俺はずっと好きでいる   作:酉柄レイム

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自由を謳う者

「やぁ死柄木弔。わざわざきてもらってすまないね」

 

 泥花市(でいかし)、そこにあるクソ高いビル。そこで俺はハゲみたいなおっさんと会っていた。名前は四ツ橋力也。この前の電話ではリ・デストロと名乗っていた。サポート企業デトネラットの社長、そしてちょこちょこ俺たちのことを嗅ぎまわっている鬱陶しいやつ。

 

「いや、会いたいって言ったのはこっちだ。出向くのは礼儀だろ」

 

「ならちゃんとした方法できてもらいたかったがね。そちらの黒霧は随分優秀みたいだ」

 

「そこは信頼してないって受け取ってくれればいい。どうせ正面から行ったら襲ってくるだろ」

 

 この前。俺たちが少年院を襲い、増えた戦力を利用して犯罪代行ビジネスを行ってしばらく。そのビジネスの窓口を使って、目の前にいるリ・デストロから連絡がきた。内容はここ泥花市にこいというものと、ご丁寧に11万6516人の戦力、異能解放軍ってのがあるっていうアピール。つまり要約すると、『お前らが邪魔だから、殺してやろうと思う。なので来てください』ってことだ。

 

 当然、他のやつらは渋った。別に誰かが人質にとられているわけでもなく、行く必要はまったくない。ただ、俺たちの周りでうろちょろされるくらいなら、もうさっさとなんとかした方がいいと思った。下の方に待機させているデカブツっていう札もある。それがなくても、こいつら程度なら俺一人でも十分だ。

 

 なんとかするってのは、別にどっちでもいい。全殺しか、配下に置くか。金の問題を考えれば配下に置いた方が都合がいいが、分かり合えないなら仕方ないとも思う。そのあたり想くんならうまくやるだろうか。ビルボードチャートが発表されている今も目を覚ましていないらしいあいつに期待しても何もないとは思うが。

 

「まぁ、もう責めはしない。君の言うこともわかるからね。君からすれば敵地に踏み込んでくるようなものだ。警戒するのも無理はない」

 

「わかってくれて助かるよ。流石社長だな」

 

「はは。規模は違えど君も頂点に立つ者だろう?」

 

 思ってもないことを言うなぁ。リ・デストロは笑っているが、目は口ほどにものを言う。『お前が邪魔だ』とはっきり告げている。

 

「それで、俺に何か用があったんじゃないのか? わざわざあんな電話まで寄越して」

 

「あぁそうそう。君は異能解放軍の目的を知っているかな?」

 

「俺たちを嗅ぎまわっていたから鬱陶しくて調べた。能力を100%発揮できる世の中にするってやつだろ? 別に俺たちと対立することはないと思うんだけどな」

 

 正確には調べさせた。俺の強くなった個性はまだ制御があまり効かず、五本指で触れるっていう条件をわざわざ残して運用している状態。そんな状態の俺が調べものをしたら、媒体を崩壊させかねない。感情が昂ったら指一本でも触れてたらバラバラだ。

 

 仲間が調べた結果、異能解放軍は個性がまだ『異能』と呼ばれていた時代、それを行使するのは人として当然の権利だって暴れ回っていたやつらによって結成された組織。初代指導者は『デストロ』……。目の前のこいつはデストロの再臨とでも言いたいんだろう。遺志を継いでってやつか。窮屈そうで大変そうだ。

 

「勉強熱心だな。助かるよ。そう、私たちは異能の解放を目的としている。ここまで言えば君ならわかりそうなものだが」

 

「ここに来る前からわかってるよ。大方、解放の先導者はデストロじゃなきゃいけないって言うんだろ?」

 

「君たちは大きくなりすぎた。少し前の少人数の時ですら名前が大きかったのに、最近おかしなビジネスを始めてじわじわ勢力を広げているそうじゃないか」

 

「俺からすればお前のやってることもおかしなビジネスに見えるけどな」

 

 俺の背後にあるエレベーターから、有象無象が湧いて出てくる。そいつらはあっという間に俺を取り囲んで、退路を断った。

 

「おいおい。命乞いもさせてくれないのか?」

 

「どうせしないだろう」

 

「バレたか」

 

 有象無象が個性を使ったのがわかった。振り返ってもいないから何をされているかわからないが、まぁ大丈夫だろう。

 

 俺はしゃがんで、後ろの方に手をついた。

 

「……」

 

 それだけで、俺の背後にある床と、その上に立っていた有象無象がすべて塵と化す。

 

「どんなやつらでも利用価値があるから、減らしたくはなかったんだが……」

 

 有象無象が放った個性(残りカス)を振り払って崩壊させる。

 目の前にいるリ・デストロは呆けた表情をしていた。何考えてんだこいつ。

 

「異能の解放、大いに結構。別にお前らがどうこう言わなきゃ俺たちが邪魔することはないし、俺はちゃんと受け入れる」

 

 床に両手で触れた。

 

 崩壊が始まる。

 

 俺が手をついた床を起点に罅が広がっていき、俺たちが立っていたビルは一瞬で塵となった。下を見ても誰もいないってことは、これ以上戦力が減ることはないってことか。安心した。

 

 リ・デストロは自分でなんとかしてもらうとして、俺はこのまま落ちたら多分死ぬ。だから助けてもらうことにしよう。

 

