あれから三日経って、本格的に演習参加の許可をリカバリーガールから得た。リカバリーガール曰く、「健康状態的にはすぐにでもいけたんだけど、一応ね」とのことで、本当に一応だと自分でも思うほど健康状態に変わりはない。めちゃくちゃ元気で、何度被身子と元気にしようと思ったことか。それを目論むたびに相澤先生にぐるぐる巻きにされ、吊るされた後その状態で反省文を書かされたのだが。おい、安静にしなきゃダメなんだぞ俺。
被身子はなんと教師寮にいるらしく、エリちゃんと一緒にいるらしい。外から見て大丈夫なのかその光景と思ったが、被身子が危ないことをしないとなぜか教師全員信じ切っている上、何かあったら守り切ると息巻いている始末。俺としては嬉しいんだが、それでいいのか雄英教師陣。
ともあれ、今日から演習に参加できる。つけられているかどうかもわからない差を埋めるために、この三日間眺めるしかなかった演習に気合いを入れて取り組むために。俺は食堂で爆豪の真っ赤な飯を一口貰い、死にかけていた。窮地だ窮地。誰か助けてくれ。
「そりゃそーなるだろ。相変わらず久知はアホだなぁ」
「ア!? 雄英ド底辺の最下層クソアホに言われたくねぇんだよ!」
「ひどくね?」
背中をさすって水をくれた上鳴に暴言で返し、一気飲み。水は飲みすぎると死ぬらしいが、今は飲みすぎないと死ぬ。なんでこんなクソみたいな飯食ってんだこいつ。まさか罰ゲーム? 誰かにいじめられてる?
「にしても、久知が起きて本当によかったぜ! みんな心配してたからな」
「あぁ切島。心配かけて悪かったな」
「おう! また一緒に頑張ろうぜ!」
切島は本当にいいやつだ。俺が女なら放っておかなかっただろう。硬派なところがまたいい。男すぎて漢だが、女版の俺なんてそんなのマイナス要素にもなりはしない。
逆に爆豪みたいなやつはアウトだな。まず性格が悪い。そしてゴミ。そしてクズ。そしてカス。顔はいい。それだけ。
「爆豪。そのうちいいことあるって」
「何勝手に慰めてんだゴミ」
ほらな?
なんて風に食堂で食べるのも、起きて翌日の月曜日には懐かしく感じたもんだ。実際ずっと寝てたからそれほど久しぶりってわけじゃないんだろうが、感覚的に懐かしいと思った。爆豪が真っ赤な飯を食い、上鳴がアホみたいに騒いで、切島が場を回して、爆豪がクズで。よくやった『窮地』。なんか父さんがデメリットどうこうの怖い話をしていたが、これからも仲良くやっていこう。
「にしても今日の演習なにやんだろな。久知がいないからって止まった演習があるんだっけ?」
「相澤先生はそう言ってたな」
「ってことは全員で何かやるってことか! 戦闘訓練みたいな」
「全員殺す」
仲良し四人組に紛れた殺人鬼は置いておいて、多分戦闘訓練だろう。前みたいにチームに分かれるか、それとも個人個人でやるか。いずれにせよ全員が揃っていないと意味がないものには違いない。もしA組の中だけでやるものでチームを組むものなら、願わくば爆豪とは違うチームにしてほしい。こいつ、戦闘に関してはマジで優秀だから俺と組むとヌルゲーになるんだよな。
「爆豪は何やると思うんだ?」
真っ赤な飯を食い続ける爆豪に切島が問いかけると、行儀のいい爆豪は口の中にあるものを飲み込んで、一旦食べる手を止めた。
「戦闘訓練。形式はわかんねぇが、それだろうな。久知がいねぇと意味がねぇってならそれしかねぇ」
「それってつまり俺が強いからみんなの参考になるってこと?」
「俺がテメェを潰せねぇだろうが」
「ハーン? お前が、俺を? 悪い爆豪。ずっと寝てたから耳が悪くなったのかもしれん。もう一回言ってくれ」
「死ね」
「止めろ上鳴!」
「お前ら隣にしなくてよかったぜほんと!」
立ち上がって掴みかかろうとした俺を、切島の指示を受ける前に上鳴が抑えつける。そろそろ白黒つけなきゃいけねぇんだ離せ! 大体前の戦闘訓練だって白黒つけるとか言っときながら同じチームだったし、必殺技の訓練の時も引き分けか途中で終わるかが多すぎて不完全燃焼なんだよ!
