俺はずっと好きでいる   作:酉柄レイム

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お久しぶりです。
転職して時間ができました。


頼むか否か

 文化祭五日前。『跳馬』の制御を両手で行うようになったのはいいものの、そこは今まで地に足をつけて戦っていた人間。空中で自由自在に動けるはずもなく、成長の兆しを見せないでいた。

 

 そこで、気づいてしまった。俺の身近に両手を爆破させて空中を自由自在に動き回るやつがいることを。

 

「ア? 何見とんだヤニ」

 

 いつもの教室。二時間目が終わった休み時間。とんでもないことに気づいてしまった俺は前の席にいる爆豪を凝視していると、爆豪が振り向いて睨んできた。いつもなら口喧嘩、ひどければ殴り合いが勃発するところだが、俺の脳内は別のことで埋め尽くされている。

 

 爆豪にコツを教えてもらうか否か。

 

 正直とてつもなく嫌だ。なぜなら頼んだところで「は? クセェ口閉じろや。ヤニクセェ」とバカにしてくるに決まっているからであり、いや別に俺の口はクサくないが、とにかく見下してくるに違いないからだ。そうじゃなくても、勝ち誇ったように俺を見下ろし、「ついに俺のが上だって認めたか」と偉ぶるだろう。

 爆豪はいいところが見えるようになってきたが、十分クソみたいな性格してるからな。入学から、その前からつるんでいる俺はわかる。

 

 爆豪が黙ったままの俺を見て「うるせぇのがついに死んだわ」と喜んでいる。俺が黙っているのがそんなに珍しいのか、切島と上鳴、耳郎と芦戸、どころかクラス全員が俺の周りに集まってくる始末。

 

「どうしたんだ久知? 爆豪と喧嘩しねぇなんて……」

 

「先生呼んだ方がいいかな?」

 

「ウンコしたいのか?」

 

 爆豪にコツを教えてもらうかどうかで悩んでいる俺の脳では、クラスの誰が何を言っているのかすらわからなかった。多分ウンコは、いや確実に、間違いなくウンコって言ったのは上鳴だろうが。

 

 あぁ被身子に会いたい。なんで俺がこんなドグサレ爆発頭にコツを教えてもらうかどうかでこんなに悩まなきゃいけないんだ。頭よしよしされながらゆっくりと血を吸われたい。あの綺麗な笑顔を俺に向けて欲しい。そういやいつ会えるんだろ。相澤先生が「できるだけなんとかする」ってカッコいいこと言ってたけど音沙汰無しだし。

 

「なぁなぁ。ウンコしたいのか?」

 

 なんで俺がウンコしたいかどうかが気になってんだこのアホ面。お前高校生だろ。なんでウンコがそんなに気になるんだよ。俺ウンコしたくねぇし。同じくらいアホの芦戸が「我慢はよくないよねぇ」ってアホ晒してんだろ。ってか何で俺がウンコしたい方向で話が進んでんだ。俺今までウンコしたいとき沈黙する男だったか? 違うだろ。「ウンコ行ってくるわ」って男らしく宣言して行くような男だったろ。わざわざ言わなくていいのに。

 

 違う。ウンコの話はいい。

 

 人が集まってきて鬱陶しそうにしている畜生爆発頭にコツを教えてもらうかどうかだ。爆豪以外なら普通に頼めるのに、こうも頼みづらいのはやはり爆豪のクソみたいな性格のせいだろう。しかもいつも喧嘩してるからみんなの前で頼むなんて屈辱以外の何物でもない。みんなに「久知が爆豪に屈した」って思われたら明日から俺は学校にいけない。みんなと暮らしてるから学校に行かなかったところで意味ねぇけど。

 

「もしかしてお前……」

 

 上鳴が頬を引きつらせ、後ずさりする。漏らしてねぇよクソアホ。なんでお前はそんなにウンコさせてぇんだよ。ウンコが好きなのは小学校男児までだろ。……上鳴なら別におかしくないか。アホだし。

 

 視界の端で耳郎に制裁されている上鳴を捉えつつ、考える。流石耳郎。あのアホを放置していても耳郎がいるなら安心だな。

 

 まず今爆豪に頼むのは絶対ない。みんなに見られるのは嫌だ。そもそも頼むかどうかだが、これはもう頼むしかないと思ってる。文化祭が近いし、中途半端な状態で個性を使うのが一番危険だ。だったら恥を忍んででも頼んだ方がいいに決まっている。

 

 じゃあどうやって頼むか。みんなの前で頼まず、二人きりで。あれ、そういえば爆豪の部屋って俺の隣じゃなかったっけ?

