特に興味もなにもない、みんな綺麗で惚れちゃいそうになるくらいだったミスコンが終わり、クラスのみんなと別れて文化祭を回ろう、というところ。本当に興味なかったな。それにしても波動さん綺麗だった。B組の拳藤も中々。
微塵も興味のなかったミスコンについて振り返っていると、服の端をちょん、と引かれた。見ると、小さく頬を膨らませたエリちゃんが俺をじっと睨んでいる。
「ヒミコさんがいるからダメだよ?」
「……ははは。何がだ? エリちゃん。おかしなことを言うなぁ」
「ガキに叱られてら」
エリちゃんの前でキレるわけにはいかないので、エリちゃんにバレないよう余計なことを言う爆豪を睨みつけるも、鼻で笑われた。俺がキレ散らかすのはエリちゃんの教育上よくないが、後で覚えてろよクソ。
「じゃあ俺はエリちゃんと文化祭楽しむから、ワリィな一緒に回れなくて。寂しいだろ?」
「二度とその面見せんな」
寂しがるどころか、絶交されてしまった。俺としては爆豪たちと回るのも楽しそうでいいが、まさかエリちゃんを置いていくわけにもいかない。かといって爆豪も連れて回るのはダメだろう。あいつは教育上ほんとによくない。物間と同じくらいよくない。
「想くんのお友だち?」
「ア?」
が、そんな教育上よくない爆豪にエリちゃんが話しかけた。普通の子どもなら泣いて逃げ回り親に言って即座に指名手配されるであろうとんでもないクズの爆豪に、エリちゃんが。緑谷もマズいと思ったのかエリちゃんを止めに行く。
「え、エリちゃん。このお兄さんはちょっと色々アレだから」
「おいデク。テメェいい度胸してんな……?」
「ひぃ! ごめんかっちゃん!」
「想くんとデクさんのお友だち?」
止めに行ったはずが、エリちゃんの好奇心に火をつけた。子ども相手に「ア?」と言ってしまうくらいどうしようもない爆豪は見上げるエリちゃんをしっかり見下ろしながら「……さぁな」と答える。さぁなって。
「一緒に回りませんか」
「は?」
「おい久知」
爆豪と一緒に回る予定だったのか、瀬呂がこそこそと爆豪の後ろから移動して俺にこっそり話しかけてくる。耳を貸すと、瀬呂は爆豪とエリちゃんを指して、
「マズい」
「あぁマズい。でも、あぁなった時点で終わりだ。まさかエリちゃんにダメだって言うわけにもいかねぇし、爆豪に話しかけようもんならうっかり喧嘩しちまう。それは教育上よくねぇ」
「お前らの関係性のがよくねぇだろ。喧嘩すんな」
それはもっともだが、気づいたら罵り合ってしまうんだ。これは仕方ない。
ただまぁ、教育上ゴミだとかクソ人間だとか色々思ってはいるが、爆豪なら大丈夫だろう。流石に子ども相手に何かやらかすことはないはずだ。アレでもヒーロー目指してるんだし、めちゃくちゃ丸くなったし。
「ンで俺が仲良しこよししねぇといけねぇんだ」
「やっぱクズじゃねぇか」
「あぁ。予想外にクズだった」
爆豪は吐き捨て、エリちゃんに背中を向ける。お前ブレないのはいいけどあとでフォローする方の気持ち考えろよ。せっかく笑ってくれたのにまた曇ったらどうすんの? っていうかエリちゃんが爆豪を『俺の友だち』だと認識してるんだから、こんなろくでもないやつが友だちなのかって思われて距離取られたらどうすんの? ……今ここでエリちゃんにばれないように殺してやろうか?