「オイ久知。テメェ80使えや。俺がぶっ潰してやる」
「は? すぐに80出そうとしたら大怪我しなきゃダメだろ。重ね掛けしたらまた寝ちまうし、あんなの本物の戦場じゃねぇと無理だ」
「俺が使えって言ってんだから使え」
「俺様すぎだろ」
つまりこいつは俺に死ねって言ってんのか? 上等だ。先に俺がぶっ殺してやる。ここは律義に俺を止めてくれる切島と上鳴に免じて下がっておくが、戦闘訓練では覚えてろ。
なにがなんでもぶっ殺してやる。
「今日はA組対B組の対抗戦です」
「そりゃねぇよ相澤先生!」
運動場γ。工場地帯を模した訓練場に待機していた俺は、集まってきたみんなと話しながら開始時間を待っているとB組が現れ、嫌な予感がしていたところで相澤先生とブラド先生が現れ、相澤先生から無慈悲な宣告。思わず叫ぶと相澤先生に睨まれたので、口笛を吹いて『何も言っていませんアピール』をしておいた。
そのアピールが通じたのか、相澤先生はため息を吐いてから説明を続ける。
「さて、このまま対抗戦の説明……と行きたいところだが、今回ゲストがいる」
「おい、まさかじゃねぇの?」
「被身子なわきゃねぇだろ。一応監視対象だぞ」
肘で小突いてきた上鳴に冷たく返して、ブラド先生の背中から現れた影を見る。
その人物は、体育祭で一度組んだあいつだった。
「ヒーロー科編入を希望している、普通科C組の心操人使くんだ」
「心操! テメェその首に巻いてる布なんだ!? まさか相澤先生の真似じゃねぇだろうな!」
「心操! 久しぶりっス! あと久知も! 挨拶に行けなくて悪いな!」
「うるさすぎる」
声をかけてきた夜嵐と心操を見ながらハイタッチして詰め寄っていると、相澤先生に夜嵐と仲良くぐるぐる巻きにされた。最近巻かれること多いぞ俺。寿司くらい巻かれてるじゃねぇか。
「久知元気そうでよかった! 今日はよろしくな!」
「おうよろしく。あとこの状態でよく普通に話せるな」
「一言挨拶を」
「相澤先生! 俺らこのままですか!」
相澤先生は華麗に俺を無視した。ひどい人。
いい女みたいなことを考えてしまった俺は拘束を解いてもらうのを諦めて、前に出た心操を見る。心操は俺と夜嵐を呆れた目で見た後、まるで俺たちをこの場にいないものとして扱うかのように視線を外した。
「何人かは既に体育祭で接したけど、拳を交えたら友だちとか、そんな気持ちのいいスポーツマンシップ掲げられるような気持のいい人間じゃありません」
「え、友だちじゃないのか?」
「しーっ、夜嵐。相澤先生に殺されたくなかったら静かにしとけ」
「はっ!」
夜嵐は相澤先生を見た後、唇を内に閉まってグッと口を閉じた。素直なやつだなともはや尊敬の念すら覚え、相澤先生にウインクして『俺は何もしてませんよアピール』をかまし、心操の挨拶に耳を傾ける。
「ヒーロー科と普通科じゃやれることも、やってきたことにも差がありすぎる。俺はもう何十歩も遅れてる。悪いけど必死です。……まぁ、あそこの二人みたいに失望するような行為していても、その実力は段違いだってこともわかってる」
夜嵐が何か言いたげに、目を輝かせて俺にアピールしてきた。どうせ「やっぱり心操も友だちだって思ってくれてた!」とでも言いたいんだろう。でもあれ客観的に見てるだけで友だちだから褒めたとかそんなんじゃないぞ。
「立派なヒーローになって、人のために個性を使いたい。この場にいるみんなが超えるべき壁です。馴れ合うつもりはありません」
