俺はずっと好きでいる   作:酉柄レイム

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雄英:冬
ただいま


 超常解放戦線。それが敵連合が異能解放軍を吸収した結果出来上がった組織。名前にこだわりはないが、随分仰々しい名前だ。組織が大きくなった分、この前荼毘がハイエンド引き連れてエンデヴァーのところへ遊びに行ったみたいな派手なことはできないだろう。また想くんのところへ遊びに行こうと思ったが、今は我慢だ。

 

 どうせ数か月後には遊べるんだからな。

 

「なんだ死柄木、楽しそうだな」

 

 手の中で圧縮した何かを転がしながら話しかけてくるコンプレスに「あぁ」と返事して、

 

「そろそろ起きそうだと思ってな」

 

「?」

 

 ここにトガがいたら、『誰が』起きそうだって言ったかすぐにわかっただろう。いや、あいつはなんでもかんでも想くんにつなげるクセがあるからわかったわけじゃないんだろうが。

 

 ただ、今回ばかりは正解だ。俺たちが大人しくしている間、どこまで伸びるか。期待しておこう。

 

 未来の立派なヒーロー様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 目が、覚めた。しばらくぼーっとしてから、周りを見る。

 

 誰もいない。ただ、ここが雄英だって言うことはわかった。そして思い出す。俺が眠る前に何があったかを。

 

 病院で倒れて、そこで治療してくれて、そっから普通の病院じゃ危ないからって雄英に移されたってところか。いやそんなのはどうでもいい。問題は、今がいつで、被身子はどこにいるかってことだ。

 

 しばらく眠っていたことだけはわかるが、思ったよりもややこしい機械は俺に取り付けられておらず、栄養補給のための管が取り付けられているだけだった。怪我自体はそこまでじゃなかったってことか? そんなはずはない。だって俺60から80の重ね掛けしたし、下手したら死ぬと思ってたし。

 

 ……まさか文化祭に向けての体力づくりがここにきて活きたとか? あの短期間の特訓で? 確かに上限解放60をバンバン使ったが、それでも短期間でこれはあり得ない。

 

 てかなんで俺の周りに誰もいないんだ。ここは感動のお目覚めタイムで「待ってたよ想くん!」って被身子が抱き着いてくるところだろ。いや抱き着いてほしい。今の俺には癒しが足りない。

 

 頭の中でぐるぐると文句を言っていると、俺のいる部屋のドアが静かに開いた。そこから顔を出したのは、俺の恩人。

 

「久知」

 

「ぁ」

 

 相澤先生、と言おうとしてうまく声が出ず咳き込んだ。ベッドの横のテーブルの上にあった水を手に取って口に含み、ゆっくりと喉を潤してから相澤先生に向き直る。

 

「もう一回目覚めのシーンからやり直していいですか。出て行ってください」

 

「大丈夫そうだな」

 

 相澤先生はドアを閉めて、椅子を引っ張り出しそこに座る。その手には何もないことから、俺が目覚めたからきたってわけじゃなくて偶然きたところで俺が目覚めたんだろう。相澤先生なら、俺が目覚めるってわかってたら俺が寝ている間の授業資料とかを持ってくるはずだ。合理性の鬼だから。

 

「今いつですか?」

 

「12月頭だ。約一か月経ってる」

 

 約一か月。その間俺はずっと眠り続けたってことか。その間みんなと差つけられて……ないな。俺強いし。つけられてるとしたら爆豪、轟、あと多分緑谷の三人だろう。あーやだやだ。才能マンと努力マンはこれだから。そんな差すぐ大天才超努力マンである俺が追い抜くんだけど。

 

「ちなみに今日何曜日ですか?」

 

「日曜日だ」

 

「それにしては俺のお見舞いいなさすぎじゃありません? ほら、一か月も眠ってるクラスメイトがいたら休みの日なんかそりゃもうみんなで集まって目覚めろ応援タイムでしょ。もしかして南無ってるって思われたとか? ははは」

 

「面白くないぞ」

 

「はっきり言わないでください」

 

 まぁ元気そうで何よりだ、と相澤先生は笑いながら言った。

 

 元気は元気だけど、本当にショックだ。せめて切島あたりは側にいてくれると思ったのに。一番いてほしいのは被身子だけど、ってそうだ!

