恋人はマリアさん   作:とりなんこつ

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本編の後日談になります。


恋人だったマリアさん

「お、ハルト、久しぶりだなッ!」

 

「阿部くん、おひさ~」

 

駅裏の居酒屋に到着すると、既に和気藹々と盛り上がっていた。

 

こんばんは。みんなも久しぶりだね。

 

今日は高校の同窓会。成人式を終えたあとってことで、スーツやワンピースを着ている面子が多い。

僕が遅刻してしまったのは家で着替えを済ませてきたから。まあ、初見の店を探せない方向音痴なことも否定しないけどさ。

 

「ハルト、こっちこっち!」

 

盛大に手招きしてくるのは斎藤だ。紫色のスーツというキワモノなんだけど、完璧に着こなしているのは羨ましいというかなんというか。

 

どーもどーも。

 

手刀を切りながら、僕は座敷を横断。斎藤の隣の空いたスペースに腰を下ろす。

 

「ほらよ。かけつけ一杯!」

 

誰かが注文してくれたらしい生ビールのジョッキがやってくる。

 

ありがとう。

 

礼を言って、一気に半分くらい空けた。咽喉が渇いていたので美味しい。

おお~! と意味不明の歓声と拍手があがる。続いて斎藤が肩をバンバン叩いてくる。

 

「いやあ、阿部先生の活躍は素晴らしいなッ」

 

苦笑する僕に向けて、女子の一人がペンと一緒に本を差し出してきた。

 

「ハルトくん、サインしてくれない?」

 

結果、僕はますます苦笑を深めるしかない。

 

買ってくれてありがとう。でも、僕のサインなんて書いたら、古本屋へも売れなくなるぜ?

 

お礼のあとに、そう本心から付け足す。

それでもサラサラと表紙にサインをした本は、僕の著作ということになっている。

 

タイトルは『365日美味しく食べられるカレーレシピ』。

 

まあ、このIT時代ということもありまして、何気なくSNSに毎日の食事情報なんぞをアップしてみたわけですよ。

そしたら思いのほかアクセスがあって、ああみんなカレー好きなんだなあ、と嬉しく思っていたら、ある日出版社からメール。

「ブログの内容をまとめて書籍にしてみませんか」とのお誘いを受けて、エッセイ風の所感など書下ろして刊行してもらった。

これも思いのほか反響があって、三刷ほど重版しているらしい。

 

でも、こういう風に本を出版してもらったブロガーは結構いるもんだよ? 僕なんか大したもんじゃないって。

 

「結構いるかも知れないけれど、オレたちのクラスメートだってことに価値があるのさ」

 

ジョッキ片手に斎藤が嬉しいことを言ってくれる。

 

「実際にレシピ通りに作ったらとても美味しかったよ!」

 

僕のサインを所望してくれた女子もそんなコメントをくれた。こっちもお世辞でも嬉しいもんだ。

 

「おまけに動画配信までしてるだろ? いまやハルトは有名人だって!」

 

そんなの大袈裟だよ。

 

そう返してジョッキを一気に空ける。すかさず誰かがお替りを注文してくれた。

すきっ腹に酒ばかりじゃ体に悪い。突き出しらしいサーモンのマリネを食べながら僕は自嘲する。

 

あんなのカレー作っているだけの動画だぜ?

 

ブログと同じで、僕にとっての日常的な光景をアップしているだけのつもりだ。

それでも結構な数の視聴者がいることは否定しないけれど、調や切歌が遊びに来て「謎の美少女アシスタントデ~ス!」とかへんてこな眼鏡をかけて映っているときの再生数はダンチなのだ。

つまるところ、僕のチャンネルの人気の大半はあの二人のもんだろう。

 

「でも、他の有名配信者とのコラボとかもしてるでしょ? あれも見たよ!」

 

きゃいきゃいと言ってくれる女子が複数。

見てくれてありがとう、と礼を言いつつ、僕の内心はちょっと複雑。

配信者同士がコラボして、お互いの視聴者の掘り起こしを行うのは、業界的にも良くある話だ。

でも、カレーしかメインになるものがない僕に対し、コラボ相手の目当ては切歌と調だったりするんだよなー。

『謎の美少女アシスタントは来てないの?』なんて面と向かって言われたこともあるし。

 

「どうよ!? これでもおまえは有名人じゃないって言い張るつもりか!?」

 

間近に迫る斎藤は、もうだいぶ酒臭い。

 

…おまえ、酔っているだろ?

