恋人はマリアさん   作:とりなんこつ

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本編で全く触れられてなかったクリスちゃんによる裏語りとなります。
それと、マリアさんのポンコツ度が八割増し(当社比)になるので、かっこよくて凛々しいマリアさんが好きな方は、全力全開でバックボタンを押してください。


新妻なマリアさん

 

 

 

雪音クリスはかく語りき

 

 

 

 

マリアに対する人物評?

まあ頼りになる同僚だわな。

装者ん中では一番年上だし、経験からくる判断力はピカイチだと思う。

正義感も強くて、無駄に責任感も強くて、余計なしがらみまで色々と囲いこんで悩みまくって―――。

ありゃあ、てめえでやらかしたことを延々と後悔するタイプだ。

 

……なんで断言できるのかって?

あたしもそうだからだよ! 

犯した罪を自覚して、償わなきゃって必死になって、自分は幸せになっちゃいけないって頭から思い込んじまうんだ。

 

もちろんそれは昔の話で、今のあたしは違うぜ? マリアだって変わっているだろうよ。

けれど、そんな風に妙なシンパシーを感じているんだ、あたしは。

結構プライベートな相談とかされることもあるしな。

これって、マリアもあたしに似たものを感じている証拠だろ?

 

 

 

だとしても、正直あれは参った。

大切な相談があるって急に夜遅く訪ねてきたと思ったら、すげえアワアワした顔してさ。

 

『高校生の男の子に、彼女になるって宣言しちゃったんだけど、どうしよう?』

 

急にンなこと言われても、全然話が見えねーっての!!

 

それでも詳しく聞き出してみりゃ、開いた口が塞がらねえ。

よりにもよってギアペンダントを落っことして、それを一般人に拾われた、だあ?

完全にマリアの大ポカが原因で、その親切な高校生はとんだトバッチリだろうよ。

 

……そりゃあ、償うしかねえよなあ。

 

あたしとしてはそう答えるしかない。とにかくその男の子は気の毒すぎる。

 

『じゃ、じゃあ! 具体的に彼女として何をすればいいのかしらッ!?』

 

ああッ!? そんなのアンタの好きにすりゃいいじゃねえか!

 

……そもそもあたしだって男と付き合ったことなんてないっつーの。

 

『お願いだから一緒に考えてちょうだい! あなたしか相談できる人はいなくて……ッ!」

 

ちょっと考えこんで、マリアの泣きそうな顔にも納得が行く。

まず先輩はこの手の恋愛話を振ったって、まともな返事すら期待できない。

あのバカはあの子と(ねんご)ろだから、訊くだけ無駄だ。

お気楽後輩コンビどももそうだろう。

だったら、消去法であたししかいないわな。

 

分かった分かった。だからそんな情けないツラするなよ……。

 

『ありがとう。感謝するわッ!』

 

そんで色々と相談に乗ってやったわけだけど、マリアって意外と自己評価が低いのな。

普通にドライブデートにでも誘って、一緒に飯食って、カラオケで歌でも披露してやれば? って提案しても、なんか不安そうなツラのまま。

だからあたしは言ってやったさ。

 

しけた顔してんじゃねーって。アンタは世界の歌姫さまなんだろ?

パンピーのガキなんざ、一緒に歩いただけで感激で昇天しちまうこと請け合いだぜ?

 

『……そうかしら』

 

そんでも表情が晴れないマリアだったけれど、結局あたしのアドバイスに従ったらしい。

翌々日には、凄い嬉しそうな顔で報告に来た。

 

『おかげさまで大成功よ。あなたに相談して正解だったわ』

 

そうか。そりゃ良かったな。

 

『次にデートに誘ってもらう約束も出来たしね!』

 

うん……うん? って、アンタその男子とガチで付き合うつもりなのか!?

 

『え? 彼氏彼女って、そういうものじゃないの……?』

 

いや、まあ……アンタがそこまでして償いたいってんなら、構わねえけどよ。

 

『??』

 

不思議そうな顔をするマリアに、あたしは心の底から叫びたい。

 

―――こりゃ恋愛初心者ってレベルじゃねーぞッ!?

