俺はずっと好きでいる   作:とりがら016

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委員長に相応しいのは?

「オールマイト……あれ、君ヘドロの?」

 

「爆豪爆豪、出会い頭にヘドロってバカにされてんぞ。ろくなもんじゃないな、メディアって」

 

「さらっと俺と一緒に登校してるテメェのがろくでもねぇんだよ」

 

 戦闘訓練の翌日。オールマイトが雄英教師になったと知れ渡り、マスコミが押し寄せてくる事態になっていた。初めの内は「テレビに出られるじゃん!」とうきうきしていたが、オールマイトオールマイトとうるさかったのでもう今はうんざりしている。ここに超イケメンな男子高校生がいるのにね?

 

「しっかしすげぇなオールマイト。教師やってるだけでこんなにくるもんか」

 

「暇なんだよ。メディアは」

 

「それはそれで平和な証拠だろ」

 

 マスコミがオールマイトが教師になった!と騒げるのは特にデカい事件が起きていないという証拠。事件が起きてたとしてもオールマイトを優先しそうなものだが、流石にそれはないだろう。ないよね?

 

 ところでヘドロって何?と爆豪に聞いて殴られるということを繰り返しながらホームルームの時間を迎える。そんなに嫌がるってことは、俺のピースくらいとんでもないものなのだろう。ヘドロ吸ってたとか?

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ。V見させてもらったぞ」

 

 教壇に立った相澤先生が労いの言葉をかける。あと爆豪と緑谷に対するダメ出し。他の生徒もダメなところはあっただろうが、目立ってこの二人がダメ、というか注意しておくべきだと思ったのかな。爆豪に関しては全面的に同意である。口悪いし。

 

「えー、さて、急で悪いんだが今から君らには……」

 

「また臨時テストか?」

 

「お前を殺す」

 

 ひとり言を呟くと爆豪に殺害予告されてしまった。なぜ?

 

「学級委員を決めてもらう」

 

「爆豪がなれないやつじゃん」

 

「なるわ!」

 

 無理でしょ。全員やりたそうにしてるし、この中から爆豪が選ばれることなんてありえない。なんとなく上に立つのは向いてそうではいるけど。

 

 しかし、学級委員って雑務をやるイメージが強いからこんなに人気なのって異常だと思う。みんな手あげてるし。やっぱみんな人を導くっていう仕事がしたいのかね。なんて思いつつ俺も手をあげているわけだが。だってほら、ヒーロー科の学級委員ってそれだけでカッコよくない?

 

「静粛に!」

 

 自分が自分が、とおさまりがつかなくなってきた時、見た目がものすごく委員長っぽい飯田がストップをかけた。

 

「多を牽引する責任重大な仕事だ。ここは投票で決めるべきだろう!どうでしょうか先生!」

 

「時間内に決まるならなんでもいーよ」

 

 熱く先生に確認を取る飯田に対し、先生は寝袋に入りながら適当に答えた。温度差ってこういうことか。

 

「うーん、爆豪。俺に入れてくれね?」

 

「あ?死ね」

 

「入れてくれって言っただけでこの理不尽」

 

 いや、入れてくれるとは思ってなかったけど、死ねはないでしょ死ねは。

 

「むしろテメェが俺に入れろや」

 

「え?やだよ。俺形だけでもお前の下につくなんて絶対嫌だもん」

 

「上等だコラ!投票用紙貸せや!」

 

「不正!不正が行われようとしています!」

 

 爆豪からの攻撃を必死にガードしながら投票用紙を守る。俺がここで踏ん張らなければ爆豪に二票入ってしまい、もしかしたら爆豪が学級委員になってしまうかもしれない。そんな最悪な事態は避けなければいけない。頑張れ俺。

 

「爆豪くん!無理やり書かせるのは学級委員としてあるまじき行為ではないか!?」

 

「知るか!なれりゃいいんだよなれりゃ!」

 

「もしお前に投票しようとしてくれてた人がいたとしたら、今のでゼロになったな」

 

 飯田が助けに入ってくれた瞬間に投票用紙を提出し、爆豪に中指を立てる。怒りに歪む表情が面白い。

 

「爆豪とそんなやりとりしてる時点でアンタにも入らないと思うんだけど」

 

「いつ人質にされるかわかんねーしな」

 

「うっせぇテメェら。金返せ」

 

 席に戻る時に茶化してくる耳郎と上鳴に舌を出して挑発し、席につく。あいつら容赦なく食いやがって。何が甘いものは別腹だ。太れ。太って二人そろって爆豪に「ダルマ」ってあだ名つけられろ。まったく、切島はあんなに遠慮してくれたというのに。しかもあとでこっそりお金渡してくれたし。それはそれで申し訳なくて受け取ってないけど。

 

 さて、開票結果。俺が願うのは爆豪が学級委員になりませんように、ということだけ。別に俺がなれなくてもいいからそれだけはお願いしたい。本当に。

 

「僕三票ー!!?」

 

「テメェかコラ!!」

 

「すぐに俺疑うのやめない?ほら、俺に一票入ってんじゃん」

 

 緑谷が三票獲得しているのを見て俺を疑う爆豪。自分に対する嫌がらせするのは全部俺だと思ってるのだろうか。あながち間違いではないかもしれない。

 

 まぁ犯人捜しをするわけではないが、緑谷に入れたのは飯田と麗日だろう。ゼロ票だし。轟もゼロ票だけど緑谷と接点ないし、二票とった八百万に入れたんだと思う。

 緑谷とあの二人はいつも仲良さそうだから、その中で学級委員に相応しいと思わせる何かが緑谷にあったってことか。すごいな緑谷。俺の次に。

 

「爆豪よりは相応しいわな」

 

「殺す」

 

「緑谷!委員長としてこいつ止めてくれ!」

 

「えっ、えぇ!?」

 

 早速委員長に頑張ってもらおうと思ったら先生に睨まれてしまった。ごめんなさい。ほら、学生って楽しくて。ね?