 

新しく来たジョッキを片手にどうにか牽制していると、反対側から肩をちょいちょいと叩かれる。

 

「阿部くん、久しぶりだね」

 

―――小金井か。う、うん、久しぶりだね。

 

正直に言おう。僕は激しく動揺してしまった。

なぜなら、久しぶりに顔を見た小金井は、うんと綺麗になっていた。

垢ぬけたというか洗練されたというか。

同時に思い出すのは、三年前のクリスマスイヴの告白。

 

『わたしは、本当に阿部くんのことが好きなの…』

 

僕の人生において初めて受けた告白で、僕の人生において初めて振った女の子。

それが小金井すみれ。

 

そんな彼女の頬はほんのり上気していた。

着ているのはパンツスーツだったけれど、胸元のボタンが二つも外されていて、目のやり場に困ってしまう。

 

「…ふふ。相変わらず元気にカレー作っているみたいだね、阿部くんは」

 

そ、そういう小金井も元気だった?

 

「元気も元気だよー。毎日、嫌味くさい上司とクレーマーみたいなお客の相手ばっかしてさ!」

 

小金井は就職組で、確か携帯端末の販売店に勤務しているとか小耳にはさんだ覚えがあった。

 

そうか、大変だなー。

 

「大変なんですよー。だから飲まなきゃやってられないんですぅー」

 

拗ねたように唇を尖らせ、小金井はジョッキを空にする。すかさずテーブルの上にあった手付かずのジョッキもグビリ。

 

…ずいぶんと飲みなれているみたいだけど?

 

「そりゃあね。忙しくて遊びに行く暇もないし、おまけに恋人もいないしねッ!」

 

睨んでくる小金井の目が座っている。ヤバイ、藪蛇だった?

そのまま、ひっく! と言いながら睨んでくる小金井に、文字通り蛇に睨まれたカエルのように冷や汗を流す僕。

そんな僕らの斜め前方で、救いの手というか一際大きな歓声が上がった。

 

「というわけで、オレたち婚約しましたッ!」

 

並んで立ち上がっている二人は、高校時代からのクラス公認カップルだ。

ずいぶんと仲良さげに見えていたけれど、そっかー、成人式を迎えたから婚約かー。

 

「二人とも愛が早いなー。オレなんてまだまだ遊びたいけどなー」

 

斎藤が僕の肩に寄りかかりながらそんなことを言う。

 

「そういえばハルト、おまえの彼女はどうしたんだ? ほら、あのマリア・カデンツァヴナ・イヴにそっくりだっていう…」

 

続けて斎藤が訊いてきたことに、ギクリとする。

動揺を悟られないよう、僕は小金井に全く関係のない話題を振っていた。

 

ああ、小金井、そのスーツ凄く似合っているじゃないか。

 

口にしつつ、これも三年前に得た大いなる経験則。

女の子は着ている服を褒めてあげると、こうかはばつぐんだ!

 

「うふ、ありがとう」

 

小金井は色っぽい表情で笑って、

 

「阿部くんも、()()()が選んでくれたらしいその服、似合っているよー」

 

ギクギクギク! と、きっと僕の心臓グラフは数十年前の世界景気指数ぐらい、盛大に乱高下していたことだろう。

 

あ、あの小金井さん…?

 

思わず敬語で語り掛けてしまう僕に、

 

「あ、なんだハルト、おまえ、別れちゃったのか?」

 

い、いや、その…。

 

「…そうか、悪いこと訊いちまったな。まあ飲め。飲んで忘れようぜ!」

 

斎藤に変な食いつき方をされた挙句、ジョッキにビールを注がれた。

どうにも答えづらいまま口にしたそれは、ウイスキーのビール割りだった。や、美味しく飲んだけどさ。

 

もう一度小金井に話しかけようと思ったんだけれど、席を立った彼女は別の女子グループの元へ。

僕は僕で斎藤のほかに男子一同より慰めの言葉と手酌を頂戴する羽目に。

 

気づけばだいぶ場も煮詰まって、なかなかカオスな状況だ。

そんな中で、スーツの上を脱いだ斎藤が、どこからか花束を持ち出すと小金井に突撃。

 

