俺はずっと好きでいる   作:酉柄レイム

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ご挨拶

「想が起きたって本当か!?」

 

「想くん!」

 

「父さん。それ俺に言うセリフじゃねぇよ」

 

 共同エリアのソファで被身子と一緒にだらけていると、エリちゃんを連れた父さんがやってきた。エリちゃんは俺を見た瞬間飛び込んできて、落とさないようにしっかり受け止める。

 

「お前、心配したんだぞ! 夜嵐くんも毎日お前のところに訪れて手を握って応援していた!」

 

「ありがたいけど、男にやられると微妙だな……被身子は?」

 

「私はあんまり自由なくて毎日はいけなかったの。ごめんね!」

 

「私は毎日行ってた」

 

「おー、ありがとなエリちゃん! 被身子も」

 

 目に涙を溜めて俺を見上げるエリちゃんを優しく撫でる。随分懐いてもらったもんだ。多分これは被身子のおかげでもある。やはり被身子はすごい。被身子以外の、いや被身子とエリちゃん以外の女の子はノミに見えるくらいすごい。あ、遠巻きでノミどもが俺らのことをワクワクしながら見てら。負け組どもめ。

 

「もちろん俺も毎日行っていたぞ!」

 

「そうですか」

 

「他人行儀! だが目覚めてくれて嬉しいから無礼講だ!」

 

 ハッハッハ! と笑う父さんは当たり前だがいつも通りで、何も変わってないんだなと改めて思わされる。もしかしたら俺が寝ている間に色んなことが変わってるんじゃないかって思ったが、そんなこともなかった。むしろ、俺が寝ている間はみんなの元気がなかったらしい。まったく、みんな俺のこと好きなんだから。

 

 そんな中、ほとんと変わらず、変わったと言えば喧嘩しなくなって少し静かになった程度の男がいたとも聞く。

 

「爆豪も俺がいなくて寂しかったろ?」

 

「ア? 喋んなカス。ニヤニヤしやがって気持ちワリィんだよゴミ。とっとと死ね」

 

「絶好調だな」

 

 俺たちが座っているソファとは別のソファに座っている爆豪その人だ。

 

 さっき俺たちがここに座った時何も言わず去ろうとしたのを引き留めて、ずっと同じ空間にいてもらっている。いつもならお邪魔虫だと思うだろうが、なんだかんだずっとつるんできたやつだ。目覚めたばっかで久しぶりなんだから、一緒にいたってバチは当たらないだろう。

 

「想くん想くん。三奈ちゃんたちから聞いてるの。爆豪くん結構な頻度で想くんに会いに行ってたって!」

 

「ハハーン? さてはお前、俺のこと好きだな?」

 

「クソオスメスが! 一緒に殺してやらァ!!」

 

「私も想くんのところでバクゴーさんと会ったことあるよ」

 

「ハハーン? さてはお前、俺のこと愛してるな?」

 

 爆豪の顔中に血管が浮き出すぎてもはや人間ではなくなってしまった。エリちゃんの教育上大変よろしくないのでぎゅっとエリちゃんを抱き寄せて見えないようにする。俺の胸にすりすりと頬を寄せるエリちゃんの可愛さにノックアウトされそうになりながらも、「冗談だよ」と爆豪に返した。

 

「まぁ、心配かけて悪かった。今はこの通り元気だよ」

 

「心配なんざしてねぇよ。どうせテメェなら何があっても平気な顔して起きてくんだろ」

 

「想くん。ライバルが女の子ならまだしも男の子ってどういうことです? しかもあんなどうしようもない人」

 

「どうしようもないってどういうこったクソイカレ女!」

 

「女の子にそんな言葉使う時点でどうしようもないだろ」

 

「バクゴーさんってどうしようもない人なの?」

 

 顔をあげて無邪気に聞いてくるエリちゃんに「そうだよー」と被身子と口を揃えて言うと、爆豪がついに立ち上がって俺に襲い掛かろうとしてきた。そこに割って入った父さんが華麗な動作で爆豪を受け流し、見事俺の隣に座らせる。射程範囲に持ってきてどうすんの?