 

 ピンときた俺は、爽やかな笑顔を爆豪に向け、言った。

 

「爆豪! 今夜俺の部屋にこいよ!」

 

 俺の体は爆豪の爆破によって綺麗に教室の後ろまでぶっ飛ばされた。

 

「だ、大丈夫ですか久知さん!」

 

「や、八百万。俺は死ぬかもしれん。思ったより本気の爆破だった。咄嗟に体引いてなかったらヤバかった」

 

「気色ワリィこと言ってんじゃねぇぞテメェぶっ飛ばすぞ!」

 

「これ以上?」

 

 慌てた八百万に抱き起されながら爆豪を見る。

 激昂していた。目をひん剥いて、体中のあちこちに血管が浮き出ている。もう人じゃねぇよアレ。

 

「久知くん久知くん。確認だけど、そういう意味じゃないよね?」

 

「あ? そういう意味って」

 

 浮かんでいる制服、葉隠がるんるんと近寄ってきて、興味津々に聞いてくる。何言ってんだこいつ。そういう意味ってどういう意味?

 

 首を傾げていると、上鳴の制裁を終えた耳郎がため息を吐いて、

 

「いや、『今夜俺の部屋にこいよ』って、言い方ややこしすぎるでしょ」

 

「……なるほどね」

 

「てかいつまでヤオモモと引っ付いてんの。離れろ」

 

 耳郎が俺の襟首をひっつかんで八百万から引きはがす。心地いい温もりがなくなったのは残念だが、耳郎の目が本気で怖いので「妬いてんのかハハハ」と冗談をかましたところ普通に真顔でビンタされた。せっかく起こしてもらった俺の体はまた床に転がってしまう。

 

「泣きっ面に蜂……」

 

「石の上にも三年だな!」

 

「何と間違えたんだ上鳴。踏んだり蹴ったりだろ」

 

 アホがアホしているのは放っておいて、あまり痛くない頬を抑えながら立ち上がる。爆豪を見ると怒りは収まっていないようで、絶え間なく爆破しながら俺を睨みつけていた。もう殺されんじゃねぇの? 俺。

 

 しかしそこで救世主が現れた。

 

「あ、あはは。久知くん、かっちゃんに何か言いたいことがあったんだよね? みんなの前で言いづらいからあんなこと言っちゃっただけで。いつも喧嘩してるから、言い方が変になっちゃっても仕方ないよ」

 

 その救世主も爆豪によってぶっ飛ばされた。

 

「緑谷!!」

 

「何ヤニカスのフォローしてんだぶっ飛ばすぞ!」

 

「これ以上どこに……?」

 

 俺が緑谷を抱き起こすと、もっともなことを言いながら首を傾げていた。あいつぶっ飛ばした後にぶっ飛ばすぞって言うってどんだけイカれてんだよ。てか教室内で個性使って暴力振るうってそれでもヒーローかあいつ。

 

「やっぱそういう意味じゃなかったんだ。つまんなーい」

 

「まず俺たちの心配をしろよ。八百万だけだぞ心配してくれたの。なんでみんな爆豪を責めないの?」

 

「だっていつも通りだし」

 

 葉隠の言葉に爆豪と八百万以外のクラス全員が頷いた。ちなみに緑谷も頷いていた。お前は俺の仲間だと思ってたのに。

 

「飯田! お前学級委員だろ! 教室内で個性使ってクラスメイトぶっ飛ばすやつを見逃していいのか!」

 

