俺はずっと好きでいる   作:酉柄レイム

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敵連合
再会


「トガヒミコはおとなしいもんらしい。犯罪歴もまぁ……数だけが問題で、殺人その他重罪はない。模範囚ってやつだ」

 

 父さんが運転する車に乗せられて、助手席にいる相澤先生の話を聞く。

 

 11月中旬。被身子と会える、その日。運転席に父さん、助手席に相澤先生、運転席の後ろに俺、そしてなぜか俺の膝の上にエリちゃん。この四人で被身子がいる少年院に向かっていた。

 

「何度も言うようだが、特例中の特例だってことを忘れるなよ。トガヒミコの拘束は解かないし、面会はガラス越しだ。お前からすれば文句はあるだろうが、我慢しろ」

 

「ちゃんとわかってますよ。会えるだけで十分です」

 

「じゅーぶんです」

 

 少年院って確か、面会は親族とかギリギリいけて婚約者とかだけだったはずだ。個性社会っていう関係上何度か特例を認められているって話を聞いたことがあるが、まさか自分がその特例に入るなんて思ってもいなかった。

 

 車が揺れ、エリちゃんが落ちないようにそっと抱きしめる。腕の中でエリちゃんが「きゃー」と楽しそうな声をあげるのに微笑みつつ、「ついたぞ」という父さんの声に正面を見た。

 

「俺と相澤先生は外で待っている。何かあったらすぐ連絡するようにな」

 

「おう。行こうエリちゃん」

 

 小さく頷くエリちゃんの手を取って少年院に入り、随分やつれた監守の案内に従って被身子の下へ向かう。

 

 案内されたのは、面会するにしては少し大きな両開きの扉。なんかもっとこう、ドラマとかでよくあるこじんまりとしたところに通されると思っていたんだが、被身子はもしやVIP待遇なのだろうか。流石被身子。監守たちも被身子が美しすぎて特別扱いしているに違いない。被身子に色目使ってるやつがいたら俺がぶっ飛ばしてやろう。

 

 監守が四本の指でドアノブを握り扉を開け、中に通された。そこで俺は、『特例中の特例』の本当の意味を知った。

 

 被身子は俺が部屋に入ると同時に駆けだし、抱き着いてくる。その部屋には相澤先生が言っていたようなガラスもなく、そして被身子は拘束されていなかった。

 その理由が今更わからない俺じゃない。監守を見た瞬間に気づいたし、今扉を閉めて笑い始めた監守で確信を得た。

 

「想くんは賢いよな。俺を見た瞬間に気づいて、でも俺が監守に成りすましてるってことはここが占拠されていて、ってことは人質がいるかもしれないっていう事実にたどり着いた……まぁ、そんなもん関係なくただトガに会いたかったから無視しただけかもしれないがな」

 

 そこんとこどうなんだ? と聞いてくる()()()を無視して、腕の中にいる被身子を見た。

 

 被身子は、痩せていた。死穢八斎會で会った頃とは比べ物にならないくらい。

 

「被身子……」

 

「血だ」

 

 部屋の壁に寄りかかっていたコンプレスに目を向けると、その手にはバインダーにまとめられた紙があった。

 

「普通の食事をほとんど食べず、個性上血を欲しているのかと輸血パックを渡しても身体が拒否反応を起こす。さぁどうしようって時に、イレイザーとノーリミットがやってきた。ここの監守の結論として、トガヒミコを変えられるのは想くんしかないってなったわけさ」

 

「おい被身子。今の話本当か?」

 

「……ごめんね、想くん」

 

「ヒミコさん……」

 

「エリちゃんもきてくれたんだね。嬉しい」

 

 穏やかに笑って、被身子は俺から離れてエリちゃんを抱きしめる。望んでいた再会であるはずなのに、エリちゃんは悲しそうな顔をしていた。

 

「俺らもトガちゃんの姿見てびっくりしたぜ。めちゃくちゃ安心したよ」

 

 椅子に座って、エリちゃんと同じくらい悲しそうな顔をしているトゥワイスさん。この人多分めちゃくちゃいい人なんだと思う。仲間想いというか、そういういい人感がビシビシ伝わってきてあまり悪い印象を持てない。

 

「悪いな。感動の再会を邪魔して」

 

「他の連中は?」

 

「ここにいるので全員だ。他もきたがってるやつがいたが、人数を増やすとここを占拠したってことが想くんくる前にバレかねないからな」

 

 目的が、わからない。被身子を連れて行くなら俺が来る前に連れ去っておけばよかったし、俺がくるってことはつまり相澤先生も、個性が壊れてるとはいえ父さんもくるわけで、捕まるリスクを考えたら俺を待っている必要なんてまったくないはずだ。

 

 いや、もしかして。

 

「被身子以外の、捕まっていたやつらはどうしたんだ?」

 

「ゲットした」

 

 コンプレスが手のひらを見せつけてひらひらと振ってくる。

 

「最近うぜぇやつらがいてな。そいつらを潰す……いや、配下に置くには戦力が必要だった。で、ちょうどよかったから貰っていった。それだけのことだ」

 

「ちょうどよかった? 別の目的があったみたいな言い方だな」

 

 被身子とエリちゃんを庇いながら、死柄木の正面に立つ。死柄木は似合わない監守服を脱ぎ去っていつもの姿になると、その顔に手をはめながら笑った。

 

