「講評の時間だよ!」
モニタールームに着くと、相変わらず画風が違うオールマイトとねぎらいの言葉をかけてくれるみんなに迎えられ、講評の時間が始まった。
「さて、まぁ結果を見ると今戦のベストは久知少年だな!」
「ありがとうございます」
結果を見ると、という言葉が気になるところだがベストだというならありがたく受け取っておこう。いまだに上鳴と耳郎がじとっとした目で見てくるけど。
「常に先手を取り、相手を翻弄し、最後まで騙してみせた!更に入学して間もないというのに敵の心理を理解している!が、結果を見るとって言った意味わかるかい?」
「あー、まぁ、なんとなく」
入学間もないやつが敵の心理を理解していたら、それは敵よりのやつじゃないのかと思ったりもしなくないが、今は置いておこう。ほら、敵に近づこうとしていた時期があったくらいだし、それは仕方ない。
「正直博打でしたからね。俺が向いてるのは時間制限なしの持久戦、それを考えると正面からの戦闘は愚策だと思いまして、相手が索敵できる個性と仮定した上で、それを元に作戦を立てました。仮定した個性がハズレだった時のことも考えて核を置いていた二階に向かっていたんですが、それで正面戦闘になると負けていたでしょうし」
実際、上鳴が切島すら巻き込んだ放電をかましてきていたら負けていた。試合には勝っているが俺は捕まっているわけだし、あの時点で切島がやられていればふっつーに敗北。うまくいきすぎたんだ。本当に。
「俺と上鳴が一対一の場面になったときに耳郎が不意をついてきていたら上鳴を倒す前にやられていたでしょうし、『核を見つける』っていう意識が向こうにあったから勝てたようなもんですよ。なまじ索敵できる分、安全に核を見つけて勝てるっていう手段が向こうにあったからうまくいった作戦ですね。勝った気してませんし。普通に」
「……えっと、うん。すごいな君!自分を使うのはうまくても、人を動かすのはあまり得意ではないみたいだね?」
確かに。今回俺ばかり動く作戦だったし、だからこそ切島も我慢できなくなって最後戦ったのだろう。俺だけのための授業ではないのだから、その辺りも考えるべきだったか。
「さ、講評終わり!次行ってみよう!」
ヒーローを志す以上、いつか人の上に立つときがくるだろう。そういう時、今回のように自分だけ前に出るやつに果たしてどれだけの人間がついてきてくれるだろうか。しかも必ず体をボロボロにして帰ってくるおまけつき。
その点を反省しながら個性を切って、激痛を耐えながら観戦した。
授業が終わって、放課後。
俺は黙って教室を出て行く爆豪の背中を見送りながら、上鳴に肩を組まれてぐちぐち言われていた。
「鬼畜ー、鬼ー、少し背の小さいイケメンー」
「だから悪かったって。あとありがとう」
どうやら自分を人質に使われたことが気に入らないらしい。だって敵ならああするかなって。いや、初めて敵の役をするのにあそこまで徹することができるっていうのが問題なのか?
「や、あんなの文句も言いたくなるって。授業としては正しかったのかもしんないけど」
椅子に座っている俺の机に腰かけたのは上鳴のペアだった耳郎。流石にもうじとっとした目で見てくることはないが、やはり思うところはあるらしい。俺性格悪いって言われたしね。
「切島と戦っても瞬殺されたし。これでもちょっとへこんでるんだよ、ウチ」
「アレは時間がなかったから焦っていいとこみせようとして突貫しただけだから、気にすんなって!次やったらどっちが勝つかわかんねぇし!」
な!と上鳴と同じように肩を組んでくる切島に小さく頷いた。聞くに、焦った様子で上ってきた耳郎をこれまた焦った様子の切島が出合い頭にワンパン。沈んだ耳郎に確保テープを巻きつけたらしい。えげつない。
「次があったらウチが勝つし。にしても、久知の言う通りだね。上鳴を行かせて一人安全に核を探そうっていうのはまだいいとしても、せっかく久知が一人になったのに戦いに行かなかったのはねぇ」
「あぁあれな。あの時点では耳郎が上の階にいるって思ってたから、どうせ切島とぶつかるだろって思ってたけど、実は一階にいましたって俺相当ヤバかったろ。いきり散らして恥ずかしい」
「それ言ったら俺は堂々と作戦ばらして人質にされてんだぜ?だっせーのなんのって」
少し沈みだした俺たちに、切島が明るい笑顔で「これからこれから!」と励ましてくれる。こういう明るいやつがいるとクラスはうまく回るんだ。俺クラスの輪に入ったことないから知らないけど。