 真下の地面が隆起する。そこからデカブツが現れ、そのデカブツの周りに黒いゲートが開かれた。そこから出てきたのは俺の仲間たち。そのうちの一人コンプレスがデカいクッションを俺の落下地点に放り投げた。

 

 ほぼ同時に、クッションに落下する。柔らかい感触と衝撃が身体に伝わるが、死ぬよりはマシだ。確か高かったはずのクッションを崩壊させないように気を付けて立ち上がると、デカブツ……ギガントマキアが俺に手を差し伸べる。

 

「お乗りください、主よ」

 

「クッションの上じゃカッコ付かないもんな」

 

 俺のことを先生の後継として慕うマキアの手の上に乗る。マキアはそのまま俺を肩まで持っていったから、肩に乗れってことかと理解し肩に乗った。

 

 ほどなくして、落下したリ・デストロが立ち上がる。

 

「お、よかった。ちゃんと生きてた」

 

「貴様……」

 

「怒るなよ。だからハゲるんだ」

 

 崩壊したビルに異常を感じてか、この街の住民……まぁほとんどが異能解放軍のやつらだろうが、そいつらが集まってきた。11万人以上の勢力があるっていうのは嘘じゃないらしい。それだけいても俺たちには勝てないだろうが。

 

「おい死柄木! これ今から暴れるっていう状況か!? いつでもいいぜ! 逃げ道はどこかな!?」

 

「焦るな。ビルを壊したのはパフォーマンスだ」

 

 飛び出そうとするトゥワイスを声で制する。俺を見てきた荼毘も目で制して、リ・デストロを見た。

 

「なぁ、ちゃんと話し合おう。お互い仲間を減らしたくはないだろう?」

 

「こちらが先に襲ったことを鑑みても、やりすぎだと思うが」

 

「ケチくさいこと言うなよ。お前も気に入らないものは壊してきただろう?」

 

「私の力はデストロの意志を完遂するための手段だ! ただの破壊とは違う!」

 

「デストロの意志か。ハハッ、窮屈そうだな」

 

 怒りに歪んでいた表情だったリ・デストロは、俺が笑うときょとん、とする。お前みたいなハゲたおっさんがそんな顔しても気持ち悪いだけだと思うとまた笑えてきた。

 

「まぁお前の目的がなんであれ、それがどこからくるものであれ、俺は受け入れるよ。人間自由じゃなきゃな。お前もそう思うだろ?」

 

 マキアの頭を手の甲で叩いて、地面に下ろしてもらう。そのままリ・デストロのところへ歩いて、笑いながら言った。

 

「だからさ。俺たちのことも受け入れてくれよ。そうすりゃどっちも自由だ」

 

 笑う俺に、リ・デストロは膝をついた。まるで支配下につきますと言わんばかりに俺を見上げる。俺としては、どっちにしろ反発してきて戦闘が始まると思ってたんだが、これはやらなくていいパターンか?

 

「私たちの目的は、抑圧ではなく解放」

 

 リ・デストロは両手を地面についた。

 

「その頂点に立つ者は、笑って自由を謳う者こそ相応しい」

 

 そして、そのハゲ頭を地面に擦り付ける。

 

「異能解放軍は、あなたについていく」

 

 静寂が訪れた。集まってきた住民たちは何が起きたのかわからないと困惑している。俺も同じ立場ならそう思うだろう。ビルが崩れて何が起きたと駆けつけてみれば最高指導者が土下座して降伏。夢だとしか思えない。

 

 ただこれは夢じゃない。俺がリ・デストロを受け入れ、リ・デストロが俺を受け入れてくれた。それだけの話だ。

 

「話が早くて助かるよ。流石社長だな」

 

「──オォッ、主よォォオオオ!!」

 

「きゃっ、ちょっとうるさいわよマキア!」

 

「あれスピナー。この軍勢と戦わなくてよくなって安心してないか?」

 

「だ、黙れコンプレス! これを見たら誰だってそう思うだろ!」

 

「なぁ黒霧。なんで俺たちはここに呼ばれたんだ?」

 

「顔見せらしいですよ。これから仲間になる者たちへの」

 

 騒がしい仲間にまた笑って、「ま、楽にいこう」と言ってリ・デストロに顔をあげさせた。自由を謳う者こそ相応しいって言われたやつが土下座させるってお笑いだろ。完全に抑圧だ。

 

 さて、これからどうしようか。想くんが起きてないと動いても面白くない。かといってこれ以上やることと言っても思いつかない。せいぜいじわじわ勢力伸ばして、来るべき日に備えるくらいだ。……やっぱりここにくるの早かったか?

 

 まぁなるようになったから結果オーライだ。手始めに、今まで頑張ってくれたこいつらにご褒美でもあげよう。

 

「なぁ、お前社長だから金あるよな?」

 

 自由を謳うが、自由をするためには金がいる。そんな世の中だから仕方ない。

 

 マキアは金があったら何するんだろうか、なんてどうでもいいことを考えながら空を見上げた。俺が崩壊させる必要もない真っ青な空。そこにあるのは太陽だけ。

 

「なぁ、俺主人公みたいじゃないか?」

 

「どうしたんだ死柄木? 珍しくまともなこと言うな」

 

 首を傾げるトゥワイスに「冗談だよ」と返して、とりあえず俺たちを囲んでいる異能解放軍に手を挙げて挨拶をしておいた。

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