「すみれさん! 僕と付き合ってください!」

 

このサプライズに、場は大いに盛り上がる。

ジョッキ片手にぽかんと告白を受けた小金井だったけれど、艶然とした笑みを浮かべてジョッキの中身を一口。

 

「スーツの趣味が悪い。やりなおし!」

 

崩れ落ちる斎藤に、盛大に巻き起こる失笑と冷やかしと笑い声。

そんなこんなで僕たちの同窓会は、ひたすら楽しいままに過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

居酒屋の貸し切りの時間は19時まで。

まだ宵の口だし二次会に行こうという誘いを丁重に断り、僕は帰宅することを選ぶ。

一応、全員と連絡先を交換したあと。

 

つーか、15時から飲み始めたくせに、みんなしてタフだよなあ。

 

しみじみと呟いた僕の隣には、なぜか小金井もいる。

なんでも小金井は明日は仕事なんだってさ。

まあ、僕としてはちょっと彼女と話をしたかったから渡り舟だったり。

というわけで、近くの駅まで歩く道すがら。

 

あのさあ、小金井…。

 

「…うぷ、気持ち悪い」

 

だ、大丈夫か!?

 

口元を押さえて蹲る小金井を、とりあえず近くの公園へ。

女子トイレに入っていくのを見送ってから、公園の入り口にあった自販機でお茶を二本買う。

ベンチに腰を下ろしていると、よろよろとした足取りで小金井が戻ってくる。

そのままストンと隣に腰を下ろす彼女に、もっていたお茶を渡してやった。

 

ほら、これで口でも濯げよ。

 

「…ありがと」

 

グビグビとペットボトルの半分ほど一気飲みし、中身の残ったボトルを額に当てる小金井。

 

どう? 落ち着いたか?

 

「うん。少し飲みすぎちゃったみたい…」

 

あんまり無理すんなよ。酒と上手に付き合うのが大人の嗜みっていうし。

 

そういうと、なぜか僕を睨んでくる小金井。

 

「阿部くんもかなり飲んでなかった?」

 

そりゃあ飲んだよ? でもあいにく、僕はあんまり酔っ払わないタチらしくてね…。

 

「そうなの?」

 

たぶんさ、カレーにはウコンとか入っているでしょ? 普段からいっぱい摂取してるから、耐性がついてるのかもなあ。ははは。

 

「ふーん…」

 

それよか小金井。さっき訊こうとしたんだけど…。

 

「ところで阿部くん、大学生活はどんな感じ?」

 

僕の質問を遮るように小金井。

 

ま、まあ、それなりに忙しいよ。授業を選択して単位を取るのはなんかパズルっぽいしさ。

 

就職組の彼女と違い、僕は都内のそこそこの大学へと進学。いちおう経営学部に在籍している。将来的にはカレーショップの経営とまでは行かなくても、スパイスとかの流通関係の仕事もしたい。

 

あと、面白いことにさ、たいていの大学にはカレー研究部ってのが存在しているんだよ。

 

「ふーん、楽しそうだね。阿部くんも所属していたり?」

 

もちろん! いやあ、みんなして知見が凄いんだよ。カレーのレシピの研究はもとより、関東一帯のカレー店のリサーチとか…。

 

そこまで喋って、僕は興奮のあまり立ち上がっていたことに気づく。

気恥ずかしくなって口を閉ざせば、見下ろした小金井は笑っていた。

 

「本当、阿部くんは変わらないよね。高校時代から全然」

 

そ、そうかな…。

 

「わたしが好きだったころと、まるで変わってない…」

 

…ッ!!

 

何と言っていいのか。何を言えばいいのか。

沈黙する僕に、小金井はすくっとベンチを立つ。

そのままピタッと寄り添ってくる彼女に、僕は激しく狼狽するしかない。

 

こ、小金井さん…?

 

すぐ目前の胸元に、小金井の艶やかな旋毛がある。

アルコール臭の中でも胸が温かくなるような甘い匂いは、きっと彼女の香りで。

 

「本当に、阿部くんは変わってなくて、安心したよ」

 

小金井が顔を上げる。

 

………。

 

すぐ近くで見下ろす僕。顔が近い。

 

「ごめん、じっくり見ないで。さっきトイレで顔洗っちゃったから…」

 

あ、わ、悪い…。

 

僕が顔を背けたその時だった。チュッと頬に暖かい感触。

半瞬遅れてパシャっとスマホのシャッターが切られる音。

い、いま、キスされた? それに写真も? なんで!?