 

もちろん面向かってそう言わない程度の分別はある。

だいたいあたしだって偉そうに言えるほどの経験もねえしな。

 

まあ、頑張りな。色々と応援はしてやっからよ。

 

替わりにそう言ってやると、マリアはニッコリとする。

 

『ありがとう。頼りにさせてもらうわ』

 

その笑顔に、ちいとばっか妬ましい気持ちになったことは否定できねえ。

同時に、どうせ上手くいかないだろうな、ってタカも括っていた。

 

だって、年下の現役高校生に、かたや世界が認めた世紀の歌姫サマ。

どう考えてもまとまる取り合わせじゃねえだろ?

でも、失敗するのもひっくるめて恋愛ってもんじゃないのかな、たぶん。

 

そんな風に、ちょいと高見の見物を決め込んでいたあたしの予想は、大きく覆されて行く。

色々とすったもんだしたあげく、『相思相愛になったみたい』ってマリアが報告してきたのは、付き合い始めてから僅か三か月だぜ?

それからも順調に時間を重ねてたみたいで、あっという間に三年が経過。

今年の六月にはよもやよもやの―――。

 

 

 

 

 

 

 

本部の廊下を曲がるとマリアの姿が見えた。

人気のないエントランスの片隅。携帯端末を耳に当てて話し込んでいる声がこっちにまで聞こえてくる。

 

「うん、そう。今戻っているところだけど、日本への到着は早くても真夜中を過ぎるみたい。

 だから、ご飯は片づけちゃって――って、ええ? 起きて待っている? いやいや、いいわよ。本当に遅くなっちゃうし。

 それにね、アナタは明日は一コマ目から受けなきゃならない講義があるんでしょ? うん、気持ちは嬉しいから。ね? 

 うん、はい、明日中には必ず戻れるようにするから。だから、今日はちゃんと戸締りと火の元には注意してね? うん。うん……。それじゃあ、おやすみなさい。

 ―――愛してるわ」

 

チュッと端末にキスをしているマリアに、あたしはげんなりする。

 

「……あら、クリス、どうしたの?」

 

こちらに気づいたらしいマリアが慌てて携帯端末を仕舞い込む。

通話を聞かなかったふりをして、あたしは探していた理由を説明。

 

ちょいとおっさんが装者全員に召集かけてんだよ。

 

「あら、そうなの?」

 

あとは来てないのはアンタだけだぜ?

 

「なら早く向かいましょう」

 

長い足を動かして、颯爽と先に行っちまう。

後ろ姿を追っかけりゃ、さっきまで蜂蜜を砂糖で煮込んだような甘ったるい声を出していたのと同一人物には思えないぜ、まったく。

 

足と一緒に動く左手にチカチカと廊下のライトが反射している。

薬指のエンゲージリング。既婚者しか付けられない代物だ。

これ見よがしな感じはするけれど、少しばっか羨ましい。

 

発令所にはみんなが顔を揃えていた。

 

「おう、マリアくん、来たかッ」

 

そういうおっさんは、何だか言いづらそうな表情をしている。

 

「その、みな、今日の任務はご苦労だった」

 

その物言いにもあたしは違和感を覚える。

確かに今日は国外での大規模な作戦行動はあったけれど、終了直後に労われたばかりだぜ?

 

「現在、本部は小笠原諸島周辺まで達しているわけだが、少々予定外の事態が生じてな……」

 

「ッ! 何か超常存在が出現したのですか!?」

 

真っ先に先輩が気色ばむ。

 

「いやいや、そういう類ではない! ……実は、本艦の近くで、二つの潜水艦が作戦行動を取っているのが発見されたのだ」

 

「それは、わたしたちに対する敵対勢力ってこと?」

 

マリアが訊ねる。

 

「そうではない。所属国の違う潜水艦が、偶然にもかち合う形になったらしい。……ここだけの話だが、どちらも極秘行動だったらしく、事態は一触即発の体に至っている」

 

そんなの、うちらは関係ねえんじゃねえの? 国家間の調停は国連(おかみ)の仕事だろ?

