俺はずっと好きでいる   作:酉柄レイム

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『跳馬』

 向かったのは、備品室。そこには波動先輩、天喰先輩がいた。あと数人知らない先輩がいる。波動先輩は個性によってふわふわ浮いており、俺たちを見るとそのままふわふわ飛んできた。

 

「あれ、エリちゃんだ! なんでここにいるの? 不思議!」

 

「波動ねじれさんは去年のミスコンで準グランプリだったのさ!」

 

「え、波動先輩で準ですか?」

 

「そーなの! ねぇ聞いて。すごい子がいるの!」

 

 見せられたのは、めちゃくちゃ派手な女の人だった。というよりもはや女とか男とかじゃなくて派手すぎてもはや別の生き物に見える。ミスコンってどういう競技なんだ? 派手であればあるほどいいのか?

 

「今年はCM出演で隠れファンが急増している拳藤さんも出る。波動さんも気合が入ってる。……大勢の前でパフォーマンスなんて、考えるだけでもお腹が痛い……!」

 

 この人、めちゃくちゃ強いのになんでこんなに自信ないんだろう。ノミの心臓にもほどがある。もっと堂々としてればカッコいいのに。まぁこれが天喰先輩らしさなんだろうけど。

 

「私ね、言われるがままにやってきたけど、なんだかんだ楽しいし負けると悔しいよ。だから今回は勝つの! 最後だもん!」

 

「勝てるさ!」

 

 ……被身子、ミスコンに出ないかな。そしたら個性を覚醒させて分身できるようになって何票でも入れるのに。

 

 通形先輩とはそこで別れ、次はサポート科に向かった。緑谷が言うには全学年一律で技術展示会をするらしく、毎年注目が集まっているらしい。そこら中から機械音が聞こえてくる。エリちゃんは大丈夫かと思って見てみると、興味深そうに周りをきょろきょろと見ていた。大丈夫そうだ。

 

「そう! 文化祭はサポート科が主役です!」

 

「発目さん!」

 

 エリちゃんと同じくらい周りを興味深そうに見ていた緑谷の後ろから現れたのは、発目。体育祭で緑谷と組み、トーナメントで発明品を披露してさっさと負けた商売根性たくましい子だ。

 

「えっと、なんか、汚れてるね?」

 

「お風呂に入る時間ももったいないので!」

 

「すごい熱意だな!」

 

 父さんが褒めるようにすごい熱意だが、お風呂に入らないのはどうだろう? 体が痒くなって集中できないと思うが……そんなことが気にならないくらい集中、熱中してしまうんだろう。

 

「見てください、ドッカワベイビー第202子です!」

 

「でかい! ロマンだな!」

 

「すご……」

 

「次々にアイデアが湧いてきて楽しくてですね! 体育祭と違って、より多くの企業によりじっくり我が子を見てもらえるのです! 恥ずかしくない子に育て上げなくては!」

 

 立派なことを言いながら、ドッカワベイビー第202子である巨大ロボをバン! と叩く。でかくてすごいのはいいんだが、こいつ何に使うんだろう。個性持ってなくても戦えるようなロボットみたいな? だとしたらロマンだ。俺もロボットで戦ってみたい。

 

「って、あれ?」

 

 異変が起きたのはその時だった。ドッカワベイビー第202子ががたがたと震えだしたかと思うと、勢いよく頭が爆発した。咄嗟にエリちゃんを庇ったもののそこまで爆発の規模は大きくなく、派手なのは音と見た目だけだ。

 

「あぁっ、ベイビー!?」

 

「は、発目さんなんかごめん!」

 

「行くか、エリちゃん。ここは危なそうだ」

 

「うん。音おっきくてびっくりした」

 

 そんなことを言いつつも平気そうなエリちゃんに、俺は小さく笑った。

 

 その後も色々回って、食堂。俺、エリちゃん、緑谷の順に並んで座って、父さんが対面に座る。

 

「どうだった?」

 

 俺と緑谷の間に座ってジュースを飲んでいるエリちゃんに聞いてみると、「わからない」と返ってきた。仕方ないか、と緑谷と顔見合わせて笑っていると、エリちゃんは「でも」と続けた。

 

「みんな頑張ってたから、どんなのになるんだろう、って……」

 

「人はそれをワクワクさんと呼ぶのさ!」

 

 エリちゃんの言葉に返したのは、俺たちのいる席から少し離れたところでチーズを食べている根津校長だった。隣にはミッドナイト先生がいる。根津校長はチーズを食べ終えると行儀よく口元を拭いて、

 

「私も文化祭、ワクワクするのさ! 多くの生徒が最高の催しになるよう励み、みんなが楽しみ、楽しませようとしている」

 

「警察からも色々ありましたからねぇ」

 

「香山くん」

 

 そうだろうな、とは思う。敵隆盛のこの時代、敵の侵入を許した雄英高校が文化祭を開催するのはよくないというのが普通の意見だ。きっと、校長先生は色んな所に頭を下げてくれたんだろう。

 

「じゃ、僕は行くよ。君たちも文化祭、楽しむように」

 

 根津校長は椅子から降りて、クールに去っていった。見た目ネズミなのに、どうしてあんなに大人な感じがするのだろうか。まぁ大人なんだけど。頭めちゃくちゃいいし。

 

「……詳しくは言わないけど、色々もめたみたいよ。その結果、セキュリティを強化して、もし警報が鳴ったらそれが誤報だろうと即座に中止、避難することが開催条件になったの」

 

「厳しい……」

 

「もちろんそうならないように警備はしっかりするわ。学校周辺にハウンドドッグを放つし」

 

「放つって」

 