 

「ふふーん、ミッションコンプリート!」

 

動揺する僕からスッと身体を離し、小金井は笑っている。

 

い、いったい何のつもりなんだ…?

 

「御守りだよ。これからのわたしの人生の、ね」

 

はい? 意味が分からない上に、ずいぶんと大仰な…。

 

なお動揺しまくる僕に取り合わず、颯爽と小金井は身を翻している。

まるで酔いを感じさせない足取りのまま、背中越しの声。

 

「それじゃ、元カノさんと仲良くね~」

 

お、おい…!

 

僕の声を振り切り、小金井は公園を出ていく。「さらば~青春~♪」と少し調子っぱずれの歌と一緒に。

 

…まいったな。こっちから訊ねることも出来ずに、一方的に小金井は行ってしまった。

でも、彼女の言から察するに、こちらの事情は全て把握しているんだろうな、たぶん。

 

なんとなく釈然としないまま電車に乗り、駅からマンションまでの帰り道。

いつまでも動揺したままじゃいられないな。

そう覚悟を決めて念じれば、たちまち楽しく心臓がスキップを踏み始めるのだから、我ながら単純なもんだ。

 

 

自宅であるマンションの表札には、僕のフルネームが記してある。

防犯上は避けた方がいいんだろうけど、これは彼女たっての希望だ。

そんな彼女の名前は、『阿部ハルト』に続いてこう記してある。

『阿部マリア』と。

 

吾ながらキモイとは思うけれど、なんど眺めてもニンマリしてしまう。

それから、おっと危ない、玄関のチャイムを押す前に胸のチェーンネックレスから指輪を外して薬指に嵌めた。

さすがに同窓会でしたままは憚られたそれは、彼女―――マリアさんとの結婚指輪。

 

だけに、小金井が元カノと表現したのは間違いではない。

なぜなら、マリアさんは僕の彼女でも恋人でもない。奥さんになったのだから。

 

 

ピンポーン! と改めてチャイムを押せば、パタパタとスリッパの音。

間もなくドアが開くと、エプロン姿のマリアさんが出迎えてくれた。

 

「おかえりなさい、ハルト」

 

うん、ただいま、マリアさん。

 

透き通るような声に、溢れんばかりの笑顔。

それが僕だけに向けられていることを、とても幸福に思う。

おまけに、エプロンの胸元が今日も素晴らしく盛り上がっている。それでも着痩せして見えるって、どういうことなんだぜ?

 

そんなことを考えている僕の前で、マリアさんは柳眉を顰めた。

そのまま僕の首筋でスンスンと鼻を動かすことしばし、

 

「…女ものの香水の匂いがするんだけど?」

 

そりゃあ居酒屋貸し切りの同窓会ですもん。クラスの半分は女子ですからね。

 

シレっと僕は答える。

 

「そお? …まあ、わたしはクラスの同窓会なんてしたことないから判らないけれど…」

 

疑わし気な表情も一転、どこか拗ねたような口調になるマリアさん。

本当なら、今日の僕の同窓会に参加は無理にしても、迎えに来る気は満々だったらしい。

でも、さすがに大騒ぎになるからって自重してもらっている。

というか、むしろ僕たちが入籍したことは、世間的には公にされていなかったり。

 

 

 

 

去年の四月、僕は誕生日を迎えると同時にマリアさんにプロポーズをした。

 

もう成人して大人になりました。だから、これからもずっと一緒にいてください。

 

…本当は、もっと情熱的かつセンシティブな台詞を口にしたんだけど、これは僕ら以外の誰にも言う必要はないだろう。

きょとんとしたマリアさんだったけれど、涙ながらに快諾してくれた。

 

華燭の典は六月末のジューンブライドを選択。

身内だけのこじんまりとした式で、僕の方の参加者は、親父とおふくろの両親だけ。

マリアさんの方は、切歌と調は当然として、あの風鳴翼も参加してくれた。

 

“どうかマリアのことを幸せにしてやってくれ”

 

は、はい! 全力全開で幸せにしますッ!

