俺はずっと好きでいる   作:酉柄レイム

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灰色

「なぁお前らほんとにわかってるのか?」

 

「はい……」

 

「あくまで訓練だ。本気でやりあってボロボロになるやつがどこにいる」

 

「ここに二人……」

 

 相澤先生に睨まれたので、咄嗟に目を逸らした。

 

 保健室。そのベッドの上。そこで俺と爆豪は正座して相澤先生から説教を受けていた。

 あの日の夜、爆豪が部屋にやってきていやにすんなりコツを教えてくれることを約束してくれて、妙に教えるのがうまい爆豪に助けられなんとか形になってきた文化祭三日前。その日の訓練の時間に、爆豪が俺に獰猛な笑みを向け、「もうガチでやりあえるなァ……?」と挑発。見事に乗った俺と爆豪はガチでやりあい、まるでヒーローと敵の最終決戦かの如く縦横無尽に空中、地上で戦い続け、決着がつくかと思ったその時、相澤先生に個性を消されて保健室に直行。

 

 そんなこんなで今である。隣で正座している爆豪はそっぽを向いて「俺は悪くない」と精一杯のアピールをしているが、元々お前から売ってきた喧嘩だからお前の方が悪い。というわけで俺は教室に戻っていいということでどうかここはひとつ。ダメ? そう。

 

「極さん、あなたもあなたですよ。明らかに訓練の域を超えていたら止めてもらわないと」

 

「いやぁ、あれは止められませんよ。せっかく二人とも熱くなってたんですから」

 

 監督不行き届きで、父さんも相澤先生の説教の対象として選ばれてしまっていた。俺たちのように正座することはないが、相澤先生の隣で「たはーっ!」と笑っている。何笑ってんだこいつ。

 

「いやでもほら先生。あぁでもしなきゃ俺の『跳馬』が完成しませんでしたし。文化祭にも必要なことですから。ね?」

 

 そう、俺はボロボロになりつつも『跳馬』を習得できた。それこそ爆豪のように空中を移動できるくらいにはなっている。父さんもそれを見て「爆豪くんは教えるのがうまいなぁ!」と褒めていたくらいだ。爆豪はうざそうな顔をしていた。お前仮にも目上の人だぞ? 俺は全然父さんに失礼な態度とってもらっても構わないけど。

 

「ボロボロの体で文化祭でるつもりか? お前、体育祭の時のこと忘れたわけじゃないだろうな」

 

「ギクッ!」

 

 本当にギクッ! っていうやつがあるかってツッコまれるかと思ったが相澤先生はお気に召さなかったらしく、捕縛布で俺をぐるぐる巻きにした。ちょっと怪我人なんですけど俺。あ、包帯に見えてちょうどいい?

 

「いざヒーロー活動するときに、『体がボロボロだったから助けられませんでした』じゃ話にならん。今からそういう意識持っとけよ。……修行に夢中なのはいいが、やりすぎも毒だ。爆豪もちゃんと見てやれ」

 

「っス」

 

「ちょっと待ってください聞き捨てなりませんよ! なんで俺がこの爆発パーティ男爵に監督される立場になるんですか!」

 

「爆豪も問題児だが、どっちかって言うと無茶するのはお前の方だからな」

 

 心当たりがないわけでもないので、おとなしく引いておいた。いやぁその節はどうも。節がありすぎてもはやどの節にどうもしてるのかすらもわからない。

 

「いや、だが驚いた。想は一度見たものならすぐに習得できるほど才能はあるが、一度躓くととことん躓くからな。爆豪くんのおかげだ」

 

「別に、こいつならやれんだろって思っただけだ」

 

「待て。なんで俺ばっか怒られて爆豪はちょっと褒められてんの? 日頃の行い確実にこいつのが悪いだろ」

 

「どっちもどっちだろ」

 

 言い返せないのでだんまりを決め込む。そういや爆豪って俺と喧嘩してるか緑谷に吠えてるか以外はあんまりクソみたいなことしてないもんな。流石先生、よく見てる。

 

「それで、事故なくいけそうか」

 

 捕縛布を解いて聞いてくる相澤先生に一瞬ぽかんとしてから、OKサインを作って自信満々に頷く。それを見た相澤先生は目を閉じて小さく笑った。

 

「そうか。それなら、万が一がないようにしっかり身につけろ。()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……!!」

 

「うわ、キショ」

 

 相澤先生のそれが、被身子に関することであることは言われなくてもわかった。思わず緩んだ頬に、爆豪がとんでもなく失礼なことを言ってくるがそれすらも気にならない。

 見れば、父さんも俺に向かってサムズアップしていた。この大人たちカッコよすぎる。将来はこうなりたい。やっぱり俺の恩人と父親は最高だ!