「トガは想くんの血がないと生きていけない。そしてトガのいるところには俺たちがやってくる。そしてトガは模範囚。経歴調べたら出てくる出てくる同情の余地。さて、トガが安全に過ごせる場所ってどこになると思う?」

 

「エリちゃんとはわけが違うんだぞ」

 

 雄英。つまり、死柄木はそう言いたいんだろう。だがそれは無理な話だ。被身子にいくら同情の余地があっても犯罪は犯罪。周りからすればそんな危険があるやつを雄英になんて置いておけない。しかも、まだ敵連合とつながりがあるって疑われるに違いない。死柄木の言っているそれは、暴論だ。

 

 被身子と一緒に居たくないわけじゃない。でも、それは不可能なことで、というかまず死柄木がなぜそうしたいのかすらもわからない。

 

「なぁ想くん、トガ。俺はさ、ただ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは、人に恐怖を与える笑みじゃなく、純粋な、穏やかな笑みだった。

 

「だからさ」

 

 言葉とともに、監守室の壁を突き破って、二つの影が転がり込んできた。

 

 相澤先生と、父さん。

 

「相澤先生! 父さん!」

 

「想! 逃げ……って」

 

「敵連合……やはりいたか」

 

 なんで相澤先生と父さんがぶっ飛ばされて、誰に? そうやって混乱しながらも二人が吹っ飛んできた方を見ながら、被身子とエリちゃんを背に庇ったその時だった。

 

 真っ黒な腕が俺に向かって伸びてきて、思い切り叩きつけられる。割れるような痛みが全身を襲い、意識を一瞬持っていかれた。個性上打たれ強くないといけねぇってので耐える訓練をしていてよかった。体育祭頃の俺なら間違いなく今ので気絶してた。

 

「想くん!」

 

「くんな!」

 

 瞬間解放30で俺を抑えつけている手を跳ねのけて、瞬時に上限解放60を使い被身子とエリちゃんを抱えて距離をとる。

 

 目の前にいたのは、脳無。四足歩行の人と言うよりは獣のような姿で、膨張した四肢をすべて地面につけ真っ黒な体毛が生えており、むき出しの目をぎょろぎょろと動かして俺と相澤先生、父さんを睨みつけている。

 

「確かめることにしたんだ。想くんに守るだけの力が、救う力があるのかどうか」

 

 気づけばコンプレスとトゥワイスさんはいなくなっていて、死柄木を見ると黒い渦に体を突っ込んでいるところだった。

 

「頼むよヒーロー。ちゃんと救ってくれ」

 

「──死柄木!」

 

 手を伸ばすが、俺の手は虚空を掴んだ。死柄木は黒い渦の中に消え、この場からいなくなる。

 残ったのは、脳無。確か、自我はなくて命令通りにしか動けない怪物。それだけ聞けば弱く聞こえるが、その力はとんでもない。むしろ自我がないのは複数の個性を持っていて、脳のリソースを自我に避けないからだろう。

 

「父さんは被身子とエリちゃん連れて逃げてくれ! この怪物は俺と相澤先生でなんとかする!」

 

「いや、俺が戦うから──」

 

「極さん! あんた個性使ったら死ぬかもしれないんですから、おとなしく下がっててください!」

 

 脳無に突進された父さんを捕縛布で引っ張り上げ回避させる。相澤先生が見てるのにあの速さってことは、あの筋肉は個性じゃないってことか。化け物かよ。

 

「被身子、エリちゃん! 絶対に父さんから離れるなよ!」

 

「想く、」

 

 ()()()()()()()()振り下ろされた脳無の腕を受け止める。ハハ。まさかとは思ったけど本気で被身子も対象に入ってんのか。命令するなら、被身子は殺さないようにってできるはずなのに。

 

「早く、父さんも!」

 

「想くん、絶対帰ってきてね」

 

「──ッ、エリちゃんは私が守ります!」

 

「いーや、俺が君たちを守るんだ!」

 

 父さんがエリちゃんを抱えて、小さい声で「頼んだぞ」と告げた。ったく、初めからそうしろっての。頼んだぞってこっちのセリフだし。

 

「っだらァ!!」

 

 『玄岩』で腕の関節を攻撃し、緩んだところで腕を掴んで脳無を投げ飛ばした。その間に相澤先生の隣に立って、油断なく『玄岩』を俺と相澤先生を覆うように展開する。

 

「相澤先生。俺、ちょっと嬉しいんですよね。相澤先生と肩並べて戦えるの」

 

「言ってる場合か。正直、情けない話だが俺はあの手のタイプに有効打がない。個性は消しておくから、純粋な近接勝負だ」

 

 まったく堪えた様子もなく起き上がる脳無。流石に十分以内にケリはつけられるとは思うが、感情が見えない分体力が減っているかどうかすらも、攻撃が効いているのかどうかすらもわからない。

 ただそれでも焦らず、確実に。俺にとっての勝ちは、被身子たちに追いつかれないことだ。ここで粘っていれば、父さんが呼んでくれる増援が駆けつけてくれる。

 

 別に、相手がこの脳無だけなら俺自身が勝つ必要はないんだ。

 

「無茶だけはするなよ」

 

「先生こそ」

 

 お互いの顔を見ずに言って、同時に脳無へ向かって駆けだした。

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