 

「一応、我々も国連の組織だぞ、クリスくん」

 

渋面のおっさんの説明を要約すると、そもそも潜水艦は機密の塊で、作戦行動も極秘だ。各国に撤収するよう呼び掛けているが、これがなかなか現場へと通達されないらしい。

なので、あたしたちS.O.N.G.はその場に待機して、双方が暴発しないように睨みを効かせておいて欲しいって、国連からの要請だそうな。

 

「俺たちは国連直属特殊部隊だ。いくらなんでもいきなり弓を引かれることはないだろうよ」

 

おっさんはそう結んだ。

まあ、いざとなれば、通常兵器なんぞ通じないあたしらシンフォギア装者たちもいるわけだ。抑止力としては申し分ねえだろう。

海の中では歌は唄えないので、水中戦闘がシンフォギア唯一の弱点って言われていたのも、あのバカが南極で引っ繰り返したからなあ。あたしはイマイチ出来る自信はねえけどさ。

しっかし、あれも、もう四年近く前の話か……。

 

「というわけで、諸君たちには申し訳ないが、日本への帰投予定日は先延ばしになる」

 

「師匠! それってどれくらい先になるんですか?」

 

バカが元気よく挙手して質問。

 

「そうだな。早ければ即日だろうが、二日以上伸びる可能性も……」

 

「えええッッ!?」

 

悲鳴を上げたのはバカじゃない。マリアだった。

直後、皆の視線を集めていたことに気づいたマリアは、「すみません」と赤面して表情を改める。

色々と察したらしいおっさんは、苦し気な眼差しをマリアに向けて言った。

 

「本当に重ねて申し訳なく思う。出来る限り事態が早く収束するよう、俺からも働きかけるつもりだ」

 

 

 

 

 

警戒態勢ではない待機状態なもんだから、潜水艦内もどこかのんびりとしたもんだ。

おっさんの権限で各種設備も解放され、飲食も自由になっているからな。

バカと後輩コンビは、三人連れ立って飯に。

先輩はこんな時間だからこそ修練だ! ってトレーニングルームへ。これはワーカホリックじゃなくてバトルジャンキーじゃね?

そんでマリアは携帯端末を抱えて発令所を飛び出してどっか行っちまった。

 

連中を横目に、あたしは宛がわれた個室へと戻る。

仕上げなきゃいけないレポートもあるし、それが終わったらひと眠りでもしよ。

目が覚めても事態が解決してなきゃ、それはそん時考えるさ……。

 

潜水艦の個室ってことで、防音は完璧だ。

予想以上にすいすいとレポートを片付けていると、携帯端末に通知が。

これがバカからの遊びの誘いだったら無視するところだが、発信人は先輩だった。

嫌な予感を覚えつつ受話ボタンを押す。

響いてくる先輩の悲鳴にも似た声に、あたしは最悪の予感が的中したことを知った。

 

『……雪音! すまんが至急ガンルームまで来てくれッ! マリアが呑み始めたのだ……ッ!』

 

 

 

 

 

本部内の士官専用室(ガンルーム)は二十畳ほどの個室だ。

文字通りの高級士官のための部屋で、座り心地のよさそうなソファーにビリヤード台、壁際にはバーカウンターまで設えてある。

あたしたち装者も、成人年齢を迎えてから使用許可が下りたわけで、おそるおそる重厚な扉を開けば、既に他の連中が全員集合していた。

入るなり、うおおおんうおおおんと泣き声が聞こえると思ったら、予想通りマリアがデカい黒檀のテーブルの前でグラス片手に涙を流している。テーブルの上にはウイスキーのボトルが並んでいて、もう二本近く空になっていた。

 

「……なんでッ! どうして帰れないのよぉおお……!!」

 

「だ、だから大丈夫ですってマリアさん! 早ければ今日明日中にはなんとかなるって師匠が言ってたじゃないですか!」

 

「もう日本は目の前なのよ!? 三日もあの人の顔を見てないのに、更に伸びるなんて耐えられないッッ……!」

 

バカが必死に宥めるも、マリアはグラスを煽りながら泣き止まない。

 

「ならば、司令に頼んで、本部の画像通信を使わせてもらってはどうだ? それなら双方の姿を認めることが出来るだろう?」

 

あ、先輩、それはやべえ!