エリちゃんを見ると、寂しそうな顔で爆豪の背中を見ていた。瀬呂が俺の肩を叩いて、「ま、頑張れ」と嬉しくもない励ましを残し、爆豪の背中を追う。いつの間にか爆豪のところには切島や尾白が集まってきていて、大層賑やかそうに去っていこうとしていた。
「エリちゃん。あいつワリィやつじゃねぇんだよ。距離感掴むのが苦手なだけでな」
「うん。今日は僕たちと一緒に楽しもう?」
「私たちも一緒に回っていい? エリちゃん」
「一緒に楽しみたいわ。どうかしら? エリちゃん」
見かねた俺、緑谷、麗日、梅雨ちゃんが一斉にエリちゃんを励まし始める。しかしなぜかエリちゃんは爆豪の背中を見続けていた。
まさか、恋? いやいやそんなはずはない。あいつ顔はいいけどそれ以外は基本的にゴミだし、そもそもエリちゃんは恋なんて自覚する歳じゃ……いや、俺が言うとあんまり説得力がない。でもそうじゃないはずだ。
「うん……ごめんなさい。想くんとデクさんのお友だちなら、いい人なんだろうなって思って」
……そういやエリちゃん、俺と緑谷のこと知りたいとか言ってたっけ。子どもってのは恐ろしい。俺と緑谷のことを知るなら、爆豪以上に適任なやつはいねぇしな。
「……まぁ仕方ねぇよ! あいつエリちゃんみたいなちっちゃい子ですら人見知りしちまうくらいシャイなやつだからな! 社交性ゼロのどうしようもねぇやつなんだ! エリちゃんを楽しませる自信がねぇってよ!」
「想くん?」
いきなり大声で叫び始めた俺を、エリちゃんが不思議そうな目で見上げてくる。
爆豪は基本的にゴミだ。だが、俺は知っている。爆豪が話せばちゃんとわかってくれるやつだってことを。時々わかってくんねぇけど。
爆豪には、さっきの俺の言葉がこう聞こえたはずだ。
「誰が社交性ゼロだ! 楽しませ殺したるわクソが!」
一緒に回ってくださいお願いします、ってな。
爆豪は振り返り、鬼の形相で俺たちの前まで大股で歩いてくる。その後ろから、仕方ないなと笑いながら、切島たちも歩いてきた。
「な。ワリィやつじゃねぇだろ?」
「うん、いい人」
「誰がいい人だコラ!」
「お、落ち着いてかっちゃん。いい人って褒め言葉だよ?」
うっせぇデク! と緑谷にキレ散らかしている爆豪を、エリちゃんは楽しそうな表情で見ていた。
「久知くん、ほんま爆豪くんの扱いうまいなぁ」
「尊敬するわ。あの爆豪ちゃんが可愛らしく見えるもの」
「単純なんだよアイツ」
「聞こえてっぞ!」
騒ぎながら、爆豪を先頭に文化祭を周りに行く。
エリちゃん、俺、緑谷、麗日、梅雨ちゃん、爆豪、切島、瀬呂、尾白、付き添いの相澤先生、父さん。大所帯になったが、この方がエリちゃんも楽しんでくれるだろう。多分。
「話すこと増えたな」
「うん!」
エリちゃんと手をつなぎながら、雄英文化祭を回る。
「爆豪さんのくれえぷまっか」
「ア? やんねぇぞ」
「エリちゃんの視界にすら入れないでほしい」
みんなでクレープを食べているとき、爆豪がメニューにあったかどうか疑わしい真っ赤なクレープを食べ、それに興味津々なエリちゃんを必死に止めたり。
「お化けやしき……」
「めちゃくちゃ怖いといけねぇから、緑谷と麗日、尾白と瀬呂入って確かめてきてくれ」
「な、なんでその二組なん? 尾白くんだけでよくない?」
「え? 俺は麗日に気を遣って……」
「想くん想くん。麗日さんってデクさんのこと……」
「ウワー!!」
「なぁ瀬呂。なんで俺だけ名指しにされたと思う?」
「フツ―の反応でフツーの感想言ってくれそうだからじゃね?」
エリちゃんがC組のお化け屋敷に興味を示したので、大丈夫そうか確認するために緑谷と麗日、尾白と瀬呂をぶち込み、満場一致で『NO』と返ってきたため、不満そうなエリちゃんのご機嫌を取りながらお化け屋敷をスルーしたり。
「第二十三問! ノーリミットが活動範囲を──」
「家族を守るため!」
「正解!」
「活動範囲を広げない理由は? ってとこか。知られてんじゃん父さん」
「インタビューで一度だけ答えたことがあるが……すごいなァ」
雄英プロヒーローサインの寄せ書きが優勝景品であるヒーロークイズ大会で緑谷が見事にオタクぶりを発揮し、一位を取ったり。ちなみに父さんのサインもあった。
「十五秒! 俺と一緒か!」
「俺は十三秒だから俺の勝ちだな!」
「……」
「なぁ緑谷。エリちゃんが俺たちを期待の眼差しで見てるぞ」
「僕はともかく、久知くん大丈夫……?」
アスレチックを乗り越え、ボタンを押すまでのタイムを競う出し物を楽しんだり。尾白と切島が十五秒、瀬呂が十三秒、緑谷が九秒で俺と爆豪が八秒だった。ちなみに俺は激痛に襲われながら必死に笑って、珍しく相澤先生に労ってもらった。
そして、文化祭が終わる。
「はい、エリちゃん! 戻ってから食べてね」
「お、リンゴアメじゃん。途中でいなくなったのってこれ作ってたのか」
「うん。プログラム見てリンゴアメないかもって思ったから、買い出しの時に材料だけ買っておいたんだ」
雄英、教師寮の前。エリちゃんに「ありがとうございました!」と言われ、微妙な表情をしていた爆豪と笑顔で手を振ったみんなと別れ、俺と緑谷は形だけでもと見送りに来ていた。
途中でいなくなったときは何してんだと思ったが、粋なことをするやつだ。これじゃ俺が何もしねぇカスみたいになるじゃねぇか。俺と緑谷で作ったことにしてくんないかな?
