俺はずっと好きでいる   作:酉柄レイム

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 薙ぎ払われた腕を跳んで避け、その勢いを利用して顔面に膝を叩きこむ。肉にめり込む感触と、鋼鉄のような硬い感触。考えなしに攻撃したが、強化していなかったら危なかったと冷や汗を流しながら振りぬこうとするが、微動だにしない。

 

 何が起こっているのか把握する前に、俺の体に捕縛布が巻き付いた。脳無から俺の体が離れた一瞬後に、俺がいた場所で蚊を潰すように脳無が両掌を打つ。『玄岩』を発動していなかったとしたら、あれでぺちゃんこになっていた。命のやり取りは初めてじゃないが、一瞬一瞬が命取り。引っ張り上げてくれた相澤先生に小さくお礼を言って、『玄岩』を鞭のようにしならせて脳無の腕を打った。

 

 死柄木の言っていたことが本当なら、ここにはもう誰もいないってことになるが、もしかしたら他に誰かいるかもしれない。そんな状況で『風虎』なんか撃ってもしいたとしてその人に直撃したら俺は人殺しになる。

 

 被害は最小限に。

 

 俺たちに向かって投げつけられた瓦礫を『玄岩』で叩き落とし、距離を詰める。今一番ダメなのは、脳無に自由を与える事。もしかしたら俺たちを無視して被身子を追うかもしれないし、俺じゃなくて相澤先生を狙われたら戦いづらい。俺は最悪殴られても耐えられるが、相澤先生は生身だ。致命傷は免れない。

 

 幸い、襲ってくるのは単調な腕の振り下ろし、薙ぎ払い。上限解放60でなんとか張り合えるレベルの筋力が恐ろしいが、これならなんとか渡り合える。

 

「相澤先生……いや、イレイザーヘッドか。目ェきつくなったら教えて下さい! 守りに移ります!」

 

「気にするなと言いたいところだが、その方がいいな」

 

 相澤先生の個性は『見る』ことが条件。けど相澤先生はドライアイで、ずっと見続けるのはきついはずだ。だから、相澤先生の目を休める時間も必要。その間も戦い続けるってのは相手の個性がわからないからナンセンスだ。

 

 今のところわかっているのは、個性関係なしにとんでもない筋力を持ってるってことと、四足歩行だから動物系の個性を持っているんじゃないかっていう推測。それくらいだ。

 

「って、頭突き!?」

 

 俺に向かって振り下ろされた頭を左に避ける。脳無の頭が地面を割り、振動に足を取られた。

 

「避けろ=ピース!」

 

 ヒーローとしての名前を相澤先生が叫んだのを信じて、訳の分からないまま『跳馬』で上に避ける。それは正解だったようで、眼下で巨体がまっすぐに砲弾のように突き進むのが見えた。相澤先生はそれを横っ飛びで避け、誰も捉える事ができなかった砲弾が地面を転がる。

 

 が、今この瞬間。相澤先生の視界から脳無が外れた。

 

「ヅっ!?」

 

 脳無の手が俺に向かって払われたかと思った瞬間、体に強い衝撃が襲い、ボールのように弾かれた。そのまま天井に叩きつけられる。マズいと思って『玄岩』を前方に向けて展開すると、それと同時に脳無の拳が『玄岩』とぶつかった。

 なんとか防御できたものの、重力に従って俺の体が落下していく。脳無は無茶苦茶に腕を振り回すと、『玄岩』の防御ごと俺を地面に叩きつけた。

 

 息をつく間もなく、脳無が俺に向かって落下してくる。それを『跳馬』で無理やり自分の体を弾いて避け、受け身をとって態勢を整えた。

 

「すまん、一瞬視界から外れた」

 

「仕方、ないですってアレは。にしても、さっきの……」

 

 口の中にある血を吐き捨てて、のそりと起き上がる脳無を睨みつける。

 

「空気を弾いたように見えたな」

 

「遠距離も搭載ってやっぱ化け物ですね」

 

「お前も似たようなものだろ」

 

 確かに、と笑う余裕はまだあった。俺もあの脳無と張り合えるほどの力と遠距離攻撃がある。差といえばその体格と、周りを気にしないでいいか、気にしなきゃいけないか。正直この差はかなりデカい。

 

 増援がくるまで耐えられればいいと思っていたが、これは厳しそうだ。相澤先生が一瞬目を離しただけでコレ。一撃まともにくらって瞬間解放30が使えるようになるくらいダメージを与えてくるやつだ。見積もりが甘かった。

 

 痛む体に鞭打って、『跳馬』で一気に懐へもぐりこむ。そのまま股の間を抜けて、脚を掴んだ。正面切って戦ってなんとか渡り合える程度じゃだめだ。一撃一撃のダメージがお互いで違いすぎる。

 

「ぬっ、アァ!!」

 

 今の俺でさえ重いと感じる巨体を持ち上げて、地面に叩きつける。俺の攻撃で大してダメージが通っていなかったみたいだから、どうせこれも大したダメージはないどころか、ノーダメに近いだろう。ただ、狙いはこれでダメージを与えることじゃない。

 

 仰向けに倒れた脳無の上に跳んで、右腕を振りかぶる。下に向かってなら、壁の向こうにいるかもしれない人を気遣う必要はない。

 

「『風虎』!」

 

 強大な、赤い暴力が脳無を襲う。『風虎』は脳無を捉え、地面に大穴を開けて突き落とした。歯を食いしばって軋む腕に耐え、『跳馬』で距離を取り、油断なく穴を見る。

 

「やりすぎだ」

 

「大目に見てください」

 