 

あのツヴァイウイングの片翼を前に、緊張のあまり裏返った声を出してしまったのは返す返すも恥ずかしい。

 

“正直、ハルトが早くマリアと結婚を決めてくれて嬉しいよ”

 

と調。

 

“翼さんなんて四十歳までに結婚すればいいとか言ってるデスからね。マリアも少し焦ればよかったんデス!”

 

切歌のさらっとしたメタい発言はともかく、焦っていたのは僕もだよ?

なんせマリアさんは凄い美人な上に世紀の歌姫。

外国とかでコンサートをすれば、現地の俳優やセレブに声をかけられまくるって言うし。

 

だから、二十歳の誕生日の当日のプロポーズ。

本当は大学を出て就職して安定してから、と思っていたけど、どうしても我慢できなかった。

いつ僕なんかよりもっと凄い男が現れて、マリアさんの心を奪っていくか不安で仕方なかったから。

 

婚姻届けが受理されたあとに、思わず感無量でそうこぼしたら、マリアさんに笑われてしまった。

“ハルト、あなた、本当に自己評価が低いのね”って。

 

それと、これもあとから聞いたんだけど、マリアさんは僕より年上のことに少々コンプレックスがあったらしい。

 

“…ハルトより、わたしの方が先におばあちゃんになっちゃうのよ?”

 

僕は答える。

 

いいですね。僕もおじいちゃんになっているんで、一緒に手を繋いでゆっくり散歩しましょう。

 

思えば、この台詞がマリアさんに対する殺し文句になったのかも。

結婚式の二次会でこの話をこそっと披露したら、司令さんから“君は若いのに枯れているなあ”なんて苦笑されたけどさ。

 

 

それはともかく。

 

マリアさんは僕と結婚して阿部マリアになってくれた。

本人はラテン語の『アヴェ・マリア』みたいだわ、って恥ずかしがっていたけれど、こうなったのには僕の意向も反映されている。

そりゃあハルト・カデンツァヴナ・イヴもカッコいいけどさ。

こんな名前が保険証や会員証に記載されるのは、純日本人顔の僕にとっては名前負けもいいところでしょ?

 

ちなみに親父とおふくろはマリアさんのプロフィールにさして驚くでもなく祝福してくれた。

翌日には引っ越し屋がマンションに来て、親父たちの荷物を根こそぎにしていっている。

自分たちは本格的に沖縄に移住するから、このマンションはおまえの好きにしろ、だって。

有難く申し出を受け入れた僕らは、マンションで一緒に暮らし始めた。

それからまだ半年ほどの、新婚ホヤホヤだったりする。

 

 

 

玄関で靴を脱ぎながら、リビングから漂ってくる食欲をそそる匂いに、僕は鼻をひくつかせた。

 

うーん、美味しそうなカレーの匂いがするなあ。居酒屋では飲んでばかりでほとんど何も食べてなくて…。

 

「そう。ならちょうどよかったわ」

 

嬉しそうに笑いながら、マリアさんは僕の脱いだジャケットを受け取ってくれた。

と思ったら、いきなりこっちに返してきて、もう一度着せようとしてくる。

 

ど、どうしたんですか?

 

「旦那さまの出迎えの仕方を間違えたわ。だからTAKE2よ。いい?」

 

は、はい。

 

訳も分からぬまま玄関から追い出され、僕は言われた通りにTAKE2とやらを開始すべくチャイムを押す。

 

「は~い」

 

パタパタとスリッパの音。

扉が開けば、マリアさんの満面の笑み。

 

「おかえりなさい、ハルト」

 

ただいま、マリアさん。

 

微笑み返す僕に、マリアさんはそれはそれは甘い声で囁くように言ってくれた。

 

 

 

 

「それじゃあ、アナタ。お風呂にする? ご飯にする? それとも……わ・た・し?」

 

 

 

 

あ、じゃあカレーを。

 

 

 

 

「…実家(くに)に帰らせていただきますッ!!」

 

 

 

 

えぇ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…ハルト、こうやってマリアがアタシたちのところに来るのは何度目デスか?』

 

『私たちの(うち)を、そういうプレイのダシにしないで欲しいんだけど…』

 

 

 

 

 

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