「飯田なら職員室に用があるっつっていないぜ」

 

「どうりで無法地帯だなって思ったよ!」

 

 瀬呂の言葉に絶望し、床を拳で殴りつける。

 その手を、八百万が柔らかく包んだ。

 

「久知さん。大丈夫ですわ」

 

「八百万?」

 

「私、副委員長ですもの。任せてください」

 

 八百万が爆豪を睨みつける。俺の唯一の味方が降臨なされた。やっぱり八百万だよな。常識人で美人で頭がよくて。こんないい女の子男はほっとかないって。俺は被身子一筋だけど。

 

「爆豪さん!」

 

「ア?」

 

 爆豪は今から八百万によって裁かれる。八百万はみんなの人気者、爆豪はゴミ。どっちが優勢かなんて火を見るよりも明らかだ。

 心強い味方を得た俺は、八百万の隣で勝ち誇った笑みを浮かべる。さぁ爆豪。俺を、ついでに緑谷をぶっ飛ばした罪は重い。思う存分懺悔しろ。

 

「久知さんがあなたと遊びたいと仰っているのですから、ちゃんと答えてあげてください!」

 

「八百万?」

 

「確かに、あなたたちは普段喧嘩ばかりなさっているかもしれません」

 

「八百万」

 

「ですが、私たちはあなたたちが本当は仲がいいということを知っていますわ」

 

「八百万!」

 

「私たちの前でそれを見せるのは恥ずかしいかもしれません。けれど、久知さんはそんな中でも勇気を出してあなたを誘った。それを無下にするなんて、あんまりですわ!」

 

「八百万!!」

 

 的外れを連発している八百万に、男子の何人かが腹を抱えて笑っていた。テメェら後で覚えとけよ。あと耳郎は可哀そうな目で俺を見るな。お前八百万の保護者だろ、なんとかしろ。

 

 そんな俺の願いむなしく、耳郎は首を横に振った。俺の言いたいこと伝わってんならなおさら何とかしろテメェ。

 

「って、轟?」

 

 諦めた耳郎ではなく、俺の隣に立ったのは轟だった。轟はのほほんと俺と爆豪を交互に見た後、俺の肩をぽんぽんと叩いて自分を指す。

 

「俺も交ぜてくれ」

 

 その目はキラキラと輝いていて少年のようだった。

 

「なぁテメェら。ザコが仲良しこよしで俺に喧嘩売ってんのか……?」

 

 ついに爆豪が立ち上がり、俺たちの方へ近づいてくる。

 

「いえ、久知さんはあなたと遊びたいと仰っていますわ」

 

「仰っていませんわ八百万さん」

 

「なぁ久知。こういうときって売る方がいいのか? 買う方がいいのか?」

 

「ズレてんだよテメェ。どっちもダメだ。あとなんで入ってきたんだ。とんでもなく事態がぐちゃぐちゃになってんのがわかんねぇのか?」

 

 天然コンビに挟まれて、めちゃめちゃにキレている爆豪を待ち受ける。もうほとんど爆豪がキレてる理由に俺関係ないじゃん。火種落としたのは俺だけど、好き勝手その火を大きくしたのこいつらじゃん。俺悪くないじゃん。

 

 俺の目の前に立ち、もはや人間の顔をやめている爆豪を見て冷や汗を流す。なんでこうなったんだ。ちょっと言い方間違えただけじゃん。最近の爆豪なら話せばわかってくれる範囲だったじゃん。

 

「……はぁ」

 

「?」

 

 そのまま殴り飛ばされるかと思っていたが、爆豪はため息を吐いて舌打ちを一つ。

 

「どうせ、テメェが手こずってるアレのことだろ。教えてやっから、すぐ寝んじゃねぇぞ」

 

 そう言って爆豪は背を向けて、自分の席にさっさと座ってしまった。

 

「……わかってんならぶっ飛ばすんじゃねぇよ」

 

 爆豪に睨まれたので「何も言ってません」スマイルを返した。隣で轟が「結局俺も交ぜてくれんのか?」と言っていたのは無視した。

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