 

「それじゃ、放課後まで安静にしてろよ。休むのもヒーローの立派な仕事だ」

 

「頑張って休め!」

 

 言って、相澤先生と父さんが保健室から出て行く。それと同時に、俺と爆豪は同時にベッドへ倒れこんだ。

 

「っかー、だから言ったんだよ。訓練だからある程度でやめとこうって」

 

「今回はテメェも乗り気だったろ」

 

「ほら、楽しくなっちゃって……」

 

 男の子にとって空を自由に移動できるってのはめちゃくちゃ楽しいことだ。それに、今の自分の実力がどの位置にあるかってのはいつでも知りたいことで、その相手に爆豪はちょうどいい。体育祭で負けて、戦闘訓練では一緒のチームになって、張り合ってはいるがちゃんとした戦績で俺は負けている。だからこそ、超える目標になる。

 

「テメェはどうも、模倣はうめぇが生み出すのが下手くそみてぇだな」

 

「な。爆豪が俺のやりたいことと似てることしてるって気づいてからは結構すぐ『跳馬』が安定するようになったし……ただ、自分の必殺技が全然ねぇってのがなぁ」

 

 結局、今俺が持っている必殺技はほとんど父さんの模倣。自分自身の必殺技なんて持っちゃいない。それが悪いことって聞かれると頷きにくいが、これじゃ完全に父さんの下位互換だ。

 

 上に行くなら、もっと自分の力を伸ばさなきゃいけない。

 

「天才とゴミの差だな。テメェは一生俺に追いつけねぇ」

 

「あ? 続きやっか?」

 

「上等だコラ。負けてびーびー泣いて無様晒して死ね」

 

「あんたら、それ以上騒ぐともう治してやんないよ」

 

 そういえばいたリカバリーガールの声に、俺たちはおとなしくすることにした。

 

 ……文化祭がデスマッチとかになったりしねぇかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 静かだ。

 

 いつもなら、今まで通りなら、「ねぇねぇ弔くん」と鬱陶しいくらい話しかけ、聞いてもいない想くんの話をしてくるあいつは、もう敵連合にはいない。ただむさくるしい男とオカマが集まり、少し話して黙る。そんな毎日が続いていた。

 

 別に、仲良しこよしでやっていこう、なんて思っちゃいない。だが一つの組織である以上、今のようにまとまりのない現状は少しマズい。原因はわかり切ってるが、その原因を奪い返しに行くのは絶対になしだ。というか、奪い返しに行ってもフラれるのがオチだろう。

 

「はーやだやだ。陰気クサいったらありゃしない。こんなに綺麗に咲いてる"私"っていう華があるっていうのに」

 

「ほんとだクセェ。ラフレシアってこんな臭いなのか」

 

「あら失礼ね。なんなら一緒に、じっくりゆっくり嗅がせてあげましょうか?」

 

「ジョークだジョーク。お前はいつでもバラの香りがするさ。虫と棘まみれだが」

 

 変わらないのは、変わらないように見せているのはマグネとコンプレスだけ。黒霧はデカブツのところに行っていてほとんど姿を見せないが、変わった敵連合の空気を察し、俺を見る事が多い。

 

「なー死柄木ー。トガちゃん元気にしてるかなぁ。くたばってるだろうなぁ」

 

 荼毘もどこか調子を狂わせて、スピナーも微妙な空気に居心地を悪くしているが、特にひどいのはこいつ、トゥワイスだ。口を開けばトガの名前。それは恋だとか浮ついたものじゃなく、純粋に仲間として寂しがっているだけだが、それにしても鬱陶しいくらいにうだうだしている。

 

 思わず、ため息を吐いた。どうやらトガが抜けた穴は想像以上に……いや、想像はできていた。が、それに対する覚悟が足りなかった。トガは簡単に言えば敵連合のムードメーカー。あいつがいるだけで団結力が深まるような、不思議な存在。

 思えば、トガも『受け入れる』ことができるやつだった。

 

「……」

 

 トガが大好きな男、想くんのことを思い出す。トガと想くんは、似ている。人に似るところも、受け入れるところも、イカれた頭も。だからって想くんにトガが抜けた穴を埋めてもらおうとも思っていない。思っていないというより、こっち側にくるとは思えない。トガを引っ張り上げて、やっぱりこっち側にくるなんて、そんなにブレるやつだとは思えない。

 

「黒霧」

 

「ここに」

 

 ただ、責任くらいはとってもらっていいと思う。

 

 黒霧の名前を呼ぶと、俺の隣に見慣れた黒い渦が現れ、それが形となり黒霧が隣に立った。そしてトゥワイス、マグネ、コンプレス、スピナーを見て、今帰ってきた荼毘を見て。

 

「近いうちに、会いに行く」

 

「えぇ。そろそろだと思っていました」

 

 見透かされたようでムカつくが、有能なのは悪いことじゃない。俺はあいつみたいにいちいち激怒するようなやつじゃないしな。

 

 戦争をしに行くわけじゃない。これは、敵連合からトガを引き抜いた責任を取ってもらうだけだ。ちょっと話して、それからはなるようになる。戦うかもしれないし、話して終わるかもしれない。あいつが普通のヒーローなら、きっとすぐに通報して俺たちはピンチになるだろう。

 

 ただ、そうならない確信があった。短い間だがトガと一緒にいた俺ならわかる。想くんは、受け入れるのに向いている。敵になれる可能性がある。それと同じくらいヒーローに向いている。

 

 色で言えば灰色。白でもない黒でもないどっちつかず。

 

「救いか?」

 

 荼毘が、光を宿していない目で俺を見る。救い。誰がそれを求めて、誰にそれを求めているのか。そもそもそれを望んでいるのか。

 

 きっと俺は、おかしくなったんだろう。トガに触れて、トガを挟んで想くんを見て、想くんに会って。社会に抱えていた憎しみが、少しずつ色を変えてきているのがわかる。憎んでいることに変わりはない。ぶっ壊したいって思っているのにも変わりはない。

 

「あぁ」

 

 真っ黒から、徐々に灰色へと。俺の今の状態は、そんなところだろう。

 

「確かめようと、思ってな」

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