」

 

「ここからはA組委員長飯田天哉が進行を務めさせていただきます!」

 

 張り切ってるなぁ。久しぶりに委員長らしいことをするからか? いや、そうじゃなくても飯田はこういうやつだったか。こう考えると爆豪が委員長にならなくてよかったと心の底から思える。爆豪が委員長になってたら独裁が始まってただろうからな。

 

「まずは候補を挙げていこう! 希望のある人は挙手してくれ!」

 

 流石と言うべきか、全員手を挙げた。かくいう俺は、悩んで手を挙げれていないんだが。

 

「殺し合い」

 

「少しはブレろよ爆豪」

 

「意見もねぇカスは死ね!」

 

「今ここでやってやろうか?」

 

「爆豪くん! 久知くん! 統率を乱すような行為はやめるように!」

 

 お前のせいで怒られちまった、と文句を言うと、爆豪は中指を立ててきた。だから俺はお前のせいだって言ってんだけど、わかる?

 

「あとは久知くんだけだな。何かあるかい?」

 

 気づけば、クラス中の視線が俺に集まっていた。別にそれで緊張する性格でもないが、気まずさは感じる。なんでみんなそんなに早く希望出せるんだ? 峰田が出したオッパブはクソとして、大体まともなやつばかりだ。……いや、そうでもない。雄英らしく個性に溢れたものばかりだった。

 

「んー、そうだな」

 

 主役が他の科って考えるなら、自分たちが主役に見えるようなものはあまりよくなさそうだ。やるなら、みんなに楽しんでもらえるようなもの。

 

 ……あと個人的に、気になる子がいるからその子にも楽しんでもらえるようなものがいい。

 

「アー、具体的に浮かばなくて悪いんだが、他の科の人も楽しめるようなものがいいと思う」

 

「ア? ムカつくやつからンなことされて素直に受け取ると思ってんのか」

 

「じゃあ楽しませ殺す」

 

 俺を睨んできた爆豪は満足したように前を向いた。これでいいの? 表現を変えただけなんだけど。

 

「あとさ。これちょっと個人的な事情になるんだが、ちょっと文化祭に呼びたい子がいて……これるかどうか微妙だけど、できればその子にも伝わりやすいような、見て純粋に楽しい! って思えるような何かがいい」

 

「う、んん。素晴らしい意見だが、俺たちの技術で、楽しませる……」

 

「それならダンスとかいーじゃん!?」

 

「いや、素人芸ほどストレスなもんはねぇぞ?」

 

 興奮する芦戸に、瀬呂が水を差す。ただそれはもっともだ。いくらこっちが楽しませようとしていても、それが素人芸ならしらけるだけでむしろストレスになってしまう。

 

「私教えられるよ!」

 

「芦戸はさっき教室の後ろでうるさ……にぎやかにダンスの指導をしていた。指導力は抜群だろ」

 

「クソな性格が垣間見えたな……」

 

「で、ダンスするなら音が必要だ」

 

 俺のクソな性格をつつかれたら困るので、峰田は無視する。うっかり『うるさく』って言いかけただけだろ。俺が嫌な奴みたいな言い方しやがって。

 

「ん! 音楽と言えば耳郎じゃね!?」

 

「だね! 耳郎ちゃん演奏も教えるのもすごく上手だし、音楽してる時とっても楽しそうだったよ!」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! 私の趣味は芦戸とかみんなみたいにヒーロー活動に根差した趣味じゃなくてただの趣味で、そんな自慢できるものじゃないの」

 

「ヤニより数億倍マシだろ」

 

「うるせぇ山登るしか脳のねぇサルが! ヤニはカッケーからいいんだよ!」

 

「隠してたじゃん」

 

「!!?」

 

 そういえば耳郎には俺がちゃんとタバコ吸ってたことがバレてたんだった。まさかここでそれを指摘されるなんて。いやでもほら。タバコ吸ってるってまさに言うもんでもないだろ? 俺はカッケーしクールだと思ってるけど、未成年の喫煙はダメなんだから。

 

「久知のクソヤニはともかくさ」

 

「クソヤニ?」

 

 お前ら、高校生があんまりヤニヤニ言うなよ。すげぇ治安悪い高校みたいだろ。ここは天下の雄英だぞ、雄英。

 

 俺のことを『クソヤニ』と言って貶した上鳴は、人を貶した後とは思えない笑顔で耳郎に笑いかけた。

 

「あんな楽器できるってめちゃくちゃカッケーじゃん! やろうぜ、耳郎!」

 

 こういうのって上鳴が言うから意味があるよな。俺が言うと絶対打算的に思われるし。乗せるために言ってるんだろ? みたいな。その点上鳴はアホだから、感情が素直なんだ。いいものはいいし、悪いものは悪い。比較的上鳴と話すことが多い耳郎なら、それがビシビシ伝わるはずだ。

 

「耳郎さん。人を笑顔にできるかもしれない技だよ。十分ヒーロー活動に根差してると思うよ」

 

 そんな上鳴から、純粋な口田による追撃。あの二人から褒められて悪い気になるやつなんていないだろ。俺のヤニも褒めてくんねぇかな。さっき上鳴から『クソヤニ』って言われたばっかだけど。

 

「ん、んん……ここまで言われたやらないのも、ロックじゃないよね」

 

「おぉー!」

 

「じゃあA組の出し物は生演奏とダンスで決まりだ!」

 

「どうせなら個性使ってド派手な演出やらね?」

 

「いいね、それ!」

 

 耳郎が承諾したことで話し合いが盛り上がっていく。よかった、なんとかうまくまとまったか。こういう話し合いでまとまらなかったら相澤先生不機嫌になるからな。非合理だなんだとか言って。なんで俺相澤先生に合わせてんだ?

 

 そうやって盛り上がり始めたところで、チャイムが鳴った。相澤先生のそりと立ち上がって、

 

「とりあえず、生演奏とダンスってことでいいんだな」

 

「はい! 今パリピ空間の提供ってことで決まりました!」

 

 爆豪が不機嫌そうになった。さっきの会話から考えると、『提供』っていう言葉が気に入らなかったんだと思う。音とダンスで殴り殺すっていう言い方をした方が爆豪にとってはいいだろう。いや、言い方というより、そういう意識でやった方がってことか?

 

「……ま、いいよ。詳細はちゃんと話し合っておくように」

 

「はい!」

 

 見た目表情は変わらないが、相澤先生も微妙そうだ。まさか相澤先生も殺すつもりでやれって思ってるとか? 教師がそれってどうなんだ。……まぁ、ヒーロー科にストレス抱えてる人たちが素直に楽しむわけない、って考えてるんだろうけど。相変わらず捻くれてんなぁ。

 

「あぁ、それと久知」

 

「はい!」

 

 失礼な考えがバレてしまったのか、相澤先生に名指しされた。「あいつ名指しされること多くね?」という誰かの言葉は聞かなかったことにして、俺を見る相澤先生に緊張しながら背筋を伸ばす。

 

「あと緑谷。あとで話がある」

 

「……俺、お前とセットで呼ばれていいことがある気しねぇわ」

 

「あ、あはは」

 

 何もしてないはずなのにお話があるらしい。怖くね?

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