夜嵐が寂しそうな表情で心操を見ている。馴れ合うつもりはないって言われたからだろう。でも心操もきっと話せばいいやつだから、馴れ合うつもりはなくても友だちにはなってくれるって。ヒーロー目指すやつに悪いやつはいないんだから。
「というわけだ。ここの二人みたいにヒーロー科として恥ずかしい行動はしないように」
「久しぶりだな心操! 友だちになろう!」
「相澤先生! あいつに悪気はないんです! 後で俺から言っておくので、はい、すんません!」
心操のところへ飛んでいった夜嵐を羽交い絞めにして引きはがす。ブラド先生はどういう教育してるんだ? こういう真っすぐなところが夜嵐のいいところでもあるが、真っすぐすぎるのも玉に瑕だろ。
「心操は初めてヒーロー科の演習に参加するんだから力入ってんだよ。落ち着かせてやれ」
「そうだったのか! 流石久知、俺気を付けるよ!」
その言葉を信用して夜嵐を解放し、相澤先生に「ではどうぞ」と目で合図した。相澤先生はじとっとした目で俺を睨んだ後、「まぁいいか」とため息を吐いて説明を始める。
「最初言った通り、今回はA組対B組の合同戦闘訓練だ。双方4人組、ないしは5人組を作って一チームずつ戦ってもらう」
「心操は今回A組・B組に一回ずつ参加してもらい、合計二戦参加してもらう。つまり5試合中2試合は5対4になる」
「そんなん4人が不利じゃん!」
相澤先生から引き継ぐように説明したブラド先生に、葉隠が文句をぶつける。ただこれはそうじゃないかもしれない。
「心操はほぼ経験がない。4人の中に組み込む方が不利になる。5人チームは数的有利を得られるが、しっかりハンデもある」
「今回の状況設定は『敵グループを包囲し確保に動くヒーロー』! お互いがお互いを敵と認識しろ! 各陣営に設置された『激カワ据え置きプリズン』に4人投獄した方の勝利となる!」
「緊張感なさすぎだろ」
見た目は檻だが、可愛らしいドアと根津校長の看板が檻から生えており、緊張感がまったくない。激カワかどうかも怪しい。
まぁつまり、ハンデってのは慣れないメンバーを入れて、4人先に捕まった方が負け。お荷物抱えながら戦えってことだ。
「じゃ、クジ引け」
相澤先生が『A』と書かれた箱、ブラド先生が『B』と書かれた箱を持つ。クジか。戦闘力のバランス考えて先生たちがチーム考えてると思ったが、そうでもないらしい。俺は真っ先に相澤先生のところへ行ってクジを引いた。書かれている数字は『4』。
「5人チームのやつだな。スロースターターのお前ならちょうどいいだろ」
「マジでそうですね。俺一瞬で投獄されて終わる未来しか見えませんでしたし」
相澤先生に返しながら、ほっと一安心。上限解放していない俺なんてちょっと動ける一般人と一緒だ。最終的には父さんくらい生身でも強くなりたいが、今はそうじゃない。同じチームを組む人には悪いが、最初はお荷物を抱えてもらおう。
「爆豪も4だな」
「は?」
「は?」
まさかと思って爆豪が引いた紙に書かれている番号を見る。『4』だった。寝ている間に数字の概念が変わっていないとしたら、それは紛れもない『4』だった。
「……相澤先生、同士討ちってありですか?」
「本番でもそれやんのか?」
「クソが!」
「ハッ、足引っ張んなよ」
「テメェがなァ!?」
こいつ、もし本当にイライラしたら後ろから撃ち抜いてやろう。そう覚悟して、他の同じチームである耳郎、瀬呂、砂藤と「よろしくね」と握手しておいた。気持ち悪がられた。
は?