 

 もしかしたら俺の敵なのかもしれない父さんは「元気そうで安心した!」と笑いながら爆豪がさっきまで座っていたソファに座り、また大声で笑う。

 

 うるせぇ。

 

「仕方ないよ想くん。お父さん、ずっと心配してたんだから。きっと想くんが元気になってくれて嬉しくて仕方がないのです」

 

「極さんね、想くんの隣でずっと応援してたの。大声で」

 

「そうなのか。きっとうるさかったんだろうな」

 

「お前もどうしようもねぇ人間じゃねぇか」

 

 なんだかんだ大人しく座った爆豪からの攻撃を聞かなかったことにして、そういえばと父さんに聞きたかったことを思い出した。

 

「父さん。俺ってなんでこんなに早く目が覚めたんだ? もしかして父さんみたいに個性がぶっ壊れたとか?」

 

「それはない。むしろ成長したんだろう」

 

 成長。何がだろうか。もしかして被身子が近くにいることによって男として成長したとか? いやぁそんなそんな。親の前でなんか恥ずかしいなぁ?

 

「その顔ならもう気づいたみたいだな。そう、お前は解放値が60を超えると、その値が上がるのに比例して癒しの力も上がっていく」

 

「あぁ」

 

 まったく気づいていなかったが、父さんが真面目な顔をして言うので「わかっていましたよ感」を出すために表情を引き締めて誤魔化しておく。両隣にいる被身子と爆豪、そしてエリちゃんまでもが俺を呆れた目で見てくるが、バレていないはずだ。嘘をつくのがうまいんだ、俺は。

 

 にしても、癒しの力。そう言われるとそれが出始めたのは上限解放60からであり、だとすると仮説的には70、80と上がっていけばその力も上がっていってもおかしな話じゃない。大怪我前提の解放値じゃないと癒せないってのがポンコツ感すごいが、そのおかげで早く目が覚めたんだから文句言うことはないだろう。

 

「元々怪我はそこまでじゃなかったんだ。とはいっても普通の人間なら完治するのに二か月はかかっただろうが、お前の個性がその期間をぐっと縮めた」

 

「……! それって」

 

「あぁ。その成長に加えて、新たなことがわかった。お前の『窮地』は常時発動型の個性。そう見て間違いないだろう」

 

 爆豪にこっそり耳打ちで「どういうことだ?」と聞くと、爆豪はエリちゃんに向かって「オマエはこうなるなよ」と言った。どういうことだ?

 

「とはいっても常時とは少し違うがな。お前が怪我をしてる時、疲労している時、もしかしたら病気の時でも。お前の『窮地』に反応して個性が働き、そこから脱するために異常な早さで体が治っていく。元々早いなとは思っていたが、今回のそれは完全に異常だった。眠っていたのは恐らく、異常な個性の動きに体が耐えられなかったんだろう」

 

「ザコ」

 

「エリちゃんはこんなやつにならないようにな」

 

「私はどんな人になればいいの?」

 

「エリちゃんはエリちゃんです」

 

 被身子がエリちゃんを撫でると、エリちゃんはくすぐったそうに微笑んだ。この一瞬が絵画になるなら俺は内臓を売ってでも手に入れる。あ、内臓なくなったら『窮地』で再生したりしないかな? 流石にしない?

 

「ただ、個性も身体機能。早すぎる回復は俺と同じように、何かデメリットがあってもおかしくはない。寿命が縮むとかな。ハッハッハ!」

 

「おい爆豪。息子の寿命が縮むかもしれないってんのに笑う父親がいるらしい」

 

「子も子なら親も親だな」

 

 ならお前の親もきっととんでもない暴言マシーンなんだろうな。と言いかけたがぐっとこらえる。爆豪の親御さんを目の前にして言うならまだしも、いないところで言ったらただの陰口だ。言うなら目の前。そっちの方が気持ちいい。そもそも言うなって話だが。

 

 実際に言われた父さんはといえばそんなことを気にするような人でもなく、むしろ余計に笑っている。正直どうだろうとは思うが、心の中でどう思っていても「想は想のやりたいことをやれ」っていうスタンスでいてくれる。父さんはそういう人だ。

 

 父さんはひとしきり笑った後膝に手を置いて立ち上がった。

 

「ま、そんなややこしい話はもう終わりにしよう。通常授業には明日から復帰してもいいだろうが、演習に関しては三日間は様子を見る。相澤先生が伝え忘れていたから伝えておいてくれとさっき言われてな。きっと想が心配でいつもの調子を出せなかったんだろう。ハッハッハ! いい先生だなァ!!」