 

「相澤先生、被身子は?」

 

「お前が寝てたせいで止まった授業もあるんだ。早くよくなれよ」

 

「いやよくなってますって。なんなら今から動けますよ」

 

 管を取り外し、ベッドの上に立って見せる。立ち眩みも何もなく、怪我をする前の元気な俺の状態そのまま。何なら前より調子がいいまである。相澤先生は管取り外した瞬間睨んできたが、ベッドの上で元気な様子の俺を見て、目を丸くしていた。ベッドの上で元気ってエロくね? ははは。面白くない。

 

「それより被身子は?」

 

「それくらい元気ならまぁ……一応リカバリーガールを呼ぶか」

 

「被身子は?」

 

「呼んでくるからちょっと待ってろ」

 

「相澤ちゃん?」

 

 捕縛布で締め上げられた。俺病み上がりなんですけど?

 

 

 

 

 

 

 

 

 リカバリーガールに「信じられないくらいの健康状態」と言われ、むしろ動いた方がいいということで戦闘行為なし、個性の使用無し、激しい運動なし、という約束のもと俺は相澤先生に連れられて雄英の敷地内を歩いていた。向かっているのは、ハイツアライアンス。今みんながいるであろう場所。

 

 相澤先生の隣を歩きながら周りを見る。

 

「変わらないな。この学校も」

 

「面白くないぞ」

 

「相澤先生。愛嬌って知ってます? 今あなたに足りないもののことです」

 

「久知。落ち着きって知ってるか? 今お前に足りていないもののことだ」

 

 そんなことはないと言い切れない。目覚めてすぐに管外して元気アピールするようなやつだ。目覚めたばっかでちょっとテンション高いし、ここは反論せず「やるな」という笑顔で頷いておこう。

 

 相澤先生に呆れた目を向けられた。なぜだ。

 

「気になるだろうから言っておくが、エリちゃんと極さんは無事だ。傷一つなく今も元気に雄英にいるよ」

 

「よかった。カッコつけて怪我してたら俺どんな顔すりゃいいかわかんないですもんね。被身子は?」

 

「向こうがどんな顔すりゃいいかわからないだろ。お前が寝たんだから」

 

 ……そういえばそうだ。被身子とエリちゃんと父さんは俺と相澤先生を置いて逃げて、無事だったと思ったら俺が目覚めなくなった。エリちゃんのトラウマになってなきゃいいが……父さんは暑苦しく抱擁してきそうだ。しばらく放っておこう。

 

「そういえば爆豪って除籍になりました?」

 

「当たり前みたいに言うな。誰も除籍になってない」

 

「願望が出てしまいました。被身子は?」

 

「お前がいないから爆豪はおとなしかったぞ。喧嘩する相手が一人減ったからな」

 

 今のは嫌味だろうか。微妙なところだったので笑って「そうですか」と意味ありげに呟いておく。相澤先生は無視して速足になった。

 

 激しい運動ってどこから激しいの範囲に入るんだろうかと考えながら相澤先生に歩調を合わせる。今更ながら相澤先生と一緒に戦って、今こうやって隣を歩いている事実に嬉しくなり、さっきの適当な笑顔とは違って心からの微笑みを浮かべると、「おい久知。具合が悪いのか?」と相澤先生に心配された。この人実は俺のこと嫌いなのだろうか。

 

 しばらく歩いていると、ハイツアライアンスについた。当たり前だが、俺が眠る前と同じ外観。もしかしたら敵連合が攻めてきてボロボロになっているのかと思ったがそんなことはない。まぁそんなことがあったら相澤先生が真っ先に言っていただろうから、ほとんどその心配はしていなかったんだが。