 あの穴の修繕費を考えただけで胸が痛む。プロヒーローになったらアレの修繕費って俺が出すんだよな。なるほど、無茶な戦い方は自分のためである、と。

 

 『玄岩』を回復に回さず攻撃に回し続けていたせいか、ダメージがモロに体を蝕んで膝をつく。本来ならあのまま『雨雀』『風虎』を叩きこみ続ければよかったのだが、体が悲鳴をあげていたのと、本当にダメージが通るのかわからなかったためエネルギーを使いすぎるのはよくないと判断した。

 

「おい、大丈夫か」

 

「大丈夫です。今のうちに少しでも回復を……」

 

 そうして『玄岩』を体に纏い始めたその時。足元、ちょうど真下から振動が伝わってきた。弾かれるようにして動き出し、相澤先生を抱えてその場から離れると、脳無が地面を突き破って現れた。

 

「……ピンピンしてるように見えますね」

 

「少し効いているようにも見えるが……」

 

 確かに、息は荒くなっているがその程度。マジで自信無くす。『風虎』受けて無事って、人間じゃありえないからな。個性が無事な頃の父さんとかオールマイトとかなら別だけど。

 

 声にならない雄叫びをあげて、脳無が突進してくる。そういやUSJの時オールマイトは相澤先生が個性を消していない状態の脳無に勝ったんだっけ。やっぱオールマイトも化け物だ。

 

 相澤先生は少し後ろに下がって俺を盾にする。非情に見えるがこれが一番いい。相澤先生が離れて行ったとして、相澤先生が狙われたらどうしようもない。むしろこれは非情じゃなく、信頼だ。仮免持ってるだけの生徒に対する信頼。

 

「っつァア!!」

 

 それに応えなきゃ男でも生徒でもヒーローでもない。脳無の頭を両手で受け止め、必死に踏ん張る。このままいるとさっきみたいな攻撃がくるはずだ。

 読み通り、俺を叩き潰そうと脳無の両手が襲い掛かる。それを()の裏でエネルギーを爆発させて『跳馬』を使い、上へ飛んだ。そしてそのまま両掌でエネルギーを爆発させて一直線に落下し、脳天目掛けて踵を振り下ろす。

 

 巨体が地面に叩きつけられ、大地が揺れた。これでも効きそうにないってんだから本当嫌になる。

 

「って」

 

 『跳馬』で脳無から離れる前に、脳無が巨大な手で俺を掴んだ。そのまま相澤先生に向かって投げ飛ばされる。

 

「くっ」

 

「すんません!」

 

 受け止めてくれた相澤先生に謝りながら、前方に『玄岩』を展開。目の前には腕を振りかぶった脳無が見えたかと思ったその時。目に見えない速さで腕が振りぬかれ、『玄岩』の防御を貫いて拳が俺に突き刺さった。相澤先生を巻き込んでぶっ飛ばされ、白黒する視界になんとか意識を繋ぎとめながら地面を転がる。

 

「す、ぐ、立ち上がれっ! くるぞ!」

 

 相澤先生に言われるが、思うように体が動かない。霞む視界で脳無がこちらに突っ込んできているのが見える。避けようと、無理やり体を動かそうとするが、後ろには相澤先生がいる。一瞬の迷いが、体の動きを鈍くした。

 

 その俺の体に、捕縛布が巻き付き、そのまま横へ投げ飛ばされた。飛びかけている意識の中でも、今から何が起こるかなんてすぐにわかった。

 

 このままじゃ、脳無に相澤先生がやられる。

 

「う、オオオォォォォォオオオオ゛!!」

 

 気づけば、俺の体が真っ赤に染まり、体を覆うエネルギーも燃えるように赤くなっていた。そして、気づけば脳無を殴り飛ばしていた。

 

 無意識のうちにやっていたが感覚でわかる。上限解放80、未知の領域。父さんには90以上を出せば無事じゃいられないって言われたことがある。じゃあ、60から80の重ね掛けは大丈夫なんだろうか。

 

 ただまぁ、相澤先生が殺されるよりは断然いい。

 

「お前」

 

「『窮地』。あなたがくれた個性の名前です」

 

 痛みすら感じなくなっていた。体が軽い。脳無に肉薄して、連撃を叩きこむ。ピクピクと俊敏な動きを見せる様子がなくなった脳無に、拳にエネルギーを集約させて叩きこんだ。

 

 轟音。

 

 爆発が起きたような、ミサイルが着弾したような音が響き渡る。それでも体に穴が空いていない脳無は流石と言うべきだが、もう動く様子はなかった。指先一つ動かさず、地に沈んでいる。

 

「……お前、それが解けたらどうなる」

 

「わかりません。今まで通りなら、きっと無事じゃいられない。ですが」

 

 真っ赤なエネルギーが淡く光る。回復にエネルギーを使う時、微妙にだが少し色素が薄くなる。それを体に纏って、個性が解けた時マシになるよう体の回復に努めた。

 

「それが『窮地』なら、俺なら何とかなりますよ」

 

「……後の処理は俺がやっておく。お前はその足で病院に行け。雄英には連絡しておく」

 

「今なら速攻ですね。ハハハ」

 

「笑いごとか」

 

 睨んでくる相澤先生の視線から逃げるように少年院を飛び出して病院に向かった。

 

 被身子とエリちゃんは無事だろうか。父さんがついてるから無事ではあるだろうけど、やっぱり心配だ。死柄木の目的が本当に被身子の幸せを願っているなら、何も心配はいらないのだろうが。

 

 ただ、俺は死柄木の言っていることが本当に思えた。

 

 ちゃんと救ってくれって言っていた時、助けを求める顔をしていた気がした。

 

 俺の意識は、病院を前にしたところで完全に真っ暗になった。

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