 

 笑いながら父さんが去っていく。そのままハイツアライアンスから出ようとしたところで立ち止まり、俺に背を向けながら言った。

 

「母さんも心配してたぞ。連絡くらいはしてやってくれ」

 

「言われなくても」

 

 父さんは右腕を伸ばしサムズアップして、そのまま出て行った。ヒッチハイクでもするんだろうか。するんだとしたら家に帰るんだろう。俺の無事を報告しに。

 

 さていつ連絡するかなぁとぼんやり考えていると、俺のポケットを被身子がまさぐり、慣れた動作で母さんに通話をかけた。しかもテレビ通話。

 

「え?」

 

『もしもし想!? あんた起きたのって被身子ちゃん! やーん相変わらず可愛いわね元気にしてた? エリちゃんもこんにちは! そこにいるのは爆豪くん? いつも息子がお世話になってます!』

 

「はい、元気です! お母さん!」

 

「こんにちは」

 

「おい久知。なんでこの二人からお前が生まれんだ」

 

「知らねぇよ」

 

 母さんの声が聞こえた瞬間エリちゃんはくるりと体を回して、被身子が構えるスマホに映ったハイテンションの母さんに向かってぺこりとお辞儀した。なんで知り合ってるんだとか知り合ってる上に妙に親しそうだなとか色々言いたいことはあるが、とりあえず今は無事を報告するのが先だろう。

 

「ごめん母さん。ちゃんと生きてます」

 

『見ればわかるわよ?』

 

「そういうことじゃなくて」

 

 隣で「やっぱテメェの親だな」と納得している爆豪は後で血祭りにあげるとして、何て言ったもんかと頭を悩ませる。

 

「いや、そのな。心配かけてごめんなさいってのを」

 

「聞いてくださいお母さん! 私さっき想くんとぎゅーってしちゃったのです!」

 

『あらまぁ素敵! 私も若い頃はいっぱいしてたわ。あれはまだ想が生まれる前のことでね』

 

「息子の前でなんて話しようとしてんだ! 親のそんな話聞くのは何より地獄だってわかんねぇのか!?」

 

 声を荒げると、画面の向こうで母さんが『アハハ!』と笑っていた。というか切島と上鳴の前じゃあんなに取り繕ってたのに、今はめちゃくちゃ素だな。気を張ってないって証拠だろうが、それだとますます被身子たちと母さんが親密ってことになる。外堀が埋まるのは結構だが、自分の知らないところで埋まっていくともやもやする。

 

「あーもう! もっとこう感動の親子対面とかねぇの!? 俺今のところ感動的な対面したの被身子とエリちゃんしかないんだけど! あとクラスのみんなが『おかえり』って言ってくれたやつ! 親が感動的じゃねぇってどういうことなんだよ!?」

 

『もう想のやることに口出さないって決めたからねぇ。心配は心配だけど、ちゃんと生きて笑ってるなら言うことないわ』

 

 母さんの言葉に、体から力が抜けた。爆豪が「アホ」と言っているのが聞こえる。

 

 あぁそうか。うん。やっぱり親には敵わない。

 

『年末にはちゃんと帰ってきてね』

 

「おう」

 

『久しぶりのお友だちと仲良くね』

 

「久しぶりのって枕詞いらなくね?」

 

 爆豪が鼻で笑い、被身子が俺の頭を撫で、エリちゃんが気づかわし気に俺の膝をぽんぽんと叩いた。泣くぞコラ。

 

『……さ、しばらく寝てたんだからすぐに追い抜くつもりで頑張りなさい! 想は私と極さんの息子なんだから有象無象を追い抜くのなんてちょちょいのちょいよ! それじゃ、またね!』

 

 やけに早口で言い切って、一方的に通話が切られた。少し震えていた声を聞かなかったことにして、小さく息を吐く。

 

「頑張らないとな」

 

「テメェさては母親似だろ。俺らのことを『有象無象』って言ったの聞こえたぞオイ」

 

 最後母さんは大声で言っていたのできっと遠巻きに俺たちを見ていたみんなにも聞こえていただろう。あぁ母さん。何も親子で敵を作ることないじゃないか。

 

 笑いながらみんなに向けてピースすると、一部から罵詈雑言の嵐を受けた。

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