 

「なんか緊張しますね。一か月眠ってただけなのに。被身子は?」

 

「まぁ気持ちはわかるが、別に何も変わらないだろ」

 

「相澤先生さっきから被身子のこと聞いても無視してきますけど、被身子に何かあったんですか?」

 

「その話は後だ。はよ入れ」

 

 血も涙もない相澤先生に背中を押され、中に入る。

 

 入った瞬間、誰かに抱き着かれた。誰か、って思ったのはいきなりすぎて思考が追い付かなかったのと、なんでここにっていう疑問に襲われたからだ。もし今敵に襲われたら面白いくらい瞬殺されるだろう。

 

 抱き着いてきた子越しに、クラスメイトが見える。何人かはにやにやして、何人かは興味津々に俺たちのことを見ていた。一人はソファに座ってこっちを一瞥して、中指を立ててきた。今帰ってきたばっかだっての。

 

 そんなことはどうでもいい。反射的に回した腕をその子の肩に置いて、そっと引きはがし顔を見る。

 

 被身子だ。眠る前に会った時よりも健康そうな、被身子。雄英の制服を着ているのが意味不明だが、似合っている。可愛い。素敵。

 

「被身子」

 

「被身子です、想くん。おはよう」

 

 泣きそうな顔で笑う被身子に見惚れていると、背後から声をかけられた。

 

「そういえば説明してほしがってたな。今するか?」

 

「後にしてください。空気読めないんですか?」

 

「読んだつもりだけどな」

 

 ニクい大人の相澤先生に心の中でそっと感謝して、被身子の体をぺたぺた触る。もしかしたらトゥワイスさんが生み出した被身子じゃないのか。八百万がついに人も創造できるようになったんじゃないのか。あらゆる可能性を考えて本当に被身子かどうか確かめるが、確実に被身子だった。

 

「くすぐったいよ想くん」

 

「悪い! いやらしい意味じゃないんだ! ただいやらしいことしたいってのも間違いじゃない!」

 

「ここだとちょっと恥ずかしいから……」

 

「あぁ、俺の部屋に行こう。隣に住んでるゴミどもには出て行ってもらって」

 

「不純異性交遊」

 

 捕縛布でぐるぐる巻きにされて、床に投げ出された。テンション上がりすぎた。今からごめんなさいって謝ってもこの拘束を解いてはくれないだろう。惜しいことをした。二人だけ理解できる言葉で話して、そのまま部屋に行くべきだった。いやそうすると隣にやつらが帰ってきたときに困る。なら約束を無視して個性使ってぶっ飛ばしておくべきだったか? そうしても相澤先生に個性を消されて止められていたに違いない。なんてこった。俺は詰んでたんだ。

 

「ったく、ずっと眠ってたから心配してたってのに全然元気そうだな。安心したぜ!」

 

「よかったねぇヒミコちゃん! 愛しの彼がお目覚めだよ!」

 

「ドラマみたいだった! いいもの見させていただきました!」

 

 俺が簀巻きにされたのを皮切りに、みんなが集まってくる。気持ちのいい笑顔の切島、被身子を囲む芦戸と葉隠。一人を除いて続々と集まってくる。

 

 ……なんか被身子みんなと仲よさそうですね?

 

「どうなってんですかこれ」

 

「トガヒミコは雄英で預かる……監視することになった。お前なら、それ以上の説明はいらないだろう」

 

 はいはい。色んな大人が動いたってことね。俺が知らなくてもいいってことだろう。今はただ純粋に喜んでおけってことか。

 

「想くん!」

 

 被身子は簀巻きにされている俺の目の前にしゃがみ込んで、にっこり笑った。

 

「これからもよろしくね!」

 

「……おう、よろしく。あとただいま」

 

 被身子の「おかえり」に合わせて、みんなから「おかえり」の大合唱を頂いた。そこに約一名の「遅ェ」という声があったのはご愛敬だろう。

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