 しかし、誤報でも中止か。文化祭を開催する雄英を狙おうとする敵は少なからずいるはず。そいつらをまとめて外で始末……もとい捕まえることができればいいんだが。

 

「そうそう! A組の出し物、職員室でも話題になってたわよ。青春、頑張ってね!」

 

 綺麗なウインクで俺たちを激励してくれるミッドナイトに「はい!」と緑谷と二人で返事すると、エリちゃんが俺の袖をちょこ、と引っ張った。

 

「想くんたちは何するの?」

 

「ん? 俺たちは音楽とダンス。俺も緑谷も……アー、デクも踊るんだ」

 

「エリちゃんにも楽しんでもらえるよう頑張るから、必ずきてね!」

 

「心配せずとも、俺がしっかり連れて行くさ!」

 

 俺はダンスと演出両方に入るが、別に言わなくてもいいだろう。どうせ派手なんだ。

 

「じゃあもう少しで休憩終わるから、俺たちは……そうだ、父さん」

 

「ん? なんだ、想」

 

「アレのやり方教えてくんね?」

 

「……んー」

 

 いいぞ! と笑ってくれた父さんにこの時はほっとしたが、明日になってやめときゃよかったと後悔することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、日曜日。当たり前のように父さんが雄英に来て、俺の修行を手伝ってくれることになった。みんなにはあらかじめ言っておいて許可をもらっている。ダンスは芦戸に完璧だと太鼓判を押され、演出隊には「必要なことだから」と言って許可をもらった。俺だけ個性全開で行く以上、半端なものは見せられない。

 

「お前が習得したいのは『跳馬(はねうま)』だな?」

 

「あれそんな名前だったのか……」

 

 今俺と父さんがいるのはグラウンド・β。初めての戦闘訓練を行った場所で、市街地を模したグラウンドでもある。そこで父さんから教えてもらうのは『跳馬』。エネルギーを自分の近くで爆発させることで自分の体を弾き、空中での移動を可能にする技だ。これを使うには『玄岩』が必要であり、別になくてもできるのだがその際は自分が爆発させたエネルギーでデカいダメージを負う。

 

「実際、どこまでできるんだ?」

 

「エネルギーを爆発させるってのはできるんだ。ただ、『玄岩』がうまくいかなくて」

 

「どんな風に?」

 

「バランス。爆発させるエネルギーと『玄岩』をちょうど一対一にすんのが難しいんだ。小さいエネルギーならなんとか合わせられるんだけど、勢いよく飛ぼうとエネルギーを大きくしたら、めちゃくちゃ弾かれるか全然弾かれないかのどっちかで」

 

 『跳馬』は言ってしまえば自分を攻撃して、その衝撃が体にこないようエネルギーで防御して、その勢いを利用して自分を弾き飛ばす技。自分に攻撃する、という意識がある以上、調整はめちゃくちゃ慎重になってしまう。一歩間違えれば大怪我だ。

 

「『雨雀』、『風虎』の威力の調整はどうやっていたんだ?」

 

「なんとなく、こんくらいなら死なないだろみたいな」

 

「ふむ、その辺りの調整の仕方も覚えた方がいいが……簡単なやり方を教えよう。お前が『玄岩』を使えるような強化状態になったとき、全体に纏った状態で高く飛ぶにはおよそ全体の5%の威力のエネルギーが必要だ」

 

「5%」

 

「足だけにエネルギーを纏うというのをやると、他の体に衝撃がいってしまうから慣れるまではやめた方がいい。まずは全身に纏った状態で、自分をどれだけ弾けるかを試していこう」

 

「5%がどれくらいかピンとこないんだけど……」

 

 アバウトにこれくらい、っていうやつならなんとかわかるけど、そこまで細かいとやり辛い。そう言った俺に、父さんは笑顔で「試せ」と言った。

 

「試せ?」

 

「だから、5%が掴めるまで自分の近くでエネルギーを爆発させろ」

 

 もちろん、俺は死ぬほどボロボロになった。ある時はエネルギーを大きくしすぎてめちゃくちゃ弾き飛び、ある時は『玄岩』をがブレて暴発し。気づいた時には全身ボロボロになっていた。クソ、俺の個性威力デカすぎるだろ。死ぬぞ、こんなん人に向けてやったら。

 

「段々掴めてきたな」

 

「なんとかな……でも、姿勢制御がうまくいかねぇ」

 

 そのむちゃくちゃなスパルタのおかげで、なんとか「これが5%か?」となんとなく掴めるようにはなった。ただ、エネルギーを爆発させた後が問題で、体勢がぐちゃぐちゃになってしまう。自分で飛んでいる、という感じではなく、飛ばされているという感覚だ。

 

「うーん、体が出来上がっていないのかもな。確かに、今のお前は空中で溺れているようだった」

 

「そんな無様な表現しなくても……」

 

 強く言い返せないのが悔しい。父さんは姿勢制御については「耐えてた」っていうバカみたいな一言で済ませたし、こっからは自分でなんとかするしかない。まさか文化祭までに体の芯をしっかりさせるなんてことができるわけないから。

 

「って、待てよ?」

 

「ん?」

 

 空中での姿勢制御? そうだ、よく考えたら身近に参考になるやつがいた。しかも『爆発させる』っていうところまで一緒。俺は父さんを真似して足でエネルギーを爆破させていたが、あいつを真似るなら両方の手のひらから。

 

「5%を均等に、両方の手のひらに分けて……」

 

 爆破させた瞬間。距離は足で爆破させたときより短いものの、姿勢制御がうまくいった。綺麗に爆破させたときの姿勢のまま飛べている。

 

「できた!」

 

「やったなぁ! 想!」

 

 柄にもなく父さんにピースすると、『玄岩』が暴発して空中ではじけ飛んだ。なんだよクソ!

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