 

 

 

 

 

 

 昼、食堂。

 

 爆豪がとにかく赤いものを食べているのをドン引きしながら見つつ、俺はサンドイッチを頬張っていた。本当は味の濃いもの、ラーメンとか肉とかの方が好きなのだが、いまだにそういうものを食べるとめちゃめちゃタバコを吸いたくなるのでそれすら我慢している。「吸いてー!」と言ってしまう自信がある。そんなこと言ったらもうおしまいだ。

 

「爆豪が食ってんのって毒?だからあんな口わりーの?」

 

「赤すぎるだろ。俺の髪より赤いじゃん」

 

 俺の隣に座る上鳴が爆豪をバカにし、爆豪の隣に座る切島も爆豪をバカにする。それほど信じられないものを食べてるんだ。爆豪は。

 

「ま、アレだろ。個性の関係ですぐ汗がでるように、みたいな」

 

「ンで知ってんだコラ!」

 

「緑谷に聞いた」

 

「デクテメェ!!」

 

 遠くの方で「ひぃ!」という声が聞こえた。流石幼馴染。いるって知ってたのか。

 

 アレは戦闘訓練が終わって、緑谷が教室に帰ってきてからのこと。「爆豪の個性、詳しく教えてくんね?」と頼んだところ、「え、えっと、そんなことしてかっちゃんにキレられないかなぁ」と迷っていたところに「俺の個性教えるから」と言えば目をキラキラさせて教えてくれた。情報を売って情報を手にしたわけである。

 

「なんでも手の平から出る汗がニトロみたいになってるらしくて、それを着火させて爆破させてるらしい」

 

「へー。くせぇの?」

 

「臭くねぇわ!嗅いでみろや!」

 

「あんまニトロを嗅ぎたいって思わないけどな……」

 

 確かに。爆豪ならそのまま爆破させてきそうだ。特に俺に対しては。

 

 サンドイッチを平らげ、さて一服しようと懐をまさぐりながら「あ、そういや俺タバコやめたんだった」と絶望していたその時。

 

『ウウーーー!!』

 

「警報?」

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難してください』

 

「セキュリティ3ってなんだ?」

 

「校舎内に誰かが侵入してきたんだろ」

 

「あぁなるほど。それで屋外へ避難ってことね」

 

「なんでそんな落ち着いてんだお前ら!早く逃げるぞ!」

 

 いや、だってなぁ。

 

「あんなとこ行ったら敵と会わなくても死にそうだし」

 

「……確かに」

 

 俺たちの視線の先には避難しようとして団子状態になっている生徒の姿。そりゃこうなるよね。避難訓練があったとしても、あれって大体スタートは教室だし。食堂から避難するマニュアル何てないんじゃないか?

 

「つっても逃げ遅れたら敵と会っちまうぜ。どうすんだ?」

 

「殺す」

 

「逃げる」

 

「面白いほど正反対だなお前ら……」

 

 だって雄英のセキュリティを突破してくる敵に勝てるとは思えないし。ただでさえスロースターターなのに、そんな強敵相手無理だろ。きっと瞬殺される。

 

「けっ、0ポイント仮想敵には立ち向かったクセによ」

 

「アレは勝てると思ったからだろ。今回は別に戦わなくてもいい」

 

「大丈ー夫!!」

 

「し?」

 

 面白くなさそうな爆豪を宥めていると、聞き覚えのある声が食堂に響き渡った。声のする方をみると、壁に非常口のように貼り付いている飯田の姿。何してんだアイツ?

 

「ただのマスコミです、何も焦ることはありません!ここは雄英!最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!!」

 

「マスコミだって」

 

「殺す」

 

「いや、殺すなよ」

 

 マスコミに何か恨みでもあるのだろうか。俺もあまり好きじゃないけど、ヒーローになる以上メディアは味方につけておいた方がいいと思うんだけどなぁ。まぁ爆豪には無理か。顔と個性がよくても言動でめちゃくちゃマイナスだろ。その点俺は個性でマイナスだけど。

 

「よかったよかった。雄英に乗り込んでくるバカなんて流石にいないと思ってたけど、ただのバカでほんとによかった」

 

「爆豪もそうだけど、久知もマスコミ嫌いすぎねぇ?」

 

「いや、そんなことないって。好き勝手情報操作するけどそれに騙される世間の方が悪いんだし」

 

「そういう顔してねぇけど……」

 

 上鳴の指摘に首を傾げた。いやそんなまさか。ちょっと顔の筋肉使ってるなってくらいで、いつもとそこまで変わらないだろう。

 

 ただなぜかその後俺と爆豪が二人に気を遣われつつ教室に戻ることになった。あと緑谷の提案で飯田が委員長をすることになった。メガネだし、妥当だろ。副委員長の八百万がかわいそうだけど。


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