 

「無理よそんなのッ! 実際に触れて熱を感じて! 匂いを嗅いで! そうしなきゃ、何も満たされないのよッ!」

 

マリアは首をぶんぶんと振って、独り身の翼にはわかんないでしょうけどね! なんて盛大に口を滑らせている。酒のせいだとわかっていても、さすがに腹が立つ物言いだ。

 

はい先輩、お静まりお静まり。

 

いきり立つ先輩の肩をあたしは押さえるように叩く。

 

「む、雪音、来てくれたか。……御覧の通り、我々の手にも余るのだ」

 

いつものコトとはいえ、今日は一段と盛大っすね。

 

あたしは苦笑で応じた。

シンフォギア装者である以上、様々な任務へと派遣される。

世界的にも希少な資質持ちである以上、それは仕方のないことだとあたしは納得している。

もちろんマリアだって納得しているだろう。

けれど、ひとたび酒でも飲んで理性にヒビが入れば、たちまち不満が溢れ出す。

なぜならマリアは―――。

 

「わたしたちはまだ新婚ホヤホヤなのにぃいいいッッッ……!!」

 

理屈は分かる。

分かるんだけど、あたしたちが揃って微妙な表情を浮かべたのは、この中で既婚者はマリアだけだからだ。

強いて言えば、あのバカは似た環境にいるかも知れないが、あの子の場合は状況に理解が在りすぎるからなあ。比較対象にはならねえか。

 

まあ、それはともかく。

 

だったらよ。装者を引退しちまってもいいんだぜ…?

 

「そうデスよ、マリア!」

 

「主婦になるのも一つの選択だと思うの」

 

あたしの提案に乗っかってくる後輩二人。

すると、グラスを握ったまま、やおら真剣な表情に戻るマリアがいる。

 

「駄目よッ! それは許されないわ! 一度は世界に仇なしたこの身は、この先の人類平和のために捧げなければならないのよッ!」

 

素面の時と全く変わらない台詞を言う。

つまりは、これがマリアの行動原理の一つなんだろう。そこは大いに共感し納得できる話だ。

けれど、こんな泥酔状態の時には、ただひたすら面倒くせえ。

 

わかったわかった。だったら仕方ないことだって、アンタも納得してるんだろう?

 

「……納得と心の動きは別よッ!」

 

ほら面倒くさい。

後輩コンビを見れば、揃って処置なしとばかりに首を振っている。

あー、面倒くさいけど、あたしが斬りこまなきゃダメか。

 

アンタの気持ちは分かるとは言わねえ。でも、許されるならすぐにでも飛んでいきたいってことだろ?

 

トロンとした眼差しに戻ったマリアが、コクンと頷く。

それを確認し、あたしはゴホンと咳払い。

 

なら、その距離も、会えない時間も、アンタら二人にとっての障害じゃなくて、その……愛を燃え立たせる要因になるんじゃねえのか?

 

……クソ、喋っていて歯が浮く。おまえらも後ろで笑ってんじゃねえ!

 

「……あなたの言いたいことは、いわゆる焦らしプレイってことかしら?」

 

プレイとかどうかはわかんねーけど、その程度の障害でどーこーなっちまうような関係じゃないだろ? アンタらは夫婦なんだからさ。

 

「なるほど。そう考えれば……アリかもね。久方ぶりに会えた二人は、より情熱的に……」

 

赤い顔でそのままブツブツ言い始めたマリアに、あたしはそっと胸を撫でおろす。

やれやれ、どうにか収まってくれたかな? おまえらも拍手なんかしなくていーから。

とりあえず、これで落ち着いてくれれば……と皆が見守る中で、マリアはタン! と空のグラスをテーブルに叩きつけるように置く。

それから両拳を握ると、全力で身体をくねらせ始めた。

 

「イヤだ~! 我慢できない~!」

 

……二十を半ばも過ぎてのイヤイヤダンスかよ!