「ま、耳郎は上鳴を助けにきたし、上鳴は普通に強い個性だし、切島は特に活躍無いけど結果的に戦って勝ってるし。悪いとこばっかじゃなくていいとこ見て行こう。俺は敵役が板についてた」
「ほんとそれな!やってた?敵」
「元敵が入れる雄英って何だそれ」
「ウチ、心音聞こうか?尋問尋問」
「えらく可愛らしいウソ発見器だな」
「はいはい。変なこと言って逃げようとしたってそうはいかないからね」
バレた。耳郎みたいなタイプってかわいいとかなんとか言ってりゃ恥ずかしがってうやむやにできると思ったのに。最低か?俺。そりゃ性格悪いって言われるわ。
耳郎がプラグを伸ばし、俺の胸にぴとっと当てる。まぁ本当に敵をやっていたわけじゃないし、おふざけ程度だからそこまで嫌がることもないだろう。微妙な顔をする切島に、手をひらひらと振って「いいよ」と伝える。切島っていいやつだから、冗談でも人を疑うようなこと嫌いそうだな。
「じゃあ質問。あなたは敵をやっていましたか?」
「ノー」
「……うん、落ち着いてる」
よかった。ここで心臓バクバク鳴ったらどうしようかと。敵じゃなかったんだけど、こういうことされると無駄に緊張してしまう。
「あなたは何かしら悪いことをしたことがありますか?」
「……そりゃ誰だってあるだろ。ほら、小さいときって善悪の区別つかないじゃん?」
未成年喫煙の文字が頭をよぎったので、これは嘘をついたらバクバク鳴るなと判断して本当のことを言いつつバレないように回答する。こういうことばっかやってるから「敵やってた?」って言われるんだろうが。反省しろ、俺。
「うわ、はぐらかすの上手いね。でもはぐらかすってことは、結構ヤバそうなことやってたんじゃない?」
「……」
「うるさっ!」
どうやら俺の心音が爆発的な音を出したらしい。耳郎はたまらずプラグを俺の胸から外し、耳を抑えた。
「はは、耳郎やだなぁ。なんで俺が動揺する必要あるんだ?」
「うっそ、やべぇことしてたのか?なになに?」
「やめとけ上鳴!こういうときはダチを信じてやるのが漢だろ!」
心なしか体が熱くなってきた気がする。いや、これは冷えてるのか?どっちかわからん。わかるのは俺が追い詰められているってこと。あぁ、追い詰められるならあの子に追い詰められたかった。ごめんね。今俺はここで死にます。
「うー。一瞬でそんな動揺するって、なんなのホント。嘘つくの上手いのか下手なのかわかんない」
「嘘ついてないし!俺なんも喋ってないもん!黙ってたらいきなり心臓が爆音鳴らしただけで!」
「まーまーもういいじゃねぇか。誰にだって言いたくない秘密の一つや二つあるだろうし」
なぜか責められる俺を、切島が優しくフォローしてくれる。どれだけいいやつなんだこいつは。チャラチャラしてるだけのアホ上鳴とはワケが違う。
「そうだぞ上鳴。詮索しすぎるとよくない」
「え、俺?耳郎がいなきゃ実行できなかったから一番悪いのは耳郎だろ」
「さいってー」
「女の子に責任押し付けるのはなぁ」
「漢じゃねぇな」
「ひでー!」
俺ら親友じゃん?なぁ?と顔を寄せてくる上鳴を押しのける。面白いやつだが、一日で親友にまで距離をつめられるほど仲良くした覚えはない。これからなれればいいなとは思うが。
しばらく攻防していると、上鳴が「なんだよー」と言って拗ね始めてしまった。恐らく演技だろう。ちらちらとこちらを見る目がとても鬱陶しい。が、人質にしたり蹴ったりと色々申し訳ないことをしてしまったので、ここはひとつ男気を見せてやるとしよう。
「悪かったって。お詫びに飯行こうぜ。軽いもんなら奢ってやるよ」
「お、マジ?だってよ!」
「へぇ、じゃあウチもご馳走になろうかな」
「漢だな!よし、俺も乗っかるぜ!」
「ヒーローが人を経済的に苦しめていいんですか?」
「アンタが言ったんだし、いいでしょ」と飛び降りながら耳郎。「やっぱり漢だな!」と拳を合わせながら切島。「食うぞー!」とアホ面して上鳴。なるほど。女の子に奢るのはよし、切島もいいやつだからよし。上鳴はムカつくからやだ。あれ?上鳴だけに奢ろうとしてたのに、上鳴だけ奢りたくないぞ?
「……まぁいいか、俺金持ちだし」
「ナチュラルに嫌なやつだなお前!」
「金持ちならこれからも奢ってもらおうかな」
「たかんのは漢らしくねぇぞ、耳郎!」
「ウチ女なんだけど……」
ワイワイ騒ぐみんなから少し外れて、財布の中身を見る。……帰ったらお母さまにお小遣いの前借をお願いしよう。うん。みんな良識あるはずだからそんなにお金なくならないかもしれないし、軽い気持ちでいこう。
財布が空になった。クソが。