エリちゃんはリンゴアメを受け取って、少しかじった。カリッ、という音が鳴り、エリちゃんの口元が少し赤くなって、その赤くなった口のままにっこり笑う。
「……おいしい。ありがとう、デクさん」
「喜んでくれてよかった!」
「相澤先生。なんか俺気まずいです」
「差だろ。人間性の」
アンタよく親の前でそんなこと言えんな。父さん笑ってるけど。笑ってる父さんもどうなんだよ。
「じゃあまたね。いつでも会いに来て。僕も会いに行くから」
「エリちゃん。俺はリンゴアメ必死に探してたんだぜ? 本当だ。ただ緑谷のが一枚上手だった」
「エリちゃん、あぁはなるなよ」
「ハッハッハ!」
「相澤先生さっきから親の目の前でよくそういうこと言えますね! つか父さんもなんで笑ってんだ!」
「あぁ、久知は少し残ってくれ。悪いな緑谷」
「俺に謝れや!」
苦笑しながら、緑谷はエリちゃんに手を振って寮へと帰っていく。クソ、なんだ。確かに緑谷はいいやつで非の打ちどころのない、強いて言うなら無茶するところが玉に瑕ってだけの優等生だけど、こんなに俺が悪く言われる必要ある?
「さて、久知。お前に残ってもらった理由だが……」
「被身子ちゃんと会えることになった」
「騒ぐなよ」
「……!!」
「想くん……」
叫ぼうと仰け反ったところで、相澤先生の捕縛布が俺の口を覆う。もごもごしながら目をかっぴらいてせめて動きだけでもと大暴れして喜びを表現していると、エリちゃんに引かれてしまった。でも仕方ない。それくらい俺は被身子に惹かれてるんだから。これげきうまジョーク。あ、ジョークじゃない。
「ただ、特例も特例。本来なら絶対会えないが、関係性、今までの行動その他諸々でなんとか面会にこぎつけた。そのあたりを重々承知するように」
「もちろん、面会の日は俺と相澤先生が付き添う。エリちゃんにもしものことがあったらいけないからな」
「俺は?」
「守るが、お前は守る側だろう。もしもの時は頼りにしてるぞ」
「想くん嬉しそう」
相澤先生が捕縛布を解いてくれたせいで、父さんに褒められて喜んでいる可愛い息子だとエリちゃんにバレてしまった。子どもってのは本当鋭いね。
緩んだ頬を引き締め直し、「ありがとうございます」と頭を下げる。俺とエリちゃんが被身子と面会できるのは、大人の力ってやつだ。ここで何かあれば相澤先生と父さんの顔に泥を塗ることになる。もしもの時は頼りにしてるって言われたが、そのもしもがあっちゃいけないんだ。
「日にちは追って連絡する。浮かれないようにな」
「無理です」
「せめて努力はしろ」
無理でしょ。相澤先生だって好きな人と会えるってなったら浮かれるだろうし。あ、そんな人いない? そうですか。
「楽しみだな、エリちゃん」
「楽しみ!」
お互い笑い合って、ハイタッチする。エリちゃんの小さな手が俺の手を打って、パン、と小気味のいい音が鳴った。