あまりの醜態に、一瞬スマホに録画してやろうかと思ったが止めた。

素面の時に見せたら自殺もんだぜ、これは。

 

「だからといって、どうしようもないことは仕方あるまい」

 

もはや半ギレに近い状態で先輩が咎める。

すかさずマリアは睨み返していたが、不意にすくっと席から立ちあがった。

そんでいきなりギアペンダントを引っ張りだしたのには、さすがに目を疑ったぜ?

 

「おい、マリア、どこへ行くつもりだ!?」

 

先輩の声に、振り返ったマリアの目は完全に座っていた。

 

「その潜水艦が進行を邪魔しているわけでしょ? ちょっと外に出てぶっ飛ばしてくるわ」

 

人類平和はどこにいったんだ、おいッ!?

 

 

 

 

 

聖詠を始めようとするマリアをあたしたち全員で拘束し、どうにか椅子に落ち着かせる。

なお暴れようとするマリアを押さえながら、あたしはバカにそっと目配せ。

出来れば使いたくない最終手段の投下を命じる。

 

「あの~、マリアさん?」

 

「なによッ!?」

 

「えーとですね、マリアさんの旦那さんのハルトくんでしたっけ? どんな馴れ初めだったのかな~なんて……」

 

すると途端にマリアの全身から力が抜けた。

背筋もピンと伸び、さっきまでの泥酔状態が嘘のような真顔になる。

 

「馴れ初めなんて威張れるものじゃないわ。本当、わたしの些細なミスから始まったことで……」

 

ぽつぽつとマリアは語り始めた。

これには、他の面々もテーブルを囲むように椅子へと腰を落ち着ける。

 

自身の些細なミスから始まった、代償行為とでもいうべき関係。

それが逢瀬を重ねるたびに、互いの全く気付かない側面が見えてきて、いつの間にか―――。

 

100%実体験に基づいたマリアの独白。

年下の少年と思っていた相手に揺れ動く心の描写は、繊細で共感を覚えるほどだ。

 

 

ただし。

 

 

みんなしてこの話を聞くのは既に数十回目で、話しながらのマリアの表情が指数関数的にニヤけていくのを除けばなッ!!

 

 

 

あたしがイヤーオクトパスなのは言うまでもないが、バカは遠慮なくスマホを引っ張りだしてメッセージアプリを弄っている。相手は間違いなくあの子だろう。

その隣の先輩は半目を開けてずーっと『常在戦場』って繰り返している。

さすがに身内と呼べる後輩コンビは背筋を伸ばして聞いているな、と思ったら、なにやら軽いいびきが聞こえてきた。

……こいつら二人とも、目ぇかっ開いたまま眠ってやがるッ!?

 

「聞いてる、みんな?」

 

お、おう!

 

クソ、結局あたししか拝聴するやつはいねえのか?

とことん要領の悪い自分を呪いつつ、適当に相槌を打つ。

 

 

 

「初めてデートに誘われたのは彼の家でね! そこでスパイスからわたしのためだけのオリジナルカレーを作ってもらって……」

 

おう。あんときは自慢しまくった挙句、本部の食堂のカレーが食べられなくなったって言われてウザかったわー。

 

 

 

「……それでね! 文化祭デートに誘われてね! 彼女と一緒に回るのが夢だったって…!」

 

そういや、あん時は、どこから調達してきたのか、リディアンの制服とセーラー服を試着してたよな? どう見てもコスプレにしかなんなくて着ていくのやめたみたいだけど。

 

 

 

なおも酒を呑みながら、マリアはひたすら上機嫌。

話のテンションも上がる一方で、対照的にあたしはげっそりとしてしまう。

そりゃあ仲間が幸せそうで何よりだとは思うさ。

けれど、こんな風にゴリ押しの御裾分けされると、消化不良を起こしちまいそうだ。

あ、先輩の口からこんどは般若心経が流れ始めた。

あたしも心を癒すために写経でもすっかな、コンチクショウ。

 

 

 

ようやく語り終えたマリアの表情は聖母のように穏やかなものになる。

その顔つきを見て、あたしは自分が一仕事を終えたことを知った。

出来るなら時間外手当を支給してもらいたいくらいだぜ。

 

そんなすっかり疲れ果てたあたしに、マリアは慈母の眼差しを向けてきた。

 

「ところでクリス。あなたは誰か付き合っている人はいないの?」

 

あ、ああ? あたしのことはどうでもいいだろ!?

 

「良くないわよ。あなたも大学三年生で、来年には卒業じゃない。なのに浮いた話一つもないなんておかしくない?」

 

その台詞、三年前のアンタにそっくりそのまま返してやるわ!

 

「なんなら、ねえ? ハルトの知り合いの学生を誰か紹介してあげましょうか?」

 

いや、だから別にどうでもいいって……!!

 

「あ、でも、ハルトだけは駄目よ? いくら仲間でもこれだけは絶対に譲れないわ!」

 

ふざけたこと言ってるんじゃねえ! 披露宴で一回会っただけのアンタの旦那に興味もへったくれもねえよ!

 

「なによ! わたしの旦那に魅力がないっていうの!?」

 

頼むから人の話を聞け……ッ!!

 

ぎゃいぎゃい言い合いしていると、他の面子もようやく正気に戻ったらしい。

 

「どうした、雪音。何を騒いでいるのだ?」

 

……別に。なんでもねえよ。

 

あたしとしては、酒に呑まれているマリアを気遣ってやったつもりだ。

ところがマリアは憤然と鼻を鳴らすと、

 

「クリスに、誰か男の子を紹介してあげようと思ったら、趣味じゃないって断られたわ」

 

色々と端折りすぎだろ、それはッ!?

 

「クリスちゃんも男性に興味なかったり?」

 

バカも変な乗っかりかたするんじゃねえ! それに、なにが「も」なんだ、おい!

 

「あれ? クリス先輩は、前回の誕生日に、司令さんと一緒にディナーに行ったデスよね?」

 

おい、それを何で知っている!?

 

「私たち相手にテーブルマナーの練習をしたじゃないですか」

 

あ……。

 

「なんと! 雪音と叔父上はそういう関係だったのか!」

 

そういう関係もクソもねえよ! ただ、誕生祝いってことで飯をご馳走になって映画館で映画を見ただけだ!

……そりゃ、続きの次回作も一緒に見るって約束はしたけどよ……。

 

そういうと、皆して生暖かい視線でこっちを見てきやがる。

代表するように、呆れ顔のマリアが口を開く。

 

「クリス。そういう惚気話は犬も食べないわよ?」

 

瞬間、あたしは頭の中の血管が盛大にブチ切れる音を聞いた。

 

「お、おい! 雪音、何をするつもりだッ!」

 

「クリスちゃん、ここで聖詠は駄目だって!」

 

いいから離せ! 離してくれ! この脳みそお花畑のド頭に風穴を……ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真相は闇の中

 

 

 

 

 

 

「どうしました、叔父上。内密で話があるとか」

 

「おう、翼。……実は、親父の忘備録を調べていたら、少しばかり気になる記述があってな」

 

「……お祖父、いえ訃堂の?」

 

「もはや身内はおまえだけだから話しておくが、仮におまえの性別が男だった場合、考えていた名前があったらしい」

 

「それは…?」

 

()るという一字に加え、俺の名に続く十一番目の息子。これを組み合わせて『張土』。……ハルトと読めるのではないか?」

 

「……まさかッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

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